第393話 自慢の玩具を見せびらかす
以前ファングダムでリナーシェと手合わせを行っていた時は、彼女の攻撃を迎え撃つだけに留めていたが、今回は違う。
今回は、私の方からも積極的に攻めさせてもらう。こうしてお気に入りの玩具をリナーシェに見せびらかすのを、楽しみにしていたのだ。
当たり前の話だが、力の加減はちゃんとする。戦闘中で振る舞う膂力は、最大でもリナーシェと同じぐらいに留めておくつもりだ。
そうでなければ、例えリナーシェといえどすぐに終わってしまうからな。
試合開始の宣言と共に、私もリナーシェも互いに前に踏み出し、肉薄する。
だが、リナーシェの方は私が前に来るとは思っていなかったようだ。
今回も自分が攻め、それを私が受け止めるなりいなすなりして対処されると思っていたようだ。少しだけ驚いている。
リナーシェと衝突するかしないかのタイミングで、両剣形態の合体蛇腹剣を交差させて振り下ろす。
私の振り下ろしはグレートソードと槍に受け止められ、手斧と多節棍が私の側面から襲い掛かる。
隙だらけのように見えるが、まったく問題無い。合体を解除させて『
そしてもう一つ。
頭上から振り下ろされた大槌の一撃は尻尾カバーによって弾かせてもらった。
魔力の接続が一時的に切断され、制御を失った大槌が試合場の端まで吹き飛ばされる。
返す刀のようにリナーシェに尻尾カバーを突き出せば、浮遊させた盾と分割させた両剣によって防がれる。
鍔迫り合いの状態になると、リナーシェはいつものように獰猛な笑みを浮かべ、私に語り掛けてくる。
「ふふ!ノアの方から攻めてくるなんて、意外だったわ!今回は以前とは大分違う戦いを楽しめそうね!」
「自分から攻めないと、コレを見せびらかすことができないからね」
鍔迫り合いの状態にはなっているが、決して状況が膠着するわけではない。
リナーシェは足甲から魔力刃が発生させて蹴りを放ってくるし、彼女の背後に浮遊させている他の武器も、私に攻撃を仕掛けてくる。
それでは、合体蛇腹剣の本領発揮といこうか。
リナーシェの蹴りが私に到達する前に私はさらに一歩踏み出すと同時に、手にした蛇腹剣の形状を鞭形態へと変形させる。
当然、受け止めていた武器は私の元まで再び迫りくるが、蹴りのために片足を宙に浮かせたリナーシェのバランスは非常に悪くなっている。
その状況で私がリナーシェの武器を掻い潜り体当たりをした形になったのだ。私の勢いを受け止めきれずに、彼女は後方へ吹き飛ばされる。
「っ!なんのっ!」
吹き飛ばされたリナーシェは『補助腕』を一度解除し、再び『補助腕』を発動させることで自由になった『補助腕』で受け身を取った。
リナーシェが吹き飛ばされても浮遊していた武器の攻撃は止まらない。
私は自由になった鞭状態の蛇腹剣を、手首のスナップだけで操作して私に向かって飛来して来た武具を吹き飛ばし、時には絡め取り、頭上で矢を放っていた遠距離武器に投げつけて直接ぶつける。
これで浮遊していた武器はすべてリナーシェとの魔力の接続が途切れ、地面に落下していく。再接続には多少の時間が掛かる。合体蛇腹剣をさらに披露するためにも、彼女が武器を再接続する前に追加で攻め込ませてもらうとしよう。
リナーシェが『補助腕』に持たせていた武器は、魔力の接続が切れていたわけではない。受け身を取る彼女の動きに追従し、態勢を整えると同時に再び『補助腕』に持たせている。
だが、4つの武器で果たしてこれから行う攻撃を捌ききれるかな?今回の私は遠慮なく攻めると決めているのだ。
容赦なくリナーシェに向けて鞭形態にさせた4本の蛇腹剣を向かわせる。
「舐めないでよね!」
私が振るった蛇腹剣がリナーシェに到達する前に、彼女は地面を砕く勢いで思いっきり足元を踏みつける。
直後、地面に落ちた彼女の武器が再び浮遊し、私に向かって飛来して来た。
地面を踏みつけた振動に、自分の魔力を乗せたな。あの方法ならば魔力をただ武器の元まで伸ばしていくよりも遥かに速く、そして確実に伝わり再接続できる。
その分、消費魔力は多くなるだろうが、今のリナーシェは装飾品によって十分な量の魔力がある。
今みたいなやや強引な再接続も、今の内は行えるのだ。
あくまでも今の内は、だ。
リナーシェの奥義、全ての月獣器を魔力の接続によって触れることなく自在に操作可能にする"千差万別変幻"。そして新たな彼女の切り札である『補助腕』。
これらはどちらも極めて魔力消費量が多い。
魔力を貯蔵しておける装飾品を複数装備しているからと言って、考え無しに使用していては、あっという間に魔力が枯渇してしまうのだ。
それが分からないリナーシェではない。彼女は既に私の蛇腹剣の最大射程を把握しているようで、蛇腹剣が届く位置までは武器を飛来させて来ない。今私に飛来させて攻撃したところで、容易に迎撃されてしまうと分かっているからだ。
『
再接続された武具が私の周囲に浮遊させている間、リナーシェは懸命に私の攻撃を防いでいる。
叩きつけるような鞭撃が来ることもあれば、流れるような斬撃に射貫くような刺突。それらが4つ、不規則に襲い掛かる。
流石にこういった状況はリナーシェも経験がなかったようで、防戦一方の状態だ。
4本の蛇腹剣でリナーシェを攻めながらも、少しずつ距離を詰めていく。それと同時に、私の周囲に浮遊させている武具も徐々に移動を開始している。
私が蛇腹剣を合体させるタイミングを計っているな。
合体させて両剣形態にさせたところで、浮遊させた武器を一気に突撃させるつもりなのだろう。
多少は尻尾で迎撃されたとしても、いくつかは私に届く。リナーシェの思惑はそんなところだろう。
では、少しだけ驚かせてあげるとしよう。
鞭形態にさせたままリナーシェに肉薄し、その途中で蛇腹剣を合体させる。
その瞬間、この時を待っていたとばかりにリナーシェが浮遊させた武器を私にぶつけようと操作しようとするが、すぐにそれは取りやめた。今私に飛来させても、先程の二の舞になると理解したからだ。
合体した蛇腹剣は、未だ、鞭形態のままだったのである。
そして、この状態であっても、私は鞭形態の4つの刃を自在に操ることができるのだ。
「合体させたら直剣状態になるんじゃないの!?」
「そんなことは一言も言っていないからね。勿論、こういうこともできるよ」
片側だけを直剣形態に変更してリナーシェに切りかかりながら、反対側の鞭形態の刃をリナーシェの死角から攻めさせる。
「チッ!それぐらいっ!」
「うん。良いね。そう来なくっちゃ」
挙動は大きく変わるものの、向かって来る刃が4つであることに変わりはないのだ。冷静に軌道を見極め、それぞれの手に持たせた武器を用いてリナーシェは的確に対処していく。
自身も合体両剣や蛇腹剣を所有し、十全に扱いこなせるとは言え、それを組み合わせた武器を相手にするのは初見の筈だ。しかもそれが2組である。
そんな状況でも慌てることなく対応できるのは、彼女の類稀なる戦闘センスの賜物という他ないだろう。
尤も、余裕があるわけではないのだが。
リナーシェが合体蛇腹剣の軌道に慣れるのは、もうしばらく時間が掛かるようだ。彼女の表情に焦りの色が見え始めている。
押され始めているのだ。
浮遊させた武器を私に飛来させるタイミングを掴めずにいる。そのため、私は遠慮なくリナーシェに向けて4つの刃を振るわせてもらっている。
「クッ!こうして使われてみると、厄介なことこの上ないわね…!」
「その割には、随分と楽しそうだね?」
「楽しそう…?違うわね!楽しいのよ!」
自分に向かって来る変幻自在の刃を非常に煩わしく退けているリナーシェの表情は、言葉とは裏腹に笑っていた。
感情が伝わって来るので聞くまでも無かったのだが、やはり彼女はこの状況を楽しんでいるようだ。
不利な状況なのは間違い無い筈だというのに、リナーシェの瞳にはこれ以上ないほどの闘志が宿っている。凄まじい闘争心だ。
現状、私に対して背後から武器を飛来させるのは無意味と判断したようだ。
私の周囲に展開させた月獣器を自身の背後に移動させると、リナーシェは手斧と多節棍を投げつけるように手放し、自身の傍に手繰り寄せた蛇腹剣と合体両剣をそれぞれ手に持たせた。
私の隙を伺い死角から武器を飛来させるよりも、状況に応じて武器を持ち変える戦法を選んだようだな。
蛇腹剣はともかく、合体させた両剣を器用に片手で振り回しながら、私の攻撃を迎え撃ち始めた。
「使ってる経験は私の方が長いんだから!扱い方を教えてあげる!」
「良いね。それなら是非参考にさせてもらおうか」
扱い方を教えると豪語しただけあって、リナーシェの蛇腹剣や合体両剣の扱いは見事なものだ。
私の振るった右側の蛇腹剣が、2本とも彼女の蛇腹剣によって絡め取られる。
手首や腕の動きだけでああいった軌道にはならない筈だ。となれば、彼女は魔力操作によって蛇腹剣の軌道を操作させたことになる。
なるほど。そういうやり方もあるんだな。力の加え方次第で様々な挙動を取れたので、思いつかなかった方法だ。
早速扱い方を教えられてしまった。リナーシェに感謝しなければ。
リナーシェの反撃はコレで終わりではない。
私の蛇腹剣を絡め取ると同時に、彼女は両剣を片手で器用に振り回している。まるで一本の腕で2本の剣を操っているかのようだ。
実質、彼女の右側の腕は、実質3つの武器を同時に操っているも同然の状態だ。
合体両剣で私の左側の蛇腹剣をどちらも弾き飛ばし、彼女のグレートソードと槍が同時に私の胴に吸い込まれるような勢いで迫って来る。
槍は突きのため、回避は容易だが、グレートソードの一撃はそれを加味した攻撃だな。どうあっても当てるつもりのようだ。
だが、これを素直に受ける私ではない。
リナーシェが私の周囲に展開していた月獣器を自分の周囲に戻したことで、私の尻尾は空いた状態だからな。
私に迫ってきた槍は体を捻ることで回避し、グレートソードの一撃は尻尾カバーによって阻ませた。
回避した槍で追撃されないようにするためにも、槍は踏みつけて彼女の手から落とさせてもらおう。
「っ!ホンット、便利な尻尾ね!」
「実際、とても便利だよ。手足よりも自由が利くからね。大抵の討伐依頼は、尻尾だけで片付けてしまえるんだ」
「同じく尻尾を持つ身としては、羨ましいなんてもんじゃないわね!」
ピリカ曰く、私のように自在に尻尾を動かせる者は誰もいないらしいからな。リナーシェが羨ましがるのも無理はないだろう。
槍を踏みつけられたことでバランスが崩れることを避けるために、リナーシェは素早く槍から手を放し、今度は短刀を手にしている。
私の合体蛇腹剣を防ぐのは合体両剣と自身の蛇腹剣に任せて、攻撃の手数を増やすつもりか。
リナーシェには悪いが、そう簡単に思い通りにはいかせない。宣言通り、蛇腹剣の扱い方を教えてもらったからな。早速利用させてもらう。
合体蛇腹剣の刃をつなぐワイヤーに纏わせている魔力を操作して、リナーシェの蛇腹剣をほどかせてもらう。
紐をほどくような丁寧なほどき方ではない。蛇腹剣だからな。絡まっている魔力の線は魔力を纏わせた刃によって断ち切らせてもらう。
「ああっ!?」
「わざわざ腕や手首を振るわずとも動かせると教えてくれてありがとう。おかげで攻撃のバリエーションが増えるよ」
「だったらこれはどうっ!?普通の蛇腹剣じゃできないことなんだから!」
断ち切られた魔力の線を再度蛇腹剣に通す際、リナーシェは面白いものをみせてくれた。
魔力の線が、一本ではなくなったのである。つまり、二股の鞭とも言える状態になったのだ!
これは面白い!刃を繋げるワイヤーが実態を持たない魔力線だからこそできる芸当だな!
腕と手首の動きに加えて、魔力の操作によって、リナーシェの蛇腹剣が不規則な挙動で私に襲い掛かる。
今度は刃を繋げる魔力の線を強化しているようで、現状の合体蛇腹剣に纏わせている魔力では切断は難しそうだな。
だからと言って、魔力の線を断ち切るためにより大量の魔力を合体蛇腹剣に流してしまっては、リナーシェは私が提示した条件を達成できなくなってしまう。
そして、相手は二股の蛇腹剣だけではない。蛇腹剣と同時に他の武器でも彼女は当然のように仕掛けてくる。
今度はついでとばかりに遠距離武器で射撃も追加している。
攻守交代となりそうではあるが、そうはいかない。ここはリナーシェの真似をさせてもらおう。
合体させていた蛇腹剣を分離させ、一本は直剣形態、もう一本は鞭形態にして鞭形態の蛇腹剣を魔力で操作して二股の蛇腹剣を纏めて絡め取る。
魔力を切断して振りほどかせはしない。私の魔力を流して強制的に魔力の線を発生させ続けてもらう。
遠距離武器から放たれた射撃は、この絡め取った蛇腹剣を振るうことで迎撃させてもらおう。
それだけではない。もう一組の合体蛇腹剣も同様に分離させ、鞭形態にさせた方を魔力で操作してリナーシェの合体両剣を絡め取る。
短刀は直剣形態で弾き、グレートソードは尻尾カバーで受け止める。蛇腹剣でまともに受け止めたら、合体蛇腹剣が壊れてしまいそうだったからな。まだまだ条件を達成させるつもりは私にはない。
「ちょっ!?さっき見せたばっかなのにもうできるようになってるの!?」
「私が一度見た動作や技術を覚えるのが得意なのは、リナーシェも知っているだろう?」
「そうだったわね!そう来るならこうよっ!」
絡め取られた武器は潔く手放し、別の武器を手にする。今度は盾と手斧だな。堅実さを選んだか。武器を絡め取られるのはお気に召さないらしい。
では、絡め取った蛇腹剣と合体両剣は遠距離武器に投げつけてしまおう。
「もうっ!再接続に使う魔力だってタダじゃないのよっ!?」
「遠距離攻撃はしなくて良かったんじゃないかな?」
リナーシェは牽制目的で行ったのだろうが、ただただ無駄に魔力を消費するだけに終わってしまったからな。
"ダイバーシティ"達には有効な攻撃手段だったかもしれないが、私やリガロウには浮遊させた状態で放つ射撃は効果が無いと言っていい。
とは言え、私もあまり余裕があるわけではないのだがな。
やはりただの鉄製では、強度に問題があり過ぎた。
合体蛇腹剣に、少しずつ罅が入り始めたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます