第495話 "氣"を認識してもらおう

 日が変わりレイブランとヤタールに起こされると、他の皆は家の外、オーカドリアの木の下に集まっていることを把握した。


 「おはよう、レイブラン、ヤタール。オーカムヅミ、食べる?」


 2羽の反応は勿論食べる、だ。ならば外で待っている皆の分も切り分けておこう。

 私がこうしてレイブランとヤタールに起こされる時間に、皆が一ヶ所に集まっているのも珍しい。どうせなら、外で一緒に食べるのもいいかもしれない。


 「折角皆一ヶ所に集まっていることだし、外で一緒に食べようか」


 そう提案してみれば、レイブランとヤタールはほんの少しだけ不満気な気配を出した後に賛成してくれた。

 早く果実を食べたくて仕方がないのだろう。そういうところもまた、この子達の可愛いところだ。後で沢山撫でさせてもらおう。


 「皆おはよう。オーカムヅミを切り分けたよ」


 皆の体に合わせた量のオーカムヅミの果実を差し出し、久しぶりの全員揃った状態での朝食を楽しむことにした。


 皆良い食べっぷりだ。美味そうに果実を食べている様子を見ているだけで、多幸感に満たされる。いつ見ても飽きない光景だ。

 幸せに包まれながら、私もオーカムヅミの果実をいただくとしよう。


 この果実も、飽きの来ない味である。スイーツに利用するのも悪くないが、こうしてそのままの状態で食べるのも私は好きだ。

 加熱してジャムにしても良いし、冷やしても良い。果汁を絞ってジュースにするのも良いし、凍らせてシャーベットにするのも良い。

 オーカムヅミは私にとって万能果実だ。今後も様々な菓子やスイーツに利用して行くことになるだろう。


 朝食が終わったら、ロマハの気配が感じられないことだし、皆に"氣"を認識してもらうとしよう。

 私もまだ"氣"を十全に扱えているわけではない。体外へ"氣"を放出すると、自在に制御できるとは言えないのだ。


 折角だから、皆に触れてもらう"氣"は、私が体外へ放出した"氣"に触れてもらおうと思う。その方が、私の訓練にもなるからな。


 眼前に"氣"を集めて私の体から切り離していく。

 昨日の時点では手のひらから放出させていたが、今では体を動かさずとも念じるだけで体内の"氣"を操作することは可能となっていた。

 尤も、体を動かしながら操作をした方が動かしやすいのは変わらないのだが。


 直径1mほどの"氣"の球体を作成したところで、皆に確認してもらうとしよう。


 「今、私の目の前に私の"氣"で球体を作ったのだけど、分かるかな?」

 〈?そこに、ご主人の力があるの?〉

 〈ううむ、我にも見えんな…〉

 〈見えない子もいるんだね…。私は見えるよ!1mぐらいの球体でしょ?ノア様の胸の辺りで浮かんでるよ〉

 〈妾にも視認できますうううぅ!コレが…主様の魔力ならざる御力…!あああああ…!ふ…触れてみたいぃいいいいい!!!〉


 特に制限は掛けていないので、触れたければ触れてみてくれて構わないのだが…。しかしそうか。見える者と見えない者で分かれたのか。


 "氣"の球体が確認できたのは、フレミーとラフマンデー。それからヨームズオームとオーカドリアの4体か。獣の子達は皆視認できなかったようだ。


 フレミーもラフマンデーも複眼持ちだし、それが原因だろうか…?しかし、それではヨームズオームとオーカドリアが視認できたことの説明がつかないな。

 となると、素質の問題と考えた方が良さそうか。


 それでも、触れてみれば認識すること自体はできると思う。"氣"の球体を制御し、皆に向けて伸ばして触れさせてみよう。

 おっと、行動を移す前に先に何をするか言っておかないとな。


 「今から、私の"氣"を動かして皆に触れてみるね?」


 "氣"の球体を認識できない獣組の緊張が高まっている。おそらく、この子達にとっては未知の体験となるだろうな。

 反面、"氣"の存在を認識できた4体は期待に満ちた感情を纏わせている。

 これは、新たな力を得られることへの喜びだろうか?


 だとするのなら、その気持ち、私も理解できる。

 私も、信仰エネルギーや"氣"を制御できた時は嬉しかったからな。やはり、新しいことができるようになるという体験は、嬉しくなるものなのだ。


 私の"氣"を皆に触れさせると、元から"氣"を認識できていた子達は勿論のこと、獣組も視認はできずとも何らかの力が自分に触れていると理解できたようだ。


 〈あー…"氣"ってコレのことかぁ…。うん、コレなら割とすぐに使えるようになるかも〉

 ―あったかくて気持ちいいー…―


 フレミーは本当に凄いな。

 彼女は知らなかっただけで、以前から"氣"を認識できていたようだ。しかもあの様子だと、すぐにでも動かせるようになりそうだな。

 加えて、器用な彼女のことだ。糸に"氣"を通して私以上に上手く操ることも可能になるかもしれない。


 それはそれとして、私の"氣"は、ヨームズオームにとっては触れていると気持ちの良い物らしい。私に絡んで気持ち良さそうにしている時と同じような表情をしている。このままだと、今にも眠ってしまいそうだ。


 眠りたいのなら寝かせてあげたいところだが、今は皆と訓練中なのだし、少し我慢してもらうとしよう。


 〈クゥーン…。何かに触られてるのは分かるけど、良く分からないよぉ…〉

 〈コレに似たような力が、我等の内側にもあるのか…〉


 獣組は、触れられていること自体は理解できているようだが、それが何なのかは分からないと言った様子だ。

 どうすればあの子達に"氣"を理解してもらえるだろうか?


 悩んでいると、オーカドリアがアドバイスをしてくれた。


 「ノア?"氣"って、つまり生命エネルギーだから、生物なら必ず所有しているエネルギーなんだよね?」

 「うん、だから認識できなくてもあの子達にも"氣"は存在しているよ」

 「それなら、あの子達の"氣"に干渉してあげることはできないかな?」


 なるほど。自分が所有しているエネルギーが増幅したり動いたりすれば、認識しやすくなりそうだ。早速試してみよう。


 ………困った。他者への"氣"の干渉方法が分からない。下手に干渉してあの子達を傷付けるわけにもいかないし、ここは専門家であるキュピレキュピヌに聞いた方が良さそうだな。


 『ハイハーイ!まっかせてくれたまえ!ノアちゃんに質問されても良いように、あれから色々と検証してみたんだぜ!』


 …少し考えただけでこうして気配が現れるのは、私に寵愛を与えているからなのだろうか?

 そしてこうしてキュピレキュピヌの気配が現れたと言うことは…。


 『おはよう、ノア。今日も健やかな生活を送っているようだね』

 『まだ朝になったばかりだし、ノアは目が覚めたばかり。駄龍は適当なこと言わない』


 まぁ、この2柱は来るだろうな。そしていきなり喧嘩腰か。今日もダンタラがこの場に気配を現すのなら、この2柱の仲裁は彼女に任せたいところだが…。


 『ロマハ、星の力に関してなんだけど、この子達に"氣"を認識してもらいたいから、少し待ってもらうよ?』

 『うん!平気!いつまでも待ってる!』


 流石に昼食前には認識してもらえるようにするつもりだから、いつまでも待たせるつもりは無い。

 早いところキュピレキュピヌに教えを請い、獣組の皆に"氣"をもらえるようにしなければな。


 『まぁ、そんなに難しいことじゃないよ。特に、ノアちゃんならなおさらだね!』


 だとしたら朗報だ。私だって本音を言えば、やるべきことは早急に済ませ、自由な時間を過ごしたいのだ。

 早速やり方を教えてもらうとしよう。


 『まずは、あの子達に直接触れて、あの子達の"氣"を探ってみて!』


 ふむ。それでは…一番認識に苦労して良そうなウルミラに触れてみようか。

 うん。今日も良い触り心地だ。このまま抱き着いて撫でまわしたくなる。


 〈ん?ご主人、どうしたの?〉

 『ノアちゃーん、集中集中』

 「!ああ、ゴメンゴメン。ちょっとウルミラの"氣"に干渉させてもらうね?」


 いかんいかん。モフモフに触れるとそれにばかり気を取られてしまうのは、私の悪いところだな。

 この悪癖ともいうべき癖は、今後も直りそうもないのが悩ましいところだ。それどころか酷くなるような気配すらある。


 ニスマ王国から帰ってきた際に『幻実影ファンタマイマス』で皆に抱き着いたら意識を失ってしまったのがいい例だ。アクレイン王国から帰って来た時は、そんなことなかったというのに…。


 とにかく、今は意識を集中しなくては。ウルミラが宿している生命エネルギーに意識を集中させよう。


 『その子の"氣"を探ることができたら、次はその子の"氣"をノアちゃんの"氣"で覆ってあげて!』


 ああ、そういうことか。私の"氣"で半ば強引にウルミラの"氣"を動かすことになるのか。それは確かに直接触れないと難しそうだな。

 しかしこの方法、触れている子達に危害は無いのだろうか?


 『やり方を間違えると確かに危ないし、氣功術にはこの方法を応用して相手の体を内側から破壊する技もあるよ!ま、安心してくれよ!その辺は僕がしっかりと見張っておくからさ!』


 これほど神を頼もしいと感じたことが、今まであっただろうか?

 言動はやや子供っぽいところはあるが、キュピレキュピヌは何だかんだ一番まともな神のような気がしてきた。


 『聞き捨てならないぞノア!コイツにどれだけ私が苦渋を味わわされたと思っているのかね!?』

 『いや、それルグの自業自得じゃん…』

 『責任転換、良くない』


 私が知る限りでも、ルグナツァリオは自業自得で痛い目に遭っていることが多い。

 確かにキュピレキュピヌが教えてくれた情報が理由ではあるが、それを彼の責任にするのは違うだろう。


 ルグナツァリオの訴えは今は聞き流すとして、ウルミラの"氣"への干渉だ。


 『ウルミラの"氣"を私の"氣"で覆ったら、今度は"氣"をなじませればいいのかな?』

 『そうそう!さっすがノアちゃん!呑み込みが良いね!それなら、後は言わなくても分かるかな?』


 できれば最後までしっかりと教えて欲しいところだが…。

 多分、私の"氣"をウルミラの"氣"になじませれば、多少は扱い辛くはなるだろうが操作は可能になるのだろう。


 うん。思った通りだ。今、ウルミラの"氣"は私の"氣"でもあるようだ。


 「ウルミラ、力まずに、リラックスして…。不安なら抱きしめようか?」

 〈それはご主人が抱きしめたいだけじゃ…。じゃあじゃあ、抱き着いても良いから、優しく撫でて!〉


 お安い御用だとも。気持ちよすぎて眠ってしまいそうになるぐらい、丁寧に優しく撫でてあげよう。

 っと、撫でることばかりに集中して"氣"を操ることを忘れないようにしなければ。


 〈ん!?な、なんか体の中で大きくなったり動いてるのがある…!ご主人、コレがボクの"氣"なの?〉

 「そうだよ。今は私の"氣"でもあるけどね。少しずつ私の"氣"を取り除いていくから、しっかりとこの感覚を覚えておくんだよ?」

 〈うん!分かった!〉


 改めて思うのだが、こうして私と一緒に暮らしてくれている子達は、皆素直でとても良い子達だ。

 ルグナツァリオやロマハが喧嘩じみたやり取りを繰り返しているから、そのことがとても恵まれていると実感できる。


 少しずつ私の"氣"をウルミラの"氣"から取り除いていく。どうやら、一度認識できてしまえば、後は問題無く認識できるようだ。

 やや拙くはあるが、ウルミラが自分の"氣"を動かし始めている。


 〈わ!わ!コレかぁ!コレが"氣"を操るってことなんだ!〉


 ウルミラはもう大丈夫だろう。それでは、残りの獣組の子達にも同様に"氣"を認識してもらうとしよう。



 皆認識出来れば後は早かったようで、約1時間ほどで全員体内の"氣"を動かせるようになっていた。


 『ありがとう、キュピレキュピヌ。貴方が助言してくれなかったら、こうまでスムーズに事は運ばなかった』

 『いいっていいって!むしろ僕達がノアちゃんに助けられまくってるからね!そのお礼とでも思ってよ!ま、こんな程度じゃお返しにもなってないけどね!』


 他の五大神もそうだが、彼等はとことん私を甘やかしてくれるらしい。必要な時は遠慮せずに助力を請わせてもらうとしよう。


 さて、家の皆に"氣"を認識してもらい、更には操作までできるようになったのだ。私があの子達の面倒を見るのはここまででいいだろう。何かあればキュピレキュピヌが何とかしてくれるだろうしな。


 私は、そろそろロマハから星の力の扱い方を学ばせてもらうとしよう。

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