第331話 キャンプの準備をしよう!
"ダイバーシティ"達もやる気を出して魔物と戦闘を行っているのだから、私も彼等に負けないようにキャンプの準備をしていかないとな。まぁ、テントの設置はもう終わっているわけだが。
だが、キャンプの準備はテントの設置だけではない。"ダイバーシティ"達には風呂の約束もしているし、彼等が要望を出した料理も作っていく必要がある。やることは多いのだ。
こういう時に役に立つのが、実体を持った幻を生み出す『
料理の匂い、それも"ダイバーシティ"達の好物の匂いを嗅がせてしまっては戦闘行動に支障が出る可能性がある。
ここは匂いを遮断する結界を張っておくべきだな。
ついでだ。私が何をしているか分からないように景色の認識を阻害する結界も張っておこう。これで彼等も魔物や魔獣との戦闘に集中できる筈だ。
では、調理と同時に風呂場も作ってしまうとしよう。とは言え、キャンプの景観を損なうことがないように、あまり凝ったものを作るつもりはないが。
製作するのは洗い場と浴槽、そして仕切りだ。"ダイバーシティ"達は男女のパーティだ。全員が同じ浴槽に入るわけにはいかないだろう。カンディーの風呂屋も、男女で別れていたからな。視線を遮る仕切りは必要になる。
まずは洗い場だな。排水性を良くするために、ほんの少し坂になるように木の板を用意しよう。
木材はこの辺りに生息している樹木型の魔物から拝借させてもらえばいい。『幻実影』を目的の魔物の前に生み出して斃せばすぐだ。
死骸を『収納』に収め、こちら側で『収納』から取りす。これでタイムラグ無しで素材の調達が可能である。自分で開発しておいてなんだが、『幻実影』はつくづく便利な魔術である。
十分な木材を確保したら、木材となった魔物を加工して、綺麗な木の板にする。それを隙間なく平坦に下河原に並べれば、洗い場として十分だろう。
水、と言うかお湯は川から引いて来ればいい。浴槽にも同じことをするが、こちらに水を引いてくる際に『
魔術具の作製も問題無い。魔術具を作る知識は十分あるし、素材もある。それに、『加熱』や『清浄』といった魔術は初歩的な魔術だ。魔術の効果を物質に組み込むのは、私にとって造作もなかった。
排水先には一応、『
浴槽の数は3つ、男性用、女性用、そしてランドドラゴンとランドラン達用だ。
私の家にいる皆が風呂に入って気持ちよさそうにしていたのだ。ランドドラゴンやランドラン達だって、風呂に入ったら疲れが取れる筈だ。
なにせ、風呂の水は川の水を使用するからな。川の水には魔力がたっぷりと含まれているのだ。浸かればたちまち消耗した魔力を回復させられるし、疲れも癒えることだろう。
浴槽にあたる部分はそれほど大きくするつもりはない。一人一人が足を延ばせるだけのスペースを確保できれば十分だ。
1人分のサイズは長さ180㎝、幅1m、深さ60㎝程度もあれば十分だろう。それを人数分の広さにして製作しよう。
ただし、そのサイズはあくまでも人間用だ。騎獣であるランドドラゴンやランドラン達は人間達よりも大きい。それに6体皆で入ることになるだろうからな。1体分の浴槽の大きさは、人間達1人分のサイズよりも大きくしなくては。それを6体分の広さとして用意するのだ。
やることはいたって簡単だ。河原を浴槽のサイズにくり抜いてしまえばいい。
どうせ"ダイバーシティ"達からは見えていないのだし、ここは自重せずに尻尾と
『
それに、人間達の生活圏に旅行をしている間は、こういう時でも無ければ鰭剣を使用する機会がないからな。いや、それを言ったら『我地也』も同じか。やはり気分の問題だったな。
まぁいい。既に河原を浴槽のサイズにくり抜いてしまったのだ。くり抜いた河原の土や石は『収納』に収めてしまおう。
後は地面を適当な魔術で固めてしまえば、浴槽は完成と言っていいだろう。
後は川から水を引いて3つの浴槽へ、浴槽から川へ排水するように水路をすれば、風呂の完成だ。
……魔術で浴槽を固めてしまうのなら、やはり最初から『我地也』を使用すれば良かったな…。
まぁ、鰭剣は『我地也』以上に使用する機会が少ないから、使いたくなってしまったのだ。尻尾を伸ばすこともあまりやらないしな。
洗い場も浴槽も完成したら、後はそれぞれの視線を遮る仕切りを立ててしまえばいい。木材も洗い場を作る際に十分な量集めた。
木の板の厚みと同じ幅の溝を女性用と騎獣用、騎獣用と男性用の浴槽の間に作り、そこに木の板を隙間なく突き立てて行けば仕切りの完成である。
なお、騎獣の浴槽にも仕切りをしているのは、あの子達を洗ってあげるためだ。
特にランドドラゴン。可愛い可愛い私の騎獣なのだから、丹精込めて体を洗ってあげるのだ。
勿論、そんな光景を見たらランドラン達も体を洗って欲しいとねだって来るだろうから、洗ってあげるとも。
『幻実影』を使用すれば、それほど時間は掛からないだろう。仕切りをしたのは、『幻実影』で複数体に増えた私を見せないためである。
水路に魔術具を取り付けて水を流せば、私が想定した通りに清潔なお湯が風呂場へと流れていく。この勢いならば、20分もすれば浴槽にお湯が溜まるだろう。
風呂の準備はできた。後は皆の食事の準備に専念しよう。
それにしても全員が全員、違うものを注文して来るとはな。まぁ、どの料理も人数分以上作るから、その分私も色々な料理を食べるつもりだし文句はないが。
修業を開始してから2時間ほど経過したところで料理が完成した。味見もしたし、バッチリである。
"ダイバーシティ"達は7回目の戦闘を行っている最中で、息も絶え絶えといった様子となっている。
キャンプの準備をしながらも、彼等の様子は『
普段から訓練を怠っていないというだけあって、動きに無駄が少ない。一つ一つの動作が反復練習を行って身に付けたものだとも理解できる。彼等は、私が知る冒険者の中でも特に真面目な冒険者達だったのだ。
しかも、全員が練度はともかく『格納』を使用できるだけの魔術の使い手なのだ。魔術の腕だけならば私が知るリナーシェ以上と言っていいだろう。
私が知るリナーシェは『格納』を使用する事ができない。彼女が所有する15の武器、確か月獣器と呼んでいたか。アレを仕舞っているのは、アレをしまう専用の魔術である『大格納』と呼ばれる魔術だ。
名称に大という文字が付くが、これは容量の意味ではない。格納空間の穴の大きさの意味である。
一度に仕舞える量や一度に取り出せる量は『格納』を遥かに超えて入るのだが、如何せん個人で使う場合は効率が悪い魔術だ。
それでも、リナーシェは月獣器を一度に出し入れしたかったがために、オリヴィエに協力してもらってまで『大格納』を習得した。こだわりがあったのだと彼女は得意げに語っていた。
さて、そんなリナーシェなのだが、私が知る限りでは『大格納』以外の魔術はからっきし苦手と言っていい。
使えないわけでは無いのだ。だが、魔術の発動までに時間がかかるし、そもそも正確な魔術構築陣が描けないのである。
その点はシャーリィと同じだな。体を動かす事に関しては正確な動きができる点までそっくりである。
まぁ、彼女達の魔術の上達に関しては解決策を考えているので、それを実施すればいいだろう。
話を戻して"ダイバーシティ"だ。
戦闘能力、と言うか身体能力が最も高いのがアジーだな。魔力による身体能力強化が得意なようで、ただ膂力があるだけでなく、早さも技量もある。5人の中で最も良い動きをしていた。
ランドランに騎乗しながらハルバードを振り回す姿も、かなり様になっていた。人騎一体の動きと言っていいだろう。
シンプルであるがゆえに強い。それがアジーという女性だ。
次いで戦闘能力や身体能力が高いのがリーダーであるティシアだ。
彼女の獲物は筒状の魔術具らしき道具なのだが、アレはどうやら魔力を込めることによって『
2戦目で
他のメンバーを指揮していただけあって、ティシアは周りをよく見ているのだ。
あの筒状の武器は非常に軽く取り回しが良く、魔物の僅かな隙を逃す事なく急所を貫いていた。
そんな隙を作り上げていたのがスーヤだ。彼も自分で語っていたが、"ダイバーシティ"の中で最も素早いのがスーヤである。
彼の主な獲物は右手で逆手に持った刃渡り60㎝ほどの片刃のショートソード…ではなく、左手の手甲に内蔵された5本のミスリル製のワイヤーである。手甲の指先のパーツと共にそれぞれ射出されていた。
魔力を纏わせる事で自在に操作可能で、ワイヤーを魔物に絡ませて動きを阻害したり、ワイヤーを高速で振動させることで切断力を持たせたりもしていた。
勿論、ショートソードも見せかけではない。初戦の水棲系の魔物を両断したのは彼のショートソードによるものだ。彼は自分に適した短刀術を体得しているのだ。
投擲術も大したものだった。ワイヤーを射出している時もそうでない時も左手は自由だ。牽制にも妨害にも、的確なタイミングで投げつけられた投擲用の小さな刃物に対して、投げつけられた魔物は非常に迷惑そうにしていたのである。
アレは刀身に何らかの薬品が塗られていると見て良いな。投擲前に魔力を込める事によって貫通力も増していたようだ。
妨害を行うのはスーヤだけではない。魔術師兼錬金術師でもあるエンカフ。彼も魔物の動きを頻繁に阻害していた。
彼は暇を見つけては冒険に役立つ薬品や道具をひたすらに作り続ける日々を送っているようだが、今回はそれらの道具を使用する気はないようだ。道具を作る設備も機会もない場所で消耗品を使用したくはないのだろう。
だが、彼は魔術師でもあるのだ。2戦目で使用した『
勿論、妨害だけが彼の役割ではない。初戦の時に『
妖精人なだけあって、彼の魔力量や密度は"ダイバーシティ"の中でも一際多いのだ。
そして私が一番気になっていたココナナだ。やはり彼女の操縦する"
"魔導鎧機"は鎧というよりも魔術具の塊だな!私の知識で説明するならば、人型の"ヘンなの"と言えば良いだろうか?とにかく多彩な機能が搭載されていた。
例えば腕部。腕部には魔力の盾を展開し、更に出力を高めることで半径10mほどの結界を張っていたのだ。
腕部に搭載されていた機能はそれだけでなく、何と拳を高速回転させて魔物を殴りつけていたのだ!殴られた魔物は、痛かっただろうなぁ…。
勿論機能が搭載されているのは腕部だけではない。両肩と腰の両側が展開し、魔力の弾丸を高速で射出したのだ!
しかも連射である!一つ一つがの筒が、秒間10発は射出していた!
弾丸自体が高速回転することで貫通力も高められていた!硬い甲羅を持った蟹型の魔物が、あっという間に穴だらけになってしまったのは驚きだった。
…ただ、あの蟹は味が良いらしいから、できれば綺麗に斃して欲しかったな…。
まぁ、食べたければ自分で捕ってくればいいだろう。今は素直に"魔導鎧機"の性能を楽しむとしよう。
"魔導鎧機"の機能は盛りだくさんだ。
何と頭部にも攻撃用の機能が搭載されていて、額の部位に両手の人差し指部位と中指部位を接続させて魔力を送り込む事で、真・黒雷炎のような光線を放出したのである!
威力は言わずもがな。最上位の防御力を持つ
…その後、魔力を使い果たしたようで機能が停止してしまったが。
正直、"ダイバーシティ"を見くびっていたと思っている。彼等ならば負荷を掛けた状態でもグレイブディーアを斃せそうだ。まさか、"魔導鎧機"がこれほどまでの性能を持っているとは思わなかった。
ランドランに騎乗しているため見る事はできなかったが、間違いなく脚部にも何らかの機能を搭載している筈だ。明日の模擬戦でじっくりと確認させてもらおう。
隕鉄亀をココナナが倒したところでキリが良いので、今日の修業は終わらせることにした。後は美味い食事を取って風呂に浸かり体を温め、明日に支障が出ないようにしっかりと休ませてあげよう。風呂上がりの冷たいドリンクもバッチリである!
「皆お疲れさま。よく頑張ったね。食事の準備はできているよ。少し休憩したら食べるとしよう」
「お…終わったあ~~~!」
「…倒しても倒しても次々に現れる魔物の群れ…」
「い、生きた心地がしなかったわ…」
「めし…めしを食わせてくれ…くりーむしちゅーが食いてぇ…」
「"サニー"ィ!…ごめんよ…!私が弱かったばっかりに…!魔力が枯渇してしまった…!」
ココナナは"魔導鎧機"に名前を付けていたらしい。涙目で機能が停止している魔導鎧機にすがるようにして謝罪している。
「明日も全力で戦闘を行ってもらいたいからね。"魔導鎧機"の魔力の補充は私が行っておこう」
「っ!?あ、ありがとうございます!ありがとうございますぅ!」
物凄い喜びようだ。ここまで喜ぶと言うことは、"魔導鎧機"の魔力を満タンまで補充するのは人間からしてみたら、結構な魔力を消費するのかもしれないな。まぁ、私ならばすぐだが。
それよりも、今はここまで戦い抜いた"ダイバーシティ"の健闘を称え、食事を行うとしよう。
要望通り、彼等の好物とデザートだ。たっぷりと食べると良い。
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