第493話 魔力以外のエネルギー
魔術構築陣を精査して自動型の幻が魔術を使用できるかどうかを確認する。
…できないことは無さそうだな。だが、当然魔力は大量に消費するし、現状では2つ以上の魔術を同時に使用することはできないようだ。
私とまったく同じ性能を持った自動で動く幻を用意しようとした場合、私ですらかなりの魔力を消費する必要がある。
しかも、長時間出現させておくことはできなさそうだ。必要最低限の魔力で出現させた場合、動かさない状態でも1日間出現させられる程度だな。
この状態で全力の戦闘行動を行わせようものなら、1分と持たずに幻が消失してしまうだろう。
勿論、膨大な魔力を用いて幻を生み出せばその分長時間維持できるが、気軽に行えるものではない。
大量の魔力を内包した魔石を媒体にすれば、長時間全力戦闘が可能な幻を用意できるだろうか?
いや、そもそも幻に魔力を供給し続ければ、霧散させずに維持し続けられるのではないだろうか?
早速試してみよう。今度は先程と同性能の自動型の幻に魔力を供給しながら、魔力強化を行っての戦闘だ。亜空間を超えてこちらにまで影響が出ないように、結界を強固なものにしてから検証してみよう。
…魔力を常時供給し続けることによって、自動型の幻を持続させ続ける試みは成功した。が、しかし焦った…。
まさか、万全を期したと思っていた結界が破れてしまうとは…。
思い返してみれば、納得の結果ではある。私は七色の魔力で結界を張りはしたが、私操作の幻も自動型の幻もまた、使用している魔力は七色なのだ。
至極単純な計算なのだ。同じ力を持った者が1人で作った結界が、同じ力を持った2人分の力に勝てるわけがないのだ。最低でも結界を2重に重ねなければ耐え切れないのも当然の話である。
結界が破れた直後に再度結界を張り直したので亜空間を超えてこちらにまで影響は出なかったが、気を付けなければならないな。もしもこちら側にまで影響が出ていたら、ルイーゼ辺りに空間の振動を察知されて叱られていたかもしれない。
しかし、我ながら良い魔術を作ったものだ。
扱い方次第では非常に危険な魔術となるが、比較的気軽に私が修業できる魔術として完成したのだ。
『亜空部屋』に『空間拡張』。そしてこの新たな魔術、名付けて『
これは非常に大きな収穫だ。
私はおそらくこの世界で最も強い存在だとは思うのだが、だからと言って異世界でも最強だとは限らないからな。
特に、私が標的にしているアグレイシア。ヤツは伊達に神を名乗ってはおらず、別次元からこちらの世界に干渉できる存在だ。
残念なことに、私はおろか五大神ですら異世界へ干渉は現状不可能らしいからな。
ヤツの素の戦闘力が私達を上回っている可能性は十分にあり得るのだ。
確実にアグレイシアを神の座から引きずり下ろすためにも、別次元へ干渉できる術を手に入れるだけでなく、私自身が更なる力を求めるべきだと思うのだ。
私がこれまで行って来た修業は、有り余る力を制御するための技術的な修業ばかりだった。
自身の身体能力や魔力を引き上げるような修業は、一度も行ったことがない。
『消滅』の意思を込めた全力のブレスに加え、同じく『消滅』の意思を込めた噴射孔からの魔力照射がアグレイシアに通用しなかった場合、敗北は必須となるだろう。
意気揚々と敵陣に突入しておきながらあっけなく返り討ちに遭うなど、御免被る。
確実な勝利を得るためにも、身体能力や魔力の強化に加え、新たな力も積極的に模索していこうと思っている。
例えば、だ。ルイーゼが以前オーカムヅミを手刀で両断していたが、あの時、彼女は魔力による身体強化を使用していたわけではなかった。つまり、魔力以外にも肉体を強化する要素があると考えて良い。
魔王国に訪れた際に彼女に直接聞くでもいいが、その間何もしないというのも落ち着かない。
アテはある。
生物が持つエネルギーは、魔力だけではないのだ。
そのうちの一つはキュピレキュピヌが管理する、生命エネルギーだ。
最近読んだ本に記されていたことではあるのだが、世の中には生命エネルギーを操り魔術に近い現象を引き起こせる者がいるらしい。
そういった者達からは生命エネルギーは"氣"と呼ばれており、"氣"を操る術を氣功術と呼ぶそうだ。
残念なことにこの大陸にまともな使い手はおらず、氣功術は別大陸で活動している特定の一派が修め、その教えを広めている。
以前冒険者達を鍛えた際、体術や棒術の型を指示した際に参考にした、"武神百戦技集"の著者でもある武芸者カムカンも氣功術の達人らしい。
かの人物は既にこの世を去って久しいのだが、彼には
後継者の詳細が本には載っていなかったので名前も分からないのだが、別大陸を観光していれば、その内接触することもあるだろう。出会うことがあるのならば、是非とも教えを請おう。
それはそれとして生命エネルギーの操作、氣功術を自己流で身に付けてみようとは思うが。
生命エネルギー、所謂"氣"と思われるエネルギーは私も認識できているのだ。
干渉、制御できれば氣功術を会得できるのではないかと考えている。それに、複製だけしてある未読の本の中に、氣功術に関する本があるかもしれない。
話は変わってもう一つ、私は魔力とも"氣"とも違うエネルギーを知っている。
この星のあらゆる物質に含まれ、ロマハが管理する魂を形成しているこの星の純粋なエネルギーだ。
魂を保護する器を生み出せるのだから、このエネルギー自体にも干渉できるのではないかと私は考えている。
この方法に関してはロマハに教えを請おうと思っている。現状扱えるのが彼女しかいないだろうからな。
尤も、知覚自体はできているので、意思の力で干渉して制御できないかとも考えている。
まぁ、勝手に試して取り返しのつかない事態になる可能性はない。などとは口が裂けても言えないからな。試みる時は必ずまずはロマハに連絡を取ろうと思っている。
"氣"と星のエネルギー、これらの制御する術を身に付けるのは、第一段階である。本題は、魔力を含めたこれらの力の融合である。
2つの力を試したことはないが、魔力だけでも非常に強力な力となるのだ。上手く融合させれば、それこそ次元の壁を突き破れるほどの力を得られるのではないだろうか?
しかし、私だけで試すのはいくら何でも危険すぎるな。五大神に相談した方が良いだろう。
『どう思う?』
『こうして私達に相談してくれて、心底安心したよ。もしもやるのだとしたら、まずは極小量の力で試すべきだろうね』
『貴女がルグと違い、相談もせずに行動するような方でないことを、私はとても嬉しく思います』
事前に相談したことが五大神は喜んでくれたようで、ダンタラが褒めてくれた。不思議と、柔らかいものに包まれたような気がする。
この感覚は…抱擁だろうか?つまり、ダンタラは思念で私に干渉して来たと?
凄いな!神々も成長していると言うことか!
『ダンタラ!?君、いつの間にそんなことができるようになっていたのだね!?』
『いつまでも貴方達の喧嘩の仲裁をノアに任せるわけにはいきませんからね。私達だって成長できるのですから、これぐらいのことはやってのけますとも!』
おお!ダンタラが頼もしい!ルグナツァリオとロマハの喧嘩の仲裁をダンタラが物理(?)的に行ってくれるというのならば、これほどありがたいことはないだろう。
自分達にも干渉されかねないと、キュピレキュピヌやズウノシャディオンまで慄いているが、余計なことをしなければ叱られることなど無いだろう。
『ダンタラ!やり方教えて!』
『いけません。できるようになりたければ自分で習得なさい。私ができたのですから、貴方達だってやろうと思えばできる筈です』
『簡単に言ってくれるが…やらないわけにはいかないのだろうね。異世界の神がこの世界に悪い意味で干渉している以上、それに備える必要がある』
『だったら尚更教えて欲しいかなぁ~』
『それには賛成だが、教えてもらうだけってわけにもいかねぇだろうよ。長らくのんびりしちゃあいたが、俺達も上を目指す必要が出てきたってわけなんだからな』
なかなかに向上心が高い神々だ。まぁ、今まで特に自身を鍛えることなく星の生物の営みを眺め続けていたので、悠長と言えるかもしれないが。
とはいえ、それはまさか異世界から侵略行為をされているなどとは思っていなかったからだ。
だからこそ、ダンタラは事情を知った際に、自らを鍛えて自分にできることを増やそうとしたのだろう。
『じゃあ、"氣"の扱いなら僕に任せてくれよ!伊達に生命エネルギーを管理してる立場じゃないからね!』
『星の力を扱いたいのなら、私が教える!何でも聞いて!』
そんなわけで、キュピレキュピヌとロマハが自分の得意分野のエネルギーの扱いを私は勿論、同僚にも教えるらしい。
うんうん、技術や知識は教え合った方がより発展するというものだ。それに、全員が同じことをできるようになれば、何らかの事情で一柱が休眠したとしても肩代わりができるだろうからな。
私も神々もノリ気になっているところに、水を差すというわけではないが、素朴な疑問が浮かんだのだろう。ズウノシャディオンが私に疑問を投げかけてきた。
『ところでノアよぉ、お前さん、もひとつ魔力とは別のエネルギーを知ってるだろ?ソイツを扱おうとは思わんのか?』
『…それをやったら、神になってしまうじゃないか…』
ズウノシャディオンが言っているのは、信仰心によるエネルギーだ。おそらく、ほぼ確実にアグレイシアも使用可能と思われる力であり、ヤツに対抗する場合、最も有効な力でもあるのだろう。
そのエネルギーは私も認識できるし、今も少量ではあるが私の元に送り届けられているのだ。その気になれば、使用することも不可能ではないのだろう。
しかし、私に向けられた信仰心のエネルギーを使用すると言うことは、神として行動すると言うことではないだろうか?
神になるつもりのない私には、使う予定の無い力だ。
『なに、貴女に向けられた信仰心を使用しなければ問題無いさ』
『俺達に向けられた信仰心のエネルギーをノアに渡せば、ノアは神としてでなくドラゴンとしてその力を振るえるだろうよ』
『欲しかったらいつでも言って!有り余ってるからいくらでも渡せる!』
相変わらずロマハは私に対して非常に甘い。嬉しくはあるが、大量の信仰エネルギーを与えられても扱いに困るだけだ。渡してくれるのなら、少量で良い。
魔力と違って最初から備わっていたものではないのだ。ちょっとした間違いで、かつてこの広場を作ってしまった時のような過ちを繰り返してしまうかもしれない。
『そうですね。エネルギー量が少量に制限されていれば、例え間違いが起きても被害は最小限で済むでしょうから、まずは極少量渡すのが良いでしょう』
『で、誰がノアちゃんにエネルギーを渡すの?』
『『私 (だ)!』』
見事にセリフが被ったな。重なった声は、勿論ルグナツァリオとロマハの2柱だ。
『渡してもらえるのは嬉しいけど、貴方達はどの程度のエネルギー量を渡そうとしているの?』
問題はそこからなのだ。
2柱がエネルギーを譲渡してくれるというのならどちらからも受け取れば良いという話なのだが、そのエネルギー量が多すぎた場合、受け取りを拒否せざるを得ないのだ。
『そもそも、貴方達はどの程度まで信仰エネルギーを制御できるの?』
『舐めてもらっては困るな。これでも永い年月知能ある生命を見守り続けてきたのだよ?』
『魔力で言うなら並みの人間の子供が持つ程度の量渡すつもりだよ!』
ロマハの言葉にルグナツァリオも頷いているように感じられる。神々は思った以上に自分の力を制御できるようだ。
それならば、2柱からエネルギーを受け取っても問題無いだろう。万が一を考え、信仰エネルギーの制御訓練も亜空間内で行うつもりだしな。
と、そう思っていたのだが、それはルグナツァリオから止められた。
『亜空管内では今、途轍もない戦いが繰り広げられている真っ最中だろう?そのエネルギーの余波が信仰エネルギーに影響を及ぼさないとも言い切れないからね。それならば、私達が見守りながら制御の訓練をした方が良いと思うよ?』
ロマハも激しく頷いているように感じられる。言われてみればなるほど、その通りだ。
他人の夢にまで干渉出来た五大神が亜空間に干渉できないとは思えないが、彼等は私の動向を見ているだけでなく、今も世界中の生物を見守っているようだからな。余計な手間を掛けさせるわけにはいかないだろう。
では、早速信仰エネルギーを2柱から受け取って検証開始だ。
神々の力の源がどのような力なのか、確かめさせてもらおう。
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