第424話 偽りの力

 そもそもの話、私がこの連中を"一等星トップスター"、即ち高ランクの冒険者と判断したのはこの連中が3色の魔力持ちで尚且つ相応の魔力を所有していたからだ。

 だが、この連中の動きを見る限り、所有する魔力に相応しいだけの身体能力を所持していないように見える。


 まるで、後天的に強力な魔力を得たかのような印象を受けるのだ…。


 揃いも揃って6人とも未だに痛みに悶絶して地面を転がっている。これも解せない反応だ。

 少なくとも"星付きスター"冒険者以上の冒険者ならば、激痛を与えられたとしても痛覚を遮断するなり痛みを和らげるなりしてすぐさま動けるようにする筈だ。戦闘中に痛みによって行動を阻害されることは、致命的な隙が生じる結果になるのだ。

 多少無理をしてでも体勢を整えるのが常識である。勿論、私が冒険者達に稽古をつけた時もティゼミアで学生達の授業を受け持った時も、そのことは教えている。


 私の抱いた疑問を早急に解決する場合、今か今かと質問されることを心待ちにしているルグナツァリオに聞けばすぐに分かるのだろう。

 だが、彼には悪いが答えを聞くつもりは無い。分からないことがあれば有識者に聞くのが一番なのはその通りなのだが、だからと言って頼りにし過ぎては、自分で調べるということを怠るようになってしまいかねない。


 "女神の剣"関連は流石になりふり構っていられない問題なので自重せずに協力を要請しているが、この連中が"女神の剣"に関わっているようには見えないからな。

 私には『モスダンの魔法』や『真理の眼』という、極めて強力な解析手段があるのだ。この連中の過去を探り、その正体を暴かせてもらうとしよう。


 ………なんとも厄介というか何と言うか…。この国、大丈夫なのか?

 未だに悶絶している連中の正体は、最近"上級ベテラン"に昇級したばかりの冒険者達パーティだった。

 "上級"の冒険者達がなぜ"一等星"冒険者相当の魔力を保有していたのか。

 私のように元から強力な魔力を所持していて最近冒険者になった、というわけでもないのである。


 この連中、やはり後天的に魔力量や密度だけでなく、魔力色数すらも増加させていたのである。

 それを実現させたのは、この連中の体内に取り付けられた魔術具だ。随分とえげつないことをする。


 心臓部に取り付けられた魔術具が装着者の生命力を吸収し、大量の3色の魔力に変換して与えているのである。

 この連中の本来の魔力は、魔術具が与えている内の魔力の内の一色だけであり、それも与えられている魔力と比べれば極少量だったのだ。

 元の魔力と同じ色の魔力を与えられているためか、違和感がなかったのだ。


 改めて言うが、えげつないことをするものである。

 確かにこの冒険者達は強力な魔力を得られてはいる。だが、その代償はあまりにも大きい。

 寿命を大幅に減らしているのだ。このままでいれば3年と持たずに命が尽きるだろう。つまり、彼等は"一等星"はおろか"星付き"にすらなれないのである。


 彼等にそのような魔術具を取り付けた者。それは、ある意味では"女神の剣"の関係者であった。

 尤も、直接連中と繋がっているわけではない。幹部であるアインモンドが個人的に関係を持っているのである。


 この国には、人間を人工的に進化させることを至上の目的として研究を続けている者達が集まる、"超人スペリオル機関"なる秘密組織がある。

 この国の戦力の増強に繋がると考え、アインモンドが宰相となる前から接触し、交流を深めていた非合法の組織だ。

 

 この組織の連中はアインモンドからアグレイシアのことを教えられていないようで、仮にアインモンドと接触していなくともやっていることは変わらなかっただろう。

 つまり、目的のためならばどれだけ命を犠牲にしても平気な連中と言うことだ。


 そして未だに痛みで悶絶している目の前の冒険者達が私に絡んできた理由だが、何のことはない。

 私という"上級"の時点で"一等星"扱いされている前例が現れたのだから、自分達だって変わらない。それどころか魔力色数も多くて人数も多いのだから、自分達の方が上だと認識してしまったのである。


 この冒険者達は、元からあまり頭のいい人間ではなかったようだ。特に疑いもせずに魔力色数を増やせると聞かされて"超人機関"にその身を実験台として提供してしまったのである。

 実際に魔力色数も魔力量も魔力密度も今までとは比較にならないほど上昇したのだから、彼等からはさぞ凄まじい優越感と特別感を得られたことだろう。


 その代償についても、今のところ肉体に影響は出ていないようだ。問題無く力を行使できていたようだな。

 ただ、彼等の変化はあくまでも魔力関連のみであり、身体能力までは変化していない。だから私の振るったハイドラにも反応ができなかったし、未だに痛みで悶絶したままなのだ。


 それにしても"超人機関"、か。

 実を言うと、生前のヴァスターの肉体を強制的に"蘇った不浄の死者"に変質させたのも、この連中が原因と言えば原因だ。

 あの"古代遺物アーティファクト"は、"超人機関"の研究成果を元に"女神の剣"が作り出した代物だからだ。


 禄でもない連中のようだし、排除してしまおうか?

 とは言え、すぐに排除に動いた場合、これもまたアインモンドが強硬手段を取りかねない。

 私が大胆な行動を起こすのは、アインモンドを他の"女神の剣"の構成員達と共にまとめて始末できた後か、もしくはジョージの安全が確保できてからにした方が良いだろうな。それまでは、情報収集をしながら表向きは大人しく観光をしている素振を見せるとしよう。


 さて、方針も決まったことだし、今は目の前の冒険者達だな。

 呆れたことに、未だに全員悶絶したままだ。まぁ、"一等星"冒険者でも動きが一時的に鈍ってしまうほどの痛みを与えたから、魔力以外が"上級"の彼等には厳しいかもしれないが。


 この連中、どうしたものかな。

 私ならばこの連中に取り付けられた魔術具を取り除くことも問題無く可能である。だが、ハッキリ言ってしまえば、この連中にそこまでしてやる義理が無いのだ。それどころか、この連中に自分達がどのような状況に陥っているのかも教えてやる義理が無い。


 こういう時は、相談するのが良いのだろうな。答えを聞くわけではないのだから、遠慮をする必要はないだろう。


 〈『で、皆はどうするべきだと思う?』〉

 〈『力を得て横暴になってはいるけれど、今のところ彼等は罪を犯しているわけではないからねぇ…。私としては、少し多めに見てやってほしいかな?』〉

 〈『星に還しちゃっていいんじゃない?絶対ノアにいい影響与えないよ?』〉

 〈『頼ってくれるのは嬉しいがよぉ…。こういうのは当事者のノアの判断に任せるしかねぇぜ?』〉


 それはその通りなのだが…。

 ルグナツァリオの言い分もロマハの言い分も、理解はできるのだ。この連中を助けてやる義理も無ければ、始末をしてしまうほどの連中でもないからな。まぁ、だからこそ扱いに困っているのだが…。


 意見が綺麗に対極的になってしまったからか、いつも通りに2柱が喧嘩を始めてしまいそうな雰囲気になっている。その事実に、正直感心せざるを得ない。

 いつもなら堪える素振すら見せずにお互いを煽り合っていたからな。にらみ合いのような状況が続いているとはいえ、よく我慢したものだ。


 2柱に、頭を撫でる思念を送っておこう。


 〈『おおっ!』〉〈『!?』〉

 〈『2柱とも成長してくれたみたいで、偉いよ』〉


 照れているようだが、それ以上に2柱は嬉しそうにしてくれている。喜びの感情が伝わってくるのだ。

 私、彼等からしてみれば赤ん坊も良いところな筈なのだが…。2柱とも赤ん坊に撫でられて喜ぶのか?………失礼かもしれないが、この上なく喜びそうだな?


 それはそうと、冒険者達への対応に困っている私に、まともな方針を語ってくれる者がいた。キュピレキュピヌである。


 〈『特に何かを伝えるでもなく、コイツ等に付けられた装置を壊しちゃえばいいんじゃないかな?与えられた力が無くなって焦るだろうしね!』〉

 〈『ズウも言ってますが、どうするかを決めるのは、ノア自身です。納得のいく選択をして下さいね?』〉


 プレッシャーを与えるような言い方をしてくれるものだ。

 まぁ、いい。私は、連中に取り付けられた装置について、連中に教えることなく綺麗サッパリ破壊することにした。

 やることはヴァスターの生前の肉体に行ったこととそう変わらない。『消滅』の意思を込めた魔力を魔術具にぶつけてやるだけだ。

 肉体まで消滅させないために細かい調整は必要になるが、常日頃訓練を続けてきた私にとって、その程度のことは造作もなかった。


 …良し。『モスダンの魔法』で全員の心臓部に取り付けられた装置を消去したことも確認できたことだし、本格的にこの連中に稽古をつけてやるとしよう。


 「いつまでそうしているつもりだ?そうやって悶絶している間も、実戦だったら容赦なく襲われるんだぞ?」

 「くっ…クソ…!調子にの…え?」

 「え?えっ?」「い、いやぁあああ!!なんでぇ!?」「嘘だ!こんなの嘘だ!」


 私にいつまでも悶絶していることを責められ、悪態を尽きながら立ち上がり体勢を整えようとするが、その時になってようやく自分達の変化に気付いたようだ。

 揃いも揃って魔力が無くなってしまったことに困惑し、現状を受け入れられずに喚き散らしている。


 「何やら魔術具に頼って後天的に膨大な魔力を得たようだが、ズルは良くないな。お前達の魔力を増幅させていた装置、破壊させてもらったよ」

 「んなっ!?」「嘘でしょ!?」

 「ふ、ふざけんな!何勝手なことしやがる!元に戻しやがれ!」


 随分と自分勝手なことを言うものだ。

 ちなみに、この連中は装置を埋め込まれる際に、金銭を支払ったりしているわけではない。無償で施してもらえるからと、特に疑いも無く誘いに乗ったのだ。


 「戻すわけがないな。それと忠告させてもらうが、分不相応の力を持っていても、身を滅ぼすだけだぞ?」

 「うるせぇ!覚えてろよ!必ず復讐してやる!」


 そう言いながら、すごすごと訓練場から出て行こうとしているのだが、行かせるわけがないな。

 『地動アースウェイク』によって地面を盛り上げ、物理的に訓練場の扉を塞ぐ。これで外へ出ることは不可能だ。


 「「「なっ!?」」」

 「どこへ行こうと言うんだ?まさか、自分達から稽古を申し出ておいて、5分もしない内に投げ出してしまうなどと、情けないことを言い出すつもりじゃないよなぁ?」

 「え?」

 「稽古を望んだのはお前達だ。昼食までの時間はたっぷりとある。存分に鍛えられていくと良い。安心しろ。死ぬことはないから。その辺りの加減には自信があるんだ」

 「や、やめ…!く、来る…来るな…来るなぁあああああ!!!!!」


 まるで化け物に遭遇したかのような反応だな。まぁ、実際に私は人間達からしてみれば正真正銘の化け物なのだが。

 それはそれとして、物凄い態度の変わりようである。最初に強烈な痛みを与えたのは、この連中にとって大きなトラウマになったのかもしれないな。


 まぁ、私も無慈悲な外道では無いのだ。痛みを与えるような稽古を続けるつもりは無い。ここから先はこれまでの冒険者にも行ってきた真っ当な稽古である。

 一日で膨大な魔力が身に付けられるわけではないが、多少の成果は見いだせるだろう。


 それをどう捉えるかは、この連中次第だ。


 できることなら、折角命拾いしたのだから、真っ当な冒険者になってもらいたいものだな。

 無理そうなら…まぁ、仕方がない。その時は責任をもって星に還すとしよう。



 稽古を続けること約5時間。


 訓練場の地形を元に戻してロビーに戻ってくる頃には、6人の冒険者達はすっかり大人しくなってしまった。


 さて、私と別れた後、彼等はどういった行動に出るかな?

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