第306話 アクレイン王国の土産話

 最初に皆に話すことは、やはり私がすぐに次の旅行に向かう事になった理由。

 世界を滅ぼす事を目的に活動していた秘密組織"魔獣の牙"、もとい"女神の剣"の調査結果を教えておこう。

 皆もあの連中の事は私の敵として認識してくれていることだしな。


 まぁ、説明自体は大して長くはならなかった。

 ファングダムでやらかしてくれた"蛇"の足取りは容易につかめたし、拠点の位置も把握、滞りなく全滅させた。


 私にとっての問題はその後の話だな。

 連中が世界を滅ぼそうとする理由、この世界に対する侵略者であるアグレイシアについてだ。


 女神を名乗るアグレイシアの事を聞くと、皆も黙ってはいられなかったようだ。不快感を隠そうとしていない。


 〈そのアグレイシアとやら、随分と傲慢なのですね。既に安定している世界を自分に相応しくないと語り滅ぼそうとするとは…〉

 〈ノア様、ソイツを倒す事はできそう?〉 

 「現状では難しいね。なにせ異世界に干渉する術を、私は持っていないから」


 アグレイシアの能力を想定して、私がアレを滅ばせるかどうかを考え続けているのだが、現状では倒す事ができないというのが私の結論だ。


 〈ソイツ、ご主人よりも強いの?〉

 「強さのほどは私にもわからないよ。今分かっているのは、奴は異世界に干渉ができて、私にはできないと言う事実だけなんだ」


 仮にアグレイシアと戦闘を行う事ができたとしても、奴が別次元に逃げてしまえばこちらからは手の出しようがなくなってしまう。


 逃げられたうえにこちら側の対策を取られでもしたら、面倒な事この上ない。ああいった手合いと戦う場合、やはり最初の邂逅で勝負をつけるべきだ。


 確実に勝てるだけの力を身に付け、相手に気取られずに相手の陣地に乗り込み、そして逃げ場を塞いだうえで一気に叩く。これがベストだ。

 可能ならば、それまで奴には私の事を認識されたくはない。


 私がやるべき事の最終目標は、異世界への干渉手段を手に入れる事だ。

 それは五大神ですら現状不可能らしいので、彼等に教えを乞う事も出来ない。手探りで見つけていくしかないだろうな。


 だが、手掛かりが全く無いわけでもない。異世界人の存在だ。

 言い方は悪いが、彼等はこの世界からしたら異物である。異世界に干渉するためのヒントが得られるかもしれない。


 そのためにも、マコトに会うのは必須だろう。彼は信頼できる人間だ。私の正体まで語るつもりはないが、"魔獣の牙"の目的とその理由を教えることぐらいは話して問題無い筈だ。

 再び彼に心労を背負わせることになってしまうのは、若干気が引けてしまうが。


 後は、マコトの後継者候補であるジョージか。彼は肉体自体はこの世界の人間ではあるが、魂は異世界から来た存在だ。此方の世界に訪れる際に何者からか干渉を受けているかもしれない。是非とも話を聞かせてもらいたいものだ。


 〈それでは、おひいさまは今後は異世界人と積極的に関わっていくおつもりなのですか?〉

 「そのつもりだよ。それに、彼等の知識や技術は、どうやらこの世界のそれよりも進んでいるようだからね。あわよくば色々と学ばせてもらおうと考えているよ」


 ただでさえ、今も異世界人からは恩恵を受け取っているからな。世界共通の様々な単位から始まり、料理や風呂も異世界人がいなければここまで楽しむ事はできなかっただろう。

 まだ見ぬ異世界人がこの世界にいるのなら、是非とも仲良くなっておきたい。


 尤も、異世界人ならば誰でも信頼できると言うわけではない。

 そもそも、世界を滅ぼそうと企てる"女神の剣"の始まりは、アグレイシアが連れて来た異世界人なのだから。


 異世界人と言えどその善性は人に寄りけりなのだろう。でなければ、アグレイシアが連れて来た少年の悪辣さに説明がつかない。


 私が異世界人と会うときは、相手の内面をしっかりと見極めるとしよう。



 重苦しい雰囲気になってしまったが、後は明るい話ばかりである。

 展望台から眺める海の景色の美しかったこと、しかもそんな景色を眺めているところを絵画にされてしまったこと。そしてその時に人間達は絵画や模型などを一か所に集めて作品の出来栄えを競うコンテストを行っている事を話した。


 皆は美術品にはあまり興味無さそうだったが、海の景色や私の姿を描いた絵画は気になるらしい。

 残念ながら、私の姿を描いた作品はコンテストの優勝作品だ。この場には無い。


 しかし、どのような内容かは、しかとこの目に記憶している。良ければ私が再現しようかと訊ねれば、満場一致で再現を頼まれてしまった。


 今は旅行話の最中なので、絵画の再現は話が終わってからという事にしてもらい、旅行の話を続けさせてもらった。


 港街・モーダンに行けば、ちょうど海外から交易船団が到着するところで、大型船がまとめて港に到着する光景は実に圧巻だった事。そんな交易船団の立体模型を製作した事も話した。

 こちらも興味を持たれたが、オークションに出品してしまい、ココにはない。

 既に新しいものを制作済みなので、話が終わった後に、城に飾るついでに見せてあげよう。


 ついでとばかりに私の作品を購入したデヴィッケンが、私に対して横暴で会った事もこの際だから話させてもらった。


 デヴィッケンの私に対する態度は、皆を怒らせるには十分すぎるほどの態度だったのだが、既に私がこれ以上ない恐怖を与えてやった事を伝えると、皆すぐに留飲を下げてくれた。

 まさか、あの心優しいヨームズオームまでもが不愉快さを露わにするとは思ってもみなかった。


 話は戻って港町で経験した事だ。大量の服や美術品を購入した事は勿論、デンケンやオスカーを交えてこの大陸の作物が他の大陸では育たず、他大陸の作物もこの大陸では育たないものが多い事を伝えた。

 すると、皆の興味は大陸によって育つ作物の話ではなく、海外の作物そのものだ。


 勿論大量に購入してあるし、いくつかの植物に関しては私が種子に魔力をなじませたうえで、既にラフマンデーに世話を任せている事を伝えた。

 これに関しては、作物の成長が待ち遠しいと語る子達がいれば、作物が魔物化してしまう事を懸念する子達もいた。


 しかし、私が予め種子には魔物化しないでほしいと願いを込めていた事を伝えれば、心配していた子達から心配は消え去っていた。


 それから、モーダンでの出来事と言えば、やはりトゥルァーケンである。噛めば噛むほど旨味が出て来て大変美味ではあったのだが、如何せん人間の、庸人ヒュムスの顎の力では大量に口にすることができなかったので、ほぼすべてを卸さずに持って帰ってきたのである。

 皆ならば問題無く食べられる筈だから、後で食べるとしよう。


 そうそう、大量の衣服に関してはやはりフレミーが強い興味を持ってくれた。時間ができた購入した服を全て着て見せて欲しいと頼まれてしまった。


 一着ずつ着て見せていたら、どれだけ時間がかかるか分からないので、『幻実影ファンタマイマス』をフルに使用して一気に見せるとしよう。

 フレミーの制作の幅を広げる助けになれば嬉しい限りである。彼女独自の服が作られる事が楽しみである。


 というか、フレミーは現在どれぐらいの量の服を作っているのだろう?既に毎日着替えても余ってしまうほどの量、衣服を制作しているような気がする。

 彼女が製作した衣服は、大事にしながらその全てを必ず一回は着用しようと思っている。


 購入した美術品に関しては、城に設置すると答えれば、皆とても喜んでくれた。折角建造したと言うのに、今のままでは何処か味気ないと思っていたようだ。

 美術品を並べて行けば、少しは飾りになるだろう、と言うのはゴドファンスとラビックの意見だ。


 美術品の設置には、是非とも同行させてほしいと頼まれた。断る理由などどこにもない。是非とも一緒に城を飾って回る事にしよう。

 ゴドファンスの背中に乗せてもらいながら、ラビックを抱きかかえて城内を移動するのだ。きっととても穏やかな気持ちになれるだろう。


 モーダンを離れたらいよいよ美術コンテストが開催される王都・アクアンでの話である。

 色々あったわけだが、私がアクアンでの生活で一番心に残った事は、美術コンテストでも無ければオークションでもない。

 マギモデルやマギバトルにも強い興味を引かれたが、それも一番ではない。


 では何かと言えば、それは心を、思いを込める事の重要性である。思いを、意思を込める事が重要なのは、魔法だけではないのだ。

 物だけでなく、ありとあらゆる製作や表現において、思いを込めるという行為は非常に重要である。それらは決まって受け取り手に感動を与える。絵画や模型、装飾品だけでなく、音楽や料理でもそれは同じだったのだ。


 勿論、他の出来事も印象に残った。例えばアクアンに入った直後から私と私の同行者であるオスカーを影から取材し続けていた記者のイネス。

 彼女が執筆した新聞記事は毎朝の私の楽しみになっていた。


 植物研究科にしてアクレイン王国の侯爵の地位を持つジョゼット。

 彼女のおかげで、私は様々な茶葉やコーヒーという素晴らしい飲料に巡り合うことができた。モーダンで大量に購入してあるので、是非皆にも口にしてもらおう。

 尤も、皆の口に会うかどうかは分からないが。


 非常に強い思いが込められた見事な装飾品を作り上げたホーカー。彼にはレイブランとヤタールをモチーフにした装飾品の制作を依頼している。彼の故郷に足を運び、完成品を受け取るのが実に楽しみである。

 彼の恋人であるキーコを救ったのが私だと、キーコにバレていないか少々心配ではあるが、バレたらバレたでその時だ。素直に認めて黙っていてもらおう。


 たった一日の付き合いではあったが、私にマギバトルの楽しさを教えてくれたリアスエク。

 結局、彼のライバルとやらが何者なのかは分からなかったが、マギバトルが時間を忘れて楽しめる娯楽である事は十分に伝わった。

 話をしたらウルミラがとても欲しがったので、ピリカに会いに行ったときに購入させてもらおう。在庫があればの話だが。


 そしてアクアン到着から、アクアンを離れる前日まで、毎日稽古をつけていた冒険者達。

 "星付き"冒険者であるカルロスからいちゃもんを付けられたのも、今となってはいい思い出だ。

 彼のおかげで以前開発した魔術『時間圧縮タイムプレッション』の効果を検証、確認する機会を得ることができた。

 どれも印象的で、思い出に残る出会いだった。


 そして今回の旅行の締めくくりとなるアマーレの街である。

 街に付いた途端に街一番のホテルのオーナーに出迎えられ、そのままホテルへと連れて行かれるとは、流石に予想していなかった。


 "ホテル・チックタック"。最も安い部屋でさえ、私が宿泊した事のあるスイートルーム以上に豪華な部屋であり、私はその中でも最も高価な部屋、10階建ての建築物の最上階で宿泊する事となった。


 移動は階段ではなく昇降機だ。移動したい階層を指定することで、自動的に指定した階層まで移動してくれる便利な機能を持っている。

 私の城にある昇降機は、自分で高度を調整しなければならないので、移動が少々面倒臭かったりするのだ。

 皆も城の昇降機を改造しよう、と言ってくれた。勿論、私もそのつもりだ。


 そしてアマーレでの生活と言えばやはり小型高速艇だ。ウルミラに渡した玩具の元でもある。

 海面をかき分けて高速で移動することの楽しさを伝えたら、自分達も乗ってみたいと口をそろえて要求されてしまった。

 流石にこの要望を叶えるのは今はまだ難しい。何せこの広場では再現できないことだからだ。

 一応、遊泳のためおプールを作りはしたが、小型高速艇を走らせるのは、流石に無理がる。そもそも、小型高速艇を所有していないしな。


 皆にも小型高速艇の良さを体験してもらうには、実際に小型高速艇に乗ってもらうしかない。

 ともなれば、この広場に同じ大きさの池を作るか、と問えば、それも違う。

 この広場は一国の領土と同じかそれ以上の広さはあるが、それでも小型高速艇を十全にこの場で楽しむには広さが足りない。

 つまり、再びアマーレへと皆を連れて行くのがベストなのだ。


 しかし、そのためには皆に魔力の隠蔽を行ってもらう必要がある。その辺りはどうなっているのだろうか?

 特にレイブランとヤタール。


 〈ある程度は抑えられるようにはなったのだがな。やはりフレミーやウルミラ、ラビックのようにはいかぬのが現状よ〉

 〈完全制御ともなると、繊細な魔力操作が必要になる様でしてな。儂やホーディには少々難しいのです〉

 〈すっごい集中しなきゃなの!疲れちゃうのよ!〉〈フレミーやウルミラは何で平然とできるのかしら!?〉


 とまぁ、こんな具合で、魔力の完全制御にはまだ時間を要するらしい。

 なお、ヨームズオームは魔力をこれ以上抑える気はないらしい。というか、この子はまだ人間達の前に連れて行くべきではないので、可哀想だが皆を連れて行くことがあったとしても留守番をしてもらう事になる。

 この子自身はあまり気にしていないようだが、やはり気になってしまう。

 代わりと言っては何だが、ヴィルガレッドの元に連れて行くのはこの子だけなのでそれで我慢して欲しい。


 ―気にしてないよ~?―

 「それでもだよ。私の気が済まないんだ」

 ―そっかー―


 嬉しそうに目を閉じて、笑っているようにしか見えないヨームズオームがとても可愛らしい!沢山撫でておこう!


 話がそれてしまった気がするが、とにかくまだ皆を人間達の元へ連れて行くのは難しそうだ。

 フレミーやラビックはあまり興味がなさそうだし、ウルミラはとても興味深そうにしてはいる。とはいうものの、前回ファングダムに呼んだことで、ある程度満足しているようなのだ。


 そういうわけで、今度の旅行も私の1人旅である。


 後は深海神・ズウノシャディオンと会話をしたり、アマーレの近くで発生した地震の影響で引き起こされた津波を押し返した事を話したところで、辺り一面が真っ暗になっていた事に気付いた。


 旅行での出来事はある程度話せたのだ。今日はもう風呂に入って寝るとしよう。

 明日は城の昇降機の改造や、美術品の設置を行うのだ!


 さて、皆と一緒に、モフモフに包まれて寝るのも実に久しぶりだ!


 すぐに意識を手放してしまうかもだが、存分に堪能しよう!

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