第287話 改めてお茶を飲もう!    ※描写注意

【前書き】

今回途中と終盤で猟奇的で残酷な描写があります。ご注意ください。

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 デヴィッケンの目論見も潰し、丁度ジョゼットの仕事も片付いたとの事なので、お待ちかねのお茶会の時間である。


 憂さも晴らす事ができたし、気分はそれなりに上々だ。そのうえ、楽しみにしていたお茶やお茶菓子を味わえるとなれば、更に機嫌が良くなるのは当然だ。


 場所は依然と同じくテラスだ。そして今回もオスカーは参加するらしい。

 私に対する怯えの感情は、随分と薄まってきたようだ。会話のやり取りにぎこちなさが無くなっている。


 テラスに来てみれば、既にジョゼットはお茶を用意して私達を待っていた。お茶も茶菓子も、すぐにでも用意できるようだ。

 おそらくチャノキの葉と思われる香りが漂っている。紅茶とはまた違った、若草のような青い香り、それでいてとても気が鎮まるような香りだ。多分だが、発酵させていない茶葉なのだろう。


 実際に淹れたら、どれほど香り高くなるのかかなり期待が持てる。何せ茶葉の状態で既に良い香りだと私は判断しているのだ。飲まなくても分かる。絶対に美味いぞ?


 それはそれとして、今回はこれまでの紅茶に使用していた物とは違う茶器を使用するようだ。

 テーブルに置かれているのは純白で艶のあるポットやカップではなく、鈍く暗い色合いをしたポットとカップだ。

 形状も今までの物とは大分違う。そもそもカップには持ち手が無い。


 だが、これはこれで味のある色合いだ。

 多分だが、発酵しないチャノキのお茶を飲む国の品なのだろう。チャノキの葉である以上、この大陸にある筈だ。いずれは訪れる事になるだろう。


 その時は、たっぷりと茶葉を購入させてもらうとしよう。


 席について私達が来るのを待っていたジョゼットに一声かけよう。


 「待たせてしまったかな?」

 「まさか。私がはやる気持ちを抑えられなかっただけさ。それに、『姫君』様を待たせるつもりは無いからね」


 私達が席に着くと、早速ジョゼットの傍で控えていた使用人がお茶を淹れ、それぞれのカップに注ぎ始めた。

 湯気が立ち上がり、その湯気から安らぎを感じさせるような青い香りが、私の鼻孔を刺激する。


 いいじゃないか。やはり、私の予想は間違っていなかった。もう、口に付けても良いだろうか?

 いや、待て。確かに味わいたいところだが、飲んでしまったら十分に香りを楽しめなくなりそうだ。

 もう少し、もう少しだけ、この香りを楽しみたいと思っている私がいる。


 まずはカップを手に取り、口元まで近づけて香りを楽しもう。

 カップに注がれたお茶は、透明感のある薄緑をしている。

 という事は、やはり発酵していない茶葉を用いているのだろう。さしずめ、緑茶、と言ったところか。

 カップから漂う湯気から、これまで以上に緑茶の香りが私の鼻孔を刺激してくる。


 ああ…いい香りだ。とても気持ちが安らぐ。先程まで少々血なまぐさい事をしたせいか、余計にそう感じるのかもしれないな。


 紅茶にも鎮静作用はあると思うのだが、この発酵していない茶葉の鎮静効果は紅茶のそれを上回ると言って良い。


 いかんな。もっとこの香りを堪能していたいところだが、いい加減私の舌がそれを我慢できそうにない。口元までカップを近づけてしまった弊害だ。


 味わってみたいという欲求にこれ以上抗わず、カップに口を付けてお茶を口内に少し含んでみよう。


 ………いい…。いや実に良いなコレは!


 苦味や渋みは紅茶よりも強いようだが、決して不快ではない。旨味はしっかりと感じられるし、なによりとても気持ちが安らぐのだ。


 私が緑茶の味を堪能していると、表情が分かり易く出ていたのだろう。自慢気にジョゼットが感想を訊ねて来た。


 「いかがかな?もう予想がついていると思うけど、今口にしてもらっているのは、発酵していないチャノキの葉、その名も緑茶だよ。紅茶とはまた違った味わいがあるだろう?」

 「うん…。いいね、美味しい。とても気に入ったよ」

 「それは良かった。なら、緑茶に合う茶菓子もきっと口に合うよ」


 そう言って差し出されたのは、暗い紫色をした、艶のある直方体の固形物だった。仄かに甘い香りがする。これはどんな菓子なのだろうか?


 木製の小さなナイフのようなものが皿にのせられているので、コレを用いて切り取り、突き刺して食べるのだろう。


 固形物にナイフのようなものを押し当てると、やはり抵抗なく切断できた。小さく切り分けた固形物をナイフのようなもので刺して口まで運ぶ。さて、どのような味がするのだろうか?


 おお!この食感は味わった事が無いな!つるりとした舌触りに、若干の粘りも感じられる!今まで食べた菓子とはまた違った味わいだ。どことなく、優しさを感じる。


 この菓子、原料は………豆か!茹でた豆を漉してペースト状にしたようだ。それに砂糖を加えたのだろうな。

 だが、それだけではこうして艶のある固形物にはならない筈だ。ペースト状の豆を固める何かがあるのだろう。


 ………アレだ!この国の図書館で読んだ、海藻を原料とした凝固剤だ!確か、カンテンと言ったか?アレで固めたに違いない!


 とにもかくにも、気に入った!これは良いものだ!おそらく、材料さえあれば作るのはそう難しくない筈だ。ジョゼットに原材料を教えてもらい、購入しておこう。家の皆に振る舞うのだ。


 そして再び緑茶を口にすれば、口の中に広がっていた甘味が、苦みや渋みと混ぜ合わさり、とても味わい深くなる。


 「茶菓子の方も気に入ってくれたみたいだね。そっちはある豆を原料にしたヨーカンと呼ばれる菓子でね。この国の貴族達にも人気が高いんだ」

 「私が知るどの菓子とも食感が違うんだ。人気が出るのも頷けるね」


 この国の、と言うのだから、この菓子はこの国の菓子では無いのだろうな。態々取り寄せたのだろうか?まぁ、それは気にするところでは無いな。

 今はこの新しい味を存分に堪能させてもらうとしよう。



 それにしても本当にお茶の種類というのは多種多様だな。あれから、海外のお茶や茶菓子も色々と味わわせてもらった。

 まぁ、流石にジョゼットやオスカーは大量には摂取出来ないので、味わったといっても緑茶を含めて3種類なのだが。


 どれも気に入ったので、モーダンにオスカーを送るついでに購入する事を決めた。ヨーカンの原料は残念ながらモーダンには無いそうなので、原産地を訪れた時の楽しみにしておこう。


 今回のお茶会でジョゼットが教えてくれたのだが、私が落札した品やデヴィッケンが購入した立体模型の金は、既にやり取りが終わっていたらしい。この屋敷の使用人が、私がアクアンを観光している間に済ませてくれたようだ。

 品物も金貨も私が宿泊している部屋に置いてあるそうなので、部屋に戻ったら回収しておこう。 


 それと、ジョゼットがついでとばかりにデヴィッケンの事で私に忠告してきた。


 「心配ないとは思うけど『姫君』様。あのカエルはかなり根に持つ男だ。今回の仕打ちを受けても大人しくしてくれるとは思えない」

 「ああ、知っているよ。自分の宿泊している宿で目を覚まし次第、専属契約している裏稼業の組織と連絡を取っていたよ。深夜にこの屋敷に襲撃して、私達に危害を加えようと企んでいたね」

 「…筒抜けじゃないか。当然、あのカエルはその事を?」

 「知る筈が無いね」


 気付いた様子は全く無かったからな。デヴィッケンの護衛達も、私の幻がすぐ近くにいる事など夢にも思っていない。

 ちなみに、今もまだ幻をデヴィッケンの傍に配置している。これ以上良からぬ事をしでかす場合は、強制的に動きを止めようと思っているからだ。


 「なるほど。それがティゼミアの悪徳貴族をあっという間に根絶やしにした力の一端、と言ったところかな?」

 「そうだね。詳しくは説明しないけど、私はこう見えても潜入や調査と言った活動が得意なんだ」


 2人に態々『幻実影ファンタマイマス』の事を教える必要はない。

 何をしているのか、何ができるのかを教えて怖がられても、そしてそれをリアスエク達に教えられても面白くないからな。

 知らなくても良い事を態々知る必要は無いのだ。


 「それで、『姫君』様。その裏稼業の襲撃の対策は?まぁ、貴女ならする必要も無いのかもだけど」

 「心配はいらないよ。もう終わっているから」

 「…何をしたのかは、聞かないでおくよ」


 何をどうしたのかも、今2人に教える必要はない。多分だが、明日になれば分かる事だしな。


 私は、暗部の連中がデヴィッケンとの連絡を終えた時点で連中の拠点を"魔獣の牙"を壊滅させた時と同様、周囲の空間を固定させて離脱できなくした。


 そして連中に私の姿を見せ、死刑宣告をした後、拠点ごと連中を一人残らず魔力刃によって切り裂いたのである。


 全員バラバラに切り裂いたら、死体は後で使用するので全て回収し、拠点を『爆発エクスプロゥジョン』によって焼却した。

 その際に一応拠点に犯罪行為の証拠などがあれば回収しようと思っていたのだが、やはり証拠隠滅を徹底していたため、何も見つからなかった。

 そのため、一部の人間以外、誰にも知られる事のないまま、拠点を含めこの世を去ってもらう事にした。


 仕上げを行うのはもう少し先になるので、時間が来るまでデヴィッケンを見張りながらゆっくりと待っていよう。


 デヴィッケンに関しては何も気にする必要が無いと分かると、ジョゼットは封筒を一つ取り出し、私によこしてきた。


 封筒は昨日見た王城からの招待状と同じ物だ。どうやらもう返事が来たらしい。


 「早かったね?」

 「それだけ陛下は『姫君』様に会いたいのさ。オークションの時は声を掛けようとした時には既にいなくなっていたと嘆いていたからね」

 「あの時、声を掛けようとしていたのか…」


 気配を遮断して帰路について正解だったな。ああいった場所で国王と会話をするなど、確実に面倒な事になる。

 リアスエクとの会話が終わったら、次は自分が、と大勢の人間が私の元に向かおうとしたに違いない。あの時あの場にいた者達は、皆私と親しい関係になりたそうにしていたからな。

 まぁ、結界に阻まれて近寄れなかっただろうが。


 招待状の内容はというと、私が王城に訪れる日時の確認だった。

 リアスエクとしては明日の午後1時に訊ねて欲しいそうだが、それはあくまでも要望であり、訪問は私の都合に合わせれば良いらしい。


 リアスエクの予定に合わせるしろ、別の日時にするにしろ、どの道返答をする必要があるようだな。その辺りはジョゼットが行ってくれるらしい。


 「オークションの品のやり取りが終わっているのなら、特に時間にこだわる事は無いかな?要望通り、明日の午後1時に王城に訪れるとしよう。」

 「では、そのように伝えておくよ。さて、夕食まで中途半端に時間が余っているけど、どうしようか?」

 「それなら、夕食の時間まで、楽器でも演奏しようか?」

 「おお!いいのかい!?是非頼むよ!」


 というわけで短時間の演奏会だ。昨日のように夢中になって夕食の時間を忘れてしまわないように、しっかりと時計はセットしてもらった。


 音のなる時計。ピリカが作った物以外にもあったのだ。それも、あの時計ほど爆音を出したりはしない。ジョゼットが起床用に所持していたのだ。

 それで朝レイブランとヤタールに頼らずに起きられるかどうかは疑問だが。


 だが、楽器を演奏している最中に別の音が鳴り響けば、嫌でも意識を取り戻せる。今回も役に立ってもらう事にしよう。



 そうして夕食を終え、いつものように冒険者達に稽古をつけ、ジョゼットと風呂に入っている最中だ。


 デヴィッケンが行動を開始するようだ。例の『格納』と同性能の箱から通信魔術具を取り出し、暗部と最終打ち合わせを行うのだろう。

 あの連中、人間の中では手練れなだけあり、通信魔術具を『格納』仕舞う事でどこでも連絡が取れるのだ。

 まぁ、今はもう連絡がつかないのだが。


 「ん?何だ?何故繋がらない?まさか故障か!?どうなっているっ!?」


 暗部と連絡がつかないどころか、通信魔術具の反応が無い事に憤りを感じている。

 魔術具と言うだけでも非常に高額だというのに、遠距離の相手と連絡が取り合えるのだ。その価値は非常に高い。当然、用意するのには大量の金がかかる。


 多額の金を支払って購入した魔術具が肝心なところで壊れたとなれば、デヴィッケンでなくとも怒りの感情が湧いても仕方がないだろう。今回は故障ではないが。


 さて、デヴィッケンの様子を見るのもこのぐらいで良いだろう。そろそろ仕上げに入るとしようか。


 「ん?なん…っ!?な!?何だこれはっ!?何だこれはぁああああっ!?!?」


 部屋どころかデヴィッケンの宿泊している貸し切り宿に、デヴィッケンの悲鳴が響き渡る。

 外で待機していた護衛が即座に異変を察知し、部屋の中へと入っていく。


 「デヴィッケン様っ!?何が…っ!?」

 「う゛っ!?」


 午前中も見た2人の護衛が口元を抑えている。目の前の惨状に吐き気が込み上げてきたのだろう。


 私が何をしたのか。

 部屋の天井に『収納』の穴を開き、私が始末した連中の死体を全てデヴィッケンの元に落としたのだ。


 辺りは暗部達だったバラバラになった肉体がまき散らされ、死体の切り口から溢れ出た血液によってあっという間に部屋が真っ赤に染まっていく。


 デヴィッケンの目と、暗部達の切り離された頭部の目が合う。

 無論、計算して死体の目とデヴィッケンの目が合うように落とした。他の連中の頭部も全員分、デヴィッケンに視線を向かわせている。


 あまりにも異様な光景に、デヴィッケンは言葉を失い、慄いている。

 仕上げに背後から一言声を掛けてから、幻を消すとしよう。


 「な…な…な…なん…っ!?」

 「次は無い」

 「ぎゃああああああああああっ!?!?!?」


 防音処置を施してあるにも関わらず、デヴィッケンの悲鳴は貸し切り宿の周囲に響き渡った。


 悲鳴を上げたデヴィッケンはというと、失禁して気を失ってしまっている。

 流石にここまでやっておけば、この国にいる間に私にちょっかいを仕掛けてくるような事は無いだろう。

 ちょっかいを掛けようにもかけさせる手駒がいないだろうからな。


 さて、やる事も終らせたことだし、風呂から出て寝るとしよう!

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