ドライドン帝国へ往く!!

第403話 インテリジェンスアイテム

 ある程度飛行を続け、ニスマ王国の領土を離れたところで、フレミーの服に着替えるとしよう。今のままでは翼を出した時に服を破いてしまうからな。


 着替える際に、リガロウの噴射飛行による風圧は全く考慮する必要がない。風圧は結界を発生させて防護できるからだ。


 フレミーの服を取り出した直後、服に宿る魔力を感じ取って、リガロウがとても動揺している。


 「そ、その御召し物からは尋常ではない力を感じます…。一体…」

 「コレ?家で一緒に暮らしてる私の友達が作ってくれてる服の一つだよ」

 「つ、つまり姫様はソレと同等の御召し物を大量に所持していると…」

 「そうだね。でも、君が驚くのは多分これからだよ?」

 「え?」


 フレミーの服に着替え終わり、人間が認識できないほどの硬度を確保できた今、自身の姿を偽る必要はない。

 『瞳膜』を解除し、角と翼を体外へと出現させる。

 …2ヶ月近く体内に仕舞いっぱなしだったから、開放感が凄いな。今すぐにでも翼を用いたあらゆる手段で、この空を好きなだけ飛び回りたい気分だ。


 だが、今はリガロウが一緒にいるのだ。私が制限無く飛行してしまうわけにはいかないだろう。防護はするが、それでもこの子が無事でいられるかは分からないのだ。


 私の本来の姿を認識し、リガロウが口を開けて唖然としている。

 この子に私の本来の姿を見せるのは、今回が初めてだったからな。驚くのも無理はないか。


 「ほぁあ………」

 〈おお…なんと美しく、そして神々しいのだ…!まさしく、"楽園"の主に相応しき御姿…!〉


 この反応、もしかして見惚れているのか?少なくとも、ハイ・ドラゴンの魂は見惚れてしまっているようだ。


 「リガロウ、大丈夫?」

 「ふぁっ!?す、すみません!あ、あまりにも美しくて…!」


 純粋に私の外見を褒めてくれているようだ。

 眷属からの純粋な言葉だからか、不思議と他の者達からの称賛の言葉よりも嬉しく感じる。だから、私も素直に感謝の言葉を返すとしよう。


 「そっか。うん。ありがとう」

 「クグルォゥ…」


 おや、私からの感謝の言葉を受け取って照れてしまっているようだ。やはり私から見たリガロウはとても可愛らしい男の子だ。


 〈フフ、いと尊き姫君様も、罪な御方ですな。この幼子、貴女様以外の雌に興味が行かなくなってしまうかもしれませんよ?〉

 「………」


 ううむ。それは、少し悪いことをしてしまっただろうか?

 この子も将来的には番を得て子を残すだろうし、理想的な異性を探すことになるとは思うのだが、その異性選びで私を基準にしていたら相手が見つけられそうもない。

 ハイ・ドラゴンの魂はそう言っているのだ。


 「ドラゴンの寿命は永いんだ。そういった問題は、時間が解決してくれるさ」

 〈フフ、かもしれませんね。そもそも、我々は子を残さずに星に還る者達もいるぐらいですから…〉


 多分だが、私が連れているハイ・ドラゴンの魂も子を残さずに星に還るドラゴン達の一例なのだろう。彼の言葉は、何処か自嘲気味だったからな。


 それはそうと、そろそろルグナツァリオのいる場所まで移動しよう。


 「リガロウ。これから君を、ある超常の存在の元に連れて行くよ」

 「ふぇ?」

 「舌を嚙まないようにね?」


 そう注意喚起をしてから、久しぶりに自分で噴射飛行を行う。

 直後、私達は急加速を開始し、視界が狭まる。


 「ぶふぇ!?」

 〈おお…!これが、いと尊き姫君様の…!〉


 防護はしている筈なのだが、やはりリガロウにとっては速度が出すぎているのか。とても驚いている。


 「も…物凄い速さで…更に上空に…!?」

 「それほど時間は掛からないから、もう少し我慢していてね?」


 リガロウの魔力噴射も手伝って、私達はかなりの速度で移動している。

 と言っても、全速力で移動したときのような、光速を超えた速度で移動しているわけではないが。

 もう数十秒もすれば、ルグナツァリオのいる場所に到着することだろう。

 彼には既に顔を出すことを伝えている。相変わらず今か今かと私達の到着を待ちわびていることだろう。


 ロマハと下らない口喧嘩をしていなければ良いのだが…。



 私の懸念は杞憂に終わった。

 私達を迎えたのは、非常に穏やかな気配を発しているルグナツァリオの巨大な龍の顔面だったのだ。


 『よく来たね。君達を歓迎するよ』

 「………」

 〈ま…まさか…貴方様は…っ!?〉

 「紹介しよう。彼の名はルグナツァリオ。人間達は天空神と、魔族や貴方達は龍神と呼び敬う存在だよ」


 リガロウがルグナツァリオの巨大さや魔力に圧倒されて、口を大きく開けたまま唖然としてしまっている。やはり衝撃が強すぎただろうか?

 望んでいた反応ではあるが、後で謝っておいた方が良いかもしれない。それに、この後にもこの子よりも遥かに強い力を持った子と対峙することになるわけだしな。


 レイブランとヤタールが、私を蜥蜴人リザードマン達の集落で出迎えるそうなのだ。

 リガロウをあの場所に預けると説明した際に、通達には自分達が向かうと言い出して、今頃は集落で待機している頃だと思う。

 ありがたいとは思うのだが、この子や蜥蜴人達が怯えてしまわないか少し心配でもある。

 あの娘達、少しは魔力を抑えられるようになったのだろうか?


 まぁ、今はあの娘達のことよりも目の前のルグナツァリオだな。ついでにロマハに声を掛けて、ハイ・ドラゴンの魂の処遇についても話をしておこう。


 私が何かを言うよりも、ルグナツァリオの方が先に私達に声を掛けてきた。


 『そうして飛行し続けているのも億劫だろう?私の好きな場所に乗ると良い』

 『初めて会った時にも、そんなやり取りをしていたね』

 『ああ、まだ一年も経っていないというのに、既に懐かしさを覚えるよ』


 以前のように再び彼の上に招待されたので、遠慮なく頭の上に乗らせてもらおう。彼の髪は一本一本が太いが、意外と触り心地が良いのだ。


 ルグナツァリオの頭の上に着陸してリガロウから降りると、そこでようやくこの子も言葉を発せられるぐらいには正気を取り戻せたようだ。

 『真言』を始めて耳にして、その感想を述べている。


 「あわわわわわ…。知らない言葉の筈なのに、何を言ってるのか理解できてる…。姫様、何だか気持ち悪いです…」

 「まぁ、そう思うのも無理はないかな?『そういうわけだから、この子が理解できる言葉で話さない?』」

 「そうだね。そうしようか。済まなかったね、幼い竜の子よ」

 「ひぇっ!?」


 どうやらリガロウにとってはルグナツァリオは恐怖の存在らしい。


 その理由が、分からないでもないがな。

 圧倒的過ぎるのだ。リガロウにとって、ルグナツァリオの存在は。


 しかも、彼は龍であってドラゴンというわけではない。似たような物ではあると思うが、私達とは微妙に異なる存在なのだ。

 圧倒的な存在感と巨体、そして力を持った理解不能な存在。初見で怖いと思っても、無理はないのだ。


 だが、実際のルグナツァリオは慈悲深く温厚な存在だ。怖がる必要はない。あまり怖がっていると、気を落としてしまうかもしれないしな。

 リガロウを宥めておこう。


 ハイ・ドラゴンの魂の方はどうだろうか?彼はルグナツァリオのことを知っていたようだが…。


 〈いと尊き姫君様は、龍神様と知己を得ていたのですね…〉

 「まぁね」

 「知己どころではなく、私は何時でもノアと友諠を結んで良いと思っているのだけどね、同僚達がうるさくてねぇ…」

 「おい」


 まだ諦めてなかったのか。私が正体を公開するまで待てと言っているのに…。そんなだから駄龍認定されるんだ。

 今はまだダンタラが寝ているからと、好き放題言うつもりか?殴りつける思念を送る準備はできているぞ?


 「じょ、冗談だよ。私とて、貴女の不興を買いたくはないからね。うん、時が来るのを大人しく待つとも!」

 「冗談になっていないからな?」

 「ま、まぁ、私と彼女の力の関係はこんな感じだよ。我々よりも、ノアの方が力が上なのだよ」

 〈なんと…!〉


 ハイ・ドラゴンの魂は私の力を正確に理解していたわけではなかったのだな。ルグナツァリオよりも力関係が上だと知って、驚きを隠せないでいる。


 さて、こうして顔を合わせたことだし、そろそろ用件を済ませよう。まずは、私の次の旅行先についてだ。


 「ところでルグナツァリオ、あれからドライドン帝国に変化はあった?」

 「今のところはそれほど大した変化はないよ。だけど、近い将来大きな変化が起きそうだ」

 「それは、"女神の剣"関連で?」

 「それもある」


 と言うことは、他に何か大きな変化が起きる要因があるというのか?

 皇帝の後継者問題でジョージが国から出られない状況になったのはルグナツァリオから聞いているが、そちらでも大きな問題が起きたとでも?


 「ああ、後継者を決めるのに、一対一の決闘を総当たりで行うという話は覚えているね?」

 「勿論。随分と荒っぽい方法だとは思うけどね」

 「その決闘が開始される時期とニスマ王国から移動した"女神の剣"達がドライドン帝国に到着する時期。この二つの時期が被っているんだ」

 「偶然で片付けるわけにはいかなそうだね?」


 それはもう、次期皇帝を決める決闘を立案した宰相が"女神の剣"と繋がっていると言っているのと同じじゃないのか?まぁ、それを知っているのは私達ぐらいなものだろうけど…。


 「すぐにでもドライドン帝国に行った方が良いかな?」

 「いや、こうなった以上、貴女がドライドン帝国に向かうことを止めるつもりはないけれど、もう少しだけ待って欲しい」


 やはり駄目か。まぁ、分かってはいたさ。今からドライドン帝国に行ったら、必要以上に警戒されて、禄でも無いことをしかねないからな。それでジョージを失ってしまっては、目も当てられない。

 だが、これはあくまでも私の考えだ。一応、ルグナツァリオに理由を聞いておくとしよう。


 「貴女もなんとなく察しているとは思うけど、あの宰相の目的は、傀儡として最適な長兄ジェルドス以外の皇族の皆殺しだからね。"女神の剣"よりも先に貴女がドライドン帝国に到着すると、強硬手段を取りかねないんだ」


 うん。やっぱりルグナツァリオも同じ考えか。だとすると、私がドライドン帝国に向かうのは"女神の剣"が入国した後になるだろうな。


 その辺りのタイミングは、ルグナツァリオが教えてくれるだろう。ついでに、ダンタラもそのころには起きている筈だ。

 彼女が起きたら、[流石に寝すぎだ]と他の神々から文句を言われるだろうな。ロマハも愚痴をこぼしていたし。


 だが、ダンタラが目覚めれば"女神の剣"の潜伏場所も容易に探し出せる筈だ。連中に悩まされることも無くなるだろう。


 「ルグナツァリオ、頼める?」

 「勿論だとも。適切な時期を伝えることを約束しよう」


 私とルグナツァリオで感覚が違う部分があるから若干不安は残るが、今は彼を信用しよう。


 「あの…お二方とも、一体何のお話を…?」


 では、次の話を…といきたいところだが、流石に私達で話を進め過ぎたか。リガロウが話について行けずに困惑してしまっているな。

 ドライドン帝国には、この子も一緒に行くことになるのだ。"女神の剣"のことも含めて、しっかりと事情を説明した方が良さそうだな。



 アグレイシアのこと、異世界のこと、そして"女神の剣"のこと。ついでにマコトの後継者を探していることも、たった今リガロウに伝え終ったところだ。

 内容が内容だけに、神妙な表情をしている。まぁ、マコトの後継者に関してはどうでも良さそうではあるが。


 「異世界からの侵略者…。姫様の敵は、途轍もなく規模の大きな存在ですね…」

 「私の敵というよりも、この世界そのものの敵、と言った方が良いだろうけどね。とにかく、奴の好きにさせるつもりは無いよ」

 〈私を滅ぼした連中が絡んでいるのですね?であるならば、連中の末路、この目で見届けたくはあります…〉


 なんと。ハイ・ドラゴンの魂がそう語ってくれるとは。


 ちょうどいい。

 それならば、話を切り替えるついでにロマハも呼んで、彼の魂をしばらく預からせて欲しいと伝えさせてもらおう。


 『保護した時点でその魂は既にノアの所有物。私に許可を取る必要はないよ』

 「…早いね?もしかして、最初から聞いてた?」

 『呼んでくれるの、待ってた』


 とてもにこやかな表情をしているロマハの顔が、ありありと想像できるな。彼女の顔など一切知らないというのに。

 しかし、意外だな。ハイ・ドラゴンの魂は私の好きにしても良いとは。

 魂の管理者として、その辺りは良いのか?


 『さっきも言ったけど、ノアが魂を保護した時点で、その子の魂は星に還る必要のない存在になってる。でも、星に還したければ、やり方を教える』

 「その辺りは、彼自身に聞いてみるよ」


 今更の話だが、ハイ・ドラゴンの魂にはロマハの声は聞こえていないし、彼が思念を送っているのは大抵私に対してだけだ。リガロウには、彼の声が届いていなかったりする。

 彼にも未練があったようだが、それでも未練を振り切って星に還るつもりだったようだからな。


 だが、ロマハが許可しているのだ。ここは私の我儘を通させてもらおう。

 ハイ・ドラゴンの魂に、思念を送る。


 〈貴方に頼みがある。しばらくの間、リガロウの傍にいてやってもらえないかな?対価として、貴方を滅ぼした連中、私が始末をつけよう。勿論、貴方もその場に連れて行くよ?〉

 〈っ!?よろしいのですか!?私は、既に命を終わらせた存在…!本来ならば、星へと還らねばならぬ身なのですよ!?〉


 やはり、ハイ・ドラゴンの魂としては自然の摂理に逆らうつもりが無いのだろう。このまま望むままに私達と共にあることに罪悪感を覚えているようだ。

 罪悪感を覚える必要はないことを伝えて、その上でまだ星へと還るかどうかを聞いてみよう。


 〈ロマハが言うには、私が貴方の魂を保護した時点で星に還る必要はなくなったんだって。逆を言うと、そのままだと、貴方は星に還れないと言うことでもある。望むのなら、今からでもロマハから星に還す方法を教わって、貴方の魂を星に還すよ?〉

 〈………〉


 いきなりこんな話を持ち出しても、すぐには答えられないか。まぁ、時間はまだ余裕があるんだ。すぐに答えを求める必要はないか。


 と思っていたのだが、ハイ・ドラゴンの魂の答えは早かった。


 〈そういうことであれば、いと尊き姫君様の頼み、聞き入れないわけにはまいりません。是非とも、幼子の傍に居させていただきたく思います〉

 〈ありがとう。貴方さえよければ、あの子にドラゴンとしての戦い方や知識を与えてあげて欲しい〉

 〈お任せください!未来あるいと尊き姫君様の眷属。決して力を誇示するだけの愚か者にはさせません!〉


 良かった。ハイ・ドラゴンの魂も活力を取り戻したみたいだ。

 既に命を落として魂だけになった者に活力があるというのもどうかと思うが、正確には彼は既に死者ではなく"意思を持ったインテリジェンス道具アイテム"になっているようだからな。問題無い表現だろう。


 私が抱えていた問題は片付いた。


 案の定、リガロウやハイ・ドラゴンの魂がいる前でみっともなく口喧嘩を始め出した二柱に、頭を締め付ける思念を送りつけたら、リガロウとハイ・ドラゴンの魂を蜥蜴人達の集落に連れて行こう。


 それが終わったら、レイブランとヤタールと共に、家に帰るとしよう。

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