第445話 近衛騎士団、壊滅!
場所は変わってジェットルース城の発着場。
アインモンドは私が力を振るうこと自体を避けたかったようだが、近衛達にその気はない。
挑発にすらなっていない煽りで激高し、瞬く間に私と戦う流れとなったのである。
このような事態になったのは、この国の人間、とりわけ上流階級の者達の自尊心の高さによるものだ。
元から彼等の自尊心は高かったが、アインモンドがこの国の実権を握ってからというもの、今まで以上に自尊心が高くなっている。
そうなるようにアインモンドがこの国の舵取りを行ったからだ。
つまるところ、この状況は近衛達とアインモンドの自業自得と言うわけだ。
私達が発着場に現れると、待機していたハドレッド達が何事かと尋ねてきた。
「ノ、ノア殿!これは一体…!?なぜほぼすべての近衛がこの場に…!?今から何が始まるというのですか!?」
「なに、彼等に少し稽古をつけることになってね。手っ取り早く広い場所を使うために、この場所を借りに来たんだ」
「は?稽古…?この場所で…?近衛達が…?」
「そう。私と」
私の返事を聞くと、ハドレッドが正気を疑う目で近衛達を見据えている。
彼等の目には闘志が満ちており、その本気度が窺えることだろう。
どうやら近衛達よりもハドレッドの方が私の実力を把握していたようだ。
私からしたらハドレッドも近衛達も変わらないと思っていたのだが、少し評価を改める必要があるな。
これからこの場所で戦闘行為を行うことに変わりはないので、場所を開けてもらうとしよう。
整列して待機していたワイバーン達に関しては、私が少し声を掛ければ素直に従ってくれそうだ。早速どいてもらおう。
「この場所を使いたいから、場所を開けてもらえる?」
「グワキャッ!」「ギャキャッ!」「ギャウッ!」
「え…?は?」
竜騎士達には少し悪いことをしてしまったか?
彼等は自分の騎竜と十分な信頼関係を気付いているだろうからな。自分の指示と関係なく行動を開始したワイバーン達に困惑している。
「ありがとう。それと済まなかったね。場所を開けてもらうには、私が声を掛けた方が早かったから」
「あ!い、いえ!お、お見事でした!」
勝手に騎竜を動かしたことに謝罪をすれば、ハドレッドは素直に謝罪を受け入れてくれた。
失礼な態度を取るところもあるが、それは彼の身分からすれば当然の振る舞いなのだろうな。
ディアスとは少しそりが合わなそうではあるが、更生の余地はありそうだ。
十分な広さを確保できたので、発着場の中央に移動する。どこからでも掛かってくるといい。
そう思い近衛達の様子を伺ったのだが、彼等は5人一組となって私の前に出て武器を構え始めた。
これはつまり?
「なんのつもり?」
「強さに余程の自信があるようだからな。多人数で挑もうが問題あるまい?」
本気で言っているのだろうか?
彼等は、5人もいれば私に勝てるとでも?さっきのやり取りを直接目にしておきながら?
頭が痛くなってくる話だが、目の前にいる近衛達は本気のようだ。ディアスは勿論、ハドレッドすら近衛達を驚愕した目で見ている。
大きくため息を吐き、この場にいる全員に聞こえるように声を出す。
「馬鹿を言うな。たった5人で何ができる。全員で掛かって来なさい。魔術は使用しないでやろう」
「な…っ!?」
「おのれぇ…!どこまで我等を愚弄するつもりだ!我等は栄えある皇帝陛下直属の近衛騎士団だぞ!?」
だから何だと言うのだ。そもそも近衛達は自分達の強さを客観的に見たことがあるのだろうか?目の前いる5人は多分ディアスだけでも蹴散らせるぞ?…流石に、ハドレッドでは勝てないが。
「肩書だけで強くなれるのなら苦労はしない。良いから掛かって来なさい。それとも、こっちから行こうか?」
「後悔するなよ!!」
「我等を愚弄した罪、その身で償うがいい!!」
「「「「「うおおおおお!!!」」」」」
と言うわけでこの場にいる近衛達全員が私に駆け出してきた。
建前としては稽古と言う形だからな。一撃ぐらいは打たせよう。
30人近い人間が一斉に私に向かって来たので、連携もへったくれも無い。
バラバラに振り下ろされ、突き出される武器はを最小限の動きで回避し、攻撃を行った者から順番に拳や足で打撃を加えていく。
「ぐほぅっ!」「あがっ!?」「ふぎぃっ!!」
「怯むな!囲めぇっ!!奴に休む時間を与えるなぁっ!!」
「「「「「おおおおおーーーっ!!!」」」」」
相も変わらずバラバラに攻撃をしてくるので、一人ずつ確実に打ちのめしていく。
近衛達の長、この場合は近衛騎士団長か?彼は私の体力が尽きるのを狙っているようだが、そんな時は訪れない。その前に近衛達の体力が尽きるだろう。
そもそもの話、全員の体力が尽きる前に終わってしまうのだが。
5分もしない内に決着はついた。
近衛騎士団長を含めた近衛全員が、痛みによってその場でのたうち回っている。
「あ…あがぁ…!」
そんな近衛騎士団長なのだが、実を言うと最後の最後まで後方を指示を出すだけで一切攻撃を行ってこなかった。どうやらコネで今の地位に就いたらしい。その強さも武具や魔術具頼りだ。
おそらく、最初に私が壁にめり込ませた近衛が団長代理を務めていたのだろう。実質的な団長だったとも言える。なまじ優秀だったのが原因で、いち早く行動してしまったのだ。
あの時、私が団長代理を壁にめり込ませていなかった場合、団長代理に続いて他の近衛達も一斉に構えを取っていただろうな。
だが、そうなる前に異常事態が起きたため、不満がありながらも構えを取ることを躊躇ったのである。
未だ地面をのたうち回っている騎士団長を見下ろし、指導をしておく。一応、稽古を建前にしているからな。
「後方から指揮を執るのは別に構わないが、それにしても統率が取れていないにもほどがある。騎士団を名乗るのなら連携の「れ」の字ぐらいは理解しておきなさい」
「う…ぐ…!」
痛みで耳に入っていないかもしれないが、構わず続ける。私も聞き入れるとは思っていない。あくまでも指導は形だけだ。
「お前達は全体的に装備の力に頼り過ぎだ。この国の国主を守る立場ならば、訓練を怠るな」
魔力や肉体強度だけでは、やはり強さの判断しきれないな。
確かに近衛達の魔力量や身体能力は大騎士相当だったはずなのだが、それにしてはあまりにも動きがお粗末すぎた。
指揮の問題以前の話だ。例え統率が取れていたところで烏合の衆ではどうにもならない相手がいるのだ。
そして皇帝と言う国の重要人物を守護する立場がそれでは、肝心な時に役に立ちそうにない。
謁見の時から薄々感じてはいたが、この連中、形だけの集団だな?この国を想うのなら、一度解体して再組織した方が良さそうだな。
アインモンド含めこの国の"女神の剣"を始末したら検討しておくとしよう。
私がそこまでやる義理は無いかもしれないが、私はこの国のスラムをどうにかすると決めたのだ。そのためには、この国の平和をしっかりと維持してもらわなければならないのだ。要請ぐらいは出しても良いだろう。
10分間ほど説教じみた指導をした後、近衛達を治癒魔術によって回復させる。
この場にこの連中を何時までも地面にのたうち回らせていたらワイバーン達の迷惑になるからな。この連中にはさっさと持ち場に戻ってもらうとしよう。
そう思っていたのだが、近衛騎士団長が起き上がると、おもむろに顔を歪めながら私に向けて人差し指をさして文句を言って来た。
「お…おのれ卑怯な!よくも我等をコケにしてくれたなぁ!!」
「…何をもって卑怯と言いたいのか、説明してくれる?」
流石に今の発言にはハドレッドも呆れかえっているようだ。完全に憐れむような視線を近衛騎士団長に送っている。
竜騎士団と近衛騎士団は、不仲なのだろうか?
まぁ、それはそうと、私の質問に対して近衛騎士団長は随分と突拍子もないことを語り出した。
「とぼけるな!幻術で我等に幻覚を見せていたのだろうが!!」
「…なんで、そんな結論に至った?」
「我々がこうして無傷で立ち上がっているのが動かぬ証拠よ!!」
…治癒魔術、掛けてやらない方がよかったかもしれない。まさか、こうまでして相手の強さを認めようとしないとは…。
なるほど、人間の中にはこういったタイプもいるのだな。
ああ、リガロウが近衛騎士団長の言葉にかなり腹を立てている。だが、それ以上に呆れ果ててしまい怒るどころではなくなっているようだ。
先程以上に大きなため息が出る。
一応、確認は取っておくか。
入り口近くに待機しているアインモンドの元まで一足飛びで移動し、声を掛ける。
「アインモンド、一時的に近衛騎士団を使い物にならなくするが、構わないな?なんなら、それが決闘の立ち合いに対する対価でも構わない」
「…どうぞ、お好きなように。では、稽古が終わりましたら再度謁見の間にお越しください。決闘の詳細をお話いたします」
許可は取った。もう遠慮をする必要はないだろう。
アインモンドが立ち去ったのを確認した後、極少量魔力を解放させる。勿論、私の感覚での極少量だ。具体的に言えば、エネミネアの総魔力の2倍ほどの魔力だ。
「え…?」
形だけとは言え、流石に相手の魔力を知覚することぐらいは近衛騎士団長にもできたようだ。他の近衛達と共にたじろいでいる。
そのつもりで魔力を解放したから近衛騎士団達の反応は想定通りなのだが、当然この場にいる全員が私の魔力を感じ取ることになった。
その結果、ワイバーン達は一斉に平伏し出したし、竜騎士団達も戦慄している。
現在この場で平然としているのは、私の力に恐れている者達を見て留飲を下げているリガロウだけである。
「遠慮をする必要がないそうだから、稽古を再開しようか。だが、ここから先は厳しくいくぞ?覚悟しろ」
ここから先は相手の攻撃を待つつもりは無い。此方から全員一方的に叩きのめす。
叩きのめした後は10分後に治癒魔術によって全快にさせる。それを10回ほど繰り返えさせてもらった。
ティゼミアに初めて訪れた際に行った、拷問まがいの稽古をより非道くしたものだ。
なにせ、相手に何もさせずに叩きのめしているからな。
10回目の治療を受け、既に無傷の状態で満身創痍となっている近衛騎士団長に対して早く立ち上がるよう催促する。
「どうした。さっさと立て。今のお前達は無傷だぞ?幻覚なんだから平気だろう?」
「ひっ…!や、やめ…!」
「お前の態度には、流石の私もかなり苛立たせられたよ。その鬱憤を晴らさせてもらう」
近衛騎士団達は治療しているので無傷の状態ではあるが、既に彼等の鎧はすべてボロボロになっている。今の彼等を見ても騎士とは思われないだろう。
こうなってしまえば、流石の近衛騎士団長もいい加減、意地や見栄を張ることなど出来ない筈だ。
気を遣ってやる理由はすでにないので、最後にもう一度全員を叩きのめした。
そしてもう治療はしない。この連中には、誰の不興を買ったのか、しっかりと覚えてもらう。
こういった者達は、情けを掛ければ掛けた分だけつけあがるからな。
近衛騎士団を全員叩きのめした後、彼等の後始末をハドレッドに頼む。
やったことがやったことなので、竜騎士団達も顔を青くしている。
「ハドレッド、悪いけれど、この連中を医務室に運んでやってもらっていいかな?アインモンドからはしばらく使い物にならなくして良いと許可は取っているんでね」
「は、ははぁっ!!お、お前達!急いで近衛騎士団を医務室まで搬送するぞ!」
「「「了解っ!」」」
「急げよ!ノア様を煩わせるな!」
ハドレッドの私に対する印象が変わったようだ。呼び方が[殿]付けから[様]付けに変わっている。近衛騎士団達の様にはなりたくないのだろう。
この国最強の戦力と言われるだけあって、指示を受けた竜騎士団達の動きはかなり機敏だ。日頃から様々な訓練をしている結果なのだろう。近衛騎士団達も見習ってもらいたいものだ。
まぁ、全てが終わったら皇帝に一度解体させるつもりだが。
開放している魔力を抑え、すっかりと閑散としてしまった発着場を後にする。
ワイバーン達も怯え切ってしまっている。このままでは竜騎士団が機能しない。
使い物にならなくさせるのは近衛騎士団達だけなので、あの子達のフォローはリガロウとヴァスターに頼むとしよう。
「リガロウ、ヴァスター、頼める?」
「はい!お任せください!姫様、すっごくカッコ良かったです!」
〈流石にあの連中も身の程を知ったことでしょう。これでこの城の人間達がいと尊き姫君様に対して不遜な態度を取らなくなればよいのですが…〉
そうなってくれると、私としても助かる。ただ、間違いなく恐れられるようにはなっただろう。その分、新たな顰蹙を買うことになりそうではあるが。
それは承知の上で行ったことだ。素直に受け入れよう。
再び謁見の間まで移動して、アインモンドと顔を合わせる。今回は玉座にジョスターの姿はないし、アインモンドも私と同じ高さの場所にいる。
ついでに言うのであれば、私が壁にめり込ませた近衛もいなくなっている。片付けられたのだろう。
「近衛騎士団は、どうなりましたか?」
「彼等なら漏れなく医務室で治療を受けているよ。それと、悪いとは思うけど、彼等の装備も軒並み破壊させてもらった」
「……使い物にならなくさせる。それを了承したのは、他ならぬこの私です。ノア殿を責めるつもりはありませんよ」
アインモンドはそう語るが、今の沈黙からして装備まで徹底的に破壊されるとは思っていなかったのだろうな。
少しの静寂の後、気まずくなったのか違う話題、ではなく本題に入るのだろう。いそいそと丸められた羊皮紙を取り出した。
「話を変えましょうか。此方が、決闘の詳細となります。此方の内容は既に後継者候補の方々にも目を通していただいております」
「確認するよ」
思った通り、羊皮紙に記載されていたのは決闘のルールについてだった。
それにしても、このルールではあってないようなものだな。
どうあっても、アインモンドはジェルドスを勝たせたいらしい。
ならば、私はその計画を叩き潰させてもらうとしよう。
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