第391話 認識できない至福の睡眠
話すべきことも話し終えたので、そろそろ私に宛れがわれた部屋に戻ることにする。
結局、チャトゥーガの戦績は私の全勝だった。コレに関してフロドは全く悔しそうにしていなかったので、ある程度は予想できていた結果なのだろう。
それでも最終的に7戦も行っていたので、結構な時間が経過してしまっている。
今日はもう予定がないので、後は風呂に入って眠ってしまおう。
ようやくこの時が来たのだ。
"ワイルドキャニオン"でフーテンをティシアの従魔にしてからというもの、私はあの子と風呂に入ることはあっても、あの子の体を洗ってあげたことは一度たりとも無かった。
毎回、あの子を可愛がっているティシアが丁寧に丁寧に、丁寧に体を洗ってあげていたからだ。
まぁ、魔物使いとしてはそうして従魔とコミュニケーションを取ることは推奨されている行為だし、正しい行いではあるのだ。
だが!毎回可愛がられているフーテンの姿を見ていると、私も可愛がってあげたくなってしまうのだ!何せ可愛いからな!正直、羨ましくて仕方がなかった!
勿論、リガロウもランドラン達も可愛かったのは間違いないが、あの子達には無いものをフーテンは持っている。
そう!私が愛してやまないモフモフだ!フワフワしていながら艶やかで柔らかい、モフモフがフーテンにはあるのだ!
風呂から出て体が乾いたフーテンの羽毛の触り心地を、私はまだ経験したことがないのである!ようやく巡ってきたこの機会。待ちに待っていたとはこのことだと、声を大にして言わせてもらいたい!
風呂は私の宿泊する部屋に設置されていたので、誰にも邪魔されることなくリガロウとフーテンを可愛がってあげられる。実に素晴らしいな!
「風呂の設備もかなり良いね。ファングダムに合ったものに引けを取らない。リナーシェがそうさせたのかな?」
〈あの人間、別の国の姫なんでしたっけ?〉
「そうだよ。それも、この国よりも豊かで大きな国のね。私も旅行に行ったことがあるよ」
「人間サイズの浴槽か…」
目の前の浴槽に対して、リガロウが不満げに小さな呟きをこぼす。
まぁ、そこは仕方がないな。ランドランと一緒に入浴するような作りにはなっていないのだから、リガロウでは浴槽が浅すぎるのだ。
まぁ、私に掛かればそんなものは問題にもならない。
魔法で浴槽のお湯を操作してやれば、リガロウも問題無く入浴を楽しめるだろう。
自分にも入浴が楽しめるように処置を施した私に対して、リガロウが感激して礼を伝えてきてくれる。
「姫様…っ!ありがとうございます!」
〈ピヨォ…。姫様が平然ととんでもないことやってますぅ…〉
今しがた私がやったのは、浴槽の湯を増幅させ、リガロウが浸かるのにちょうどいい形状への固定だ。浴槽の一部分だけが四角く盛り上がっている状態だな。
フーテンからすると、増幅と操作はそれほど難しいことではないのだが、その状態を維持し続けるのは如何に魔術と言えど難易度が高い行為のようだ。
誰かに見られたらこれも騒ぎになるのかもしれないが、誰に見せるわけでもないのだから、自重せずに使用させてもらった。…フーテンにはしっかりと口止めしておかないとな。
まぁ、言うまでもなくフーテンは黙ってくれるようだ。
私がこの子に何かを言う前に、翼を前面に交差させて嘴を覆い隠し、首を縦に振って黙るジェスチャーをしてくれた。何その仕草、可愛い。
リガロウとフーテン。どちらかを贔屓にすることなど私にはできそうにないので、この子達の体はどちらも『
チヒロードで製作できるようになった洗料。やはりとても良いものだ。カンディーの風呂屋で購入した洗料以上の品質である。
泡立ちの良さ、泡のきめ細かさ、香り、洗浄力、洗った後の肌の感覚。どれをとっても以前使用していた物よりも高品質だったのだ。
どれ、リガロウとフーテンの体も、満遍なくしっかりと洗ってあげよう。洗いながらマッサージもしてあげようじゃないか。気持ちよくなって眠ってくれても、私は一向に構わないぞ?
〈あ゛あ゛~~~…。これは、ダメになってしまいますぅ~~~…〉
「グルルルゥ…」
どちらもとても気持ちよさそうだ。目を閉じて快楽を成すがままに受け入れている様子が本当に可愛らしい!
このまま抱きしめてしまいたいが、それは我慢だ。
折角リガロウ用のクッションを用意してくれた所悪いが、この子もベッドの上で寝てもらうとしよう。
強度の方は心配いらない。私が補強するからな。みんなで一緒に眠るのだ。
風呂から出たら、冷たい飲み物を飲むのも忘れない。
リガロウはともかく、フーテンは一気飲みできないため、家の子達同様コレの良さがあまり伝わらない。
だが、私が毎回風呂上がりに用意していたリジェネポーションの味は気に入っているため、この子の分も毎回用意している。
風呂から上がり、体に付いたフーテンの水分を、『温風』によってゆっくりと乾かしていく。勿論、その間もこの子の体を優しくマッサージするように撫でながらだ。
とても気持ちよさそうでご満悦の様子だ。とっても可愛い。
体が乾いたフーテンの羽毛は、実に柔らかく艶やかであり、そして何と言ってもフワフワだった!触れることにまるで抵抗がないので、優しく抱きしめれば、この子はそのまま眠そうになっている。
私のことをとても信頼してくれているのだろう。この子と仲良くなれて、本当に良かった。最高の抱き心地だ。物凄く可愛い。
さっきからしつこいかもしれないが、本当に可愛らしいのだ。旅行中は滅多にモフモフを堪能できないから、こうして好きにモフモフを堪能できるのが堪らないのだ。
ティシアは毎回この可愛さを堪能しているのかと思うと、やはり羨ましくなってくるな。
まぁ、私も家で生活している時はフーテンに負けないぐらいモフモフな皆に囲まれて、実に幸せな生活を送っているのだが。
ああ、早く皆の体をこの新しい洗料で洗ってあげたい。きっと今まで以上に素晴らしい触り心地になるだろうからな。もう楽しみで仕方がない!
「姫様、嬉しそうですね」
「うん、そうだね。家にいる子達のことを思い出してね。皆フーテンに負けないぐらいのモフモフでね。夜は大抵、皆で一緒に寝ているんだ。」
「姫様のお傍に仕える方々…。今の俺なんかじゃどうあがいても届きそうにない方々なんですよね?」
まだ見ぬ家の子達に対して、リガロウが羨望の感情を醸し出している。
以前、この子には私の家の周りのことをざっくりと説明しているのだ。その際、家の皆のことやその強さも。
「皆とても永い時間を生きているみたいだからね。君だって長く生き続ければ、あの子達と同じぐらいの、いや、それ以上の強さを得られるんじゃないかな?なにせ、君は私の眷属なのだからね」
「グクルゥ…」
リガロウの首筋を撫でながら、将来の可能性を話すと、とても嬉しそうにして甘い鳴き声を上げている。その声には、誇らしさも含まれている。
現状、この子が唯一の私の眷属だからな。リガロウにとっては、正真正銘自慢になるのだろう。
その気持ちに驕らず溺れなければ、きっとこの子は強くなる。きっと私の家で一緒に生活できるようになる。頑張るんだよ。
リガロウにクッションではなくベッドに上がるように言うと、[とてもではないが恐れ多い]と遠慮されてしまった。
私が一緒に寝たいからと告げると、おそるおそると言った様子で上がってきてくれた。その際ベッドが非常に深く沈むことになったのだが、私が魔力で補強したので壊れるようなことはなかった。
フワフワモフモフなフーテンを抱きかかえながらリガロウに背中を預けて横になると、えも言えぬような安心感に包まれる。
実にいい感覚だ。これは…長くは……持たな………。
レイブランとヤタールから『
〈朝よノア様!起きる時間よ!〉〈久しぶりになかなか起きないのよ!〉
〈…ああ、2羽とも、おはよう………〉
〈まだちゃんと目が覚めてないわ!珍しいわ!〉〈ノア様まだ眠たそうなのよ!〉
実際のところ、もう少しこうしていたい気分だ。フーテンのモフモフに加え、リガロウと密着していることで得られる安心感。この二つの要素は、私を安眠へと誘うのに十分すぎたのだ。
そのおかげで、昨日はフーテンの抱き心地をよく分からないまま、意識を手放すこととなってしまった。
当のフーテンと言えば、まだ熟睡中だ。とても安らかな表情をしていて、大変可愛らしい。
このまま寝顔を見ておきたいところだが、この子にも起床してもらうとしよう。リガロウは私の目覚めと共に起床しているようだしな。
「姫様。おはようございます」
「おはよう。昨日はよく眠れたかな?」
「はい。姫様の魔力に包まれ、夢のような寝心地でした」
実際、いい夢を見ていてくれたのなら嬉しい限りだな。この子よりも私の方が早く眠ってしまったから、私はこの子がどのような表情で眠っていたのか知る由もないのだ。
願うことなら、昨日見た、クッションで寝ていた時の寝顔よりも良い表情をしていて欲しいものだ。
さて、そろそろフーテンを起こすとしよう。たった今『
「さ、フーテン。そろそろ起きようか。ティシア達の所へ行くとしよう。君に会いたがっている筈だよ」
〈ふぁ~~~…。姫しゃま、あふぁようごじゃいましゅ…〉
この子、こんなに朝に弱かったのか?"ダイバーシティ"達は普段朝5時に起床して訓練しているらしいから、この子もそれに付き合っている以上、この時間には起きている筈なのだが…。
寝ぼけまなこでまだ完全には意識が覚醒していないフーテンを見つめていると、次第に意識が覚醒してきたようで、私の姿をハッキリと視界に収めると、慌てて私に挨拶を始めた。
〈………ピョァッ!?姫様っ!?お、おはようございます!〉
「おはよう。君って、朝は弱い方なの?」
〈ピヨォ…。姫様に抱きかかえられると、心地良過ぎるのですぅ…〉
フーテンが朝しっかりと目覚めることができないのは、私が原因らしい。この子が言うには、抱きかかえられるとそれだけで非常に心地良くなるのだとか。
思い返してみると、フーテンを私が抱きかかえると、この子はすぐに眠ってしまっていたような記憶がある。
悪い気はしないな。むしろ非常に嬉しく思えてくる。
嬉しさのあまり、このままこの子を私のものにしたくなってしまうが、その考えはすぐに霧散させた。あまりにも非道が過ぎるからな。
では、フーテンも目覚めたことだし、朝食の前に医務室へと足を運んで"ダイバーシティ"達の顔を見てくるとしよう。
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