第434話 強者再集結!!

 リガロウの移動速度ならば、チバチェンシィからサーディワンまでの移動時間も大したものではない。

 もうすぐルイーゼに会えると思うと、自然と顔がにやけてしまう。

 そんな私の感情が、リガロウだけでなくヴァスターにも理解できたようだ。


 「姫様、なんだか嬉しそうですね?何かいいことでもあったんですか?」

 「うん、今日は大切な友達に会える日なんだ。宿の宿泊手続きをしたら会いに行く予定でね」

 「?この国に来るの、初めてなんですよね?」


 こちらを見ながら首をかしげてリガロウが訊ねてくる。その動作が可愛らしいので、頭を撫でながら答えるとしよう。


 「この国にいるわけじゃないんだ。これから訪れる街の近くに、別の親しい者がいるんだけど、彼に会いに行くついでに、その友達も誘って行くんだ」

 〈いと尊き姫君様、よもやその親しい方々とは…〉


 ヴァスターは長い年月を生きているからな。ヴィルガレッドのこともルイーゼのことも知っているのだろう。

 それならば、リガロウに彼等のことを詳しく教えておいてもらおう。


 「うん、ヴィルガレッドとルイーゼ。と言ってもリガロウには分からないだろうから、その辺りはヴァスターが教えてあげてくれる?」

 〈おお…!やはりその御二方でしたか!お任せください!このヴァスター、リガロウに私の知るお二方の知識を全て教える所存です〉

 「ひょっとしなくても、もの凄い方々…?」


 できればこの子にもルイーゼやヴィルガレッドに会わせてあげて自慢したいけれど、ルイーゼをこの国に連れてきたらそれはそれで大騒ぎになるし、この子をヴィルガレッドの元に連れて行ったら確実に倒れてしまうからな。今はまだ我慢だ。



 サーディワンに到着し、リガロウを騎獣預り所に連れて行けば、これまでと同じような反応をされた。おそらく、今回も大量の竜酔樹の実をこの子の食事に提供されるのだろう。

 蜥蜴人リザードマン達への良いお土産兼、この子が彼等の集落で生活する際の良いオヤツが手に入るから、ドンドン提供してくれ。



 リガロウに大量の料理を渡して預り所を離れたら、次は宿の宿泊手続きだ。

 ヴィルガレッドの住処に顔を出すと言っても1日中そこにいるわけではないし、何よりこの街に訪れているというのに姿が確認できないとなっては、不審がられてしまうからな。

 今回は日没の時間あたりまで"ドラゴンズホール"に行って来る、という体で街から離れようと思っている。


 宿泊手続きを済ませたら、早速ルイーゼが待機しているであろう魔王城上空へ転移したいところだが、生憎とまだ準備ができていないようだ。

 準備ができたら向こうから『通話』で連絡を入れてくれるらしいので、彼女から連絡が来るまでは冒険者ギルドで依頼を探して時間を潰そう。少なくとも、図書館からの本の複製依頼は発注されている筈だ。


 手早く図書館からの依頼を終わらせてギルドで報酬を受け取ったところで、ついにルイーゼから連絡が来た。

 魔王城上空で待機しているらしいので、いつでも来ていいと伝えられた。


 いつでもいいと言っていたが、待たせるつもりなど毛頭ない。

 サーディワンの住民達から怪しまれないように、宿泊手続きをした宿の部屋に移動してから魔王城上空に転移しよう。



 ルイーゼの前方、5mほどの位置に転移すれば、久しぶりに見る以前と変わらない姿の親友の姿が目に入る。

 こうなっては居ても立っても居られない!転移した瞬間に発生させた魔力板を蹴ってルイーゼに飛び掛かり、彼女を優しく抱きしめる!


 「ルイーゼ!」

 「えちょ、わっ!?こら!いきなり抱きつかないの!」


 ああ、ルイーゼだ。

 去年の亀の月に別れて以来、それっきりだったルイーゼだ。

 とても懐かしく感じるし、相変わらず抱き心地が良くて良い匂いだ。しばらくこのままでいさせてもらえないだろうか?


 「…もう…!ホンット、アンタは寂しがり屋で甘えたがりなんだから…。久しぶりね、ノア」


 っ!?!?!お…おおおおおおっ!!?!?


 仕方がない、と言った様子で苦笑しながら、ルイーゼが私を優しく抱き返してくれた!

 それだけじゃない!優しく私の頭を撫でてくれたのだ!その瞬間、頭からつま先に向かって全身がえも言われぬような多幸感に満たされた!


 親しい者に頭を撫でてもらうというのは、こうも幸せな感覚なのか!?

 愛しい者やモフモフした者を撫でるのとは、まったく違う感覚だ!アレはアレで気持ちが良いのは間違いないが、ルイーゼの私を想う感情が、強く伝わって来るのだ!


 どうしよう、嬉しさで胸がいっぱいだ。

 以前、私は誰にも頭を撫でられた経験がないから、ルイーゼに撫でてもらえたら…と考えていたことがあった。だから、今回酒の席で頭を撫でてもらえないか頼むつもりだったのだ!

 それがまさか、彼女の方から頼んでもいないのに自ら進んで撫でてくれるとは…!


 感極まって抱きしめる腕に力が入ってしまいそうになるが、必死に堪える。

 そんなことをしてルイーゼに怒られてこれ以上撫でてもらえなくなってしまったら、それこそ耐えられそうにない。


 そうだ。こんな時ではあるが、今は姿を偽る必要はないのだから、偽装は解除しておこう。


 偽装を解除して背中から翼を、額から角を出した瞬間、全身を満たしていた多幸感が急速に失われていった。


 あああああ!しまったあああああ!!!


 頭を撫でている途中で角が生えてきたから、きっと撫で辛くなってしまったんだ!ルイーゼが頭を撫でる手を止めてしまったのだ!

 なんてこった!角を出すのはもっと後にすればよかった!


 「さ、そろそろヴィルガレッド様の所へ行きましょうか。ああ、その前にヨームズオームを回収してく?」


 そして、丁度良いと言わんばかりに移動を催促されてしまった。

 うう…っ。私としては、もっと頭を撫でて欲しかったのだが…。


 仕方がない。自分から頭を撫で辛くさせてしまったのだ。質問に答えるとともにヴィルガレッドの住処に移動しよう。


 「ヨームズオームなら、転移魔術を覚えたからね。自分でヴィルガレッドに会いに行ったよ」

 「うっそでしょ…?私まだ習得できてないのよ…?」

 「良ければ、この機会に教えようか?」


 私を抱きしめるルイーゼの腕の力が抜けて行くのを感じ取り、私もルイーゼの身体から離れる。抱きしめすぎると、後で文句を言われそうだからだ。

 代わりに、彼女から貰ったぬいぐるみを『収納』から取り出して抱きしめておくとしよう。


 ルイーゼも私と別れてから自力で転移魔術を習得しようとしていたらしい。

 一応、ヴィルガレッドの住処から"黒龍城"へ、"黒龍城"から魔王城上空へ移動する際に魔術構築陣を目にしてはいるので、できない事ではなかったのかもしれない。


 しかし、現状はまだ習得には至っていないようだ。まぁ、ヨームズオームも私が教えたから短時間で転移魔術を習得したのであって、あの子が独力で習得しようとしたらもっと時間が掛かっていただろう。

 こうして再開したのだし、彼女が望むのなら教えることも辞さないつもりなのだが、彼女は私から教えを請うつもりは無いようだ。


 「前にも言ったけど、魔王を舐めないでよね?絶対に自力で習得して見せるんだから!」

 「分かったよ。それじゃあ、そろそろ行こうか」


 ヴィルガレッドに『通話』で連絡を入れてから彼の住処に転移しよう。



 ヴィルガレッドの住処に転移して私達が目にしたのは、鈍く黄金に輝く鱗に覆われ、2対の翼を持った山にも等しいほどの巨躯を誇るドラゴンだ。

 この黄金の超巨大ドラゴンこそ、世界中のドラゴンの頂点に立つ(私を除く)竜帝カイザードラゴン、ヴィルガレッドである。彼に会うのも、随分と久しぶりの気がする。

 良く見れば、そんな超巨大なドラゴンが小さく蹲るように屈み込み、体長4mほどの可愛らしい蛇、ヨームズオームと向かい合っている。

 何も知らない者からしてみれば、何とも不可思議な光景だろう。


 「来たよ、ヴィルガレッド。こうして会うのは久しぶりだね」

 ―う~んとねぇ…こう!はい!次はヴィルおじちゃんの番だよ!―

 「ほほう!なかなか良い手を打つではないか!では、余はこう動かさせてもらおうか!」


 どうやら2体はチャトゥーガで対局しているようだ。私達のことは認識出来てはいるが、後回しなのだろう。折角こうして会いに来たというのに、随分と粗雑に扱われたものだ。

 まぁ、ヴィルガレッドだからな。ヨームズオームと遊べているのが嬉しくて仕方がないのだろう。


 ―あ!ノアとルイーゼだー!先に遊んでるよー!―


 ヨームズオームが私達に気付いて声を掛けてくれた。

 やっぱりこの子は気遣いの出来る良い子だな。どこぞの竜帝も見習ってもらいたいものだ。そうは思わないか?ヴィルガレッド。


 「ん?おお、来よったか。そなた等が楽になれる物を用意したでな。しばしそこで寛いでおるが良い。余は今忙しいのだ」

 「…そうさせてもらうよ」

 「お、お邪魔しまぁ~す」


 それでも歓迎する用意はしていたらしい。人間に適したサイズの上質な横長のソファーが用意されていた。

 長さは2m近くあるので、横になることもできるだろう。

 このソファー、ただのソファーではないな。座っているどころか触れているだけでも体力や傷、魔力までもが回復していく効果が付与されている。

 その回復効果がどのぐらいなのかと言えば、エリクシャー級だ。人間達の感覚で言えば、間違いなく国宝に指定されるような品だ。


 用意してくれたのはソファーだけではない。ソファーの傍には机が設置されていて、図書館でも見たことのない果物が置かれていたのである。

 この机もやはりただの机ではないな。この机に置かれた物は、一切の劣化をしないらしい。それどころか、置くだけで鮮度が復活していく効果があるようだ。

 時間逆行の効果が仕組まれているようだ。まぁ、制限無く逆行させるわけではなく、最も食べごろな状態を維持する程度に留めているようだが。


 信じがたいことに、机には自動補充機能まで備わっているな。

 それも、『収納』から自動で取り出すのではなく、机に設置された物と同じ物を机が複製して設置するのだ。

 要するに、この机があれば、魔力がある限り食料が尽きないのだ。人間達が知ったら争いの火種になる未来が容易に想像できる。


 果物は、ヴィルガレッドの住処の近くで取れたものなのだろうか?みずみずしく艶があり、何とも美味そうである。

 しかし、以前私が"ドラゴンズホール"を調べた時には目の前にある様々な果物を認識することはできなかった。別の場所で手に入れた物なのだろうか?


 「はぁ~…。流石はヴィルガレッド様だわ…。すんごい歓迎ぶりねぇ…」

 「ソファーや机はともかく、果物についてもルイーゼは何か知ってるの?」


 私の疑問の答えは、ルイーゼが知っているようだ。目の前の果実も、オーカムヅミのような滅多に食べられない果物なのだろうか?


 「そうね、ここに並べられてるのは、どれも他大陸の果物よ。しかも、魔境の奥地にあるような人間達も滅多に食べられないヤツね。オーカムヅミには負けるけど、例えばコレ」


 そう言ってブドウに似た果物を人房摘まみ取り、その中の一粒を指して語る。


 「[一粒食べるだけで10年は寿命が延びる]、何て言われてて、この一粒だけでも金貨100枚はするわよ?」

 「ソレ、実際に10年寿命が延びるの?」

 「延びるわけないじゃない。迷信よ。でもまぁ、この果汁を使えば劣化エリクシャーレベルの回復効果が得られる薬が、簡単に作れるわよ?他の果物も、同じ効果ってわけじゃないけど、同等の価値があると言っていいわね」


 それはそれで、とんでもない果実だな。

 そう言えば、フレミー達がオーカムヅミを酒にしていたが、仮にアレを製薬に利用した場合、どのような効果が得られるのだろう?


 「食べたら人間が進化する可能性まであるような果実なのよ?分かる訳ないじゃない。って言うか、アレでお酒作ったの?」

 「私が旅行に行ってる間に、酒好きな子達がね」

 「ノアよ!その酒は今そなたの収納空間に入っているのか!?」


 酒という単語を耳にした途端、ヴィルガレッドが会話に混ざってきた。彼もフレミーに負けず劣らず酒好きのようだ。


 「勿論あるよ。それ以外の酒も用意してるから、楽しみにしておくと良いよ」

 ―あのねー、2種類のお酒作ったんだよー。すっごく美味し~のー!―

 「ほう!すっごく美味しいのか!そうかそうか、それは楽しみだのぅ!クァーッカッカッカ!!」


 相変わらずの親?馬鹿っぷりである。尤も、私がヨームズオームやリガロウを可愛がる時もあんな感じになると思われるので、あまり強く言えないのだが。


 「2種類?ねぇ、ノア。あの子今、2種類って言ったわよね?オーカムヅミ以外のお酒も造ったの!?それって、つまり原料は甘い物ってことよね!?」


 ルイーゼがヨームズオームの2種類という言葉に反応したようだ。オーカムヅミ以外の酒の原料を知りたいのだろう。


 では、私の可愛い配下が作った、自慢の一品を見せてあげよう。"楽園"外で初公開だ。存分に驚いてくれ。 


 「実はね、私がファングダムから帰ってきた後、新しく広場で暮らしてくれる娘が増えたんだ」

 「その子が新しい甘味を作ったってこと?森で甘味ってなると…思ったよりも色々あるわよね…。でもオーカムヅミに匹敵する甘味ってなると…」


 推察してはいるが、早く甘味を見せて欲しいというのがルイーゼの本音だろう。考える素振をしているが、チラチラと視線をこちらに送っている。

 勿体ぶるつもりなど微塵もないので、『収納』からラフマンデーが私に献上してくれた最高品質のハチミツを取り出すとしよう。


 「コレがその甘味、ハチミツだよ。ウチのホーディ、角の生えた大きな熊の子が大好物になったぐらいには美味しいよ」


 無色透明なガラス瓶に収められた黄金色に輝くハチミツを目にした瞬間、ルイーゼが両手を頬に当て、目を輝かせながら黄色い悲鳴を上げだした。


 「キャアアアーーー!!なぁにコレェ~~~!!?輝いてるぅ!透き通ってるぅ!しかもすんごい魔力量!絶対物凄く甘い奴じゃない!?ね、ねぇ!こうして出してくれたってことは、良いのよね!?コレ、食べさせてくれるってことで良いのよね!?」

 「勿論だよ。パンやパンケーキに塗っても良いけど、やっぱり最初はそのまま舐めてみることをお勧めするよ」


 そう言って『収納』から小さじを取り出し、ハチミツを入れた瓶と一緒にルイーゼに手渡す。

 腐るほどある、というわけではないが、ここ数ヶ月でかなりの量をラフマンデーから献上されているからな。親友に1瓶無償で渡せるぐらいには、数に余裕はあるのだ。


 瓶ごと渡されるとは思っていなかったらしく、ルイーゼは非常に驚いている。

 そして妙に体をくねらせながら喜んでいるのか困っているのか判断に困るような反応を示してくれた。


 「ちょっ!?えっ!?良いの!?瓶ごとってアンタ!やだ、渡し過ぎよぉ!私に何をさせるつもりなのよぉ!」

 「いいから、まずは一口食べてみて」


 やはり、ルイーゼの反応は面白い。

 何をさせるつもりか、と聞かれても何かを要求するつもりは無いのだが…。

 そうだな、ハチミツの対価に何かを求めて良いというのなら、要求させてもらうとしよう。


 ルイーゼにしかできないことを要求させてもらうのだ。

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