第412話 集落に顔を出そう

 私の体の形状は元から人間とほぼ同じ形状をしていたから、マギモデルの操作も自然にできていたが、ウルミラ達は違うからな。多分、他の子達がマギモデルを扱おうとしても同じような結果になりそうだ。


 皆と対戦ができるようになるのは、もう少し時間が掛かりそうだな。

 ホーディやラビックの向上心と上達速度を考えれば、一週間後には対戦ができるようになるだろう。それまで対戦はお預けだ。

 どうせだから、バトルスタジアムの改良案でも考えておくとしよう。それに、やりたいことは他にもあるのだ。


 とりあえず、今はたどたどしくマギモデルを操るウルミラ達の姿を微笑ましく眺めておくとしよう。



 "黒龍城"に設けられた鍛冶工房に幻を出現させて、『収納』から壊れてしまった合体蛇腹剣を取り出す。

 お気に入りの玩具だからな。リナーシェが見せてくれた蛇腹剣の扱い方を参考に、修復と改良を行おうと思う。


 それと、耐久度の強化だな。

 リナーシェへのご褒美の条件に合体蛇腹剣の破壊を提示してみたが、流石に強度が弱すぎたと思っている。

 まぁ、私がリナーシェの実力と彼女の武器の性能を考慮して適正量の魔力を纏わせればよかっただけの話なのだが、やはりもう少し強度を上げようと思う。


 なお、攻撃力は据え置きだ。魔物や賊の討伐に使用するつもりもないからな。

 この合体蛇腹剣はあくまでも私の玩具であり、親しい者達とのじゃれ合いで見せびらかすためのものなのだ。実戦で使用する予定はない。

 とは言え、金属の塊であることには変わりないので、振り回すだけでもそれなりの破壊力が生じてしまうが。


 あ、そうだ。

 軽くて頑丈な素材なら、"楽園"の木材を使用すればいいじゃないか。

 "楽園浅部"の木材ですら、同じ体積で作った鋼鉄の武器よりも頑丈になるのだから、素材として最適だ。


 ティゼム王国で購入した"楽園浅部"の素材には、まだ余裕がある。それを使えば良いのだが、今回は蜥蜴人リザードマン達から融通してもらえないか確認してみようと思う。

 昨日別れたばかりではあるが、リガロウの様子を確認しておきたいのだ。

 あの子は蜥蜴人達やヴァスターと仲良くやっていけそうだろうか?正直気になっているのだ。


 特に、ヴァスターとは今後長い付き合いになるだろうからな。今後旅行に行く際には、私以上に一緒いることになるのだから、仲良くやって欲しいのだ。


 ヴァスターの方は心配していない。彼は非常に成熟した精神を持っているようだったし、リガロウのことを可愛がりたい様子だったからな。

 あの雰囲気は、遠目から孫の遊ぶ様子を眺める祖父のような雰囲気に似ていると感じた。彼の方からリガロウと不仲になろうとすることはないだろう。


 良し、気になるのだから様子を見に幻を集落に出現させよう。そのための『幻実影ファンタマイマス』だ。こういう時にこそ有効活用しないとな。


 だが、幻を出す前に龍脈を経由した『広域ウィディア探知サーチェクション』を用いて、集落の様子を確認してみよう。


 …リガロウ、食後なのだろうか?気持ちよさそうに眠っている。寝顔が可愛い。

 見たところ、寝床もかなりしっかりした物を用意されているうえに専用の建築物まで用意してくれたみたいだ。あの子が私の眷属のためか、非常に敬われているみたいだな。素直に嬉しく思う。


 すぐにでもあの子の傍に転移して顔を優しく撫でてあげたいが、ここは我慢だ。本体が突然あの場所に現れたら、騒ぎになってしまうだろうからな。集落には、幻を出現させるだけに留めるのだ。


 それはそうと、私の可愛い眷属を良くしてくれているのなら、蜥蜴人達には何か褒賞を渡した方が良いのではないだろうか?

 しかし渡すとして、何か良いものがあるだろうか?

 彼等ならば私が渡す物はなんでも喜びそうだが、どうせ渡すのなら彼等にとって有用なものを渡してあげたい。


 ………だめだ、いい案が思い浮かばない。

 やはり、こういう時は一人で考えるよりも有識者に頼るべきだな。


 「って言うわけなんだ。何か彼等が喜びそうな、それでいて彼等の生活に役立てそうな物に心当たりがあったりしない?」

 〈いきなりの難題ですな…。儂も彼奴等の生活を詳しく知っているわけではありませんからのぅ…〉


 広場にいる者の中ではヨームズオームを除いて最も年長であり、下々のことも考えているゴドファンスに何か良い案が無いか尋ねてみた。

 が、帰ってきたのは、至極まっとうな意見だった。


 ゴドファンスは、というかヨームズオームを除いてこの広場にいる者達は全員が"楽園最奥"の産まれであり、"楽園浅部"の様子を詳しく知らないのである。

 むしろ、頻繁に"楽園"に採取に来ている人間達の方が詳しいまであるんじゃないだろうか?

 ティゼム王国の図書館の内容を見る限り、その可能性は非常に高い。


 ありがたいことに、私の要求に難しいと言いながらもゴドファンスは答えを探すために思案してくれるようだ。私も彼に頼るだけではなく共に考えよう。


 目を閉じて空を仰ぎながら考えること10分、ゴドファンスが天啓を得たと言わんばかりにカッと目を見開く。


 〈閃きましたぞ!おひいさま!〉

 「流石だね、ゴドファンス。それで、どういう物が良いかな?」


 割と時間を掛けずに、ゴドファンスは蜥蜴人達に何を与えたらいいのか、両案を思いついてくれたようだ。頼りになるな。


 〈おひいさまはこれから彼奴等の集落に例の玩具の材料を求めに顔を出すのでしたな?〉

 〈うん。まぁ、そっちは建前なんだけどね〉


 必要な素材自体は私は既に持っているからな。

 素材を求めて集落を訪ねるのは、あくまでもリガロウやヴァスターが良い関係を築けているか、蜥蜴人達と上手くやっていけそうかを確認しに行くための口実である。


 〈そちらは心配する必要はないと思いますがのぅ…。まぁ、それはさておき。おひいさまのあの玩具、実際に武器として作り、あの集落で最も強い者に与えてやるのは如何でしょう?〉

 「…良いね。うん、それでいこう。良く思いついてくれたね。ありがとう」


 ゴドファンスの首筋に抱き着いて、優しく毛並みを撫でさせてもらおう。礼になっているかどうかは別として、感謝の印である。

 やや硬くはあるが、洗料によってサラサラのツヤツヤになった毛並みを全身で堪能できて心地いい。

 目を閉じて気持ちよさそうにしてくれているから、きっと彼も喜んでくれているのだろう。


 〈ほっほっ…!おひいさまのお役に立てたようでなによりですぞ。いつでも頼ってくだされ〉

 「うん。また何かあったら相談させてもらうね?」


 さて、そうと決まれば蜥蜴人達の集落に顔を出す前に、私の玩具を作る練習も兼ねて彼等に渡す武器を作ってしまおう。


 鍛冶工房に出現させている幻を操作し、『我地也ガジヤ』を用いて素材となる金属を生み出す。素材は奮発して、アダマンタイトとオリハルコン、更にミスリルを混ぜ合わせた合金だ。


 単一ではなく複数の金属を混ぜて均一にさせたものを生み出すため、人間からしてみれば尋常ではない魔力を消費することになるが、私から見れば微々たるものだ。

 私ならばプリズマイトを精製して武器に加工することも十分可能ではあるが、万が一にもプリズマイト製の武器を人間達に確認されたら、手に入れようとする者が殺到するに違いない。


 まぁ、今の戦士長ならばそんな人間達でも余裕をもって撃退できるだろうが、そんなことになるぐらいなら最初から用意しなければ良いだけの話なのだ。今回の素材でも、十分に強力な武器になるからな。

 ちなみに、今回の合金を生み出す際に使用した魔力量は、この合金の半分の量のプリズマイトを生み出す魔力量にも満たなかったりする。


 素材も用意したことだし、手早く武器を作っていこう。どうせだから、何か魔術効果も付与させよう。



 武器の制作を始めてから3時間、蜥蜴人達に渡す武器が完成した。素材を考えれば、結構短時間で完成したのではないだろうか?


 とにかく、物はできたのだし集落に幻を出現するとしよう。ゴドファンスに相談する前のリガロウは気持ちよさそうに眠っていたが、今はどうだ?


 …うん、普通に起きているな。戦士長と実戦形式の訓練を行っているようだ。リガロウ、押されているな。

 ヴァスターも的確に指示を出しているし、リガロウも素直にその指示に従っているようだが、戦士長はその上を行くようだ。単純に、動きが機敏なのである。


 噴射加速があるから直線的な移動速度だけならばリガロウの方が圧倒的に速いが、武器を振る速度や回避の動作など、至近距離での戦闘における速度は、戦士長の方が圧倒的に速いのだ。

 ヴァスターの指示のおかげで何とか対応できてはいるが、それでも翻弄されている。ああ、良いのを貰ってしまったな。勝負ありだ。


 進化を果たし、修業を経てリガロウはとても強くなりはした。

 だが、それはあくまでも人間の視点での話だ。この世界には、まだまだ上がある。今回の訓練は、それを知る良い機会になっただろう。


 リガロウは多少の悔しさを覚えてはいるものの、癇癪を起すような気配はない。

 訓練が終われば戦士長と親し気に会話をしているし、先程の戦闘を思い出しながら、体をゆっくりと動かして動作を確認している。


 良い傾向だ。

 蜥蜴人達とはうまくやっていけそうだし、リガロウはこれからもどんどん強くなっていくだろう。


 良し、それじゃあちょうどいいタイミングだろうし、そろそろ集落に幻を出現させるすとしよう。


 リガロウ達の前に幻を出現させると、リガロウは目と口を大きく開いて驚いているし、戦士長は私の姿を見るなり即座に片膝をついて頭を下げだした。リガロウ達の訓練を見守っていた他の蜥蜴人達も同様である。相変わらずの反応だ。


 「お疲れさま。精が出るね」

 「っ!?ひ、姫様!?」

 「幻とはいえ、良くぞ我らの集落にお越しいただきました!本日は、どのようなご用件でしょうか!?」


 やるな、戦士長。彼は『幻実影』の幻を見るのは初めての筈なのだが、一目見て幻だと気付いたらしい。

 オーカドリアの影響を受ける前から、戦士長は人類最強の一人と言われていたマクシミリアンと互角以上に戦ったことがあるのだ。

 純粋な肉体の強さだけでなく、優れた観察眼や洞察力を持っているようだ。先程の訓練中に見せた動きも納得である。


 先程の健闘を称えてリガロウを撫でながら、幻を出現させた理由を伝えるとしよううん。


 「用件を伝えよう。リガロウは知っていることだけど、私にはお気に入りの玩具があってね。つい最近、壊れてしまったから、新しいものを作り直すための素材が欲しいんだ。端材でいいから、この辺りの木材がある様なら分けてもらっていいかな?」

 「勿論です!すぐに用意させますので、今しばらくお待ちください!」


 おお、随分とあっさり要求が通ってしまったな。これはありがたい。

 端材を用意してもらっている間に、リガロウやヴァスターと話をしておこう。


 「リガロウ、まだ昨日の今日だけど、ここでの生活はどう?」

 「悪くありません!みんなとても丁寧に接してくれますし、食事も美味かったです!寝心地の良い寝床も用意してもらえましたし、言うことはありませんね!なにより、良い稽古相手がいることが嬉しいです!」


 うん。良くしてもらっているようだな。蜥蜴人達とも良好な関係を築けているようだし、ゴドファンスの言った通り、私の心配は杞憂に終わったか。

 ああ、でもそれはあくまでも蜥蜴人達との話に限るのか。もう一つの懸念はどうだ?


 「ヴァスターとはどう?彼とはこれから永い付き合いになるだろうけど、上手くやっていけそう?」

 「大丈夫だと思います。姿が見えないのに声が聞こえるのは、少し違和感を覚えますけど、声を掛けてくる時は決まって俺のことを思っているんです。正直、ちょっと気恥ずかしいですけど」


 こちらの心配も杞憂に終わるようだな。リガロウには、ヴァスターの気持ちが読み取れるらしい。これならば、悲しいすれ違いが起こることもないだろう。 


 ヴァスターにも話を聞いてみたかったのだが、ここで蜥蜴人達が端材を持って戻ってきた。


 先に、彼等への用事を済ませておくか。

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