第489話 マギモデルで遊ぼう

 ホーディの背中に登り、彼の体毛を全身で堪能させてもらおう。

 うん、私がいない間も洗料を用いて体を洗ってくれているらしい。フワフワのサラサラでモフモフだ。実に素晴らしい。このまま眠ってしまいたいぐらいだ。


 しかし、今の私はいじけてしまっているホーディを慰めるという仕事がある。自分の欲望にかまけるわけにはいかない。


 「ホーディ、ウルミラを見てごらん?楽しそうに遊んでいるだろう?」

 〈うむ。主から与えられた玩具にご満悦のようだ〉


 そうだね。ファニール君や船の模型、マギモデルで遊ぶウルミラは、とても可愛らしい。後で私も一緒になって遊ぶとしよう。

 っと、そんなことよりも慰めの言葉だ。


 「ホーディ。君達が何かを作ってそれを私や他の誰かに提供してくれるのは、とても嬉しい。だけど、無理をする必要なんてないよ?君達が思い思いに過ごしてくれれば、私はそれで幸せなんだ」

 〈主よ…〉

 「君達が作ってくれた酒だけでも、私はとても満足しているんだよ?それに、そんな風に悩みを持っていたら、ラビックも心配してしまうよ?」


 別のことを考えながらラビックと組手でもしたら、間違いなくラビックが勝ってしまうだろうな。だが、それであの子が喜ぶわけはないし、むしろ自分を蔑ろにされたと思い怒ってしまいそうだ。


 〈む…。それを言われると、弱いな…。うむ。我は少し頭を冷やす必要があるようだ〉

 「水浴びでもする?」

 〈いや、それには及ばん〉


 水浴びはしないのか…。少し残念。

 だが、ホーディはもう大丈夫だろう。他の子達に話しかけよう。だが、全身で味わうこのフカフカはまだ堪能しておきたい。

 私自身はホーディから降りるが、彼の背には『幻実影』の幻を残しておこう。


 フレミーも近くにいることだし、レイブランとヤタールを呼んで3体に加工したプリズマイトを渡してあげるとしよう。


 〈すっごく綺麗だわ!ノア様の鱗みたい!〉〈気に入ったのよ!寝床に飾るのよ!〉


 嬉しそうにしているレイブランとヤタールを眺めていると、フレミーが声を掛けてきた。プリズマイトはあまり気に入らなかったのだろうか?


 〈そうじゃないの。コレ、食べてみても良い?〉

 「食べられそうなの?」


 そう言えば、フレミーは銀貨や金貨を食べて金属の性質を持った糸を生成できていたな。と言うことは、プリズマイトを食べられればプリズマイトの性質を持った糸を生成することも可能になると言うことだろうか?


 〈うん!こんな風に虹色に輝く糸が作れるようになったら、ノア様に似合った服を沢山作れると思うの!〉


 それは楽しみだな。加工したプリズマイトは渡した時点で既にフレミーのものだ。彼女がどう使おうと、私が何かを言うつもりは無い。

 新しい糸で作られた服を楽しみにしておくとしよう。


 次はウルミラとラビックだ。あの子達は現在マギモデルで遊んでいる。

 私が旅行へ行っている間に随分と扱いに慣れたようだ。今では問題無く徒手空拳で組手を行えるほどまでに操作技術が上達している。

 この子達がこれだけ扱えると言うことは、やはりホーディも同じぐらい扱えるのだろうか?


 〈我はあの2体ほど上手くは扱えぬ。どちらも我よりも魔力の制御に長けているからな。上達も速いのだ〉


 なるほど。

 確かにウルミラもラビックも、ホーディやゴドファンスが魔力の制御を習おうとする前から魔力や気配を完全に絶って見せていたな。ウルミラに関してはこの広場に集まる前からできていたほどだ。

 彼等は魔力の制御能力はここにいる皆の中でも特に高いのだろう。


 やはり、一番魔力制御が上手いのはフレミーになるか。

 そうでなければ、糸に魔力を流して糸そのものを制御し、高速で布や服を生成することなどできないだろうからな。

 彼女の魔力制御能力は他の皆と比べても非常に高いと言って良い。勿論、ヨームズオームやオーカドリアは除外しての話だが。


 私がマギモデルを渡した子達はマギバトルを既に楽しめているようだが、ホーディはラビックとウルミラに負け越しているらしい。しかし、ホーディに悔しさはあれど不満は無いように見える。

 それどころか、とても楽しんでいるように見えるな。


 〈まったくもってマギモデル、そしてマギバトルとは素晴らしい!対等な条件で勝負ができることの、何と素晴らしいことか!主よ、我はマギモデルを与えてもらえ、非常に感謝しているぞ!〉


 私と言う存在が産まれる前、ホーディは"楽園"で最強の存在だった。敗北を知らなかったのである。

 そして、こうしてこの広場で生活し始めてからも力関係はあまり変わらない。

 ヨームズオームやオーカドリアが好戦的な性格でなかったこともあり、ホーディは相変わらず負けなしの生活を送り続けていたのだ。

 まぁ、チャトゥーガでの戦績はそこまで高いわけではないが、そういうことではないのだ。

 体を動かす…いや、少し違うか。格闘技?それも少し違うな。とにかく、物理的な戦闘に置いて対等な条件下での戦いを実現できるマギバトルは、ホーディにとって非常に画期的だったと言うことだ。


 楽しそうにマギバトルを行っている様子を見ていると、私もこの子達に混ざりたくなってくるな。


 「私も混ぜてもらって良いかな?」

 〈良いよ!でもご主人は絶対強いから、ボクとラビック一緒で良い?〉

 〈戦力的に考えると、それでもまだ対等には慣れなさそうな気がしますね…。ホーディ。貴方も加わってもらえませんか?〉


 ほう。一対多数か。確かに、マギモデルの扱いには私に一日の長があると言える。3対1ともなればかなり不利な戦いを強いられることになるだろうが、コレも何かの役に立つだろう。受けて立とうじゃないか。


 ラビックに誘われ、ホーディも嬉しそうに『収納』からマギモデルを取り出した。


 〈主とマギバトルを行うのはこれが初めてか!これは実に楽しめそうだ!〉

 〈ご主人にどれぐらい上手くなったのか見てもらおー!〉

 〈姫様、胸をお借りします!〉


 私も『収納』からマギモデルを取り出して、バトルスタジアムに設置する。

 さぁ、対戦開始だ!掛かって来なさい!



 楽しい!いや、凄く楽しい!

 操作するマギモデルの性能が完全に同一のため、純粋に反応と技量。そして読み合いの勝負になるのだが、これが非常に熱くなる!

 どれだけ反応できたとしてもマギモデルの動きに限界があるため、その点も考慮して動かさなければ、あっという間に敗北してしまうのだ。


 3対1と言う状況のため、ある意味では仕方がないのかもしれないが、20戦中3戦敗北してしまった。

 しかし、そのおかげでよりマギモデルの扱いを学べたような気がする。そしてそれはホーディ達も同じようだ。

 1戦目と20戦目ではお互いに見違えて動きが良くなっていた。


 〈流石は姫様です。10戦目を超えた辺りから、勝ち筋が見えなくなってきました〉

 〈3方向から攻めてるのに、踊るようにして躱されちゃうよ~!〉

 〈というか、先程の対戦では実際に踊っていなかったか?〉


 おお、ホーディは気付いてくれたようだ。

 人間達の舞踊には武踊と呼ばれる、踊りながら戦う術がある。とは言え、使い手は非常に少なく、使用される機会も限定されているようだが。

 神楽舞もマギモデルで実施できたのだから、武踊も実施できるのではないかと考えて15戦目を超えた辺りから試みていたのだ。


 「音楽を流していないからなかなかリズムが掴めなくて苦労したけど、何とかものにできたよ」

 〈おお!やはりそうか!人間と言うのは面白い戦い方をするものだな!〉

 〈ちっとも当たらなくなっちゃったのは悔しかったけど、すっごく綺麗だったね!〉


 多分、武踊は実戦で使用する技術ではなく、試合などで用いられる武術の一種ではないかと思う。つまるところ、見世物の武術だな。

 別に見世物であることを蔑むつもりは無い。この技術は、一種の芸術だと判断しているからだ。

 舞として完成していながら同時に戦闘も行う。その難易度が、どれだけ高いことか。


 ネフィアスナが舞を踊りながら絵画を完成させていたが、アレも神業と言えるほどの芸術なのだ。私は未だに真似できる気がしない。ああいった技術は、やはりセンスの問題なのだ。


 武踊に関しては戦闘も関与していたからこそものにできたが、アレは彼女が存命中に体得できる気がしない。

 もっと芸術に詳しくなれば体得できるようになるだろうか?


 それはそれとして、ウルミラが私の実施した武踊を綺麗と言ってくれたのはとても嬉しかった。

 そうだ。ドライドン帝国でルグナツァリオへの神楽舞を行った際に、他の五大神からも自分達の神楽舞を舞って欲しいと要望を受けていたな。

 なんだかんだで楽しい旅行になったし、彼等には世話にもなったから、この場で実施て見せよう。


 他の皆にも見て欲しいし、この場に集まってもらおう。



 マギモデルを用いた五大神への神楽舞は、非常に好評だった。家の皆だけでなく、神々にもだ。


 『ノア!凄かった!これだけで後100年は戦える!!』

 『一気に元気になっちゃった気分だねー!』

 『ガッハッハッハッハッ!今年は大漁にしてやろうかねぇ!』

 『とても、良いものを見せていただきました。後で何かお礼を差し上げますね?』


 この場は特に五大神の存在を隠す必要が無いので、彼等は思念ではなく普通に声を掛けてきている。

 家の皆にも普通に五大神の声が聞こえたため、かなり驚いていた。


 神楽舞の影響が非常に大きかったようで、ダンタラ達は非常に漲っている様子だ。

 ロマハが100年戦えると言っているが、何と戦うつもりなのだろうか?まぁ、喜んでくれているから、別にいいか。


 『あの、ノア?私の神楽舞は?』

 『ルグナツァリオのは向こうでやっただろう?影響力が非常に大きいみたいだし、回数は揃えた方が良いと思うよ?』

 『そんなー』


 なんて情けない声を出しているんだ。それでも神と崇められている存在か。


 『そうは言うがね、あの場所で貴女の神楽舞を見ていた者とこの場で見ていた者にはあまりにも大きな差があるだろう?私が受け取った信仰心やエネルギー量と今他の同僚達が受け取った信仰心やエネルギー量には、雲泥の差があるよ?』


 それでもだ。

 この場でルグナツァリオへの神楽舞を行いでもしたら、それこそ膨大な量の信仰心とエネルギーが彼に送られてしまう。

 なにせ、この場にいる皆がルグナツァリオの寵愛持ちだからな。どれほどの影響が出るか分かった物ではないのだ。


 だからそう気を落とさない。自分の軽率さが原因なのだ。潔く諦めなさい。


 それはそうと、マギバトルと神楽舞に夢中になっていてすっかりラフマンデーの相手をしてあげられなかったことを詫びておかなければ。

 この子だってこの広場で暮らす仲間であり身内なのだから、蔑ろにするなど論外なのである。


 〈主様にこうして気に掛けていただけるだけで、妾は、妾はあああ!!!〉


 いつも通りの反応で少し安心した。今回彼女に渡すのは勿論、竜酔樹の実だ。彼女は快く竜酔樹の育成を引き受けてくれたので、この広場で竜酔樹の実が採取できるようになれることを楽しみにしておこう。


 そしてラフマンデーからいつものように最も出来の良いハチミツを受け取った。

 今回献上してくれた分で私の『収納』にも結構な量の最上位ハチミツが溜まってきたことだし、そろそろこの最上位ハチミツを使用して加工品でも作ろうかと考えている。

 やはり、最初は飴玉が良いだろうか?気軽に味わえるし、何より長持ちだ。ルイーゼへのお土産にもいいかもしれない。


 ああ、ラフマンデーにもヴィルガレッドやルイーゼが彼女のハチミツ酒を褒めていたと伝えておくのも忘れない。


 〈おおおおお…!妾が…妾が主様の御役に…!き…きき…ききき…きょえええええーーーーーっ!!!〉


 この光景も、流石に見慣れた。それ故、ラフマンデーがああして上空で飛び回ることに関しては、盛大に喜んでくれていると思い暖かい視線を送るに留めておこう。


 マギバトルと神楽舞を行っていたら、すっかりと昼食の時間になっていしまっていた。

 昼食のメニューは決めている。ラーメンである。


 折角皆の口の形状でも食べられる方法を編み出したのだ。


 存分に味わってもらうとしよう。

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