第415話 やりたいことを詰め込んだ玩具
リガロウとヴァスターに別れを告げて、
幻をそのままにしてこの子達と一緒に居たい気持ちはあるが、そんなことをすればこの集落の住民達は常に気を張った状態でいなければならなくなってしまう。
常に気を遣われてしまうだろうし、彼等が気を休める暇が無くなってしまう。それでは蜥蜴人達が可哀想だ。
リガロウ達の様子が気になるのなら、『
場所は変わって鍛冶工房、ではなく木工作業場だ。新しい玩具の素材は金属ではなく木材だからな。
別にどこで作業をしようとも変わりはないのだが、気分の問題である。
さて、新しい合体蛇腹剣なのだが、思いついた機能をドンドン盛りに盛って行こうと思う。参考になりそうな機能は数日前にリナーシェが見せてくれたことだしな。
それと、今回は魔術効果も付与しようと思っている。
付与と言っても強化ではない。その逆、攻撃力の減少効果を付与しようと思う。
金属の時よりもかなり重量が軽減するとは言え、それでも"楽園浅部"の素材と言うこともあり固いことには変わりない。むしろ下手な金属以上の強度がある。
ある程度の速度でぶつけられればやはり痛いし、遊んでいる最中に友を傷付けてしまうという最悪の場合も十分あり得るのだ。
今回付与る効果は、そんな懸念を解消する効果だ。
勢いよく刀身が遊び相手に接触したとしても、その衝撃を緩和し、衝撃と痛みだけを伝えるような効果を付与するのだ。
形状も変更させよう。アンフィスバナエを作って思ったのだが、曲刀というのも悪くないと感じたのだ。それにちょっとやってみたいことが追加でできたからな。
直剣の形状では今回思いついた機能には不向きなのだ。
今回思いついた機能を実現させるためには、どういう構造にするべきか。色々と試行錯誤しながら作っていくとしよう。
材料となる端材は大量にあるからな。多少の失敗は恐れることはない。納得いくまで製作を続けるのだ。
新しい合体蛇腹剣が完成する頃には、既に日は完全に沈んでしまっていた。
ウルミラ達も日が沈む前にはマギモデルの操作を止めて、それぞれの収納空間に仕舞って私が食事を始めるのを待っているのだ。
今日はもう夕食を取って、風呂に入ったらいつものようにのんびりと過ごして寝てしまおう。
新しい合体蛇腹剣の披露は明日からだ。
「そろそろ夕食にしようか。皆お腹の方は大丈夫?食べられそう?」
〈問題無いわ!美味しいゴハンを食べましょ!〉〈今回はデザートもちゃんと食べるのよ!抜かりはないのよ!〉
昼食の時は皆動けなくなるまで食べ続けていたからな。夕食を食べられるか、一応訪ねてみれば、まるで問題がないことが分かった。
まぁ、この子達は全員食べた物を魔力に変換する能力があるからな。余計な心配だったのかもしれない。
「昼食の時みたいなことにならないように、今回はカレーライスを省くけど、良いかな?」
〈問題ありません。二度と食べられないというわけではありませんからね〉
〈せっかくご主人が用意してくれた料理が食べられないのは、もったいないもんね!エへへ!新しいデザート楽しみ!〉
昼食の時には皆カレーライスにしか目がいかなかったが、他の料理だって決して不味いわけではなかったのだ。それどころか、他の料理だって私やヨームズオームが美味いと感じるぐらいにはいい出来だった。
だからきっと、この子達にも美味いと思ってもらえるのだ。
カレーライスと比べられてしまって、真っ当な評価をされなくなってしまうかもしれないという私の懸念は、すぐに払拭された。
昼食の時にも提供した料理の数々、皆はどれも美味しいとお世辞抜き言ってくれたのだ。
料理を食べている時の、皆の喜びの感情が魔力越しに津合わって来るから、本当に美味いと感じているのが分かるのだ。作った甲斐があるというものだ。
今回は皆お代わりを要求しなかった。理由は勿論、デザートがあることを知っているからだ。
とっておきもとっておき。オーカムヅミの果実を使ったショートケーキである。
チヒロードで手に入る素材だけで作っても非常に美味かったからな。それがオーカムヅミを使用したとなれば、美味いのは間違いないのである。
フルーツタルトの時もそうだったからな。器に盛られた料理を綺麗に残さず食べ終え、デザートを待つだけとなっている皆の期待の籠った視線が私に突き刺さる。
「皆後はデザートだけみたいだね?それじゃあお待ちかねのデザート。ショートケーキを出すよ」
『収納』からショートケーキを出した直後、まるで歓声が上がったと錯覚するほど、皆の喜びの感情が膨れ上がった。
〈柔らかそうよ!甘そうだわ!〉〈とってもキレイなのよ!食べやすそうなのよ!〉
〈ボク分かる!コレ絶対美味しいヤツだー!〉
〈ホッホッ。これは実に美味そうですのぅ…。いっぺんに食べてしまわないか、心配になってきましたぞ?〉
ホーディやゴドファンスと言った大型の獣には大きいサイズのケーキを用意しているのだが、それでもこの子達ならばその気になれば一口で食べてしまえるのだ。
満足いくまで食べてもらうために、もっと大きなサイズのショートケーキも作りたかったのだが、大きすぎると
そうなってしまっては、味は変わらないかもしれないが見栄えが悪くなってしまうのだ。
言葉を出していない子達も早く食べたくて仕方がないといった様子だ。待たせる理由などどこにもないので、皆にショートケーキを配り終えたら、すぐに食べて良いと合図を出した。
その直後、皆カレーライスの時と同じ、いや、それ以上の勢いでショートケーキを食べだしてしまったのだ。
ショートケーキもお代わりを十分な量用意してはいるが、それでも足りなくなってしまいそうで不安になってくる勢いだ。
「皆、カレーライスの時みたく、動けなくなるまで食べないように注意するんだよ?」
―むずかしいかもー。のあー、おかわりー!―
〈すっごく美味しい…!コレは危険な食べ物だね!食べやすくておいしいから、カレーライスの時よりもドンドン食べちゃう…!〉
〈主よ!もっと大きくはできないのか!?この大きさではあっという間になくなってしまって悲しくなってしまうぞ!?〉
ホーディの願いに応えたいのは山々なのだが、
先程の注意は、意味をなさないかもしれないな。
私もショートケーキの出来栄えを確認しながら、この子達のひたすらに幸せそうにデザートを食べる様子を眺めるとしよう。
一時間後。
昼食を終えた時と同じような光景が、再び眼前に広がっていた。皆ショートケーキを食べ過ぎて動けなくなってしまっているのだ。
それでもこの子達は皆非常に幸せそうである。
風呂に入れるようになるのはもうしばらくかかりそうだが、夜は長いのだ。ゆっくりすればいいだろう。
その2時間後。
無事動けるようになった皆と共に風呂に入り、昨日と同様に新しい洗料で全身を満遍なく洗い、ツヤツヤでサラサラでフワフワなモフモフに囲まれた状態で私は眠りについた。多分、10秒掛からなかった気がする。新記録だ。
いつものようにレイブランとヤタールに起こされ、皆にオーカムヅミを切り分けて渡したら、日課の訓練だ。2ヶ月で衰えてしまった技量を取り戻し、更に上達させるためにも、昨日決めた通り今までの3倍近い時間を訓練に費やした。
訓練を終えたら昼食までは自由時間だ。昨日完成させた、新たに作り上げた玩具を存分に振り回させてもらうとしよう。
一対の『
そう。今回も4本作らせてもらった。
しかも今回は2本一対を2組ではなく、4本で一対となっている、『補助腕』の使用を前提とした玩具だ。
結果、『補助腕』を使用できる私とリナーシェ専用の玩具になってしまったかもしれない。
自信作だからな。ハイドラと名付けさせてもらった。
まずは何も機能を使用しない、四本の曲刀を振り回してみる。
うん。良い具合だ。柄の形状はかなり拘り抜いたからな。手に吸い付くような感触だ。非常に持ちやすい。
5分ほど振り回したら、蛇腹剣の機能を使用してみよう。今回はただの分割じゃないぞ?
刀身がバラバラになるのは同じだが、今回の蛇腹剣は刀身の中央も2つに割れる。2又の鞭となっているのだ。
魔力の操作と手と腕の動きによって、非常に多彩な動きを見せる8つの鞭は、まさしく多頭蛇の大型魔物ハイドラの一斉攻撃を彷彿とさせる動きだ。この玩具の名前の由来でもある。勿論、今まで通り一本の鞭形態のままに変形することも可能だ。
当然、柄頭同士を合わせて合体させることも可能だ。それでこその合体蛇腹剣だからな。
30分近く2又の鞭形態を振り回して使い勝手を確認したら、2本の合体蛇腹剣を合体させて2組の両剣形態へと変化させる。
こちらも良い感じだ。両剣の醍醐味だと勝手に思っている柄を中心とした刀身の回転が、非常にスムーズだ。長すぎず、短すぎず、実に振り回しやすい。
両剣形態を十分楽しんだら、今度はその状態で鞭形態への変形だ。
この形態の場合は、私は両剣を扱い方の好みとして回転させながら振るう傾向にあるため、全方位に鞭を振り回すような動きとなった。
8つの鞭を絡ませずに私を中心としたあらゆる方向に攻撃を狙って行うのはそれなり以上に難易度が高く、非常にやりがいを感じさせられた。これも日課の訓練に咥えたいと思ったほどだ。
そして最後の機能。4本一組となっている理由だ。
一度4本の曲刀形態に戻した後、十字を作るようにして柄頭同士を合わせることで、更なる形態変化を見せるのだ。
近い形状があるとすれば、本で目にしたことがある、手裏剣と呼ばれる投擲武器だ。それを巨大化したような形状をしている。
便宜上、この形態は手裏剣形態と呼ばせてもらおう。
リナーシェも両剣を遠隔操作で回転させながら私に飛来させていたことが何度もあったからな。参考にさせてもらった。
しかも、ただの手裏剣ではない。
この形態に限定して、結合した4つの柄頭が柄から分離し、ワイヤーで繋がれた状態となるのだ。
そう、この形態はその名の通り、投擲前提の形態である。
投擲した巨大手裏剣を柄頭を操作することで、極めて広範囲に、長期的に攻撃が可能となっているのだ。
勿論、この形態でも刀身を鞭形態に変化させることが可能だ。その状態になると魔力操作でなければ鞭を操作する事ができなくなるため操作が非常に難しくなるが、操作できた時の攻撃範囲は下手な魔術を遥かに上回ると言っていいだろう。
尤も、攻撃力は無いので破壊を齎すことはないのだが。
私がハイドラを楽しく振り回していると、ホーディとラビックが私の元へ来た。この子達の様子からして、ハイドラを使用した私と組手がしたいのだろう。
私としてもハイドラを用いて誰かを相手取ってみたかったところだ。存分に甘えさせてもらおう。
だがその前に、注意しておく点がある。
「破壊力は無いけど、衝撃と痛みは伝わるから、その点は注意してね?」
〈承知した。では、早速始めようか!〉
〈以前以上に変幻自在の刃、堪能させていただきます!〉
以前も合体蛇腹剣を作って振り回して遊んでいたら、この子達に稽古を頼まれたからな。この手の武器を相手取るのは、この子達にとってはいい訓練になるのだろう。
だがそれも、私がこの玩具を完璧に扱いこなしてこそ言える話だ。気を引き締めて振り回せてもらおう。
いや、楽しすぎる。
合体蛇腹剣の時もそうだったが、気分によって様々な形態に得物を変化させて振り回せるのが楽しすぎる。
つい夢中になって正午の時間までホーディとラビックと戯れ続けてしまった。
私は良い。
私からすれば戯れ以外の何物でもないからな。だが、ホーディとラビックからすれば、途轍もない猛攻の嵐だったようだ。この子達は凌ぐのに必死だったし、それで手いっぱいだったようだ。
ラビックは当然として、ホーディまで息を上げている。
「その…大丈夫?ごめんね?ちょっと調子に乗り過ぎた」
〈も…問題ありません…!実に素晴らしき訓練となりました…!〉
〈我等がこの地に集ってから、大分力も技も身に付けたと思ったのだが…。それが気のせいだと思い知らされたぞ…。今後、より一層、修業励まなければな…!〉
気のせいでも何でもなく、ホーディもラビックも強くなってるんだけどなぁ…。それだけハイドラの猛攻が凄まじかったと言うことなのだろう。
「少し休んだら、昼食にしよう。今日も御馳走を用意してあるよ」
〈それは嬉しい限りだな!存分に体を動かしたのだ。さぞ、昼飯は美味く感じるだろうよ!〉
〈元より、姫様が用意してくれる食事はどれも大変美味ではあります。ですが、ホーディの言う通り、今の私達はより一層美味しくいただくことができるでしょう〉
2体とも逞しいなぁ。ここまで消耗した状態で、この子達のように考えられる人間が、どれぐらいいるだろうか?私の知る限り、非常に少ないと思う。
それにしても、こうして実際に使ってみて分かったが、本当にハイドラは良い出来栄えだ。コレを親しい者達に見せびらかす時が楽しみで仕方がない。
最初に見せびらかすのは、やっぱりルイーゼになるかな?
ドライドン帝国の観光が終われば、魔大陸にある有力国は軒並み見て回ったことになる。
残りの国へは一度の旅行で顔を出していけばいいだろう。リガロウもいることだし、移動はあっという間だ。
そうして魔大陸中の人間の国を見て回ったら、いよいよ魔王国への観光だ。もう少しで、ルイーゼに再び会えるのだ。
本当に、楽しみだ。
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