第460話 夢での検証結果
検証その1。まずはキャロの紅茶の手腕からだな。
夢の中で最初に淹れてもらった時は一般人が自分用に飲める程度の味だったが、夢から覚ます時には喫茶店に出しても問題無い味になっていた。
現実ではどうなるだろうか?
検証したいところなのだが、キャロがベッドから起き上がる気配がない。
身体に問題があったのかと危惧したのだが、布団に包まれているキャロから感じられる気配は安心と快楽だ。
「んふひゅふふうぅ~…。最高級のベッド気持ちよすぎますぅ~…」
…おそらく、良質なベッドで眠れているこの状況が快適過ぎて、ベッドから出たくないのだろう。
可愛らしいとは思うが、それでは検証ができないのでキャロにはベッドから出てもらわなくては。
「キャロ、上手く紅茶を淹れられたらご褒美を用意すると言っただろう?アレは夢の中だけではないんだよ?」
「ふゅっ!?」
「今度は現実で私に紅茶を淹れてもらって良いかな?」
「か、畏まりましたぁっ!」
慌ててベッドから飛び出し、紅茶の準備を始め出す。やはりキャロを動かしたければ、甘いものを用意してやるのが良いのだろう。
慌ててはいたが、手際は良い。あの調子ならば問題無く夢で最後に味わった紅茶を楽しむ事ができそうだ。
「お待たせいたしましたぁ~」
「それじゃあ、いただくとしようか。ちなみに、どうだった?夢と同じ感覚で淹れられたかな?」
キャロからの返答を聞く前に、まずはカップを口元まで持って行き、紅茶の香りを楽しませてもらう。
濃すぎず、薄すぎず、いい塩梅だ。
口をつける前に、キャロから紅茶を実際に淹れた際の感想を聞かせてもらう。
「すっごく不思議な感じなんです!確かに夢の中でノア様にビシバシ教えられたのは間違いないんですけど、夢から覚めた時にはそんな辛い思い何て全然ありませんでした!でもでも!いざ紅茶を淹れてみたら、夢でやった通りにできちゃったんです!これって、すっごいことですよね!?」
うん。すっごいことだと思う。感想を聞いた後、カップに口を付けて実際に紅茶の味を確かめてみた。
…夢で最後に味わった紅茶と同じ味わいだ。美味い。
これは嬉しい結果だ。これならば夢の中での修業も問題無く行えそうだ。
「すっごいことだよ。キャロ、協力してくれてありがとう。とても助かったよ」
「いえいえ!わたしなんかがノア様のお役に立てたのならば光栄です!ところでぇ…えぇっとぉ…それでぇ…」
「分かっているとも。一緒に食べようか。貴女も自分用に紅茶を淹れると良い」
そう言って『収納』から夢でも食べさせたフルーツタルトを取り出すと、キャロは目を輝かせて喜び出した。
「ふわぁあああ!夢で見たフルーツタルトそのまんまですぅ~!」
手早く自分の分の紅茶を淹れ、キャロも席に着いた。場所は私のすぐ隣だ。
美味そうに食べるこの娘が可愛らしいと思えたからな。この娘の頭を撫でてあげたかったのだ。だから椅子もフルーツタルトも私の近くに用意した。
席に着く際、若干戸惑った様子を見せてはいたが、静かに頷くことで着席を促せば、この娘は素直に私の隣に座ってくれた。
「あはぁー…。食べるのがもったいないくらい綺麗ですぅー…!でも!食べちゃいますっ!」
「うん。沢山あるから遠慮せずに食べると言い」
その言葉を待っていたと言わんばかりにキャロは勢いよくフルーツタルトを頬張り始めた。
その直後にこの娘の表情がほころび、実に幸せそうな表情をしだす。
「~~~っ!!幸せです!最高です!美味しすぎますぅ~!」
「夢で味わったのと、どっちがいいかな?」
同じ物を提供したつもりではあるが、現実と夢では微妙に違いがあるかもしれない。その辺りも確認しようと思い、キャロの頭を撫でながら聞かせてもらった。
「ふみ゛ゅっ!?ふぁあああ…!ナデナデがあるからこっちの方が良いですぅ~…!」
しまった。幸せそうにフルーツタルトを頬張る姿に辛抱堪らず、感想を聞く前に頭を撫でてしまった。これでは正確な評価が得られない。こんなことならば夢の中でも頭を撫でておけばよかった。
しかし、キャロの頭部が魅惑的過ぎるのも悪いと思うのだ。
何を隠そう、彼女は猫の因子を持つ
皆はどう思う?
〈『や、どう思うって聞かれてもなぁ…』〉
〈『ノアちゃんはホンットモフモフが好きだなぁ…ってぐらいしか、感想が出てこないぜ?』〉
〈『ノアはよく頑張った!偉い!』〉
〈『いつぞやの時のように、私の頭を撫でてくれて良いのだよ?』〉
〈『いきなり撫でられたら今みたいに驚かれてしまいますから、なるべくなら一言断った方が良いと思いますよ?』〉
私の味方は、ロマハだけか。いやまぁ、否定されないだけまだいい方なのか?
ダンタラが至極尤もなことを注意してくれる。なるべくならそうしたいところだが、多分感情に任せてつい手が出てしまうから、毎回は無理だな。ルグナツァリオは無視。
「~~~♪」
頭を撫でられているキャロはとても幸せそうだ。彼女の耳の感触が心地よく、私も幸せである。
…とにかく、検証は想定通りの良い結果を得られたと考えて良いだろう。
では、次の検証結果だ。
目が覚めたフウカが『格納』を発動し、自分の格納空間を確認しているのだが、少々慌てている様子だ。
確認が終わり、格納空間を閉じると、彼女は落胆した様子で私に頭を下げだした。
「残念ながら、夢で製作した物は例え『格納』に収めたとしても、現実には持ち越せないようですね」
「いい出来栄えだっただけに、惜しい気持ちではあるね」
嬉しそうに完成品を見せてくれたフウカの表情はとても嬉しそうだったから、それが台無しになってしまったようで、申し訳なく思えてしまう。
しかし、フウカは特に気にしないようにするようだ。
「御心配なく。内容はすべて記憶しておりますので、夢で見せた作品、すべてそのままに再現してノア様にお渡しできるかと存じます」
「それは嬉しいね。期待しているよ」
流石はフウカだ。一度仕立てた作品をもう一度仕立てることなどまるで苦にならないようだ。
フウカに関しては心配する必要などまるでないだろう。検証も済んだことだし、幻を解除しておこう。
と、思ったのだが…流石に検証に付き合ってくれたことに対して、何も対価が無いのでは可哀想だ。
裁縫道具はリガロウのスカーフに対する対価だし、フウカが望むもので何かないだろうか?
多分、フウカに聞いても[夢の世界でご一緒できただけでも望外の報酬です]と言いかねない。
そうだ。イネスが私の抱擁と頭を撫でる行為に喜んでいたし、その情報はフウカから聞いたと言っていたな。
ならば、フウカにも同じことをしておこう。これで報酬になるかどうかは分からないが。
「フウカ、ちょっと立ってもらって良い?」
「?はい、どうなさいましたか?」
「ああ、うん、検証に付き合ってくれたお礼をね」
「っ!?」
立ち上がったフウカを優しく抱きしめ、頭を撫でる。
驚かれはしたが、喜んでくれてもいるようだ。密着しているから、感情が手に取るように分かるのだ。
しかし…ふむ。髪質がイネスと比べてやや硬いか?
イスティエスタには風呂の施設が無いから、髪を洗う機会が無いのだろう。
この場でフウカの髪を洗う…。いや駄目だ。恒常的に触り心地の良い頭髪でいてくれなければ意味がない。
良し。すぐにとはいかないが、今度フウカの店に尋ねさせてもらった時には、彼女の店兼家に風呂を用意させてもらうとしよう。ついでに洗料も渡しておこう。
フウカからは人間達と関わる際の衣服を数多く用意してもらっているのだ。今後も優遇していくとしよう。
さて、3つ目の検証だ。
レオンハルトを寝かせてから3時間。『安眠』と『快眠』の効果が解除され、レオンハルトが目覚めて体を起こす。
「おはよう。気分はどう?」
「…何というか、凄まじいですね。体の不調が改善されたと明確に分かるだけでなく、今なら姉上ともいい勝負ができそうです」
レオンハルトには悪いが、それは気のせいだ。
確かに、彼は夢の中でかなり技量を上達させたし、完全な『
だが、リナーシェといい勝負ができるほどかと言われれば、それは首を横に振らざるを得ない。
現在のレオンハルトの強さは、ジェルドスとならばいい勝負ができるぐらいの強さだろう。人間から見ればそれでも十分すぎるほどの強さだとは思うが。
「それじゃあ、現実でもちゃんと『猛獣の咆哮』が使用できるかどうか、確かめてみようか」
「そうしたいのは山々ですが、今から外へ移動するのですか?帝国側は私に部屋で待機して欲しいようですが…」
今もまだ、厳戒態勢が解かれていない。怪盗の手がかりが一切ないのだから、それは仕方がない。
そしてそのせいでレオンハルトやクリストファーも部屋から出ることを制限されているのだ。
だが、何の心配もする必要はない。
「移動する必要はないよ。すべてはこの部屋で事足りるから」
「それは一体…」
説明するよりも実際に体験してもらった方が速いだろう。
『
これだけの広さがあれば『猛獣の咆哮』の検証も十分に行えるだろう。
「この空間は…」
「ちょっとした魔術さ。部屋の空間を拡張してね。これだけの広さがあれば十分に検証できるだろう?」
そう言いながら、少しだけレオンハルトから距離を取り、3体の魔物を召喚する。
何をするべきなのか、彼も理解したようだ。
「なるほど、確かに。しかし、ノア殿に稽古や修業を付けてもらえる者は私含めて幸運ですね。貴女の力無しでは、こんな修業などできないでしょう」
ヴィルガレッドなら問題無くできそうだし、なんならルイーゼもやろうと思えばできそうなのだが、彼女が誰かに修業を付ける姿が想像できないからなぁ…。
ただ、彼女もいずれは後継者に指導をする時が来るだろうし、その時のためにも今回の修業法を教えておくのもいいかもしれないな。
召喚した魔物達が動く前にレオンハルトが行動を開始する。大きく息を吸い込み、魔力を収束させて雄たけびを上げたのだ。
結果、魔物達は動く間もなく肉体組織が破壊され、あっという間に戦闘は終了する。
「問題無く使用できたみたいだね。どう?夢で行った時と違いは感じられた?」
「いいえ、正に夢で培った経験がそのまま現実で反映されていますね。断言しますが、私は今後『猛獣の咆哮』を失敗することはないでしょう」
[嫌と言うほど失敗しましたからね]とやや遠い目をしながら語っていたので、夢の中での修業はやや過酷だったのかもしれない。
とにかく、これで検証は終了だ。
結果は上々。これならば問題無くジョージをジェルドスに勝たせてやれるだろう。
そのジェルドスも、予想通りアインモンドがエリクシャーを使用するよう指示を出していたので、私が与えた怪我は問題無く完治している。
ただ、少し強く叩きすぎてしまったようだ。地面に激突した衝撃で、多少の記憶障害が発生している。
具体的には、私に会いに来たことを忘れているのだ。
再び私の元に訪れようとしたのだが、そこはアインモンドが必死に止めた。
怪盗が現れたことに加え決闘の日が近いこともあり、最終準備をするとのことで、連れて行きたい場所があると言ってジェルドスを私の元へと行かせないようにしたのだ。
実際にアインモンドはジェルドスを何処かこの城ではない場所へと連れて行くようだ。最終準備と言う言葉に偽りはなかったようだし、碌でも無いことをするのかもしれない。
アインモンドがジェルドスを連れて行く場所は…。
なるほど。これ以上ジェルドスを好きにさせるつもりは無いようだ。積み重なるストレスで我慢の限界が訪れたのだろう。
都合がいいと言えばいいのだが、修業の内容を少し厳しくする必要ができたな。
それに、今のジョージの刀では少々役が不足してしまうことになる。
「あーーーーーっ!!?お、折れたぁーーーーーっ!!!」
「ん?折っちゃまずかったか?」
リガロウがジョージの刀を鰭剣で弾いた際に、彼の刀が綺麗に折れてしまったのだ。
これもまた、都合がいい。
ジョージには新しい、より強力な刀を用意してあげよう。
忘れてしまうかもしれないが、この場所は大魔境・"ドラゴンズホール"。強力な素材など山ほどあるのだ。
どうせだから国宝級の刀を打ってやろうじゃないか。
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