第361話 落とし前をつける    ※閲覧注意

【前書き】

今回は最初から最後まで非常に猟奇的でグロテスクな内容となります。ご注意ください。



 ラウデン=トライデルとマイツトアー=ラオニアには、同じ内容の悪夢を見せるとしよう。ミシュガ=ブルーガスよりはいくらかマシにするつもりだが、決して生易しいものではない悪夢を。


 「良し、褒美を授ける!何が良い?言ってみろ!望みの物を与えてやろう!」


 2人とも得意げになって子飼いの代表に報酬を訊ねる。ここは私が少し介入させてもらった。報酬に金を渡して話を終わらせる可能性もあったからな。


 それでは悪夢にならないので、発言をこちらで操作させてもらったのだ。そして、これから見せる内容も、私が描いた内容だ。


 「………」


 子飼いの代表は頭を下げたまま黙っている。それどころか、始めから微動だにしていない。

 だが、この時点ではまだ恐れ多く畏まられていると思っているのだろう。多少訝しんではいるが、当主達が上機嫌な様子は変わらない。


 「どうした?遠慮をする必要はない。発言を許す。望みを言うがいい」

 「………」


 それでも一言も発せず微動だにしない代表に対して、流石に様子がおかしいと感じだしたようだ。

 それに加え、自分の言葉にまるで反応がない様子も、当主達をいらだたせる要因となった。


 「謙遜も過ぎれば無礼に当たる!さっきからなぜ黙っている!面を上げよ!」

 「………」


 何を言ってもまるで反応がない代表に対して、当主達の我慢に限界がきた。


 「おいっ!いい加減に―――っ!?」


 声を荒げて子飼いの代表を問い詰めようとしたところで、変化が訪れた。


 子飼いの代表の首が、落ちたのである。

 首だけではない。肘、肩、膝、股関節、腰と、人間の大きく稼働する関節が順番に肉体から離れ、床へと落ちていく。

 切断面からは当然のように鮮血が噴き出し、辺り一面を赤く染めていく。


 「っ!?…っ!?!?…っ!?」


 何が起きているのかまるで理解できていないのだろう。

 こんな状態だというのに、捕らえられているヒローの子供は微動だにしていない。当主からは俯いた子供の表情が見えていないため、どのような表情をしているかも理解できない。


 「の…のぞ…み…」

 「はっ!?」


 床から声が聞こえる。

 声の発生源は、胴から離れ、床に落ちた筈の、声を発することのできない筈の首からだった。


 首が、碌な可動部も無い筈の首がひとりでに動き出して当主と視線が合う。

 その表情は苦悶に満ち、恨みがましい視線を当主へと向けていた。


 「ひぃっ!?」

 「のぞ…み…なんで…も…いいな、ら…い、のちを…くだせぇ…」

 「ひぃいいいっ!!!」


 肺と繋がっていない、本来ならば呼吸すらできない筈の首だけの存在が声を発している。

 そして動き出したのは首だけではない。

 バラバラになった手足も動き出して当主の元へ移動しだしたのだ。


 「や、やめろ…!く、来るな…!私に近寄るな…!」

 「俺達…みん、な…死んじまったんでさぁ…だ、から…なにかくれ…るなら…アンタのいのち、を…くだ、せぇ…」

 「お…おお…うおおおっ!?」


 近づいて来る人体の部位から逃れようと周囲を見渡したことで、当主達はようやく周囲の環境の変化に気付く。


 近づいてくる死体が、一体だけではなかったのだ。

 自信を中心として、全方位から代表と同じくバラバラになった死体がその断面から鮮血を噴き出しながら、自分の元へと近づいて来ていたのだ。


 既にこの場所の景色は彼等の私室のそれではなくなっている。周囲は噴き出した鮮血によって赤黒く染まり、しかも不規則に歪んでいる。

 あまりにも現実離れした光景ではあるが、当主達はそれどころではない様子だ。


 「く、来るな!来るなくるな!くるなぁあああああっ!!!」


 腰を抜かし、必死になって叫び声を上げて死体の接近を拒む当主の目の前に、いつの間にやら子供が佇んでいる。

 顔は、相変わらず俯いたままである。


 だが、腰を抜かした当主の顔の位置は、そんな子供の顔の位置よりも低い。

 それ故に、彼等は見えてしまった。見てしまったのだ。夢が始まってからこれまで一切見ることの無かった子供の顔が。


 彼等は、あまりの異様な容貌に悲鳴を上げずにはいられなかった。


 「う、うぉああっ!??」


 それは、無貌だった。


 理解できるのは輪郭のみであり、その顔は全く光を反射しない漆黒で埋め尽くされていたのだ。


 死体が、次々と当主達の体に纏わり付き始める。

 腕が、足が、胴が、首が、当主達の体に到達し、彼等が着用していた衣服を未だに吹き出し続ける鮮血によって赤く染められていく。


 既に発狂してしまって正気ではない彼等に、声が掛けられる。


 その言葉は、発狂している筈の二人の頭の中に明確に刻み込まれていく。


 「お前達の全てを観ている。隠すことは無意味と知れ」


 その言葉と同時に、子供の漆黒の顔の中央に一つの目玉が出現する。

 七色の色を持ち、縦長の瞳孔を持った人外の目玉。つまり私の本来の瞳だ。


 完全に理解の範疇を超えた状況を前に、彼等の限界が訪れた。


 「ひあああああああーーーーーーーっ!!!」


 完全に白目をむき、泡を噴き出して意識を手放そうとしている。


 夢はここで終わる。と言うか終わらせた。このままでは精神が崩壊してしまうだろうからな。それでは始末してしまうのと変わらない。


 2人の当主の意識がほぼ同時に覚醒したのだ。仕上げである。まぁ、既に終わっているのだが。


 「ゆ…夢…だったの、か…?何と恐ろしく、不吉な夢だったの―――」


 天井を見上げ、額の汗をぬぐおうとして、その腕が、全身が妙に湿っていることに気が付く。

 汗のそれではない。汗にしては、重すぎるのだ。

 そして、部屋中に広がる、むせかえるほどの鉄分、血の匂いに当主達は顔を瞬く間に青くさせている。


 「う、ああ…っ!あああああ……っ!」


 恐る恐る視線を下げれば、自身の体は全身が血まみれで、その周囲には大量のバラバラになった死体が散乱していた。


 そして、自分の子飼いの連中達の全員分の首が、自分に視線を向けていたのだ。先程見た悪夢の状況とほぼ同じ状態である。


 「そ、そんな…そんなまさか…っ!?こ、これも夢ではないのかっ!?だ、誰か―――っ!?」


 恐怖に耐え切れず人を呼ぼうとして周囲を見渡すと、正面の壁に血液によって書かれた、大きな地文字が掛かれていることに気が付く。その内容は―――


 お前達の全てを観ている。隠すことは無意味と知れ


 「うわああああああああーーーーーーーっ!!!」


 夢の中で発狂していた状態でも明確に頭に刻み込まれた文書を見て、当主達は堪らず絶叫して気絶してしまった。


 彼等が夢から覚めた時点で既に『時間圧縮タイムプレッション』は解除してある。防音結界を張っているわけでもないので、悲鳴を聞きつけた部下や使用人達がこの部屋に駆け込んでくることだろう。


 ラウデンとマイツトアーは、こんなもので良いだろう。今後はセンドー家に余計な手出しをしないでもらいたいものだ。



 さて、ミシュガ=ブルーガスの処遇についてだが、先程の悪夢に加えてもう一段階恐ろしい体験をしてもらおうと思う。


 10才にも満たない少女と行為を行いたいのなら望み通りにしてやろうじゃないか。

 ただし、相手は人間ではないがな。


 「グフフ!そう怯えるでない…。ワシは良いものを持っているでな…お前も十分楽しませてやるぞ…!グッヒヒヒヒ…!」


 始末はしないが、この男は破滅させた方が良い気がしてならない。

 この男、他2人よりも余罪が多そうだな。悪夢を見せている間に屋敷を徹底的に調べ上げておこう。


 ………思った通り、違法な薬品や素材の取引やら、人身売買やら人さらいやらで数々の悪行に手を染めているようだな。

 デヴィッケンの子飼いと取引をしている時点で既に私の中では黒だったのだが、明確な証拠が手に入ったことで情状酌量の余地なしと言ったところか。

 犯罪行為の証拠を回収して王城へ向かった際にこの国の王かリナーシェにでも渡してしまおう。


 その後のことはこの国の政治家に任せて、私はミシュガを恐怖のドン底に落とすとしようか。


 自分の寝室に小柄な少女を連れて行き、ベッドで待機しておくように指示を出す。

 成人男性が5人は横並びに寝転がれるほど大きなベッドだ。このベッドと先程集めた証拠を見る限り、複数の相手と同時に行為を頻繁に行っていた可能性が非常に高いな。


 ミシュガは寝室に常備してある違法な薬を取りに向かったようだ。そしてついでとばかりに部屋に置かれていた香に火を灯す。

 興奮剤の類だろうか?煙を吸った者を強制的に発情させる効果があるようだな。


 「グフヒヒヒヒ…!待たせたのぅ…!さぁ、こっちを向くがいい。まずはその唇の感触を確かめさせてもらおうかのぅ…!」


 見るに堪えないな。もう十分だろう。ここからは悪夢を見せるとしよう。


 先程まで可憐な少女の姿をしていたソレは、ミシュガの方を振り向くと同時に瞬く間にその姿を人間の美醜感覚では醜悪と判断されるものへと変貌させた。

 肌は急速にしわがれ、色も灰色に染まり、口の中には無数の牙が生えだした。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」

 「んなぁっ!?」


 あまりの変化に慌てふためき、ミシュガは腰を抜かす。それでも体を這わせて少女だったものから距離を取ろうとするも、それは叶わなかった。


 腰を落とした際、ミシュガが気付かぬ内にミシュガの体に他の2人の当主同様、複数の死体の部位が絡みついていたのである。


 「な、なんじゃこれはぁああああっ!!?」


 振りほどこうにも、纏わり付いた体の部位の持つ力は見た目以上に強く、振りほどく事ができずにいる。そうして慌てふためいて死体と格闘している間に、ゆっくりと少女だったものが近づき、口を広げて鋭利な牙を見せている。


 「や、やめろ!ワシに近づくんじゃない!この化け物め!クソッ!何がどうなっておるのだ!?」


 意外なことに、ミシュガは慌ててはいるが他の2人ほどの恐怖は抱いていないようである。悪事を働くものというのは、肝が据わっているものが多いのだろうか?


 まぁいい。恐怖はあまり効果がないかもしれないが、痛みは別だろうからな。


 少女だったものがミシュガの顔に近づき、更に口を大きく開く。

 口から吐き出される息はよほどの悪臭だったようで、ミシュガは悲鳴を上げながら顔をしかめている。


 さて、まずは唇の感触だったか。味わってもらうとしよう。


 少女だったものが遂にミシュガに覆いかぶさり、ミシュガの口に食らいつく。

 接吻などという甘美なものではない。鋭利な牙が容赦なくミシュガの肌に突き刺さり、口周りの肉を顔から喰い千切られていく。


 「ん゛ーーーーーっ!!!」


 堪らず絶叫を上げようとしているが、口を塞がれているため、声を出せないでいる。そして少女だったものが吐き出す悪臭を放つ息が、強制的にミシュガの口と鼻に吸い込まれていく。


 少女だったものがミシュガの顔から離れた時には、口周りの皮膚はおろか肉が全て食いちぎられており、前歯や歯茎が露わになっていた。


 勿論、これで終わりではない。引き続き少女だったものの口が大きく開かれる。食事は、まだ始まったばかりなのだ。


 「あ゛ぎゃああ゛あ゛あ゛ああっ!!!」


 度々肉が食いちぎられる激痛には、恐怖に耐性のあるミシュガも耐えられなかったらしい。

 涙を流し、失禁しながらも悲鳴を上げ続けている。


 だが、これはあくまでも夢だ。

 たとえどれだけ体を貪り食われようとも死ぬ事は無い。


 それでいて痛みは感じ続ける。まさに悪夢と言った状況だろう。


 捕食され続け、既に体の大半が少女だったものの胃の中だ。架空の化け物なので、胃があるかどうかは謎だが。骨すら残さずに捕食され、残るは首から上ぐらいしか残っていない。


 「が…っ!ひ…っ!ぐ…っ!」


 そんな状況であるにもかかわらず、ミシュガの意識は失っていない。

 今の状況になるまで、肉を、骨を、臓器を嚙み千切られ噛み砕かれる痛みを味わい続けたのである。


 いよいよ頭部に食らいつくために一際大きな口を開けると、そこには七色の瞳が佇んでいた。例のごとく、私の本来の瞳である。


 「ひ…っ!」


 異様な光景に、根源的な恐怖を覚えたらしく、ミシュガは痛みも忘れて震えてしまっている。


 仕上げに入るとしよう。


 「お前の全てを知っている。逃れることは叶わぬと知れ」

 「――――――」


 言葉も発することも出来ずに、ミシュガは白目をむいて意識を失うこととなった。悪夢を見せるのはこんなもので良いだろう。


 当然、他2人と同様に目が覚めた後の部屋の状況も、悪夢を再現するような光景にしている。

 他2人との違いは、この男が雇った連中の代表に足を軽く噛ませていることと、壁の地文字を少し変えている程度だな。


 「ばぁっ!!」


 ミシュガとしては、悪夢で死の瞬間を体験してすぐに意識を取り戻したような感覚だろう。

 体を喰い千切られた時の痛みもなく、体が問題無く動くことを確認すると、ようやく少し落ち着いたようで、状況を確認し始めた。


 「………ゆ…夢…?な、なんちゅう縁起のわ―――」


 ただの悪い夢を見た。それだけで済めばどれだけ安堵できたことだろうか?

 足に感じる違和感に視線を向けてみれば、辺り一面にはバラバラになった死体と血で染められた自分の部屋。

 更には目の前の壁には夢の中で最後に耳にした言葉が。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛-------っ!!!」


 ミシュガも他の2人と同様、恐怖のあまり気を失ったようだ。


 本で読んだホラー小説なる物語を参考に作ってみた悪夢なのだが、上手く行ったようだな。


 だが、加減を誤るとショック死してしまう危険性もありそうだ。小心者にこの方法はやらない方が良いだろうな。


 さて、落とし前も付けたことだし、ヒローとの会話に集中するとしよう。


 絵画の報酬に関しては、考えがあるのだ。

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