第394話 合体戦術・グレートフレイル!!

 10分ほどリナーシェとの武器の応酬を繰り広げながら、思いにふける。


もう少し多めに魔力を込めておくべきだっただろうか?このままでは、そう時間を掛けずに条件を達成されてしまいそうだな。

 リナーシェにも合体蛇腹剣に罅が入り始めているのが確認できたのだろう。少し得意気な顔になっている。

 もう少しでご褒美の条件が達成できると分かっているのだ。


 口惜しいな。

 今のこの時間がとても楽しいから、その分この状況の終わりが近づいていることが、残念でならない。

 だからと言ってこの状況から更に合体蛇腹剣に魔力を流せば、確実に負荷に耐え切れずに自壊してしまう。

 あろうことか、私は魔力を込める量を読み間違えていたようだ。


 少し戦い方を変えよう。鞭形態を主体に戦うのだ。

 例え攻撃を受け止められ、弾かれたとしてもその衝撃を極力逃がしてやれば、直剣状態でまともに武器をぶつけ合うよりも断然消耗が少ない。


 「あら?さっきと比べて随分と消極的な戦い方ね?」

 「もう少しこの時間を楽しみたくてね」

 「その気持ちは嬉しいけど、長引かせるつもりは無いわよ!逃がさないんだから!」


 攻撃対象を私から合体蛇腹剣そのものに切り替えたか。浮遊させた武器を、私にではなく衝撃を逃した合体蛇腹剣に向けて飛来させていく。

 このままでは、あっという間に提示した条件を達成されてしまう。何とか阻止しなくては。


 魔力の操作して、衝撃を逃がしつつ飛来する武器を回避させる。蛇腹剣に当たらなかった武器はそのまま私の元まで突っ込んでくるので、これは魔力を纏わせた手の甲で弾かせてもらおう。


 「ええっ?それってアリなの?」

 「貴女も手甲や足甲は装備しているだろう?魔力を纏えば、似たようなものだと思うけど?」


 素手で武器を弾くのは、リナーシェ的にはあまりお気に召さないらしい。不満げな表情をしている。

 『成形モーディング』とやっていることはあまり変わらないし、今回は『成形』を使わないとも言っていないので、多めに見て欲しいところだ。


 「むぅ…しょうがないわねぇ…」


 口を尖らせながら了承してはくれたが、やはり不満なことに変わりないのだろう。おそらく、当たったと思った攻撃があっけなく弾かれてしまったのが原因だと思う。

 合体蛇腹剣を破壊するという条件を達成させるだけでなく、私に一撃当てることも成し遂げようとしているようだ。欲張りなことだな。


 まだまだ手数は残っている。私には手足以上に自由が利く尻尾があるからな。

 左の『補助腕サブアーム』に持たせた蛇腹剣を尻尾でつまむようにして持たせて振るわせる。更には空いた『補助腕』で飛来して来たリナーシェの武器を掴み取り、私が使わせてもらう。


 「あ!コラ!武器ドロボウ!」

 「相手の武器を奪って使用するのは、戦場ではそう珍しいことではないのだろう?それに、相手の武器を使用してはいけないというルールも無い」

 「そうだけどさぁ…。さっきから妙に屁理屈じみたことを続けるわね…」


 仕方がないのだ。まだ私はこの玩具を振り回していたいのだから。そのためにも、多少の屁理屈はこねさせてもらう。


 もう少しだけ付き合ってもらうよ?


 とは言ったが、既に合体蛇腹剣は壊れかけていたのだ。私が屁理屈をこね出してから、僅か5分足らずで終わりの時が来てしまった。


 「これで…っ!どうだぁあああっ!!」

 「あっ!…あーあ…」


 浮遊させた武器で徹底的に蛇腹剣を追い詰め、囲い込み、衝撃を逃がすことすらできなくされ、あえなく私の自慢の玩具はすべて破壊されてしまった。思わず口から落胆の声が出てしまった。

 作り方は分かっているのだから、また作れば良いのはその通りなのだが、やはりこの時間をもう少し堪能していたかった。


 それはさておき、条件を達成させたリナーシェのことはしっかりと褒めてあげないとな。

 私の我儘に付き合ってもらったようなのだし、その礼も含めて、とびっきりのショートケーキを御馳走してあげるとしよう。


 と、思ったのだが、どうやらリナーシェはまだ試合を終わらせるつもりは無いようだ。彼女が放つ闘志は、まるで鳴りを潜めていない。

 まぁ、合体蛇腹剣を破壊するのはあくまでも私が提示した条件だ。

 武器を破壊したら試合が終了するわけではないというのは、確かにその通りだな。このままあわよくば、私に一撃食らわせるつもりなのだろう。


 そういうことならば、遠慮はいらないな。

 合体蛇腹剣を破壊しても攻撃の手を緩めずに振り下ろされたグレートソードを、リナーシェの左側に回り込むようにして回避し、彼女の左側の『補助腕』の魔力腕を掴む。そして魔力腕の根元に手刀を放ち、『補助腕』を強制的に解除させる。右側の魔力腕は尻尾カバーで同様に解除させる。


 「んなぁっ!?」

 「この魔術を作ったのは私だよ?当然、どうすれば解除できるかも知っているに決まっているだろう?」


 魔力腕を強制的に解除されたことに非常に驚いているようだが、それ以上に不満なことがあるようだ。

 一度大きく距離をとって愚痴をこぼす。


 「もう!ノアなら今ので構えを解くと思ってたのに!」

 「リナーシェがアレで終わりにするつもりだったのならね。でも、そうではないのだろう?」

 「そうね。『補助腕』は解除されちゃったけど、まだまだいけるわよ!」


 その言葉と共に、リナーシェは自身の体に今まで以上の魔力を纏わせ、身体能力をさらに強化させる。

 "ダイバーシティ"達のように強い反動が出るほどの強化ではないようだ。もしそうだったら、身体能力の制限を解除してすぐに終わらせていたところだ。


 とは言え、あまり長く続くような方法でもないだろうな。今のリナーシェには、『補助腕』を再度発動できるほどの魔力が残っていないのだ。今の状態は、『補助腕』の代用と言ったところだろう。


 リナーシェが勢いよく前に踏み出し、再び私に肉薄してくる。迎撃態勢は万全だ。

 合体蛇腹剣を失った私は、既に自分から攻める気を無くしている。いつも通り、向かって来た相手を迎え撃つ戦法に戻っているのだ。

 だからと言って、彼女にとって戦いやすくなったかと言えば別なのだろうが。


 リナーシェは今まで以上に浮遊した武器を私に飛来させることはなくなっている。飛来して来た武器は『補助腕』に捕獲され、私の武器にされてしまうからだ。


 「『成形』は使わないのかしら?」

 「今回はね。まぁ、手足に魔力を多めに込めて強度を高めはするけど、それ以上のことはするつもりは無いよ。そもそも、『補助腕』が『成形』みたいなものだしね」

 「アナタ一度に何個も同時に魔術を使えるじゃない…」


 呆れた口調で私に指摘するが、私はこの方針を変えるつもりは無い。今回は元々『成形』を使うつもりがなかったからだ。

 『成形』を使用すれば、合体蛇腹剣を再現することも可能なのだ。しかし、それでは折角私が提示した条件を満たしたリナーシェの達成感が台無しになるだろうし、私自身が使っていて面白みがないからな。


 そもそも今回の試合、リナーシェが合体蛇腹剣を破壊してそれ以上戦闘の意思がなければ、彼女の勝ちにして終わりにしても私は一向に構わなかったのだ。リガロウは不満そうにするだろうけど。

 だが、彼女はそれを拒んだ。彼女自身、それを勝ちだとは認めたくないのかもしれない。


 ならば、私は彼女の思いに応えよう。試合を続けるというのであれば、ここから先に遊びは無い。純粋に勝たせてもらうとしよう。


 私との距離が十分に縮まる前にリナーシェがグレートソードによる突きを放つ。そのまま突きの勢いを利用して突進して来る、のではなく、何と彼女は突きを放った直後にグレートソードを手放したのだ。投擲である。


 虚を衝くにはいいかもしれないが、私には選択肢が大量にある。魔力を纏わせた拳で軌道を逸らしてもいいし、『補助腕』でキャッチさせて持たせてもいい。今は尻尾も空いているから、尻尾カバーで受け止めても良いな。


 だが、リナーシェが私の虚を衝くのはここからだった。私の元に飛来してくるはずのグレートソードの柄に蛇腹剣が巻き付き、急停止したかと思えば、彼女の元に引き戻されたのである。

 身体能力を通常以上に強化していなければ、彼女と言えど片手で出来ることではないだろう。


 超巨大フレイルと化したグレートソードが、今度こそ私の頭上に振り下ろされる。リナーシェがグレートソードを手にしていた右手には、既に槍が握られている。


 私の両側面からは横回転をしながら飛来して来る大鎌と合体両剣。グレートソードが直撃するタイミングだ。このタイミングで回収はできないな。


 「どりゃあああああっ!!」

 「まったく、本当に毎回、魅せてくれるものだね」


 制限した状態の身体能力でも、この状況を凌げないことはない。

 グレートソードが私に到達する前に、私が回転しながら跳び上がり、尻尾カバーをグレートソードの腹に回転の勢いを乗せて叩きつける。


 軌道がずれたグレートソードは私が立っていた位置から少しずれた場所に叩きつけられることとなる。その際、飛来して来た大鎌も一緒にだ。

 更に私の着地位置にちょうど合体両剣の中心、つまり柄がある。このまま踏みつぶさせてもらおう。 


 すぐさまグレートソードは引き抜かれ、リナーシェが振りかぶる。今度は横に薙ぎ払いを行うようだ。仕掛けるのならこのタイミングだろう。迎撃の体制を解き、こちらから攻めさせてもらおう。


 踏みつけた合体両剣を足で掬い上げ、分離させて両手に持ちリナーシェに向かって肉薄する。

 私に向かって飛来してきたのが、合体両剣で良かった。あの超巨大フレイルの対処が容易になる。


 リナーシェの右手に既に槍は無い。彼女が手にしていた槍は、今は私の頭上だ。

 グレートソードを引き抜く際に投擲していたのだろう。それもタダ投擲したのではなく、私の頭部を追尾して当たるように操作しているようだ。ありがたく使わせてもらうとしよう。


 私の頭上から落下して来る槍に構うことなく前進し、薙ぎ払いを姿勢を低くすることで潜り抜け、グレートソードの内側に入る。そのタイミングで槍が私の頭部に到達するが、それは魔力腕でキャッチさせてもらった。

 ある程度想定していたためか、リナーシェに驚いている様子はない。蛇腹剣を操作してグレートソードを引き戻そうとする。


 だが、それはさせない。リナーシェに肉薄しながら、私は分離させた両剣を交差させて蛇腹剣を繋げる魔力線を鋏の要領で切り裂く。


 思った通りだ。

 いかに魔力線を強化させて容易に切断できないようにさせているとはいえ、これには耐えられなかったようだ。

 魔力線が切断され、引き戻そうとしたグレートソードはリナーシェの元に戻ることなく彼女の反対方向へと吹き飛んでいく。


 蛇腹剣の魔力線を切断した時点で、グレートソードとの魔力接続も途切れている。試合の序盤に行ったような方法で再接続するだけの魔力も残っていない。


 「まずっ!」

 「決めさせてもらうよ」

 「っ!まだよっ!」


 リナーシェが破れかぶれ気味に残りの武器を私に飛来させ、遠距離武器で魔力の矢を連射して来るが、それらを恐れる必要は一切ない。


 私が回収できたのが槍と合体両剣だからな。

 魔力腕には槍を、自身の手で合体させた両剣を高速回転させて飛来して来る武器や魔力の矢を悉く弾いてく。


 そして決着の時はきた。


 「クッ!そ、それなら…!」

 「悪いけど、これで終わりだよ」

 「うぐぅっ!」


 リナーシェの元まで接近し、更にそのまま走り抜け、その直後に彼女の体を腕ごと尻尾で巻き付けたのである。


 リナーシェの両足は、私の腕でガッチリと固めておこう。彼女のことだから、諦めきれずに足甲から刃を発生させて蹴り出しかねない。


 「うぅゥゥ~~~ん!うがぁあああああっ!!」

 「リナーシェ、言葉遣い」


 以前腕相撲をした時のような叫びをあげながら拘束を振りほどこうとするが、流石にそれは認められない。

 あの時も思ったが、身分の高い女性が出していい声ではないと思うのだ。さっさと判断を委ねよう。


 「審判。この状況はどう見る?」

 「はっ!ははぁっ!し、勝者!ノア様ぁ!!」


 宝騎士の判定が下り、四方から歓声が降り注ぐ。

 試合中は誰もが押し黙っていたが、退屈をさせていたわけではなかったようだ。

 意識を集中してみれば、城の上層でフロドや彼の家族も拍手をしている。


 決着もついたことだし、改めてリナーシェの健闘を称えよう。元々、私は合体蛇腹剣を破壊した時点で、彼女を褒めてあげるつもりだったのだ。


 それに、彼女の行ったグレートソードと蛇腹剣の合体戦術は、実に見ごたえがあった。


 ご褒美のショートケーキは奮発してあげるとしよう。

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