第416話 譲れぬ想い、譲る気持ち
昼食を終えた後、私はオーカドリアにある要望を出していた。それは、オーカドリアの木材である。
オーカドリアの木材を用いて、作りたいものがあるのだ。きっと、オーカドリアも喜んでくれると思っている。
まぁ、この要望はあくまでもできればの話だ。無理そうならまだ残っているオーカムヅミの木材を使用するまでである。…性能は落ちるだろうけど。
そもそも"楽園最奥"の素材という時点で素材として尋常ではないのだ。
動物に例えれば[四肢を切り取って分けて欲しい]と言っているも同然のような要望、受け入れてもらえるとは―――
私の木材? 良いよ 好きなだけ 持って行って
………オーカムヅミの樹一本分に相当する丸太が落ちてきたんだが?
足りないなら まだ用意するよ?
…大丈夫。これだけあれば十分すぎるぐらいだから。うん、ありがとう。その、負担になっていたりしない?
大丈夫 何ともないよ 貴女が沢山魔力をくれたから いくらでも出せるの
オーカドリアが産まれたのが私の魔力が原因なら、世に出せないような果実が大量に実ったり気軽に樹木一本分の丸太を用意できるのも、全部私の魔力が原因だった。
オーカドリアが気のすむまで魔力を与えるのは、やり過ぎだったのだろうか?
文字通り自分で蒔いた種だ。その責任は私が取ろう。
まぁ、私の素性は公開してもオーカドリアのことまで公開するつもりは無いから、そこまで慌てることじゃないかもしれないな。
ただ、うん。オーカドリアに何かを願う時は、
とにかく、目的の素材は手に入ったのだ。場所を移して製作に取り掛かろう。
場所は"黒龍城"の魔術具工房と木工作業場、そして錬金術工房。うち2つは幻を出現させて作業をさせる。
昨日も平然と鍛冶工房や木工作業場を使用したわけだが、アクレイン王国から帰ってきた後のことである。
合体蛇腹剣を作る過程で、目的に沿って色々と役割を持たせた部屋を色々と設けたのだ。
別に専用の施設など、無くても構いはしないのだ。私ならば、その身一つで大抵の物は生み出せるのだから。
だが、何かを製作する時は、それ専用の部屋、設備があった方がモチベーションが上がるのだ。
私が複数の幻を用いてこれから製作する物。それは、"
と言っても、普通の"魔導鎧機"ではないのだが。
"魔導鎧機"の制作者であるココナナ曰く、"魔導鎧機"は大まかに分類するならば鎧ではなく傀儡。"
そして本来の"魔導傀儡"は内部に入って操縦する作りになってはいない。外部から特定の方法を用いて命令を送り、命令を行使させるのが"魔導傀儡"の使用方法だ。
私は、この"魔導鎧機"と"魔導傀儡"。両方の性質を持った別の存在を作り上げようと思ったのだ。
何のためか?決まっている。オーカドリアのためだ。
オーカドリアに、自由に動ける身体を用意してあげたかったのだ。それにはオーカドリア自身の木材を素材にするのが最適だと判断した。だから木材を要求したのだ。
細枝の一本でも用意してくれれば、後は私が魔法でも使って巨大化しようと思ったのだが、とんでもない量を渡されてしまった。
…オーカドリアには、私の知る限りの一般常識のイロハというものを教えた方が良いような気がしてきた。
今のところオーカドリアは"楽園"どころかこの広場の外にすら出る気はないようだが(そもそも自由に動ける身体が無いから動く気が無いのだと思う)、ならばこそ思うのだ。
自由に動ける身体を手に入れた場合、オーカドリアはどういった行動をとるのか。
つまるところ、今回の製作は言うなれば私の思い付きである。だから、何か問題が起きた時には責任を取るつもりだ。
過去にも思い付きで行動して私は人間の国で騒ぎを起こしたことがある。
あの時は人間が驚いたりする判断基準が上手く掴めなかったし、今も正確に把握できているなどと己惚れるつもりはない。
それでも、人間達の私に対する評価や影響力もあって、旅行を始めた当初よりも私の行動に理解を示してくれる人間が増えた。それに、私自身も多少は
常識外れな私でも、一般常識を教えることは不可能では無い筈だ。
オーカドリアの木材は主に外装やフレームに使用する。
人間でいうところの皮膚と骨に当たる部分だな。筋肉も一応コレに該当するのか?とにかく、この作業は木材を扱うので木工作業場で行う。
続いて装備の部品だ。
ココナナの"魔導鎧機"を参考にして、私のハイドラ同様、思いつく限りの様々な面白くてカッコイイ機能を盛りに盛って行こうと思う。これらは魔術具の根幹となる部品だから、当然魔術具工房での作業だ。
そして内装。
人間でいうところの内臓の役割を持った部品だな。特にオーカドリアの意思を宿し、魔力を"魔導鎧機"全体に行き届かせる心臓部の制作が主になるだろう。
精密さや構造以上に機能を持たせるための素材が重要になって来る部品なので、錬金術工房で素材づくりをするところから始めるのだ。
幻による並列作業を行ったとしても、1日2日で完成するような物ではない。急いで完成させる必要もないので、ゆっくりと制作していけばいい。
まぁ、それを言ったら幻を使わなくてもいいのではないかと皆から尋ねられそうではある。だが、それはそれ、というヤツである。
並行して作業を行えば、何か不具合があった時にすぐに対応ができるのだから、コレで良いのである。
そんなわけで、オーカドリアのための身体を作り始めてから2週間が経過した。
皆と戯れながらゆっくりと制作していたこともあって、製作は非常にゆっくりだ。それに、どうせ作るのなら外観にも拘りたいからな。
私の勝手な想像でオーカドリアの外観を作ってしまうのも悪いと思ったので、何度かどういった外見にしたいか、オーカドリアと問答を繰り返しもした。
オーカドリアは精霊だからな。外見は大樹であっても視覚を所有しており私の描いた絵なども鑑賞できるのだ。
オーカドリアには私が譲ってもらった木材で何をするつもりなのか、説明してどのような外観にしたいか、打ち合わせを繰り返していたのだ。
そして難題を吹っ掛けられてしまった。
"魔導鎧機"の外観の性別を、どちらにしようかと尋ねた時である。
気分によって 変えられるようにしてほしい 私には 性別が無いから
そうきたかぁ~…。生憎と無性という選択肢は、オーカドリアには無いようだ。
しかも"魔導鎧機"のことを伝えたら、
性別の外見を切り替えるための変形機構を組み込むために、内部の部品を増やしたり完全に余計な追加機構を組み込む必要が、無くなりはした。
もしもこの方法で性別変更機能を実現させていたら、完成時には想定よりも大幅に性能が下がるかサイズが大きくなっていたことだろう。
その点、変身による性別の変更は外装を形状変化させればいいだけなので性能が下がることはないと思いたい。当然、問題はあるが。
まず製作難易度が跳ね上がった。解決策も要望を出された時にすぐに思いつかなかったしな。変身機能の実現を考えるだけでまる1日費やした日もあったほどだ。
まぁ、それは魔術具で解決しようとしたから、というのが原因なのだが。
材質が変質するのだから、これは錬金術の分野だったのだ。
オーカドリアの木材をベースに、条件を満たすと変質する素材を、錬金術を用いて生み出せば良かったのである。
まぁ、変化の問題が解決したら、今度はどのように変身させるかを考えたりと問題が更に発生したりもしたのだが。
こういった問題に加えて"魔導鎧機"の装備や機能を考えたり作ったりしていたため、進捗は非常にゆっくりである。
時間が掛かっている理由は他にもある。
こんな装備はどう?螺旋状の刃を回転させて高い貫通力を持たせた装備だよ?
見た目があまり 好きじゃない バランス 悪いよ?
なんと私とオーカドリアで、デザインの好みが異なっているのである!しかもオーカドリアは一度要望を出すと、なかなか折れてくれないのだ!
可能な限りオーカドリアの要望を叶えてあげたい私にとって、非常に由々しき事態だった。
例えば、今しがた紹介したドリル?とかいう装備もそうだ。
私は非常にカッコイイと思うのだが、オーカドリアはお気に召さないようなのだ。
他にも角張った形状と丸みを帯びた形状で好みが分かれたり、装備の搭載位置で意見が分かれることもあった。
オーカドリアと何度も打ち合わせをして、ふと思ったことがある。私はニスマ王国で私の写真集を作るために写真の撮影に協力したことがある。
写真集を作ろうと計画した者達は、どの写真を使用するかで連日意見のぶつかり合いが絶えなかったと聞いている。
今のこの状況も、彼等と同じなのではないだろうか?
人の好みは多種多様。そしてそれは人間だけに当てはまる言葉ではないと実感させられた。
改めて、写真集を作ろうと考えてくれた者達には頭が下がる思いである。写真集が出版されたら、是非とも購入させてもらうとしよう。
2週間の間で、
私の狙い通り、集落でチャトゥーガが流行り出したのだ。
始めに長がヴァスターと対局し、それを見ていた他の蜥蜴人達が興味を持ち、瞬く間に集落中に広まったのである。
盤と駒ならば問題無い。
蜥蜴人達も"楽園"の住民だからな。素材は魔術でいくらでも生み出せるし、彼等はあれでかなり器用な種族だ。私がヴァスターに渡した駒ほど精巧ではないにしろ、近い形状に加工して遊ぶ分には問題無い駒を作り出してしまったのだ。
リガロウも遊び方はヴァスターから教えてもらい、主に戦士長と稽古を終えた後に対局しているようだ。
戦績は組手もチャトゥーガも、やや戦士長が勝っている。なかなか拮抗した者同士のためか、お互いにこの時間が楽しみになっているようだ。
そんな戦士長なのだが、私がアンフィスバナエを渡した日から、早速扱いこなせるようにするために修業を開始したようだ。
両剣はともかく、蛇腹剣を使った経験は無かったようで、かなり悪戦苦闘しているようだな。誤って自分の身体を傷付けてしまうことも珍しくないのが現状だ。
少しづつ自分を傷付けてしまう回数が減っているので、間違いなく上達している。
ちなみに、修業をしている時の戦士長の姿は非常に絵になるのか、離れた場所から複数の若い蜥蜴人の女性が彼の様子を眺めていた。若干恍惚とした表情をしていたので、そういうことなのだろう。彼は非常にモテるのだ。
夜はヴァスターともチャトゥーガで対局しているようだが、こちらはまるで歯が立っていないようだな。
年の功というヤツだろう。対局を通じて、存分に定石を学ぶといい。
広場の様子も変化が起きている。私がニスマ王国から持ち帰った植物の種。
やはり[できれば魔物化しないで欲しい]、だなどと相手を優先するような願い方をしてしまったためか、多くの種が精霊化してしまった。
まぁ、おかげでラフマンデーの配下が増えたし、種が全て精霊化したわけでもない。少しずつ丁寧に育てて将来的に親しい者達におすそ分けができるぐらいには収穫できるようにしてもらおう。
ウルミラ達に渡したマギモデルも順調だ。3体とも、徐々に動きがスムーズになってきている。
最初は上手く動かせないため面白そうにしていなかったウルミラも、ホーディやラビックから励まされ、動かし方を教わることで徐々に上達させていった。
その結果、今では対戦ができるほど、とまではいかずとも人間の基本動作ぐらいならば操作できるぐらいには上達したのだ。
〈できなかったことがだんだんできるようになると、嬉しいね!〉
〈そうともよ。それこそが修練の醍醐味よ!ウルミラよ、お前も我等と稽古をしてみないか?〉
〈いいですね。ウルミラは私達とは戦い方が異なりますし、思いの他学べることが多いかもしれません〉
〈や、やだよ!ボクは遊んでいたいの!痛い目に遭ったり怖い目に遭ったりするのはお断りだよ!〉
ウルミラが上達することの喜びを理解した途端、ホーディとラビックから稽古に誘われたのだが、即答で断っていた。
逃げるようにして私の傍に来てくれたのがなんだか嬉しかった。存分にモフモフを堪能させてもらった。
その他にも、フレミーにニスマ王国で手に入れた服を渡して新しい服の参考にしてもらったり、ヨームズオームに小説を読み聞かせたりと、思うままに日々を過ごしていた。
そんな生活が私がこの広場に帰って来てから3週間ほど経過した時。
『あああああ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!本当にいろいろとご迷惑をおかけしましたあああ!!』
〈え!?なになに!?誰!?〉
〈下から聞こえてきたわ!〉〈知らない声なのよ!?〉
ダンタラが、目を覚ましたのだ。
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