第494話 新たな力を検証する

 ルグナツァリオとロマハから受け取った信仰エネルギーに干渉し、まずは思い通りに操作が可能かどうかを確かめてみよう。手のひらに信仰エネルギーの球体を発生させて、動かしてみる。


 …うん、操作自体は魔力とそれほど変わらないかな?では、この信仰エネルギーで魔術が発動できるかどうかを試してみようか。


 む…発動しないな。魔術は魔力でなくては発動しないらしい。

 では、魔法を使うようにして信仰エネルギーに意思を込めてみよう。


 込める意思は…良し、決めた。


 「ラフマンデー」

 〈はいただいまぁ!〉


 流石はラフマンデー。呼べばすぐに来てくれる。彼女の仕事をあまり邪魔するわけにもいかないし、手短に用件を伝えよう。


 「どれでもいいのだけど、植物の種があったら1つ譲ってもらえる?ちょっと検証したいことがあるんだ」

 〈承知致しましたぁ!こちらからお選びくださいませぇえええ!!〉


 どれか1つを選んで差し出すようなことはしないらしい。あくまでも私の好みに合わせるようだ。

 ならば、一種類と言わず用意してもらった種を全て1つずつもらうとしよう。検証ができればそれで良いのだから、種類や数に拘る必要はないのだ。


 譲ってもらった種に『育て』の意思と共に少量の信仰エネルギーを注いで地面に植えると、種を植えた直後に植物が芽を出し、そのまま花を咲かせるまで成長してしまった。しかも芽吹いた植物は信仰エネルギーを纏っている。


 精霊化はしなかったようだが、それでも何か意思のようなものを感じられる。この状態、ちょっとしたきっかけでもあればすぐに精霊化しそうだな。


 『注いだ信仰エネルギーが少なかったのだろうね。もう少し与えてやれば、すぐにでも精霊化するよ』


 いや、精霊化して欲しいわけではないのだが…。

 だが今しがた芽吹いた植物達は皆、信仰エネルギーをとても欲しそうにしている。

 これは、与えた方が良いのだろうか?


 彼等は私の都合で生み出した者達だ。だとしたらやはり、その要望には責任をもって答える必要があるのだろうな。

 うん、残りの信仰エネルギーを彼等に均等に与えよう。


 「ただし、私を神扱いしないように。貴方達に与える力は、あくまでも別の者、それこそ正真正銘の神から与えられた力だからね?いいね?」


 そんな風に呼びかければ、彼等はこちらの言葉を理解しているかのように自らの体を揺らして見せた。

 …どうやら私が話しかけたことで、明確な意思が芽生えてしまったらしい。影響強すぎないか?


 『信仰心というものがそもそも強い意思から生まれるものだからね。その信仰心を元にしたエネルギーなのだから、意思に関与する事象には強い影響が出るよ』


 なるほど、そういうものなのか。

 さて、私の体に残った信仰エネルギーを全て芽吹いた植物達に与えたわけだが、当たり前のように精霊化してしまった。


 彼等の形状は様々だ。

 エネルギー体の者もいれば、人に近い姿をした者もいるし、獣や虫の姿になった者もや植物の姿のまま精霊化した者もいる。


 人に近い姿をした者が跪いたかと思うと、そのまま私に感謝の言葉を述べ出した。


 「我等が主様。我等に至高の力をお与え下さり、感謝いたします」


 その言葉と共に、残りの精霊達まで跪くような姿勢を取り出した。

 人型の精霊以外は言葉を語らないようだが、彼等の力に大きな差はない。感情は読み取れるし、言葉を用いる必要が無いと考えているのだろう。


 さて、こうして明確な意思を持ってしまった以上、彼等にも役目を与えた方が良いだろう。というか、彼等は皆、私から何らかの役目を与えられたがっている。


 「私の配下に、この広場の植物達の世話を任せている者がいるから、彼女の手伝いをしてもらえるかな?」

 「承知いたしました。これより我等一同、ラフマンデー様の指揮下に入ります」


 芽吹いた精霊達は、ラフマンデーのことを理解しているようだ。そして彼女を自分達の上位者であるとも認識している。

 この精霊達は、以前私が持ち帰ってラフマンデーに任せた種子達から生まれた精霊達よりも、強い力を持っている。


 この広場で実った種だからと言うこともあるが、やはり信仰エネルギーが大きく影響していると言って良いだろう。


 ある程度状況を理解しているようだし、細かい話をする必要は無さそうだ。

 早速彼等をラフマンデーに紹介して仕事を手伝わせるように通達しよう。


 ラフマンデー達を見送りながら、少し悩ましく思う。

 精霊達を生み出したことによって折角2柱からもらった信仰エネルギーが無くなってしまったのだ。


 まだ色々と検証したいことがあっただけに、勿体なかったかもしれない。


 『欲しければ言って!まだまだいっぱいあるし増え続けてるから!』

 『遠慮する必要はないとも。渡す量は、先程と同じで構わないね?』


 2柱とも私の検証にとことん付き合ってくれるらしい。ならば、遠慮なく付き合ってもらうとしよう。

 先程と同量の信仰エネルギーを受け取り、今度は別の意思を込めて魔法を使う感覚で信仰エネルギーを使用してみよう。



 検証してみた結果、信仰エネルギーは魔術のように扱うことはできないが、魔法のように扱うことは可能だと分かった。


 が、最も効果が高いのは、信仰エネルギー単体で事象を起こすよりも、他の要素に追加させることだと判明した。


 例えば、信仰エネルギーを纏った状態の身体能力は、同量の魔力を身体強化に使用した時よりも強い効果が確認できたのだ。

 また、信仰エネルギー単独では魔術は使用できないが、魔力と併用することでこちらも大幅に効果を高めることができた。魔法に関しても同等である。


 『信仰エネルギー単独で何かを成そうとしたのは、貴方が初めてだよ』

 『私達も魔力と併用して使うばっかりだった』

 『こりゃあ、他のエネルギーとも併用してみたく成って来るねぇ~!』


 確かにその通りなのだが、それはひとまず置いておこう。どのエネルギーも十全に使用できるようになってからにするべきだ。

 満足にエネルギーを制御できない状況で、強力な力が発生すると分かり切っている行為をするべきではない。暴走して周囲に大きな被害を及ぼすのが目に見えている。



 信仰エネルギーは理解できたので、次は"氣"の検証を始めてみよう。

 生命エネルギー自体は認識できているのだから、魔力を動かすのと同じような感覚でこのエネルギー、即ち"氣"にも私の意思で干渉して制御してみるのだ。


 …うん、問題無く動かせるな。むしろ、魔力以上に動かし易いのではないだろうか?特に、体内で"氣"を循環させようとすると、魔力よりも遥かにスムーズに動かせると理解できる。


 しかし、体外に"氣"を放出した途端、制御が難しくなった。


 『魔力と違って、"氣"は空気中に存在しているわけじゃないからねぇ。体から離して"氣"を制御する場合は、しっかりと意思の力で繋ぎ止めておく必要があるんだよ』

 『その際の意思の力が、魔力以上に求められる、と言うことだね?』

 『そういうこと!ま、本来"氣"を認識すること自体がメッチャ難しかったりするんだけどね!やっぱりノアちゃんは凄いよ!』


 褒めてくれるのは嬉しいのだが、何かむず痒さを感じるな。いや、心境の問題ではないのだ。何かが触れそうで触れていない、この感覚は…。


 『私の頭を思念で撫でようとしてる?』

 『そのつもりだったんだけどねぇ~。なかなか難しいねぇ、コレ』


 キュピレキュピヌも早速自身を高めようと行動を開始しているらしい。

 そしてその言葉を聞いた途端、むず痒さが激増した。ダンタラを除く3柱も私に思念を送ってきているようだ。


 『んー?こう?』

 『む…これは…単純に思念の強さが足りないのか?』

 『あー…なるほどな。こりゃ確かにムズイな』


 上達しようとしているその心意気は認めはするが、何故検証対象を私に限定するんだ?

 いや、私も五大神に検証を手伝ってもらっている手前、あまり邪険にはできないのだが…。正直言って、非常に煩わしい。


 4柱の額を指で弾く思念を送ろうと思った矢先、急に4柱が痛み出す気配が伝わってきた。


 『貴方達、ノアが困っているではありませんか。検証の対象はノアでなくてもいいのですから、もっと考えて行動なさい』

 『ま、待ちたまえダンタラ!君、先程以上に上手くなっていないかね!?』


 なんと、ダンタラが思念を送り、4柱を諫めてくれたのだ。ルグナツァリオが指摘した通り、思念を用いた干渉が上手くなっている気がする。


 『何やらコツを掴めたみたいです。これもこうしてみんなで集まって色々と語り合ったからかもしれませんね!』

 『ねぇ、ダンタラ?君どんだけ強くぶったの?ドライドン帝国でノアちゃんにシバかれた時より痛いんですけど…?』

 『ヤベェな、こりゃ。俺達も早く同じようなことできるようにならんと、一方的に痛めつけられちまうぞ…』


 実際、その通りだろうな。今までは言葉を送る程度の干渉しか出来なかった分、少々過激に干渉してしまう可能性は考えられる。4柱には頑張ってもらいたいところだ。


 私も五大神に負けず修業を続けようかと思ったのだが、今日のところはここまでにしておこう。


 亜空間内で幻に戦闘を続けさせていたのだが、流石に魔力の消費が追い付かなくなってきた。

 ここまで魔力を消費したのは初めてだ。ルイーゼの雨雲を消し飛ばした時以上に消耗している。

 亜空間内の幻を消去して、そろそろ夕食を作るとしよう。


 『ノア!明日は星の力について教えるね!』

 『ああ、よろしく頼むよ』


 五大神達の気配も消えていく。まぁ、彼等は呼びかければまたこの場に気配を現してくれるだろうが、今日はもう夕食を食べたら皆とのんびり過ごすつもりだ。私が今日得られた経験も皆に話しておきたいしな。



 夕食も済ませ、皆に囲まれながら今日のことを伝えると、ホーディとラビックが"氣"の扱いについて興味を持ち始めた。


 〈"氣"と言う力は、身体能力を高めるのに適したエネルギーのようですね。私達にも扱えるのでしょうか?〉

 〈しかし、我等は生命エネルギーを認識できてはいない。習得するのならば、まずはそれを理解するところからだな〉


 モフモフでフサフサのフワフワが気持ちいい…。って、そうじゃなくて、ホーディ達の質問に答えなければ。


 「それなら、私が体外に放出した"氣"に触れてみるのはどう?それと同じようなエネルギーが自分の中に無いか、探してみると良い」


 その提案にホーディとラビックは喜んでくれたのだが、私の"氣"に触れると分かった途端、他の子達まで興味を持ち出した。


 〈ノア様、私も触ってみていい?〉

 〈あ!ボクもボクも!〉

 〈ノア様の力に触れられるの!?〉〈私達も触れたいのよ!〉

 〈卑しいこととは思いますが、儂もおひいさまの御力に触れてみたく思います〉


 まさかこの場にいる全員が反応するとは…。そういうことならば、ラフマンデーも加えた方が良いだろうな。

 ちなみに、ヨームズオームは私に絡んでとても気持ちよさそうに眠っている。幸せをかみしめている様がとても伝わって来て、こちらまで幸せな気分になる。

 起こしてまで確認すべき内容ではないし、風呂に入る時にでも聞いてみよう。


 「それなら、明日皆で学んでみようか」


 明日は、ロマハから星のエネルギーの扱い方を教えてもらうことになっているが、1日中その力に集中するわけではないからな。


 それに、自慢ではないが私の配下は皆呑み込みが早い。

 私の"氣"に触れさせて生命エネルギーを認識してもらえば、そこから先はあの子達が自分で"氣"の扱い方を習得してくれる筈だ。


 修業以外にもやりたいことは山ほどあるのだ。今日は1日中修業をしていたような気がするし、明日はもっとゆっくり過ごすとしよう。


 皆で風呂に入ったら、ラフマンデーとヨームズオームに明日の予定を伝えておいた。


 〈な…なんという…わ、妾…幸せ過ぎて…!幸せ過ぎてえええ…!!!〉

 「今は入浴中だから、飛び回らないようにね?ヨームズオームはどう?」

 ―僕も触ってみたーい!ノアの魔力はとっても気持ちいいから、きっと"氣"っていうのも気持ち良いよー!―


 だと嬉しいのだが…。

 自分の"氣"を他者に触れさせるというのも初めての試みなのだから、慎重に行わなければな。

 ラフマンデーが感極まって高速で飛び回ると、他の皆が少し煩わしそうにするので、両手で捕まえておこう。


 〈お…おおおおお…!あ、主様に…!主様に包まれ…!きょほ…っ!〉


 気を失ってしまった…。まぁ、この状態の方が静かでいいか。

 ラフマンデーを彼女用の風呂桶に入れて体が風呂の温度になじむまで、夜空の景色を眺めるとしておこう。


 風呂から出たら、皆で良く冷えたリジェネポーションを飲んで今日は寝よう。

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