魔王国へ往く!!
第488話 新たな試み
風呂施設関係の書類を提出して役所を出れば、リガロウが期待を込めた視線を私に送りながら迎えてくれた。
この子には今日の予定を役所に入る前に伝えていたから、私が役所から出てきた時が家に帰る時だと理解しているのだ。
「いつでも帰れますよ!もう行きますか!?」
「そうしたいのは山々だけど、挨拶ぐらいはちゃんとしておこう」
何も伝えないままこの街を去ったら、シンシア達はがっかりするだろうからな。
引き留められることを承知で、あの子達に別れを告げてから帰るとしよう。
意外なことに、シンシア達からは別れを惜しまれるようなことはなかった。
少しだけ寂しさを感じたが、あの子達はまたそう遠くない内に再会できると考えているようだ。
ならば、その期待に応えないわけにはいかないだろう。あまり時間を空けずに会いにこよう。
リガロウに跨り空へと上昇していくと、その様子がイスティエスタ中で確認できたようだ。私に向けて別れの言葉を投げかける者達の気配が感じ取れた。
次にこの街を訪れた時には風呂施設も出来上がっているだろうし、今回会っていない知人にも顔を出しておくとしよう。
人間の観測魔術に感知されない高度まで上昇したら、角と翼を出して家で着る服に着替えよう。
準備ができたら転移魔術を使用して
「しばらく会えなくなるけれど、蜥蜴人達と仲良くね?」
「大丈夫です!あの者達はみんな良くしてくれますし、沢山話したいことがあるんです!」
問題は無さそうだ。むしろ久しぶりに蜥蜴人達に会えて嬉しそうにしている。
私も随分と我儘だな。シンシア達の時もそうだったが、別れを惜しまれることを危惧しているというのに、こうまであっさりと別れを納得されることに寂しさを覚えているのだから。
我ながら非常に面倒臭いことを考えていると思う。
次の旅行は、魔大陸に点在している"女神の剣"を潰すついでに残った未訪問の国を見て回る予定なのだが、時間をかけるつもりは無い。
そして、次の旅行までにあまり時間を空けるつもりもない。どれだけ遅くなっても、今から1ヶ月以内には行動に移ろうと思っている。
さて、私も家に帰るとしようか。
とは言え、家に帰る前にやることがある。
両手を広げ、近くで気配を消してこちらの様子を見ていたレイブランとヤタールに、私の元に来るように呼び掛けるのだ。
リガロウやヴァスター、それに蜥蜴人達もレイブランとヤタールの気配に気づいていなかったので、彼女達が私の両肩に止まったことにとても驚いている。
「今回も迎えに来てくれたんだね。ありがとう」
〈お礼はいらないわ!好きでやってることですもの!〉〈早くノア様に会いたかっただけなのよ!私達の特権なのよ!〉
レイブランとヤタールは私がイスティエスタから出発した時点で家から蜥蜴人達の集落に移動したらしい。
リガロウの上昇速度よりもこの娘達の飛行速度の方が圧倒的に速いということだ。
かなり得意気になっているし、私がドライドン帝国に旅行している間に新たな飛行方法を身に付けたのかもしれない。後で聞いてみよう。
「それじゃあリガロウ、また次の旅行でね?」
「はい!この地で修業をしながらその時をお待ちしております!」
別れの挨拶も済ませたことだし、転移魔術で家まで戻るとしよう。いつものことだが、久々に会う皆を沢山撫でてあげるのだ。
私が蜥蜴人達の集落に転移した時点で、家の皆も私が"楽園"に帰ってきたことを把握していたようだ。
私が転移魔術で帰ってくれば、オーカドリアも含めた全員が私の帰宅を歓迎してくれた。
と言うかオーカドリア。君、自力での浮遊ができるようになったのか…。
"
「いつの間にそんなことができるようになったの?」
「10日ぐらい前かな?自分で動けるって凄く便利だね」
オーカドリアはそれまで自分で動くという感覚が無かったみたいだから、今の状況をとても楽しんでいるようだ。
新しい体験を他にもできるように"魔導鎧機"の完成を急がないとな。
「ノア、お願いができたのだけど、聞いてくれる?」
「良いよ。新しい機能でもつけたくなった?」
「うん」
それはなかなか嬉しい話だ。どのような機能を付けて欲しいのだろう?もしかして、私が旅行へ行っている間にドリルの魅力に気付いてくれたか?
良いとも。それならば両手両肘両膝からドリルを発生させて見せよう。いや、全身がドリルに変形するのもカッコいいな?ならば、変形後のドリルの背部には、推進力を得るためにも噴射加速機能を付けるべきか?
良いぞ!アイデアが次々と溢れてくる!ココナナにも自慢できそうな"魔導鎧機"が完成しそうだ!
「ノア?ドリルは関係ないよ?」
「え…そうなの…?」
なんてこった…。オーカドリアが望むのは、ドリル関連ではないというのか…。
非常に残念ではあるが、それでも要望があるのなら、可能な限り応えよう。どういった機能を望むのだろうか?
「変身機能が追加で欲しい」
「?」
「人型以外にもホーディ達みたいな姿にもなってみたい」
ああ、そういうことか。
なかなか大変な要望を出してきたな。つまり、人にも獣にも虫にも変身できるようになりたいと?
「うん。ノアは、ホーディ達を良く撫でたりしてる。私にもやってみて欲しい」
…なんだろう。とても嬉しい。そうか。オーカドリアは私に撫でられたり抱きしめられたりして欲しいのか。これは何としてでも実現させなくてはな!
私としても色々な姿になったオーカドリアを可愛がりたい!
そうだな。それなら、家で暮らす皆だけでなくこの"楽園"に住まう者達の姿を模れるようにしてやりたい。
"魔導鎧機"の製作難易度が更に跳ね上がるし、そもそも完成した物が"魔導鎧機"と呼んで良いか分からないような代物になりそうではあるが、知的探求心を満たすためにもぜひ完成させて見せよう。
しかし、そうなると更にオーカドリアを待たせることになってしまうな。
折角に自分で動くことの楽しさを覚えてくれたのだし、このまま体を動かすことの素晴らしさも体験して欲しい。
あ、そうだ。コアを装着したら外せなくなるわけではないのだから、ひとまずは人型の"魔導鎧機"を製作してしまえばいいじゃないか!
うん、そうしよう!いきなりすべてを詰め込むのではなく、徐々に完成させていけばいいんだ!良く思いついた、私!
「ノア、何かいい方法を思いついた?」
「うん、まずは人型の"魔導鎧機"を完成させるよ。しばらくはその体を使用して欲しい」
「分かった。楽しみにしてる」
ああ、楽しみにしていてくれ。稼働にまったく不備の無い、そして余計な機能を付けないシンプルな物をまずは用意しよう。
さて、オーカドリアについての話はこれぐらいで良いだろう。他の皆とも会話をしないとな。
とは言え、今回はフレミーも予想していたことが、あまりお土産と言えるような物は手に入らなかった。
珍しいものと言えば、イネスから受け取った砕けたプリズマイトの欠片ぐらいなものである。
レイブランとヤタール、それからフレミーが喜びそうだから、ジェットルース城で生活している時に加工してみたのだが、他の子達にはコレと言ったお土産になる品が無かったりする。
〈なに、謝る必要などない。それよりも、
〈ヨームズオームに尋ねてみたのですが、おひいさまに聞いて欲しいと言われ、儂等は結果を知らぬのです〉
〈美味しいって言ってくれた?〉
そうか。この子達が誰かに自分が作った物を振る舞うのは、フレミーとラフマンデー以外では初めてになるのか。
それなら、映像付きでヴィルガレッドやルイーゼの反応を教えてあげよう。
『
「ルイーゼはあまり強い酒を飲めないから、オーカムヅミの酒にはいまいちな反応だったけど、ハチミツ酒はとても気に入ってくれたよ。ヴィルガレッドは見ての通りだね。凄い勢いで飲んでいるだろう?」
〈〈おお…!〉〉
自分達が作った品を喜んでもらえた様子を見て、フレミーは珍しくとても得意げな様子を見せている。そしてホーディとゴドファンスは何やら感銘を受けている。
〈これは…!不思議な気分だ…。フレミー〉
〈ん?なに?〉
〈何かを作り、それを喜んでもらえるというのは、至福な気分になるのだな…〉
〈フフン、でしょー?良い機会だし、貴方達もお酒以外に何か作ってみたら?〉
フレミーは酒以外にも私に服を用意してくれているからな。それに、家にある寝具も彼女の手によるものだ。自分の作った物が喜ばれることの喜びを、彼女は良く知っているのだ。
その喜びをもっと知ってもらいたいと思ったのか、ホーディとゴドファンスに創作を勧めている。
その勧めに対してすぐに反応を示したのは、ゴドファンスだった。
〈フッフッフッ…!そういうことならば、儂は既に活動を始めておるぞ?ちょうど会心の出来栄えの品ができたところじゃ〉
そう言ってゴドファンスが『収納』から複数の陶器を取り出した。艶があり、罅一つ無い見事な出来栄えだ。
それに、細かい模様が全体的に描きこまれているな。その色も良い。どうやら広場の花畑を参考にしているようだ。
この陶器をゴドファンスが作ったというのか。素晴らしいな!
「凄いね。手に取って見ても良い?」
〈勿論で御座います。どうぞ、お手に取って御鑑賞くださいませ〉
許可をもらえたことだし、並べられた陶器を一つ手に取ってじっくりと観察する。
…本当に、見事な完成度だ。会心の出来栄えと言っていたのも頷ける。これは、『
〈いえ、あの魔術は極めて便利ではあるのですが、薬液や塗料などの生成まではできませんでな。特に模様に関しましては、『
確かに。『我地也』によって生み出せるのは土や砂、石や金属と言った無機物だ。有機物の生成は不可能である。そしてこの陶器に用いられている塗料は、どうやら花畑の花、その花弁から色素を抽出して作った物のようだ。
しかも焼成もしっかりと行っているのだ。温度管理も完璧のようだな。
いや、本当に見事な完成度だ。見ていて飽きが来ない。本当によくやってくれた!
果たして、これらの陶器は譲ってくれるのだろうか?普段使いにするでもいいし、家や黒龍城に飾りもしたい。
そうだ!これだけの完成度ならきっとどこへ出したって恥ずかしくない!贔屓目に見ているかもしれないが、美術コンテストにだって出しても良いぐらいだ!
だったら、こういった品もルイーゼへのお土産になるんじゃないだろうか?
お揃いの器で食事をする私とルイーゼ…。うん、良いかもしれない。
「ゴドファンス、君はこの作品達をどうしたい?」
〈すべてはおひいさまに喜んでいただくために用意した品でございます。どうぞ、おひいさまが望むようにお使いくだされ…〉
こういった反応をされるのは分かってはいたが、しかし無償で提供されるとは…。こういう時こそ、何か褒美を渡すべきなのだろうな。
しかし、ゴドファンスが物理的に望む物って何かあるだろうか?
…やっぱり酒か?ああ、そう言えば私も酒に酔えるようになったんだったな。
それなら、今度ゴドファンスと一緒に酒でも飲むか。うん、そうしよう。
「ありがたく受け取らせてもらうよ。それはそれとして、ルイーゼにもこの器を送りたいから、同じ物を作ってもらうことってできる?」
〈な、なんたる栄誉…!お任せくだされ!おひいさまが使用する器と遜色無いものを製作してまいります!しばし失礼いたします!〉
凄い勢いで走り去ってしまったな…。だが、これでゴドファンスがより陶器の制作にのめり込んでくれるとなれば、家でも芸術作品が生み出されていくと言うことだ。
それはとても喜ばしいことである。
この調子で"楽園"中に芸術の文化が広まり、"楽園"独自の作品が増えたりしたら、非常に面白いことだろうな。
実に夢の広がる話である。今後もゴドファンスには頑張ってもらおう。
〈…我、酒以外に何が作れるだろうか…〉
さて、ゴドファンスが意気揚々とこの場を去ったことで、この場に残って丸くなって少しいじけてしまっているホーディを慰めてあげるとしよう。
無理をして何かを作る必要など無いのだと教えてあげるのだ。
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