アクレインへ往く!!

第241話 お姫様の特権!

 皆に挨拶を済ませたら結界よりも上の位置に転移をしてから、アクレイン王国の近くまで噴射飛行で移動する。


 転移で行ける場所ではあるのだが、やはり初めて向かう場所は自分の目で見ておきたいからな。

 それに、時間もそれほど変わらないのだ。たまには翼を使ってやらないとな。


 さて、移動に確認したい事を確認してしまうとしよう。


 『ルグナツァリオ、リビアに寵愛を与えた理由を教えてもらえる?』

 『ん?貴女と親しくなったからだよ?』


 なんだって?


 『どういうこと?』

 『だから貴女ととても親しい関係からだよ?勿論、ルイーゼにも与えているとも。って痛い痛い痛い!?ノア!?ちょっと締め付ける思念を送るのを止めてもらって良いかな!?』


 何を考えているんだこの駄龍は。


 神々の寵愛と言うのはそんな気軽に与えて良い物では無いのだろう?

 私の場合は称号を得たから世界的に有名になってしまったようだが、本来なら神々から寵愛を与えられただけでもやはり世界的に有名になってしまう筈だ。


 オリヴィエもルイーゼも元から非常に有名な人物ではあったが、こんなに短期間で複数の物が神から寵愛を受ける事態が続いたら、間違いなく世界は混乱するんじゃないのか?


 そんな事ぐらいわかっている筈だろうに、本当に何を考えているんだか。


 『一旦!一旦落ち着こう!こうも痛くては説明をしたくても説明できないよ!?』

 『少し前にも似たようなやり取りをした気がする…。』


 …もう少し強めに締め付けておくか。


 『だ、だから少し落ち着こう!ちゃんと説明するから!あああーーー!?!?』

 『説明は聞く。だけど少しは痛い目に遭ってもらわないと、私の気が済みそうもないんだ。』


 この駄龍の言い分だと、どうせ今後もポンポンと人間達に寵愛を与えていくだろうからな。今のうちに納得しておくためにも十分に締め付けておこう。



 気分が落ち着きアクレイン王国の国境からやや離れた場所で着陸して角と翼を仕舞い、『瞳膜』で瞳をカムフラージュし、纏う魔力を2色にしたら、尻尾カバーを装着する。

 着替えは家から出発する時点で、旅行用の服を着用しているので問題無い。


 では、アクレインの国境まで徒歩で移動しながらルグナツァリオから事情を聞かせてもらうとしよう。


 『で、なんだって私と親しくしているだけで寵愛を与えるのさ?』

 『貴女の代理のようなものさ。』

 『代理?』


 また良く分からない事を言いだしたな。考えても分かりそうにないし、黙って続きを聞かせてもらうか。


 『貴女は完全に私達を凌駕した存在だろう?そんな貴女が強い親しみを抱き、贔屓にするという事は、それは私達で言う寵愛を授ける行為なんだよ。』

 『それで?私が寵愛を与えていないから、貴方がとりあえず与えたと?』


 それはつまり、ルイーゼやオリヴィエに私の魔力か何かを分け与えろ、という事なのか?

 それをしなかったから、ルグナツァリオが代替的な処置として、寵愛を与えたと?


 『誤解しないで欲しいのだが、貴女を責めているわけではないんだ。貴女は貴女の思うままに生きてくれればそれで良い。ただ、貴女が神として彼女達に同じ態度を取った場合、間違いなく寵愛が与えられていた、と言う話さ。』

 『それで、神として生きる気のない私に変わって、貴方が寵愛を与えたと、そういう事?』

 『理解してもらえたようで嬉しいよ。』


 それって、つまり、今後ルグナツァリオの寵愛を受け取る者が大勢現れるという事じゃないのか?

 と言うか、私が強い親しみを持っている相手と言うのなら、ヴィルガレッドや家の皆はどうなるんだ?


 『勿論、彼等にも皆、私の寵愛を授けているとも。まぁ、それを人間達が知る機会はほぼないのかもしれないけどね。』

 『ヴィルガレッドはともかく、家の皆とは将来一緒に人間の街を見て回る予定なんだ。知らずにつれて行ったら大騒ぎになるところだったよ。』


 という事で軽く殴る思念を送っておこう。もっと早くに教えてくれ。


 『痛たたた…。伝えていなかった私に非があるのかもしれないが、唐突に殴るのはどうかと思うんだ。』

 『それもあるが、私の性格上、今後ごく普通の人間を気に入ることだってあり得るんだぞ?貴方はそんな人間に対しても寵愛を与えていくつもりか?』

 『そのつもりだよ?だけど、ノア。貴女は少々人間達を過大評価しすぎているね。ルイーゼやオリヴィエほどに親しみを持つ人物がそう何人もいるわけでは無いんだ。寵愛を受け取れる者は、貴方が思っている以上に少ない筈だよ。』


 本当だろうか?この駄龍の言う事だから、いまいち信用できないな。じっとりと睨み付ける思念を送っておこう。


 『疑念に満ちた視線すらも思念として送って来るのは止めてもらえないだろうか?それなら直接私の元に会いに来ればいいものを…。』

 『貴方のこれまでの行動を思うと、あまり信用に置けなくてね。私の中では、既にアクレインでも貴方は誰かに寵愛を与えてしまいそうな気がするよ。最早それを止める気も無いから、せめて寵愛を誰かに授けるなら、事前に私に伝えてからにしてもらえないか?』

 『分かったよ。約束しよう。』

 

 確か、以前ルグナツァリオに報告をするように言った時は、私何かをする時だったか。つまり、私に直接ナニカするわけでは無かったから報告してこなかったと?


 屁理屈かっ!?まったく、だから駄龍認定してしまうんだ。


 『いいか?以前、私に何かする時には報告するようにと言ったが、今後は私に関係する事で何かをするならその都度報告して欲しい。ただでさえ世界中で騒ぎになるだろうからな。』

 『む…。仕方が無いな…。私なりの貴女へのサプライズプレゼントのつもりだったんだが…。』

 『…しつこいが自分が周囲に与える影響を自覚してくれ。分かっていてそれなら、駄龍と言われても文句は言えないぞ?まぁ、私が他者に言えた義理ではないかもしれないが…。』

 『善処しよう。』


 本当に、頼むぞ?

 私が親しくするだけでポンポンと寵愛を与えられていたら、その内その仕組みを理解して私に関わろうとする者が後を絶たなくなるかもしれないがな。


 まぁ、そんな連中に寵愛が与えられる事は無いだろうが。



 ルグナツァリオとの話も終え、アクレインまでの国境を歩く事20分。国境に沿った国を囲う、高さ50mにもなる巨大な壁が見えてきた。


 アクレイン王国の名物、"海龍の守護壁"だな。

 その昔、貿易で得られる利益を我が物にせんとアクレイン王国に攻め入った他国の侵攻を、深海神・ズウノシャディオンに願い食い止めてもらった際に出来たのが、あの巨大な壁らしい。


 3ヶ月間に渡る深海神への祈祷が、かの神の心を突き動かし、海から長大な海龍を召喚して防壁を作らせたのだ。


 それ故にこの国では深海神への信仰が最も厚い国だと言われている。

 勿論、他の海に面した土地を持つ国や街も深海神を深く信仰してはいるが、アクレイン王国の国民達ほど信心深い、というわけでは無いそうだ。


 アクレイン王国は、ティゼム王国やファングダムと比べれば非常に国土の狭い国と言える。主要な都市も3つだけだ。

 だが、他の大陸と貿易が出来ると言う唯一無二とも言える利点は、この国に莫大な利益を与えていた。

 尤も、つい最近まではそれ故に不正が横行し、貧富の差が非常に激しい国でもあったそうだが。


 不正を行っていた輩が、アークネイトの件をきっかけに軒並み排除された事で、貧困に苦しむ者の数も減っているのだとか。

 だが、レオナルド曰く綺麗になったと言う国にも、未だ貧困に苦しむ民がいる事も事実である。



 現在時刻は午前7時。まだまだ早朝と呼べる時間の筈であり、この時間帯ならばすんなりと門を通過できると思っていたのだが、私が城門に到着する頃には、既に大勢の人間がアクレイン王国に入国しようと長蛇の列を作っていた。


 どうやら彼等は前日からこの城門の前に列を作り1日を過ごしていたらしい。凄まじい執念だな。


 だが、別におかしい事ではないかもしれない。

 長蛇の列に並ぶ者の中には、明らかに商人と思われる人物も並んでいるのだ。彼等にとっては時間に遅れると言うのは死活問題なのだろう。なるべく早く城門をくぐりたい筈だ。


 商品を仕入れに来たにせよ、商品を卸しに来たにせよ、時間が掛かってしまっては、大損する事は目に見えているのだから。


 私としても、さっさとアークネイトが幽閉されていた場所の調査を済ませたいので、なるべくなら早く入れさせてもらいたいのだが、ルールはルールである。

 未読の本を読みながら、大人しく順番を待つとしよう。



 私が長蛇の列に並んでからというもの、私に対する周囲の視線が、凄まじい事になっている。

 私の位置から城門まで、200mは人の列が続いているのだが、列の先端。今まさに入国審査を受けようとしている者すら私を一目見ようとこちらに首を向けているのだ。


 幸いな事、なのかどうかはともかくとして、列に並んでいる人々は私に視線を送るだけであり、私に話を掛けてくるような事は無かった。楽で助かる。


 あ、門番が一人、馬に乗ってこちらに向かって走ってきているな。私に気付いたのだろうか?

 まぁ、並んでいる人々が皆して私の方に目を向けていれば、流石に無視できる筈もないか。


 私の元まで辿り着いた門番が馬から降り、片膝をついて恭しく語り掛けてきた。


 あぁ…。馬、可愛い…。小さくてつぶらな瞳に整った毛並み、それにとてもしっかりとした筋肉をしている。

 興奮した様子も無いし、この子は優秀な軍馬なんだろうね。


 可愛いなぁ…。乗せてもらえないかなぁ…。後、出来れば撫でてみたい…。


 「私の間違いでなければ、貴女様は『黒龍の姫君』、ノア様とお見受けします。お間違い御座いませんか?」

 「えっ、ああ、うん。私は"上級"冒険者のノア。私に何か用かな?」


 しまった。馬に気をとらわれ過ぎていた。門番にも気に掛けなくては。


 それはそれとして、門番の対応が高位貴族、もしくは王族に対するそれである。

 まぁ、大国であるティゼム王国やファングダムから姫扱いされているのだから当然と言えば当然なのだが。


 「こちらにお並びになられているという事は、本日は我がアクレインに観光に来ていただいた、という事でよろしいでしょうか?」

 「うん。新鮮な魚介類が食べたくなってね。ついでに、ちょっとした調べものがあるんだ。」

 「調べもの、ですか?」


 この門番はおそらく門番達の中でも地位の高い者だろう。彼になら事情を伝えて問題無いだろうが、今私の周囲にいる者達にまで聞かれるのは流石に問題があるかもしれない。


 「それは入国審査の時に話させてもらうよ。」

 「承知しました。それでは、城門までご案内いたしますので。」


 そう言って門番は馬に跨ると、私に嬉しい誘いを申し出てくれた。


 「どうぞ、よろしければ、私の後ろにお掛けください。」


 なんと馬に乗せてくれると言ってきてくれたのだ!しかも、彼の言い分だと、そのまま城門まで移動して入国手続きをしてくれるらしい。


 「とてもありがたい誘いだけど、良いのかい?今もこうして並んでいる人達を抜かしてしまって。」

 「問題ありません。元より、貴族階級以上の方々は入国審査のためにこうして並ぶ事はありませんから。」


 やはりアクレイン王国でも私の扱いは一国の姫と同等の扱いをされるらしい。

 つまり、私が世間知らずだったという事だな。今後、他の国に訪れる時はその国の常識を調べられるだけ調べてから向かうとしよう。


 「それなら、ありがたく乗せてもらうよ。その前に、その子の事、撫でさせてもらってもいいかな?乗せてくれると言うのなら、その子にもお礼を伝えたいし。」

 「勿論です。こ奴も喜ぶでしょう。」


 素晴らしい!では早速、気持ちを落ち着かせて撫でさせてもらうとしよう。

 馬は首筋や肩の辺りを撫でてあげると喜ぶと本に書いてあったな。優しく撫でさせてもらうとしよう。


 「少しの間だけ、貴方の背に乗せてもらうよ?」


 ああ…とても、良い…。とても、暖かい…。これが動物の、馬の撫で心地かぁ…。心が癒されるなぁ…。


 ああ、この子の嬉しいと言う感情が伝わってくる。喜んでくれると、此方としてもとても嬉しい。ついずっと撫でていたくなってしまうな。


 だが、あまり門番を待たせるわけにはいかない。我慢して門番の後ろに横座りさせてもらおう。


 「それじゃ、よろしく頼むよ。」

 「はっ!お任せください!」


 門番は短く掛け声をかけると、その掛け声に合わせて馬が勢いよく走り出す。


 …通常の動物にしては、物凄い速さだな。この子が軍馬だからか?いや、違うな。


 その理由に門番がやや冷や汗をかいている。馬自体はとても喜んで張り切っているようだし、コレはまさか…。

 私が撫でた事で少しだけ私の魔力が伝わってしまったか?それによって、いつぞやのシンシアの時のように身体能力が強化されたのかもしれない。


 ものの5秒ほどで目的地まで到着してしまった。私の知識だと、基本的に馬の速さは100mで4~5秒だった筈だから、この子は倍近い速度で走った事になるな。


 「とても元気な子なんだね。」

 「は、ははは…きっと、ノア様に撫でられた事が、この上なく嬉しかったのでしょうな…。」


 門番の言っている事は、多分あまり間違っていない。馬から降りた後も、この子は自分の顔を私に摺り寄せて来て、撫でて欲しそうにしてきたのだ。

 とても可愛い。望むのなら、好きなだけ撫でてあげようじゃないか。


 と言いたいところだが、折角門番に連れて来てもらったというのに、彼を待たせるわけにはいかない。

 2、3回この子の首筋を撫でたら、早いところ入国手続きを済ませてしまおう。



 馬を降りると、門番達の詰め所らしき場所まで案内され、そこで事情、私の調べたいものについて話をしておく事にした。


 「つまり、アークネイトの行方の調査、という事ですか?」

 「それ自体は今もファングダムを調査しているこの国の衛兵や冒険者達に任せるさ。私が知りたいのは彼がどうやって幽閉されている場所から抜け出す事が出来たか、だよ。少しでも、手掛かりが欲しいんだ。」


 私の言葉に嘘は無いが、門番はやや懐疑的だな。私がアークネイト脱走の件にここまで執着する以上、何らかのかかわりがあると睨んでいるのかもしれないな。


 「…理由をお伺いしても?」

 「アークネイトは十中八九自力で抜け出したわけでは無い。彼と共に目撃されたローブの人物。その人物が手引きしたんだと思う。ローブの人物を放っておいたら今度は何をするか分からないからね。少しでも何かつかめないかと思って、アークネイトの幽閉場所を調べたいんだよ。あの場所でほぼ確実に出会っているだろうからね。」


 まぁ、幽閉場所でアークネイトと"蛇"が出会っていると言うのはあくまでも私の予想だが、多分合っていると思う。まぁ、違っていたとしても"魔獣の牙"の別のメンバーが分かるだけだ。問題は無い。


 私が行いたいのは、あの場所での『真理の眼』の発動だ。あの場所で何があったのかを確認しておきたいのだ。

 上手くいけば、"魔獣の牙"の拠点まで掴めるかもしれないからな。


 私の説明に、門番も納得してくれたみたいだ。


 「分かりました。正直なところ、ただでさえファングダムからの信用を失う事になってしまったあの者が、今もファングダムにいると思うと、国に勤める我々は心労が溜まる一方でして…。真相究明の糸口になってくれるのであれば、こちらとしても非常にありがたいです。ノア様ならばあの場所にも問題無く足を運ぶことを認められるでしょう。」

 「ありがとう。それでは、門を通られてもらうよ?」

 「ははぁっ!どうぞ、お通り下さい!海洋国家アクレイン、他大陸から送り届けられる品々と、海の恵み、どうぞお楽しみ下さい!!」


 張りのある、気の利いた送り出しの言葉を耳にしながら、城門を抜ける。


 さて、まずはアークネイトが幽閉されていたと言う断崖塔を目指すとしよう。

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