第496話 旅行の予定とリガロウの願い
星の力。それはこの星のあらゆる存在に内包されていて、生命と意思が合わさることで魂に変化する、魂の元とも呼べる力だ。
私が今まで目に通した書物の中には、一切情報の無かった力でもある。
それ故に、この力を十全に使いこなせるようにするためには、ロマハの協力が必要不可欠になるだろう。
ありがたいことに、ロマハは非常に協力的だ。
アグレイシアなどと言う侵略者がこの世界に干渉していなければ、独学で扱い方を学んでいくのも悪くは無かったのだが、いつ奴と対峙することになるかは分からないからな。
そう遠くない未来に突然奴と戦うことになっても良いように、神々に助力してもらってでも、力を身に付けていくのだ。
『それじゃあロマハ、よろしく頼むよ』
『任せて!今日のためにいっぱい勉強して来たから!』
専門家とは言え、未知な部分はあったのだろう。私の質問にも答えられるように、キュピレキュピヌ同様に検証してきたのかもしれない。
魂そのものは私も認識できるし、私自身の魂のエネルギーを操作してみようと思えば、できないことではない。
しかし、私以外の万物に宿る星の力に干渉するとなると話は別だ。
『やることは他のエネルギーとあまり変わらない。操作には意思の力が必要になる。ただ、自分以外の星の力に干渉しようとすると、物凄く強い意思の力が必要』
その辺りは、"氣"とそれほど変わらないのかもしれないな。"氣"も自分の体から離れると干渉するのに強い意思の力が必要になっていた。
『"氣"と違うのは、自分の魂が元になってる星の力なら体から離れてもあまり必要な意思の力に変化はないところ。とりあえず、ノアも自分の力を動かしてみて?』
そうだな。考えるだけでなく、実際に操作してみよう。
…自分の魂のエネルギーを操作して改めて思ったのだが、私の魂は非常に強力な力を持っているんじゃないだろうか?
魂だけの存在となった時のヴァスターと比べて、私の魂はあまりにも巨大なのだ。
どうやら魔力と同じく魂からエネルギーが生み出され続けているようだ。そのおかげで、私の魂のエネルギーを使う分には使い放題と言って良いだろう。勿論、使い過ぎれば枯渇するが。
自分で魂のエネルギーを操作しようなどとは思っていなかったので気にしていなかったが、改めて制御しようとして見て初めて分かった。
私は自分の魂のエネルギーを生み出し続け、そして浪費し続けていたのだ。
と言うか、今も魂のエネルギーは私の体から放出され、そして星へと還っている。
このまま私が放出し続けたエネルギーが星に還り続け、溜り続けたらその内星がエネルギーを許容しきれずに破裂したりしないだろうか?
『大丈夫。その時は私の方で何とかするし、星も多分対策を取る』
なんと頼もしい言葉だろうか。流石は星の力の管理者。しかし、星が取る対策と言うのは?
『多分だけど、魔物が大量発生するか、物凄く強い魔物が生まれるかのどっちか』
『つまり、私みたいな存在が産まれる可能性が高い、と?』
『それだと余計に星の力が溜り続けるから、そこまで強い魔物は生まれないと思う』
となると、魔境の主レベルの存在が発生することになるか。
しかし、ロマハの言い方だと私以外に魂からエネルギーを生み出し続けるような存在はいないような口ぶりだな。
『実際いない。多分、ノアが龍脈と繋がった時に魂がエネルギーを生み出すようになった。つまり、ノアはこの星と似たような存在になってる』
そういうことか。それで私は龍脈を通して様々なことができるのか。
となると、あの時の視線や声(?)は、やはりこの星そのものの意思だったのだろうか?
『わかんない。でも、そうだったら素敵。ノアは星の子!』
そうだな。そうだったら、素敵な話だ。私としても、あの視線とはまた会話をしてみたい。あの存在が、五大神をどう思っているかも聞いてみたいしな。
好意的に捉えているのなら是非とも紹介したいし、仮に否定的に捉えているのなら、仲裁役を買って出ても良い。私はこの世界の状況を、一部を除いて結構気に入っているのだ。
『ノア…っ!大好きっ!!』
ああ、そうだった…。
ロマハ、というか五大神は心を読むことができるのだったな。私が星の意思と五大神の仲を取り持つ考えを読み取ったようだ。
元から五大神、特にルグナツァリオやロマハからは強い好意を向けられていたのは理解しているが、今ので更にその感情が大きくなったようだな。
というか、ロマハだけでなくルグナツァリオも今の私の方針を読み取っていたらしい。言葉にはしていないが、感激した気配が伝わってくる。
『ノア、今のこの世界を愛してくれて、私達はとても嬉しく思うよ』
『この世界を好きだって言ってくれると、今日まで頑張って来た甲斐があるってもんだよねー!』
『今、すっごく報われてる気分…!』
彼等がこの星に来てこの星の環境を整え、命を生み出し、見守り、管理し続けて非常に永い年月が経っているだろうからな。その分、今のこの世界に対する愛着も強いのだろう。
だからこそ、この世界を好きだと言ったことに対して感激しているようだ。
そんな彼等だからこそ、私は協力してやりたいと思っているし、彼等の頑張りを踏みにじろうとする輩の存在を許すつもりは無い。
『ロマハ、引き続き検証に付き合ってもらうよ?』
『任せて!やる気、いっぱい出てきた!』
それは何より。では、引き続き星の力の検証を行うとしよう。
そうして魔力以外の力を検証してから1週間の時間が経った。
どの力も単体ならば問題無く制御できるようになったところで、そろそろこの大陸の残りの諸国へと訪れようと思う。
ルイーゼにも魔王国へ向かうと約束した手前、あまり待たせるわけにはいかないからな。
この国の残りの諸国を見て回り、竜の月の始めに魔王国へ行こうと思っている。
理由は、ルイーゼの誕生日が竜の月にあるからだ。
それに、ちょうどいいタイミングなのである。ついでに、その前の月である兎の月にはリアスエクが言っていたマギバトルトーナメントが開催される。
どうせなら、その催しを見てから魔王国へ行こうと思うのだ。
人間達のマギモデルの技量がどの程度か知っておきたいし、ジョージをティゼミアに送った時にはピリカに会っていなかったからな。
彼女と一緒に作ったマギモデルがどうなったかも彼女の口から聞きたい。あわよくば、マギバトルトーナメントに参加させてもらえないか交渉もさせてもらおう。
まぁ、トーナメントをピリカが主催しているわけではないだろうから、飛び入り参加は難しいと思っている。観戦できればそれで十分なのだ。…参加できれば嬉しいのはその通りだが。
トーナメントの開催日や開催地はリアスエクの特訓に付き合った時に確認しているし、ピリカと一緒にマギモデルを製作している際にも再確認しているから問題無い。
だが、予定が不定だったのでトーナメントに顔を出すとは約束していなかったのだ。開催日にピリカに会いに行っても迷惑をかけるだけなので、なるべく開催日よりも前に会いに行こう。
良し、そうと決まればピリカに手紙を出そう。手紙は以前のように幻を利用して届ければ良いだろう。
開催地はティゼミアからそう遠くない場所だし、開催日の1週間前に店に顔を出すと伝えれば、問題無く会えると思う。
しかし、準備やら何やらで既に店にいない可能性もある。その辺りは―――
『私が確認しておこう。もしももっと早い段階で開催地に移動するようなら、予め貴女に伝えようじゃないか』
助かる。が、"女神の剣"が関与していないのに神に頼るつもりは無いので遠慮させてもらうとしよう。
龍脈を利用すれば、ピリカの現在地を把握も問題無く可能なのだ。
落ち込んだ感情をこれでもかと私に送って来るルグナツァリオを軽くいなし、諸国を見て回る準備をしておこう。リガロウやヴァスターに『
〈分かりました!聞いてください姫様!今日はチャトゥーガでヴァス爺に勝てそうだったんですよ!〉
〈いやはや、幼子の成長と言うのは、見ていて実に良いものです。流石はいと尊き姫君様の眷属。少し驚かされました〉
嬉しそうに報告するリガロウから、集落での生活を満喫している様子が窺える。実に微笑ましいな。
しかし、ついこの間までまるで歯が立っていなかったヴァスター相手に勝てそうになるとは。リガロウの今後がますます楽しみになってくるな。
〈戦士長とはどうかな?〉
〈クルァアウ…。負け越してます…。ドライドン帝国から帰って来たら凄く強くなってたんです!姫様から下賜されたアンフィスバナエもかなり使いこなしていましたよ!カッコ良かったです!〉
チャトゥーガの戦績を訪ねてみたのだが、どうやら戦闘訓練での戦績のことだと思われてしまったようだ。
それにしても、戦士長もかなり成長しているようだな。1ヶ月もしない内にアンフィスバナエを使いこなせるようになるか。この調子なら、彼は集落の良い守護者になってくれるだろう。
そしてリガロウにとっても、彼は非常に良い刺激になっているようだ。
リガロウからの嬉しく聞いていると、何かを伝えたそうにしているのが分かった。
どうやら私に願い事があるようだ。
〈姫様…。戦士長に名前を付けてあげてくれませんか?〉
そうか。リガロウはそれほどまでに戦士長に敬意を払っているのか。良いライバルを得たのだな。
可愛い眷属からの願いだ。ならば聞き届けないわけにはいかないな。それに、彼の人(?)柄も理解しているつもりだ。
彼に名付けること、家の皆も賛成してくれるだろう。
〈分かったよ。それじゃあ明日の朝に集落へ顔を出すから、その時に彼に名前を与えよう〉
〈!ありがとうございます!戦士長、きっと凄く喜びます!〉
〈ふふふ、良かったですね、リガロウ〉
うん。リガロウは戦士長が喜ぶと言っているが、同じぐらいリガロウも喜んでいるんじゃないだろうか?いやまぁ、戦士長がどの程度喜ぶかはまだ分からないのだが。
アンフィスバナエを与えた時でさえあれほど喜んだのだ。今回のこともきっと喜んでくれるだろう。
私から名前を与えられること、この"楽園"に住まう者にとってはとても喜ばしいことだと考えるのは、私の自惚れでは無い筈だ。
リガロウとヴァスターとの会話を終えて明日に備えよう。戦士長に与える名前も考えないとだしな。
翌日。
ドライドン帝国へ出発した時と同様に
転移して来る時間を正確にリガロウとヴァスターに伝えていたため、全員が跪いている。
「姫様!おはようございます!お待ちしていました!」
「おはよう、リガロウ。貴方達も、出迎えご苦労様」
「「「「「おはようございます!我等が姫君様!」」」」」
リガロウの鱗がとても綺麗だ。蜥蜴人達に風呂の週間は無いし洗料を持っているわけでもないというのに、ドライドン帝国から帰って来た時と同様の美しさである。
そう言えば、特に気にしていなかったが、ドライドン帝国へ発つ時もこの子の鱗は綺麗なままだった。
「ノア様からお預かりした尊き御方なのです。不遜な真似はできません」
「毎晩、丁寧に体を磨いてくれました!」
本当に良くしてもらっているな。彼等には感謝しておかなければ。
彼等に対する感謝の気持ちと言うわけではないが、昨日のリガロウとの約束を早速果たすとしよう。
「戦士長、アンフィスバナエはどうかな?」
「ハッ!日々研鑽を重ね、己を高め続ける日々が続いております!」
「良ければ、どの程度扱えるようになったか、訓練の内容を今から見せてもらって良いかな?」
蜥蜴人達がどよめいている。
まさか、見送るだけだと思っていた相手がこの場で催しをして欲しい、などと言うとは思っていなかったのだろう。
しかし、物事には理由が必要である。
リガロウが望んだから、と言ってしまっても構わないのかもしれないが、それはあの子が望まない。
戦士長自身が私に認められたという実績を、あの子は望んでいるのだ。
戦士長も驚き、体が震えているが、決して気後れしているための震えはない。むしろ、彼の体は歓喜に包まれている。
「我等が姫君様にそうまで言っていただけるとは…なんたる栄誉…っ!承知いたしました!これより、ノア様より授けられしアンフィスバナエによる演武を披露いたしましょう!」
戦士長がそう答えると、この場に集まった蜥蜴人達が彼から離れ、彼を中心に大きな円を作った。私とリガロウも距離を取って邪魔にならないようにしよう。
蜥蜴人の青年が両手で大切そうに合体状態のアンフィスバナエを抱えて戦士長の元へ届ける。相当大切に扱われているようだ。
「我等が姫君様!我が武をご照覧あれぃっ!!!」
戦士長がアンフィスバナエを受け取ると、双剣状態にして右腕を掲げ、高らかに叫ぶ。
戦士長がアレをどれだけ扱えるのか、見せてもらうとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます