閑話 魔王陛下の平和な日常
くっふふぅー!
うあー、もぅ、うあー、くふふふ!
くぅーーー!
えへへへへへ…!
くふーーーーー!
あーうー…!あー…!ふぅ…。
ふふ!ふふふ…!
むふーーーーー!
「陛下、先程から何をニヤニヤとしているのですか?気持ち悪いですよ?」
「●☆◎%▲□ッ!?!?」
ぎょぇぁああっ!!?ユ、ユンッ!?ちょっ、嘘でしょっ!?い、何時からそこにいたのよ!?時計隠さなきゃ!
「わ、悪い!?凄く良い事があったから、嬉しくて笑ってただけよ!」
「陛下が無事城にご帰還なさってから、もう1週間経つのですよ?それほどまでに"ゴールドドーン"の相手は困難を極めたのですか?」
私がノアと別れを告げてから1週間。今日も魔王国は平和そのものよ。
まぁ、今までが平和だった分、世界蛇"ゴールドドーン"が目覚めて遥か彼方上空に出現したって報告がアリシアからあった時は、もう目の前が真っ暗になった気分だったけどね。
ヴィルガレッド様に続いて今度は世界蛇!?冗談じゃないわよ!!なんで私の代で2回も世界の危機が訪れてんのよ!!ってね。
ま、そんな世界蛇、今じゃヨームズオームなんだけど、あの子の事もノアが何とかしてくれちゃったのよねぇ…。
ていうかあの子を上空に移動させたのが他ならぬノアの仕業だったし。
ノア。
竜の月に"楽園深部"で何の前触れも無く唐突に産まれた、
新しい、私の親友…。
キャーッ!親友だって!うあー!もー!恥ずかしー!ノアがそう思ってくれてなかったらどうしよ~~~!
でもあの子ああ見えてかなりの寂しがり屋だし、あんなに私に抱きついて来てたんだから、絶対嫌われてはいないわよね!?むしろかなり好かれてるわよね!?親友で良いわよね!?
………コホン。
とにかく、今世界中で注目の的になっている『黒龍の姫君』ことノアの正体は、"楽園"の主である人間の形をした原種のドラゴンだったわ。
性格はとても温厚。極力相手を傷付けないように気遣って行動をする子ね。
それから、過保護すぎるぐらいに世話焼きな子でもあるわ。自分でも過保護なのは自覚してるみたいだけど、気に入った相手が困っていると、どうしても放っておけないみたい。
だから、結構我儘な子でもあるわね。あの子は我が強いから、一度決めたらそれをやり通す子だもの。
ま、どうだっていいわね。
これが中途半端な力しか持ってないようなお人好しだったら、[そのうち身を滅ぼすわよ]って忠告も出来るけど、どうせこの世界であの子をどうこうできる存在何て、どこにもいやしないんだから。好きにさせるしかないのよ。
なんだって生まれたてのあの子が、何千年もドラゴンの頂点に君臨し続けてるヴィルガレッド様よりも強いのかしら?
甚だ疑問ね。世界の謎が1つ増えた気分だわ。
んふふふふふ…!
そ・し・て!そんなとんでもない子と、私ってば少なくとも友達なのよねぇ~!
暇を見つけては、つい懐中時計を取り出して、ノアからもらった時計カバーに描かれた、あの子の姿絵を見ちゃうのよ~。
「陛下、また顔がニヤけてますよ?傍から見てたら気持ち悪いですよ?」
「う、うるさいわね!それだけ私にとっては嬉しい事の連続だったのよ!」
ふぅ。あぶないあぶない。傍にユンが来てたこと、うっかり忘れてたわ。
ユンにはまだ、ヨームズオームの事もヴェルガレッド様に強制的に会わされたことも私がノアに例の件で謝罪を行った事も、そしてあの子と友達になった事も伝えてないのよ。
一応、もう世界は"ゴールドドーン"に脅かされる事は無い、て事だけは伝えておいたわ。
ユンに私とノアの関係を知られたら、絶対にうるさいから。
ユンってばあの新聞を見た日からすっかりノアのファンになっちゃって、口を開けばあの子に早くこの国来て欲しいって言ってるのよねぇ。
私がノアに許してもらう前からよ?あの子が私と出会ったら、私がどうするか分かってるからだわ。
どんだけ私に土下座と裸踊りをさせたかったのよ!?しかもコイツ、そのことで生涯ずっと煽ってくるつもりだった筈よ!
ま、裸踊りはともかく、土下座の方は済ませちゃってるわ!ユンに見られて煽られることも無いでしょ。
裸踊りの方ももう問題無いわ!対策は考え済みよ!
確かに私は土下座も裸踊りもやるとは言ったわ!でも、それは別に誰かに、ユンに見られてる場所でやる必要なんてないもの!
だったら、いくらでもやりようはあるわ!
「それにしても陛下、新聞、読みました?」
「どこの新聞の、どの記事よ。」
「ファングダムの新聞ですよ。凄い事になりましたね。」
「そうね。ま、ノアが協力したんならそれぐらいの事になるでしょ。」
「しかし、実際に可能なのですか?魔石を人工的に、しかも恒久的に製造し続ける事など…。」
ユンは懐疑的だけど、出来ちゃうのよねぇ…これが。
私もまさか、ヨームズオームが眠ってた場所がそのまま龍脈になってただなんて、ヴィルガレッド様に教えてもらうまで知らなかったし。
ノアがその龍脈の流れを整えちゃったから、今、ファングダムは魔力に満ち溢れてるのよねぇ…。
きっと今まで以上にファングダムは豊作に見舞われるでしょうし、人工魔石を製造するための魔力も、龍脈の近くから取っていくんでしょうね。
今はまだ無理でしょうけど、将来的には直接配管でも繋げるんじゃないかしら?
金の採掘をするための坑道が龍脈に近すぎたせいで、大量の魔物が発生しちゃったみたいだけど、ノアに掛かればそんなのあっという間に解決できちゃう事だし。
今後は定期的に魔力を調達してくでしょうから、魔物が溢れるような事も無いでしょうね。
きっとこれからファングダムは今よりもずっと大きな国になるわよ。
オリヴィエって言ったかしら。ノアのお気に入り。あの子も龍神様から寵愛をいただいたみたいだし、国としての発言力も大きくなるんじゃないかしら。
ウチの諜報員からの報告じゃ、以前は家族間の関係に難有りって報告が上がってたけど、昨日の報告だと正反対の報告が上がって来てたし、きっとノアがなんかしたに違いないわね。
ホンット、世話焼きなんだから。
「…捨て置いて良いのでしょうか…。」
「良いでしょ?ノアが協力したって言うのなら、変な使い方はさせない筈よ。今までの彼女の行動を見る限りはね。」
魔石を人工的に製造するって事は、大量の魔力に強力な圧力を人工的に掛けてるんでしょうけど、多分無茶な使い方したら、とんでもない大災害になりそうなのよね。ユンはそれを懸念してる。
ノアがそれを分からない筈が無いわ。って言うか、あの子自力で魔石作れるし。
そんなあの子がお気に入りの人間が暮らす国で、魔術具に無茶な運用させるとは思えないのよ。ちょくちょく顔を出して様子を見に行くんじゃないかしら?
「随分とノア様に対してフレンドリーですね。恐ろしくないのですか?」
「べ、別にぃ?これまでの活動を考えれば、しっかりと謝れば、許してくれる子だって分かるしぃ?」
まずったわ。ちょっと気が抜けてたかも。ユンにちゃんと事情を説明するのってもうちょっと私自身が落ち着いてからにしたいのよねぇ。
私自身、未だに時計カバー見をつめてニヤニヤが止まらなくなっちゃうぐらいなんだし。
正直、この想いをもうちょっとだけ、独り占めしていたいのよ。
「…陛下、ひょっとして我々に何か隠してません?」
「………。」
「沈黙は肯定とみなしますよ?そもそも、"ゴールドドーン"の件でも詳細を教えてもらっていないのですが?」
これ以上下手に情報を押さえておくとウザ絡みしてきて強引に情報を聞き出そうとしてくるわね、コイツ。
なら、ちょっと情報を与えてやれば引き下がりそうね。
「…私自身、もうちょっと気持ちを整理させたいのよ。」
「あれから1週間も経つのにですか?」
「1週間も経つのによ。それと、もう"ゴールドドーン"ではないわ。あの大蛇はヨームズオームよ。世界に猛毒を振り撒く破滅の世界蛇ではなく、治癒と浄化を周囲に齎す、奇跡の大蛇になったわ。」
「!?そ、それは!?一体どういう事なのですか!?」
「だから、もう少し待ちなさい。伝説上の魔物の力が反転する光景を見て、私も気持ちの整理が出来てないのよ。」
平常心平常心。ちょっと深刻そうな顔をして、ちょっとカッコイイ言い回しをすれば、ユンも深刻な事として捉えてくれるでしょ。
まぁ、嘘は言ってないわ。大げさな物言いはしたけど、実際のところ、今のヨームズオームの存在を知ったら、誰もが手に入れたがるでしょうからね。
ま、そんなことしたら返り討ちにあったうえで、ノアとヴィルガレッド様からこの世に生を受けた事を死ぬほど後悔させられた後で、魂の欠片も残さず消し飛ばされるでしょうけど。
「分かりました。陛下の仰る通り、少々どころではないほどの大異変が起きたようですね。ですが、近い内にしっかりと説明してもらいますよ?」
「ええ。それまでに私も気持ちの整理をつけておくわ。」
ふぅ~~~っ。セーーーフ!何とか誤魔化せたぁーーー。
いやぁ、今回ばかりはユンがノリの良い性格で助かったわ!ちょっと考えたら、別に悪い事じゃないんだから深刻に捉える必要が無いって、すぐ分かるもの。
「ところで陛下、本日は巫女様がどうしても陛下にお会いになりたいとの事でしたが、いかがいたしましょうか?」
「アリシアが?」
あの子がどうしても会いたいって、ただ事じゃない気がするんですけど…?まさかまた世界の危機とかじゃあないわよね?
別に会いたいのなら普通に会うけど、あの子の立場上、必ず護衛がいるから気軽に話が出来なかったりするのよね。
あの護衛達、良い人達なのは間違いないんだけど、ちょっと固すぎるのよね。
アリシアがどうしても会いたいって言う事は、今は護衛がいない状態で会えるって事なのかしら?
「その時のアリシアの様子はどうだったの?」
「御様子ですか?相変わらず可憐な御姿で、陛下とは対極的に豊満な体型をし」
閃けハリセン!鳴り響け爆音!魔王奥義!無拍
「外見の話をしてるんじゃないわよ!!態度を聞いてるの!!」
一々私をおちょくるのは止めなさいっての!後、普通にセクハラよ!
「はっ。巫女様の御様子は珍しくどこか落ち着かない御様子でしたね。いち早く何かを確認したいように見えました。」
「確認、ねぇ…。まぁ、いいわ。すぐにでも会えるし、案内してもらえる?ああ、後、お茶の用意もお願い。」
「かしこまりました。」
アリシアと直接会うのも久しぶりねぇ。何ヶ月ぶりになるんだったかしら。
あ、そうだ!せっかくだからお茶請けにはアレを出そうっと!
ふふふ~!もったいないから全部食べずにまだ残してたのよね~!きっとアリシアも喜んでくれるわ!
アリシアは私を見るなり、いきなり両手で私の頬を掴んでまじまじと至近距離で見つめて来たわ!
何なの!?メチャクチャ顔が近いんですけど!?アンタいつの間にそんな趣味を持つようになったの!?
って思ったら今度は突然泣き出すし!?ホントにどうしちゃったのよ!?
「やっぱり…!間違いないわ…!ルイーゼ、おめでとう…!」
「ねぇ、アリシア?私の事で何か喜んでくれてるみたいだけど、ちゃんと説明してくれなきゃ何が何だか分からないわよ?」
「今の貴女には、龍神様の御寵愛が感じられるの…!」
…うっそでしょアンタ…。
だって、2ヶ月前にノアに龍神様の寵愛が確認されて、それで今月ファングダムのオリヴィエでしょ!?それで私も!?多すぎない!?どうなってんのよ!?
あの子と親しくなったら、漏れなく龍神様から寵愛を授かれるの!?寵愛ってそんなにポンポン授かれるものじゃなかったでしょ!?
でもアリシアがこんな反応してるって事は、紛れもない事実なのよね…。
「公表しないわけには、いかないわよねぇ…。」
「そうね。今晩中には公表した方が良いわ。」
「なら、ここからは打ち合わせね。そろそろユンクトゥティトゥスが紅茶を淹れて来るところよ。一緒に飲みながら打ち合わせをしましょ。」
「ええ。ふふ!ルイーゼと一緒にお茶をするのって何時ぶりかしら?」
大分前だった気がするわねぇ。何せ2人きりになれる機会なんてなかったし。
そうねぇ、何時かは、っていうかノアがこの国に来たら、私とアリシアとあの子の3人でお茶をしてみたいわね。アリシアがノアを見た時の反応が見てみたいし、楽しみにしておきましょ。
打ち合わせも大体終わって、お茶請けのシフォンケーキも無くなった事だし、そろそろアレを出しておきましょうか。
「アリシア、これから出すものはとびっきりのデザートよ。今はまだ皆に内緒にしておいてね?」
「え?それって、宰相様も知らないの?」
「ええ。知ったら絶対うるさいもの。………ジャジャーン!」
態々口で効果音まで出してアリシアに見せたのは、細かく切り分けたオーカムヅミの果肉よ!
すっごく美味しかったけど、ノアに会うまでは食べられないでしょうから、あの時全部食べずに『格納』空間に仕舞っておいたのよ。
あの時の私、ホントにグッジョブ!おかげでこうして、親友と美味しいものを共有できるわ!
「凄い魔力…。ルイーゼ、一体、コレは何なの?何かの果実の果肉だとは思うけど…。」
「オーカムヅミ。つい最近、そう名付けられたわ。滅多に食べられないものだから、取っておいたのよ。」
「そんな貴重なもの、私も食べていいの?」
「勿論よ。将来必ず手に入るから。」
そう、ノアにお願いすればね!まぁ、何もなしにもらえるとは思ってないけど、少しは融通してくれる筈よ!
一口食べた時から、惚れ込んじゃったのよねぇ。
~~~っ!やっぱり美味しぃ~~~!絶対にまたノアに分けてもらうんだから!
アリシアも一つ取って口に居れたみたいね。あっ、凄く美味しかったみたい。表情に出てるわ。
「すごい…!こんな果実があっただなんて…!」
「ふふ~ん凄いでしょ。ちなみにその果実、簡単には食べられないのよ?」
「そりゃあ、物凄く希少な果実なんでしょ?滅多に食べられないのは当然よ。」
「それもあるんだけど、そうじゃなくてね。皮がものすごく硬いのよ。私のナイフじゃ切れなかったわ。」
「えっ?ルイーゼの持ってたナイフって…アレよね?」
「ええ、アレよ。」
以前って言ってももう20年も前になるけど、専属の鍛冶師に史上最強のナイフを作って欲しいって無理を言って、オリハルコンとアダマンタイトの合金を材料にして作ってもらった事があるのよね。
刃物としての性能は勿論だけど、切断力強化に強度増加、身体強化や魔力増強、果ては魔力吸収効果まで付け加えた、専属鍛冶師の最高傑作だったわ。
でも、その史上最強のナイフを使っても然っ全切れなかったわ。それどころかナイフに込めてた魔力が逆に全部吸収されちゃったの。
流石、"楽園深部"の素材なだけあるわよね。
まさか、果実を食べるためだけに魔王の秘伝奥義を使う事になるとは、私も思ってもみなかったわ。
「アレで切れないって、それならどうやってこの果実を切ったの?」
「魔王には初代様から代々伝わる秘伝奥義がるのよ。鍛え上げられた自分の手刀こそが、この世のいかなる剣をも上回る、史上最強の剣だってね。その名も『
「知らなかったわ…。でも、そうなるとこの果実って、本当に途轍もない物なのね…。」
その気になれば海すら割れるって言われてるわね。ま、この技を使っても、ノアやヴィルガレッド様には通用しそうにないけど。
「ねぇ、ルイーゼ、ひょっとして、この果実って…。」
「ふふっ!皆にはまだ内緒よ?」
アリシアもオーカムヅミの正体に何となく気付いたみたい。後で詳しく教えてあげるから、もう少しだけ待っててね?
「そうだ、アリシア、折角だからお風呂入って行きなさいよ!久しぶりに一緒に入りましょ!ちょっと教えて欲しい事があるのよ!」
「良いけど…。また胸を鷲塚みしたりそのまま揉みしだいたりしないでよ?アレ、結構痛かったんだから。」
流石にもうアリシアの胸に嫉妬する事は無いわ。諦めたし。あそこからまた大きくなる事も無いでしょ。
「大丈夫よ。流石にもう見慣れたもの。」
「………。」
ちょっと?何で黙るのよ?
結局、私はアリシアの更にデッカくなった胸に愕然として、気が付いたら鷲掴みにして揉みしだいていたわね。
無意識よ無意識。このほっぺたに伝わるヒリヒリした痛みは、きっと気のせいよ。だからきっとセーフだわ!
「アウトに決まってるでしょ。それで、何を教えて欲しいの?」
「巫女の仕事に舞踊があるでしょ?アレを教えて欲しいのよ。」
「え?ここで…?いろんな意味で、何で?」
「ここでなきゃ駄目なのよ。」
お風呂場なんだから裸なのは当然だものね!
ここで舞を踊れば立派な裸踊りだし、お風呂場だから何も変じゃない!完璧ね!
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