第407話 急成長

 頭をつつかれるこの感覚、懐かしさを覚えるな。

 朝が来たようだ。体を起こし、朝を知らせてくれた可愛いカラス達に、お礼と朝の挨拶をしよう。


 「おはよう、レイブラン、ヤタール。こうして直接起こしてもらうのも、随分と久しぶりだね」

 〈私達の仕事だもの!お安い御用よ!〉〈おはようなのよ!他のみんなは外で待ってるのよ!〉


 皆が既に起床して家の外に出ているのも、今まで通りのようだな。

 私も服を着て寝る際に体内に仕舞った角と翼を出したら、外に出るとしよう。皆に今回のお土産を渡してあげるのだ。


 そう思い、扉を開けて外へ出たのだが、目の前の光景にそれどころではなくなってしまった。


 オーカドリアの樹が、更に巨大になっていたのだ。


 確かに昨日好きなだけ魔力を取って行っていいと伝えたし、オーカドリアも遠慮なく私から魔力を回収していったが、だからと言って成長しすぎではないだろうか?

 私が今回の旅行に出かける際に確認したオーカドリアの樹高は、約114m。そして昨日の時点では121m程度だったのだ。


 それが、今では150m近くにまでに成長している。

 オーカドリアの存在は世界中で認識されているだろうから、ちょっとした騒ぎになるかもしれないな。

 私がニスマ王国から家に帰るタイミングと被っているから、そこから私と"楽園"とを関連付ける者が現れないか少し警戒する必要がありそうだ。


 いや、やっぱり今確認しておきたいな。こういう時に頼りになる神がいるからな。頼らせてもらおう。


 〈『で、人間達の反応はどんな感じなの?』〉

 〈『流石にとても驚いているね。今はまだ貴女と関連付ける者はいないけど、時間が経つにつれてそう考える者は現れるかもしれないね。何分、認識したばかりのことだからね。これからどうなるかはまだ分からないさ』〉


 それもそうか。だが、もしも私と"楽園"を関連付ける考えを持った者が現れたのなら、その時はルグナツァリオに教えてもらうとしよう。人間のフリをして行動をしている現状では、要注意人物になる。


 ユージェンやモスダン公爵は…もしかしなくても、正確な答えに辿り着いてしまうかもしれないな。

 とは言え、私は彼等から畏れられてこそいるものの、敵対しているわけではないのだ。どちらも私の不興を買うことを極力避けるように行動するだろうから、心配はしていない。


 皆もオーカドリアの前で待機しているわけだし、まずは目の前の精霊樹について話をしようか。


 「おはよう、皆。一晩で凄いことになったね」

 〈おひいさまの魔力の賜物ですな〉

 〈ノア様の魔力を受け取ったオーカドリア、とても喜んでいたよ〉

 〈ノア様!蕾ができてたわ!もう少ししたら花が咲くかもしれないわ!〉〈いっぱい蕾ができてたのよ!果実もいっぱい実ってるのよ!〉


 そうか。蕾が付いたのか。と言うことは、旅行に行く前にオーカドリアやオーカムヅミが花を咲かせるところを見れるかもしれないんだな。

 ホーディが言うには、"楽園最奥"全体の景観が変わってしまうほどの絶景らしいし、とても楽しみだ。


 オーカドリアに頼めば、花を咲かせる時期を早めてもらえるが、今のところは自然に花が咲くのを待つとしよう。

 花が咲く時期になる前に、現在も移動している"女神の剣"達がドライドン帝国に到着した場合は、癪ではあるが花を咲かせてもらうとしよう。

 蕾が付いた以上、あの国に行く前に花を咲かせたところが見たいのだ。

 話を聞く限りでは、オーカムヅミは熊の月と兎の月の間は花を咲かせているらしいからな。可能性はあるのだ。


 人間達の風習の中に、花見と呼ばれる風習がる。

 一面に咲き誇る花に囲まれながら、親しい者達で飲食を行う、宴会の一種である。当然、酒も出る。花見酒という言葉もあるぐらいだからな。

 特に、盃に注がれた酒の水面に舞い散った花弁が乗る光景が、風流があって良いのだとか。

 残念ながら、その光景を描いた写真や絵画と言ったものが確認できなかったため、どれほどの良さがあるかは分からない。私には酒の良さも分からないため、尚更だ。

 だが、ホーディやゴドファンスはきっと楽しめるのだろうな。やはり羨ましい。

 フレミーの場合は、失礼かもしれないが酒があればソレで良さそうなので、何とも言えない。


 まぁ、花見の楽しみは酒だけではないのだ。

 視界一杯に咲き誇る花々や舞い散る花弁を楽しみながら、美味い料理を味わうだけでも、とても楽しめる筈だ。とても楽しみである。


 さて、オーカドリアに触れて少し話をしてみよう。


 おはよう。たった1日でとても成長したね?


    貴女がくれた魔力のおかげだよ ありがとう


 どういたしまして。蕾が付いているようだけど、自然に任せたらどれぐらいで咲きそうか分かる?


    大体1月くらい先だよ 今から咲かせる?


 いや、できることなら自然に咲いたところを見たい。ただ、外の状況次第では花を咲かせてもらうかもしれない。


   うん 分かった 綺麗な花 沢山咲かせるね?


 楽しみにしているよ。


 1月後か。それぐらいならば、自然に任せても花が咲く光景を眺められそうだ。オーカドリアの成長を眺めながら、ゆっくりと花が咲くのを待つとしよう。



 さて、それでは今度こそ皆にお土産を渡していこう。

 最初はラビックの武術書だ。


 〈私が最初に受け取ってよろしいのですか?〉

 「フレミー達には全部ではないけど、昨日既に振る舞ってしまったからね。レイブランとヤタールは皆よりも先に私に会ったし、ウルミラはずっと私とくっついていた。何だか君だけ蔑ろにしているような気がしてね」

 〈滅相もありません。姫様の思うままにしていただければ良いかと。ですが、気を遣っていただき、ありがとうございます〉


 恭しく武術書を受け取ると、ラビックは早速オーカドリアの幹に背に預けて腰を下ろし、黙々と本を読み始めた。本当に真面目な子だ。

 幻を出してあの子の隣に座りたいが、昨日の失態がある。我慢しよう。


 次はラフマンデーだな。この娘はハチミツが詰まったガラス瓶を抱えている。


 〈主様!ここ最近で抽出できた一番の出来の蜜でございますぅううう!!!〉

 「ありがとう。私の方からはコレを」


 ハチミツの入った瓶を受け取り、私からはニスマ王国で購入した植物の種を渡す。どれも私の魔力を少し馴染ませている。勿論、普通に育ってもらうために[できれば魔物化しないで欲しい]と念じたうえでだ。


 念じても精霊化してしまった経験があるため、彼等の意思をなるべく尊重したいがために[できれば]、と少々控えめな念じ方になってしまった。…もしかしたら、前回よりも精霊化する種が多くなりそうな気がする。


 〈おおお…!!〉

 「また、この子達の世話を頼めるかな?精霊化した場合、君の配下にして良いよ」

 〈あああ…ありがたき、ありがたき幸せぇえええええ!!!妾に職務を与えて下さるだけでなく!配下までぇえええええ!!!ひょおおおおおおーーーーー!!!〉


 飛んで行ってしまった。まぁ、いつものことか。少ししたら種も植え終わっているだろうし、放っておこう。


 それよりも、今はラフマンデーから受け取ったハチミツだな。

 昨日寝る前にゴドファンスが教えてくれたのだが、私が旅行に行っている間に結構な量のハチミツが生産されていたらしい。

 皆自分の収納空間には、2ℓ入りのガラス瓶が最低1本は仕舞ってあるうえ、城にも大量に保管してあるのだとか。


 ちなみに、ホーディは収納空間に必ず5本以上仕舞っているらしい。気分によっては1日に1本食べきってしまうのだとか。

 ひたすらにハチミツを食べ続けるホーディ…。絶対可愛いぞ?後で一緒にハチミツを食べて、その姿を拝ませてもらおう。


 ラフマンデーは、オーカドリアの果実を食べたことで、眷属の数がかなり増えたのだ。それはつまり、大量にハチミツを作れるようになったと言うことである。

 十分な量があるので、ハチミツを使った飴も大量に作れそうだな。アレはかなり気に入っているのだ。次の旅行に行く前に、必ず作っておくとしよう。

 尤も、オーカムヅミの果実を丸々1個食べるような物なので、人間に振る舞うつもりは無いが。


 ラフマンデーの作ったハチミツは、今では大量に在庫がある。だが、その品質はすべてが均一ではない。

 彼女が作るハチミツと、彼女の眷属や配下が作るハチミツとでは、品質に大きく差が出るようなのだ。しかも彼女が作るハチミツ自体、彼女の調子によって品質が変化する。

 彼女が最高の品質だと認めるハチミツは、相変わらず少ないのである。


 量が非常に少ないため、そういった最高品質のハチミツはすべて私に献上されている。勿論、独り占めにするつもりは一切無い。皆で等しく楽しむのだ。

 そのまま食べても絶対に美味いのは分かっているが、しばらくは調味料として使おうと思っている。それでも大量に消費してしまうのは、変わりないだろうがな。


 小さじで一掬いして口に運べば、得も言われぬほどの甘美な味わいと花の香りが口の中に広がっていく。相変わらず見事な出来栄えだ。後で皆にも同じ量を提供しておこう。

 うん、ホーディ。少しだけど後でちゃんと食べさせてあげるから、そんな目で見つめないでほしい。今は皆にお土産を渡したいんだ。もう少しだけ待っててくれ。


 再びオーカドリアに触れ、ニスマ王国で購入した花そのものを渡しておく。花の情報を欲しているようだからな。


   これが 外の花なんだね ありがとう もらうね?


 良かった。ちゃんと喜んでくれたようだ。彼女が取り込んだ花の情報が、今後咲かせる花に影響が出るというのであれば、これからも様々な花を購入して渡していこうと思う。


 ラフマンデーとオーカドリアの次は、レイブランとヤタールだ。この子達には従魔用のアクセサリーだ。コレは少し変わった機能を持ち、一般的な首飾りのように鎖で首に掛けたり足環のようにはめ込む必要がない。

 アクセサリーの裏面を装備させたい従魔に近づければ、磁石が鉄に張り付くように勝手に装着されるのだ。


 まぁ、私はレイブランとヤタールと従魔契約を結んでいるわけではないが、それでも問題無く効果を発揮する筈だ。効果を発揮しないようなら、解析して効果を発揮するように改造してしまえばいい。


 というわけで、自動装着型のブローチを2羽に近づけると、問題無く彼女達の胸部に装着できた。これならば、動作を阻害されることもないだろう。


 〈あら!動きやすいわ!それにキレイよ!〉〈ツヤツヤでピカピカなのよ!動きやすいのよ!嬉しいのよ!〉

 「気に入ってくれた?」

 〈勿論よ!ノア様ありがとう!〉〈素敵なのよ!気に入ったのよ!〉


 喜んでもらえたようでなによりだ。

 さて、レイブランとヤタールの装飾品なのだが、実を言うとこれだけではない。

 いや、今ここで渡せるのはこれだけなのだが、私には彼女達のために用意した装飾品がまだあるのだ。


 そう。アクレイン王国でホーカーに依頼した装飾品である。

 注文をしてから約4ヶ月だ。そろそろ完成していてもおかしくないだろう。

 彼が美術コンテストで制作した作品と同レベルの品質ならば、比較するべくもなく今この娘達に取り付けたブローチよりも高品質である。


 ホーカーから装飾品をを受け取ったら、この娘達に取り付けたブローチと同じ機能を付けるのだ。きっと、とても気に入ってくれる筈だ。

 ドライドン帝国に行く前に、一度ホーカーの元に顔を出して、装飾品を受け取るつもりだ。


 レイブランとヤタールにブローチを渡したら、次はウルミラの番である。だが、この娘に渡すお土産は正確にはこの娘だけのものではない。

 渡すお土産は、所謂対戦ゲームというヤツだからな。一人ではできないのだ。

 いや、やろうと思えばできないことはないだろうが、それは遊びというのとは少し違う気がする。


 実を言うと、購入した後で喜んでくれるかどうか、少し不安になったお土産だったりする。気に入ってくれればいいのだが…。


 ウルミラへのお土産は、チャトゥーガである。


 〈今回のは何だかゴチャってしてるね?コレってどうやって遊ぶの?〉

 「うん、今から説明するね」


 チャトゥーガのルールを説明して、一度ウルミラと対戦してみることにした。その様子は、他の子達にも興味を引かせる光景になったようだ。

 少し離れた場所で本を読んでいるラビックも、私達が駒を動かすたびに耳が小さく跳ねているので、対局の内容を把握しているのだろう。


 思った通り、レイブランとヤタールはあまり興味がないようだな。じっとしているのが苦手な娘達だから、対局の様子を少し眺めた後は、空へと飛び去ってしまった。


 〈う~んと…。ここをこうするとこうだから…。ご主人、コレ、結構難しいね!〉

 「そうみたいだね。相手によって難しさが変わるから、他の子とも対戦してみると良いよ」

 〈つまり、儂等もこの遊びを行ってもよろしいのですな?〉

 「勿論だとも。皆で遊ぶと良いよ」

 ―わーい!ウルミラー、次ぼくとやろー―

 〈うん!でもちょっと待っててね…。良い手が、なかなか見つかんなくって…〉


 レイブランとヤタール、それから正気に戻って懸命に種を植え始めているラフマンデー以外はチャトゥーガに興味を持ってくれたようだ。


 2セット購入しておいてよかったな。むしろ、これでは少し足りないかもしれない。まぁ、この子達なら必要なら『我地也ガジヤ』で駒も盤も作ってしまうだろう。

 もう一つのセットは、ヴァスターかリガロウに預けてもいいかもしれない。

 ヴァスターもチャトゥーガを知っていたからな。次に集落に顔を出したら集落でチャトゥーガが流行っているかもしれない。



 1時間かけて対局を終わらせたら、次は酒好きの3体、ではない。あの子達は昨日風呂でかなり楽しんでいたからな。最後まで待ってもらおう。


 「ヨームズオーム、ウルミラとの対局、ちょっとだけ待ってもらえるかな?」

 ―うん、分かったー―


 次のお土産を渡すのは、ヨームズオームだ。

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