第413話 双龍刀・アンフィスバナエ

 蜥蜴人リザードマン達が、この辺りの樹木の端材を大量に抱えて持って来てくれた。

 それはいいのだが、どの程度必要なのかを先に言っておくべきだったな。


 「ノア様!お待たせいたしました!集落中の端材をかき集めてきました!!」

 「…うん。ありがとう…」


 まさか、集落にある端材をすべて持ってくるとは…。

 いや、使わないものだからなのかもしれないが、そんなに大量に必要ないのだが…。

 20体の蜥蜴人達が容積1㎥の籠一杯に詰め込まれた端材を抱えているのだ。

 総合的な体積で言えば、ティゼム王国で私が購入した木材の、ざっと5倍以上の量になる。


 彼等の態度からしてゴミを押し付けた、というわけでは決してない筈だ。端材もまた、彼等にとっては大事な資源の筈である。

 なにせ、彼等の住まいに取り付けられている飾りや、彼等自身が身に付けている装飾品も、恐らくは端材から作られているからだ。

 集落にある全ての端材をかき集めてくれたのは嬉しく思うが、それをそのまま受け取ってしまっては、彼等が使用する分が無くなってしまう。


 籠一つ分だけでも十分なのだ。折角持って来てくれたところ悪いが、残りは元の場所に戻してもらおう。


 籠を持っている者達の中で最も私の近くで片膝をついていた蜥蜴人の前に立ち、籠を受け取って『収納に』仕舞う。

 そこで私が他の端材を回収する様子が無いところを見て、他の蜥蜴人達がやや不思議そうにしている。


 「持って来てくれた端材は、貴方達も使うのだろう?私は今回収した分だけで十分だから、残りは貴方達が使うと良いよ」

 「おお…!我等のことを想って…!」

 「何と言う慈悲深さ…!」

 「ありがとうございます!」


 うん。なんとなくこんな反応をされるんじゃないかと思っていたさ。彼等は私に対して、深い恩義を感じているからな。

 しかも、それが自分達の住まう領域の最上位の存在ともなれば、彼等の反応は控えめとすら言える。


 この集落は一度、滅びかけていた。

 彼等は普通の蜥蜴人とは違う。宝石の透明感のある美しい鱗を持った宝麟ジュエルケイル蜥竜人リザードマンだ。その希少性と鱗の価値から、人間達からは鱗を求めて狙われる立場でもある。


 私が目覚めて間もない頃、と言っても目覚めてから2ヶ月近く経とうとしていたころだが、人間達に蜥蜴人達の集落を発見され、集落を滅ぼして彼等の鱗を一つ残らず回収しようとしていたのだ。


 同時期、大魔境"ドラゴンズホール"から同族から力だけはあるアホと称される類のハイ・ドラゴン達が、"楽園"に対して襲撃を仕掛けてきた。


 "楽園"に対する敵対行為なので当然容赦せずに排除したのだが、その際にこの集落の長と戦士長に、私の姿を確認されたのだ。彼等は一目で私こそが"楽園"の主だと判断したらしい。


 "楽園最奥"に住まう領域の主が、"楽園浅部"の問題を解決するために態々出て来たのだ。

 私の行動は、滅びを迎えようとしている蜥蜴人達に希望を持たせることとなった。


 その結果、蜥蜴人の集落を襲った人間達、カークス騎士団は全滅した。

 まぁ、実際にやったのはラビックだが、指示を出したのは私だ。私が全滅させたも同然である。とにかく、蜥蜴人達は救われたのだ。


 しかも、ただ救っただけではない。斃されてしまった彼等の遺体。人間達の格納空間に収められていたので、私が魔法を用いて格納空間を強制的に開放し、回収されてしまっていた蜥蜴人達を集落の者達に返したのだ。


 あの時は、姫を通り越してまるで神のように称えられてしまったな。今でこそ問題無く対応できるが、当時は彼等の圧にたじろいでしまった。

 そして、彼等の存在は私に人間に対して興味を抱かせ、私を人間達の生活圏へ旅行に行かせる動機となった。


 そんなわけで、彼等は自分達の集落を救ってくれた私に対して、非常に強い恩義を感じているのである。

 そのうえ、彼等から対価のようなものも私は受け取っていない。彼等としては、恩を返したくて仕方がないのだろう。


 事情を知らないリガロウやヴァスターが固まってしまっているな。後で簡単に説明しておこう。


 さて、樹木の端材を受け取ったら用件は終わり、ではない。むしろここからが本題だ。

 幻とは言え、私がこの集落に尋ねてきたと知り、集落中の蜥蜴人達が集まってきている。

 良い機会だから、戦士長に先程作った武器を渡すことにした。


 戦士長に向けて、声を掛ける。


 「ちょっといいかな?リガロウのこと、良くしてもらっているみたいだね。そのお礼として、貴方に渡したいものがある。使い方を今から実施して見せるから、少しこの場所を借りるよ?」

 「ノア様が私に…!?い、いや、それよりも!ど、どうぞご自由にお使いください!」


 今私が立っている場所は、先程までリガロウと戦士長が訓練のために戦闘を行っていた場所だ。

 彼等のために用意した合体蛇腹剣を披露するには、丁度良い場所である。


 私の要望を聞き、戦士長だけでなく、他の蜥蜴人達まで距離をとり始めた。

 これで合体蛇腹剣を振り回すのに十分な広さを確保できたので、早速見せてあげるとしよう。


 『収納』から分割状態の合体蛇腹剣を取り出せば、戦士長は非常に感心した表情をしている。

 先に私が渡したいものがあると告げていたので、とても期待に満ちた目をしているな。


 まずは分割状態での扱いだ。

 戦士長は、というよりもこの集落の大体の蜥蜴人達は幅20~30㎝、刃渡り1.3m以上ある幅広い巨大な曲刀を武器にしている。

 彼等は剣だけでなく長物も扱うが、長物に備わっているは物もやはり同じように1.3m以上の刀身を持った幅のある巨大な刃だ。

 とは言え、蜥蜴人達の体は人間からすればかなり大きいので、彼等からすればちょうどいい、片手剣サイズなのだろうが。


 「見ての通り、2本の剣として使える武器だ。貴方に渡すつもりだったから、貴方の使っている武器に合わせたよ」

 「…!」


 私からすればやや大きなサイズなので、少しだけ違和感を覚えるが、扱えないわけではない。しかも曲刀の扱いに関しては戦士長も熟知しているだろうから、あまり見せる必要はないだろう。

 1分間ほど演武を見せたら、本格的にこの武器の性能を披露していこう。


 「ここからがこの武器の披露だよ!」


 少しの魔力を曲刀の持ち手に流せば、蛇腹剣の機能が発動して刃渡り1.3mの刀身が、ワイヤーで繋がった20個の刃に分割される。


 「…!」

 「「「おおっ!」」」


 変形、分割する武器というものは彼等の知識には無かったようで、形態が変化したことに戦士長だけでなく他の蜥蜴人達もとても驚いている。


 この形態になった時の攻撃範囲は、曲刀時の3倍以上となる。ワイヤーにも魔術を施していて、外見通りの長さではなくなっているのだ。

 腕と手首の動きによって、まるで蛇の魔物のような動きを見せれば、戦士長はその扱いの難しさに気付いたようだ。

 先程以上に真剣な表情で武器の動きを見つめている。


 だが、この合体蛇腹剣の機能はこんなものではない。この程度はまだまだ序の口だ。


 「刃を繋げているワイヤーに魔力を流して、腕や手首を使わずに操作することも可能だよ」


 今度は腕を動かさずに魔力の操作で鞭形態の剣を操作する。

 この操作を利用すれば、かつてリナーシェが見せてくれたように、一部の刃を結合させた状態で振るうことも可能となる。

 勿論、腕を動かしながらの操作と魔力操作による動きを併用させることも可能だ。扱いこなせれば、正しく変幻自在の動きを実現可能となる。


 一通り鞭形態の動きも見せたことだし、次の機能を見せるとしよう。

 2本とも一度曲刀形態に戻して、柄頭同士を合わせることで2本の蛇腹剣を合体させて両剣形態にさせる。


 「な、なんと…!」

 「す、凄い!」

 「かっこいいー!」


 いつのまにやら蜥蜴人達の子供まで集まってきたようだ。

 人間達の襲撃に逢い、その数を100程度まで減らした蜥蜴人達は、数を補うために多くの卵を産むこととなった。

 現在集落で生活する蜥蜴人達の数は約300。

 200個も卵を産んだのかと言えばそうではない。宝麟蜥竜人はなにも集落にだけ生息していたわけではないからな。

 単独で活動していた蜥蜴人達が集落の状況を聞きつけ、集まってきてくれたのだ。


 彼等の協力もあって、大量に生まれた子供達は飢えることなく元気な姿を見せている。この集落もまた、幸せに満ちていたのだ。


 子供が元気でいることは良いことだ。未来があるからな。[子は宝]だと、本にも書いてあった。

 そんな宝達を守るためにも、戦士長には是非ともこの武器を使いこなせるようになってもらいたいものだ。


 「勿論、この形態でもさっきのように刀身の変形が可能だよ。当然、扱いも難しくなるけどね!」

 「「「「「おおおーーーっ!!!」」」」」


 両剣形態で刀身を分割させ、どちらの刀身も鞭形態に変形して武器を振り回す。

 これまで驚きの声を上げていた蜥蜴人達は、もはや歓声しか挙げていない。少なくとも、見てる分には良いものだと思ってくれたようだ。


 それにしても、こうして合体蛇腹剣を振り回して改めて思うが、やはりこの武器は使っていて楽しいな。

 一人で振り回している時ですらこれだけ楽しいのだ。この武器を用いて戦ったら、より楽しいと感じるのは、至極当然なのだ。


 さて、ここまで見せてきたのは、私の玩具としての合体蛇腹剣の機能だ。つまり、基本機能というヤツだな。

 だが、今回蜥蜴人達のために作ったのは、玩具ではなく集落を守るための武器だ。

 守護者に相応しい武器として、強力な魔術効果も付与しているとも。


 一度分割させた蛇腹剣に魔力を流し、一つ目の機能を発動させる。


 「ここからが本番だよ!」

 「おお!そ、それは!?」


 一つ目の機能。それは蜥蜴人達も嫌というほど知っている機能。魔力の刃の生成である。

 魔力を込める量によって生成できる刀身の大きさや強度、切れ味を変化できることに加え、込める魔力も任意で変更可能だ。

 マクシミリアンの剣はその辺りかなり自由に魔力を込められたのだが、他の騎士の武器は大抵の場合、込められる魔力量は一定だった。


 どうせだったら良いものを作りたかったからな。強力な機能の方を付けさせてもらったとも。


 当たり前の話だがこの魔力刃、分割形態かつ曲刀形態のみでしか使用できない、というわけではない。全ての形態で使用可能だ。

 鞭形態、両剣形態、合体中の鞭形態でも魔力刃が生成できるところを見せていく。


 一つ目、と語った通り、この武器に搭載させた機能はまだある。更に魔力を流し込み、2つ目の機能を発動させる。


 「加えて、こんな機能もあるよ!」

 「おおっ!?」

 「こ、これは…!?」

 「魔力の刃が…変化…っ!?」


 魔力刃が水の刃に変化し、更には水の刃が氷の刃に変化したのである。

 属性の付与だ。しかもこの属性の付与、決められた属性しか付与できないわけではない。使用者の込める魔力によって、属性が変化するのだ。

 だから私が自分の魔力を色分けすれば、今のように水や氷の刃を発生させられる、というわけだ。尤も、魔力色を分別できる存在は今のところ私しかいないのだが。


 そしていよいよ最後。3つ目の機能だ。魔力を操作して、発生させた魔力刃を、さらに操作する。


 「コレが最後の機能!」

 「「「「「おおおーーーっ!!!」」」」 


 勢いよく蛇腹剣を振り、氷の魔力刃を操作すれば、氷の魔力刃は勢いよく爆ぜ、周囲に強烈な寒波をまき散らしたのだ。更にもう一本の蛇腹剣の氷の刃は刀身から離れ、上空へと勢いよく飛翔していった。


 三つ目の機能。それは、近接武器による、遠距離攻撃手段である。

 この機能も魔力の操作次第でその性質を変化させることが可能だ。リガロウが放つ飛爪のように刃を飛ばしてもいいし、広範囲に属性攻撃を放つでもいい。

 勿論、それ以外にも攻撃方法はある。そこは使用者次第になるだろうな。


 当然、この機能もどの形態でも使用可能だ。

 全ての形態で一通りの機能を見せた後、合体蛇腹剣を両剣形態にさせて戦士長の元へ移動する。


 胡坐をかいて見学していた戦士長だったが、私が近づいた途端、慌てて胡坐を解き、片膝をついて頭を下げだした。

 …特に姿勢を治す必要はなかったのだが、好きにさせておこう。


 戦士長の前に立ち、合体蛇腹剣を差し出して声を掛ける。


 「この武器の性能は見ての通りだ。コレを貴方に授けよう。だけど、勘違いをしないように。この武器は貴方自身に渡すのではなく、この集落に渡す物だ。貴方が自分の後を継ぐにふさわしい者を見出した時は、その者にこの双龍刀・アンフィスバナエを継承してあげなさい」

 「ははぁっ!!委細、承知いたしました!!この集落を守護する者としてノア様より賜ったこの至高の武具、この手に預からせていただきます!!この先、この集落の守護者に代々継承させていただきます!!」

 「「「「「うぉおおおおおーーーーーっ!!!」」」」」


 戦士長がアンフィスバナエを恭しく受け取り、この武器を継承させていくことを宣言すると、周囲から今まで以上の歓声が集落中に響き渡った。


 「多分だけど、すぐに扱えるようになるものではないと思う。自在に扱えるように、励むと良いよ」

 「はっ!!日々研鑽を重ね、ノア様に見せていただいたあの技の数々、自分のものにしていきたいと存じます!!」


 うん。彼ならば宣言通り、私が見せた動きを自分のものにしてくれるだろう。


 リガロウの様子も見れた。蜥蜴人達に武器も渡した。だが、まだやるべきことが残っている。

 私はまだ、ヴァスターと話をしていないのだ。


 ヴァスターにも、色々話しておきたいことや試したいことがあるのだ。

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