第414話 リガロウとヴァスター

 蜥蜴人リザードマン達への用件はこれで済んだので、リガロウの元へ行く。

 用があるのは、あの子が首に下げている首飾りだ。正確には、その首飾りの内部にあるハイ・ドラゴンであるヴァスターの魂だな。

 私からヴァスターに声を掛けようと思っていたのだが、ヴァスターとしてもアンフィスバナエは珍しい武器だったのだろう。彼の方から声を掛けてきた。


 〈とても良いものを見せていただきました。いと尊き姫君様は、先程の武器と同じような物を所持していたそうですね?〉

 「うん。まぁ、友人に見せびらかすための玩具なんだけどね。少し前に壊れてしまったから、改良して新しいものを作りたかったんだ」


 私がアンフィスバナエを披露している間に、リガロウから合体蛇腹剣について聞いていたのだろう。アレに追加した機能はともかく、合体蛇腹剣の基本機能については特に気にならない様子だ。


 生前のヴァスターは非常に長生きだったようだからな。蛇腹剣や合体両剣の知識ぐらい、持ち合わせてもおかしくは無いのである。流石にそれらが一つになった武器は知らなかったようだが。


 「ヴァスター、貴方から見てこの集落の蜥蜴人達はどう見る?」

 〈好感が持てますね。彼等は皆、その瞳に強い希望を宿しています。それに、いと尊き姫君様に対する強い忠誠も感じられますね。単純に貴女様がこの領域の主だから、という話では片付けられない理由があるように思えます〉


 この様子だと、ヴァスターは蜥蜴人達からこの集落に何があったのかを聞いていないのだろう。

 まぁ、聞いていたら聞いていたで同族の醜聞を耳にすることになっていただろうし、それでよかったのかもしれない。


 〈彼等とはもう会話をしてみた?〉

 〈はい。長殿はなかなかに思慮深い方ですね。力はなくとも、上に立つ者の資質があります。魔物としては珍しいことです〉


 言われてみれば、その通りだ。

 魔物は集団で生きる場合、決まって一番力の強い者が集団のリーダーを務めているのだが…。

 この集落の蜥蜴人達はその真逆と言っていい。

 集落の長は身体能力は勿論、魔力量も密度も平均を下回っている。本来ならば長という役職にはつくことはないのだ。


 長になった基準は、やはり年齢だろうか?蜥蜴人達の平均年齢は子供が増えたこともあり約20才と言ったところだが、長の年齢は100才を超えている。

 蜥蜴人達の寿命は大体が80~90才だ。それを考えれば、如何に長が長生きしているかが分かるというものだ。

 そのうえ、長は耄碌しておらず、意識がハッキリとしているのだ。まだまだ現役であり続けるらしい。


 集落の中で最も長命で加えて多くの知識や知恵を持っていることだろう。その知識は、集落の者達からもかなり頼りにされているようだ。


 「ヴァスターにとって、長は良い話し相手になりそうかな?それと、他の蜥蜴人と話はできそう?」

 〈はい。会話だけならば既に何体かと経験済みです。集落の中で思念の扱いに長けた者達とですね。私など、リガロウのおまけでしかないというのに、私にまで丁寧な対応をしてくれました〉


 蜥蜴人達からみたら、ヴァスターはリガロウのお目付け役みたいなものだろうからな。それは要するに、リガロウの、ひいては私の身内と言うことでもある。

 そう考えれば、彼等がヴァスターに対しても恭しい態度をとるのは当然と言えるだろう。


 と、いかんいかん。そろそろ話を本題に移そう。


 「リガロウもヴァスターも、蜥蜴人達と上手くやっていけそうで良かったよ。ところでヴァスター。貴方はその状態で魔術を使えたりする?」


 少し気になることがあったので、聞いてみることにしたのだ。

 私の質問に、ヴァスターが嬉しそうに答える。


 〈よくぞ聞いてくださいました!驚いたことに、条件次第では使用可能なのです!〉

 「その条件って?」

 「ヴァス爺の器に、俺の魔力が宿った時に使えるみたいです」


 私がずっとヴァスターとばかり話をしていたからか、私の問いの答えは、リガロウが答えることとなった。

 この子の目の前にいるというのに、まるで声を掛けていなかったからな。ヤキモチを焼かせてしまったか。声に若干の寂しさを感じられた。

 リガロウを構っていなかった私のミスだな。謝罪の気持ちを込めて、この子を優しく抱きしめながら、首筋を撫でてあげよう。


 それはそれとして、ヴァス爺、か。リガロウもヴァスターのことを気に入ったみたいだな。

 ヴァスターもリガロウから愛称で呼ばれて嬉しそうにしている。ゴドファンスが言った通り、私の心配は杞憂に終わったようだ。


 さて、心配事も無くなったところで、先程の話について考えてみるとしよう。

 リガロウの魔力がヴァスターの魂の器に宿ることで、ヴァスターが魔術を使用可能となったそうだが、ちょうど器にリガロウの魔力が宿っているみたいだし、状況次第でその状況を確認してみたいな。


 〈承知しました。器に宿る魔力はそれほど多くはありませんので、あまり高度な魔術は使用できませんが…〉


 そう語り、ヴァスターは着火用の小さな魔術を発動して見せた。なるほど、大体分かった。


 ヴァスターの器には、本来は魔力が無い。

 だから普段は魔術を使用できないわけだが、逆を言えば魔力さえあれば魔術を使用可能なのである。

 多分、リガロウの魔力でなくとも器に魔力が宿りさえすれば問題無く魔術が使用可能だろう。


 良いことを思いついた。


 「ヴァスター。貴方の生前の魔力の色を教えてもらっていい?」

 〈はい。青と水色、そして緑です〉


 まさかの3色持ちだったとは。だとするなら、生前のヴァスターはかなり強力なハイ・ドラゴンだったんじゃないだろうか?

 それだけ力のあるハイ・ドラゴンだったのならば、魔力の制御も上手かったんじゃないか?

 まぁいい。今は捨て置こう。それよりも確認したいことがまだあるのだ。


 「ヴァスター、貴方は魔力を他者に感知されないほどに抑えることはできた?」

 〈よくご存知で。そうでもしなければ、周りが放っておいてくれませんでしたからね。身を潜めて生活していたら、いつの間にかできるようになっていましたよ〉


 魔力の制御を習得した経緯はともかく、問題無く魔力を抑えることが可能らしい。

 良いぞ。では魔力の色も分かったことだし、さっそく手のひらに魔力を集めて、生前のヴァスターと同じ3色の魔力を持った魔宝石を生み出すとしよう。


 魔石では駄目だ。魔石は魔力を使い切ってしまったらそれまでだからな。それ自体が魔力を産みだし続ける魔宝石の方が、私の目的に沿っている。


 魔石を生み出すだけでも大量の魔力を消費するのだから、魔法石を生み出すともなれば尋常ではない魔力を消費する。


 蜥蜴人達も膨大な魔力に驚いて様子を見に来たようだ。

 驚かせて済まない。すぐ終わらせるから、もう少しだけ我慢して欲しい。


 よし、魔宝石の完成だ。後は、この魔法石をヴァスターの器に埋め込めば、私の狙い通りの結果になってくれる筈だ。

 ヴァスターの器に魔宝石を埋め込めば、あっという間に器に魔力が満たされ、器の外に放出されていく。とは言え、埋め込んだのは直径1㎝のかなり小さな魔宝石だ。騒ぎになるほどの魔力ではない。


 〈こ…これは…!?器の奥から…魔力が溢れてくる…!〉

 「その魔力、制御できそうかな?他者に感知されないように抑えられる?」

 〈お任せを!少々驚きはしましたが、このぐらいであれば…!〉


 やはり、器にある魔力ならば問題無く制御できるらしい。器から溢れ出た3色の魔力は、ヴァスターが念じるとともに瞬く間に器の内部へと引っ込んでしまい、『モスダンの魔法』のような強力な解析能力が無ければ感知されなくなった。


 「これで貴方も気軽に魔術が使えるようになったね」

 〈そ、そのために私に魔宝石を…っ!?ありがとうございます!〉

 「良かったな、ヴァス爺!」


 ヴァスターが魔術を気兼ねなく使えるようになったことに、リガロウも嬉しそうにしている。

 それというのも、ヴァスターは魔術が好きだったのだと思うのだ。


 先程着火魔術を使用して見せてもらった時、若干の喜びと寂しさを感じたのだ。

 私はその感情を、魔術を扱える喜びと、生前習得していた数々の魔術を使用できないことへの寂しさだと捉えた。

 リガロウもそんなヴァスターの気持ちを理解していたからこそ、彼が魔術を気兼ねなく使えるようになったことを喜んだのだと思う。

 勿論これは私の勝手な解釈だが、ヴァスターの様子を見る限り、あながち間違いというわけでは無い筈だ。


 さて、ヴァスターを喜ばせたわけだが、彼にはもう一つ渡す物がある。


 「ヴァスター、一応聞くけど、貴方は『収納』を使用できるよね?」

 〈勿論使用可能です。何か、私が保管しておくべき物でもあるのですか?〉


 あるのだ。ヴァスターも喜んで、ついでにこの集落に新たな娯楽を提供させるための品が。

 目的の品を『収納』から取り出してリガロウの目の前に出す。


 「うん。コレを貴方に預けるよ。ついでに、この集落にコレを広めてくれると嬉しい。ああ、それと、よければリガロウにも教えてあげてくれるかな?」

 〈こ、コレは!?よろしいのですか!?〉

 「姫様、コレ何ですか?」

 「コレはチャトゥーガといって、遊びのための道具だよ。遊び方はヴァスターが知っている」

 「ああ、姫様が人間達の城で夜に遊んでたアレですか」


 今のところ、リガロウは興味なさげである。この子は体を動かすことが好きだからな。体を動かさず、頭ばかりを働かせるのは苦手なのかもしれない。


 リガロウの反応はいまいちだが、ヴァスターは反対に非常に嬉しそうだ。


 〈今日はなんと素晴らしく喜ばしい日なのでしょう…。いと尊き姫君様から魔術を取り戻させていただいただけでなく、こうして望外な品を下賜して下さるとは…!〉

 「ヴァス爺、ソレって楽しいの?」


 ヴァスターがあまりにも嬉しそうにしているため、リガロウも少しチャトゥーガに興味を持ったようだ。当たり障りのない質問をしている。


 〈最初の内は、面白みを感じないかもしれませんね。ですが、駒の動かし方が分かってくればその面白さが分かってきますよ。蜥蜴人達の長などは、すぐにその面白さを理解しそうですね〉

 「ふぅん…。俺にも遊び方、教えてくれる?」

 〈勿論です。いと尊き姫君様もそれをお望みです〉


 よしよし、良いぞ。少なくとも、リガロウはチャトゥーガを学ぶ意思を見せてくれた。もしかしたら旅行先でこの子達と遊べるようになるかもしれない。今から次の旅行が楽しみだ。


 さて、これで本当にこの集落での用件も済んだ。もうこの場での幻は消してしまって良いだろう。


 早速新しい私の玩具を作ろうじゃないか!

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