第224話 魔石製造計画
私が城でやるべき事を終え、確認すべき事も確認し終わったため、そろそろ帰る旨を伝えたら、3人から別れを惜しまれてしまった。
「何だったら、みんなとお話しするまでの間、私達の客人として泊まっていってくれてもいいのよ!?きっとリナーシェも喜ぶわっ!」
「カインもノア様とは沢山お話がしたいでしょうし、残っていただく事は出来ませんか?それとレーネさん?皆とお話と言うのは?」
「許されるならば、このままノア様にお仕えしたいです…っ!」
そうだった。ネフィアスナには家族会議の話はしていなかったな。改めて伝えようと思ったら、意気揚々とレーネリアの口から説明されてしまった。
「なるほど…。ノア様の様な強い影響力を持った方でなければ、私達を一同集めるような都合を作る事は難しかったでしょうね。重ね重ね、貴重な機会を設けて下さる事、誠に感謝いたします。」
ネフィアスナも家族会議に対して非常に乗り気のようだ。
私が関わらずとも、母親達は以前から家族で話がしたかったらしい。私の提案は渡りに船だったと言うわけだな。
そうだ。ネフィアスナが知らなかったようにレオンハルトも当然家族会議の事は知らない筈だ。
今回の訪問で彼に会うつもりは無かったのだが、やはり家族会議の事を伝えるためにも、一度顔を見せておこうか?
「心配には及ばないわ。後で私なりあの人なりが伝えるでしょうから。」
レオンハルトにはレーネリアかレオナルドが伝えてくれるらしい。
私がそろそろ帰ろうとしている事を知っていってくれていると言うのなら、先程の引き留めは社交辞令のようなものか。もしくは、私が止まる気が無いと理解しているからか。
どちらにせよ、有り難い事だ。
レーネリアは終始カインに不満を与える事なく抱き続けていた辺り、口調やこれまでの態度とは裏腹に、しっかりとした人物なのだろう。レオンハルトへの連絡を任せても問題無いと判断した。
後カンナ。流石に王族に仕えているというのに、私に鞍替えするのは無理があるだろう。そもそも、私の傍に常に仕えるのは、人間では無理がある。
それが出来ていたのなら、グリューナが私の傍に仕える事だって認めていただろうからな。
まぁ、彼女はティゼム王国に必要な人間だから結局は断っていただろうけど。
「家族会議の段取りが取れたら、私達が宿泊している"銀板の中の三角亭"へ連絡を頼めるかな?」
「承知しました。そう時間を掛けるつもりはありません。近い内に、再びお会いできるでしょう。その時を楽しみにしています。」
これで段取りが整った後の連絡も問題無い。後は段取りを取ると言ってくれたカンナに任せよう。
城から出て、ある程度歩いたところで魔術具研究所に設置している幻と入れ替わる。まだ宴会は続いているようだ。コレでようやく私も食事にありつける。
かなり遅くなってしまった事、『
「お待たせ。ようやく終わったよ。遅くなってごめんよ。」
「えっ?ああ、お帰りなさいませ。あの…いかがでした?」
ふいに私が声を掛けた事をオリヴィエは不思議に思ったのだが、
私が幻と入れ替わった事で体臭を嗅ぎ取り、戻ってきた事を理解したようだ。
結局のところレオナルドへ報告した際の反応を教えていなかったため、彼がどういった反応を示したのか、気になって仕方が無いらしい。
「かなり好印象を与える事が出来たよ。今のレオナルドは金の採掘にあまり力を注ぐつもりが無いんだって。人工魔石の件、渡りに船だと言ってくれたよ。」
「そうでしたか…。では、ここからが本番でしょうね。」
早速テーブルに並べられた食事を自分の皿に大量に盛り付け、一つ一つ味わいながらオリヴィエと会話を進める。
勿論、料理を口に入れている間は喋らない。料理を口に入れながら喋ってしまうと、折角口に入れた料理が舌の動きによっては外に跳び出てしまうからな。そんなもったいない事、出来る筈が無い。
オリヴィエがここからが本番と言っている通り、魔石製造機の問題はまだ残っている。今すぐ魔石を量産して国庫を潤す事が出来ると言うわけでは無いのだ。その点はレオナルドも理解していた。
魔石を作るためには当然大量の魔力が必要になるのだが、ではその魔力はどこから調達すればよいのか、と言うのが現状一番の問題である。
おそらくオリヴィエやリオリオンはファングダム国内の魔力が豊富な場所に見当をつけ、そこに大量に量産した集積具を設置、魔石の制作に必要な魔力を集積するつもりなのだろう。
だが、私の考えは違う。アレも一応ファングダム国内にあるのだ。利用しない手は無いだろう。どうせ人が入る気配も無いだろうし、今回の様な騒動が起きづらくなるだろうからな。手間はかかるだろうが、将来的には非常に効率的に魔石を生み出せるはずだ。
「ノア様は、問題の解決に目途がついているのですか?」
「うん。魔力を集めるなら、うってつけの場所があるよ。それに、将来的には集積具も使わなくする予定だよ。」
「な、何だってぇっ!?」
私の話を聞いてオリヴィエが驚いている。そして今の会話の内容は少し離れた場所で酒精の強い酒を飲んでいたリオリオンの耳にも入ったようだ。勢い良く此方へ向かって来る。
彼の顔は赤みがかっているが、足元がおぼついている様子はない。意識もしっかりと保たれている。酒に強い体質のようだ。
「ノ、ノア!この国のどこかに、目に見えて魔力が豊富な場所があるのか!?それに将来的に集積具を使わないって、どういう事なんだ!?」
「一つずつ説明していこうか。まずは魔力が豊富な場所だね。場所は坑道の最下層。その一部に魔力濃度が高い場所がある。」
「マジかっ!?ああ、そうか!アンタは今回の魔物の騒動を根本的に解決するために原因である坑道を走り回ってたそうだな!それで分かったのか!」
実際のところは違うのだが、それで納得してくれるのなら敢えて説明しなくても良いだろう。何せ利用するのはこの星を駆け巡る、無尽蔵の魔力なのだから。
そう、私が利用しようとしているのは龍脈だ。流石に龍脈から直接魔力を回収するような事はしないが。
いくら何でも龍脈の魔力を直接使用してしまえば、魔力を消費しきれずに大惨事になってしまう事など目に見えている。
坑道に少し漏れ出てしまっただけで万を軽く超える魔物が発生してしまったのだ。仮に利用できるだけの技術を将来に身に付けたとしても、龍脈の魔力を直接利用して行き着く先は、古代文明の様な滅びが待っているだけの気がする。
龍脈の魔力は利用させてもらうが、リオリオンには無茶な事をしないよう、しっかりと釘を刺しておこう。
「魔力濃度は放っておけば魔物が発生するほどの濃度だ。魔物の発生を抑える意味でも、最適な場所だと思うよ。」
「そりゃあ、確かに最適だな。尤も、そこまで集積具を運搬する事になるんだが…いや、採掘した金の運搬に使用している貨車を利用すれば大分手間は省けるま…!?いいぞ!だったら、俺達がやるのは集積具の量産だな!」
酒が入っていると言うのに、リオリオンはなかなか頭が回るようだ。自分なりに、集積具の運用方法を思い描いている。
まぁ、私としては集積具を用いて魔石を製造するのはあくまで間に合わせで使用するつもりなのだが。
「その集積具を必要としない事についても話していいかな?」
「お?おおっ!!頼む!どうするつもりなんだ!?集積具を使わねえのなら、その魔力濃度が濃い場所に直接魔石製造機をおっ建てちまうのか?」
「それも悪くないけれど、その場合、製造した魔石を地上まで運搬する必要があるだろう?いくら貨車を使って容易に運搬が出来るからと言っても、効率が悪い。」
「じゃあ、どうするんだ?まさか…っ!」
「魔石製造機と魔力溜まりを直接繋げてしまうのですか…っ!?」
2人とも私の考えを理解したようだ。折角魔力が浸透しない、漏れない素材を既に魔石製造機で実現出来ているのだ。それを利用しない手は無い。
魔力溜まりから魔石製造機までを直接繋げて、半永久的に魔力を回収し続ける。それが私の考えだ。
私の考えを説明すると、2人はやや呆れた表情をしている。
「出来るか出来ないかで言えば出来るだろうけどよぉ…。また随分と途方もない話だなぁ、おい。街の中に魔石製造機を作った場合、魔力溜まりまでの距離はかなりあるぜ?そこまで管を通すってなると、どれだけ時間が掛かる事になるのやら…。」
「管の製造にもそれを設置する工事にも、大量の人員が必要になります。簡単に出来る事ではありませんよ?」
「そうだね。だからこそ、将来的な話なのさ。」
まぁ、そこはレオナルドにも話した通り、どれだけ早く事が運んでも5年は掛かってしまうし、規模を考えれば5年しか掛からないとも言える。…場合によっては、いつまで経っても実現しなくなってしまうが。
結局のところ、その辺りは政治の話だ。私ではなくオリヴィエやレオナルド達がどうにかしなければならない問題だ。
とは言え、リオリオンが構想している方法でも利益は得られる。
流石に順調に金を採掘できていた頃の利益よりは下がるだろうが、それでも国庫を潤せるだけの利益は得られるだろう。
私の構想が実現した場合、得られる年間の利益は確実にこれまでのファングダムが年間で得て来た利益を、大きく上回る事になる。それだけ、魔石の需要は世界から尽きないのだ。
ちなみに、人員に関しても当てが無い事は無い。尤も、それは完全に私の勝手な我儘になるだろうが。
ダンタラが坑道全体を補強してしまった事が原因で、今後金の採掘が非常に困難になってしまったのだ。
最悪の場合、坑夫達は職を失ってしまう事になるかもしれない。だが、職を失うという事は人員を欲している側からすれば大変都合が良い。特に慣れ親しんだ場所に管、魔力供給管を配置する工事に関しては、彼ら以上の適任がいないと言っても過言ではないと思っている。
魔力供給管を配置し終え、半永久的な魔石の製造が可能になったとしても、彼等にはそのまま坑道に設置した魔力供給管を管理してもらう職に就いてもらえばいい。
魔力供給管の素材は不滅では無いのだ。経年劣化や何らかの事故、悪意ある者の暴挙など、破損や不具合を起こす事も予測される。
そういった状況に陥っても日頃から魔力供給管を管理し、迅速に対応出来るようにすれば管から魔力が漏れて魔物が発生する事も無いだろうし、魔石製造量の減少も抑えられる。至れり尽くせりなのだ。
まぁ、先程も述べたが、完全に私の勝手な押し付けだ。坑夫達は誰も彼も、自分達の仕事に誇りを持っていた。
彼等の仕事を奪い、その代わりに別の仕事をやれと言ったとして、どれだけの人達が進んで新しい仕事を受けてくれるか、私には分からない。それがこの構想に対する懸念だ。
そのため、この話は私の胸中に留めておく。仮にオリヴィエもリオリオンも私と同じ考えを持ったとしたら、その時には今の私の懸念を指摘させてもらおう。
今は、ファングダムの都市に魔石製造機を設置し、魔力集積具を量産できればそれだけで十分だ。それだけで経済的なファングダムの危機を脱することが出来る。
リオリオンもその方針でレオナルドに進言するつもりのようだ。
「レオナルドの顔を見るのも久しぶりになるなぁ!ノアはアイツに直接会ったんだろう!?どうだ、元気そうにしていたか!?」
「それはそうだよ。もう40を過ぎていると言うのに、その体は生気に満ち溢れていたよ。悩み事は、色々とあるみたいだけどね。」
リオリオンとしても自分の甥の事が気になるようだ。オリヴィエに聞かれないように、こっそりと私にレオナルドの現在の様子を訊ねて来た。
オリヴィエは聴力に優れているため、本来であれば今の会話内容も聞き取れていたのだろうが、先程少量口にした酒が原因で、やや酔いが回ってしまっているようだ。
「ふゃーん…。みなさん、たのしそうれすぅ~…。」
顔を赤らめて蕩けた表情をしている。オリヴィエはそこまで酒に強くないらしい。今の彼女を見て研究所員達が変な気を起こさなければいいのだが…。
まぁ、そんな輩がいたら私が対応すればいいか。リオリオンも黙っているつもりは無さそうだしな。
ちなみに、酒を飲ませたのは他ならぬリオリオンである。
最初からオリヴィエに会話を聞かれないようにするために、甘くて飲みやすいが酒精の強い酒を飲ませたようだ。策士め、やるじゃないか。
自分の家族との接し方。それに減少の一途を辿る財源、更にその状況下で尚も金の採掘を注力しようとする者達の牽制。私が見た限り、家族との接し方に対して一番悩んでいたのが微笑ましい所だな。
財源に関する問題については、私が報告してきたという事で、私を味方だと捉えたのだろう。家族を優先させるぐらいには悩みが払拭された、といったところか。
「なるほどなぁ…。アイツは昔っからヘンなところで口下手なところがあったからなぁ…。ちっとは男前になったと思ったってのに、アイツらしいな…。ま、その様子だと人工魔石の件ではあんま悩んでなさそうだな!やっぱアンタが味方に付いてるのがデカいのかねぇ!」
私が感じたレオナルドの様子をリオリオンに教えれば、腕を組んでしみじみと納得している。
実際、人工魔石に関しては私は実現させたいのだから、利害が一致している以上私は彼の味方と言える。
レオナルドとしては、私を味方に付ける事は政治的にも非常に心強いと考えている様子だった。
近い内に今回の魔物の騒動での報酬で呼び出されるだろうし、その時に改めて私とレオナルドの関係が良好である事を知らしめるつもりだと思う。
まぁ、私としてはその前に家族会議を行ってしまいたいのだが。味方は多い方が良いに限るからな。
レオナルド達にリビアの正体を知ってもらい、私が報酬を受け取る際にリビアの事も公表してしまおうと思っているのだ。
きっと国中で凄まじい衝撃が走るだろうな。完全に世論を味方に付けることが出来ると思うのだ。
その状態で私もオリヴィエも人工魔石による財源の確保に意欲的である事、そもそもそのための魔石製造機の完成に助力していた事を知ってもらえ、おいそれと反対意見を出す空気ではなくなるだろう。
金の採掘に拘っている者達も、流石に首を縦に振らざるを得ない筈だ。
それでも彼等が金の採掘にこだわると言うのなら、何かやましい原因があると見て間違いないだろう。
あまり褒められた手段では無いが、『幻実影』の出番である。徹底的に調査して金にこだわる理由を暴かせてもらうとしよう。
提供された料理もあらかた食べ尽くされ、宴会の参加者達も軒並み酔いつぶれたところで、宴会はお開きとなった。それを理解できている者は殆どいないが。
私はオリヴィエを抱えて宿泊先へと戻っている。あれから追加で酒を飲み続けて彼女も完全に酔いつぶれてしまったのだ。宴会の空気に飲まれてしまっていたようだな。
「ふゃーん…のあしゃまぁ…このごおんは、きゃなりゃじゅ…。」
「私は長生きなんだ。少しずつ、ゆっくりで良いよ。」
酔いが回っているため、しかも寝ぼけてしまっているためか呂律がまるで回っていない。それでも私に礼を述べている辺り、本当に今回の事で恩義を感じているし、安心もしたのだろう。
安堵して心地よさそうに眠っているオリヴィエが愛おしくなってた。
部屋に戻ってベッドに寝かしつけたら、頭を優しく撫でてあげよう。流石に不許可で尻尾のブラッシングをするつもりは無い。
その後、魔術具研究所で助力する事も無くなったため、私はようやくまともにレオスを散策する時間を得ることが出来た。
レオスに到着してからというもの、騒動やら人工魔石やらで碌にレオスを散策できる時間が取れなかったのだ。
冒険者ギルドにも顔を出してみた。思った通り、依頼の中に魔物によって破壊されてしまった家屋などの撤去や、立て直しのための物資の運搬依頼が大量に張り出されていた。
折角なので、全てとはいかないが何件か依頼を受注させてもらった。レオスを散策しながらでもこなしていくとしよう。
レオスは流石に王都と言うだけあって様々な品が揃っているようだ。フルルで見かけた楽器や絵画に使用する画材を取り扱っている店、いかにも手の込んだ作りをした壺や巨大な絵画といった美術品を取り扱っている店もあった。
楽器や画材をいくつか購入し、美術品に関しては店で見て回るだけにしておいた。家に持ち帰ってもおそらく"楽園深部"以降の素材を用いたものを飾って欲しいと願われるからだ。
それなら映像として私の頭で記憶した物をあの子達に見せればそれで良いだろう。どの道作るとなれば私が作るだろうし、あの子達が作る場合は『
そんな風に街の復興を手伝いながらレオスの街並みを堪能する生活を続けて、3日が経過した。
次の日の早朝、城から私宛に、招待状が届けられた。送り主はファングダム王族に仕えるメイド、カンナだ。
中身を確認してみれば全員の都合が取れたという旨が描かれている。
宣言通り、段取りに時間を掛けるつもりは無かったようだ。
「リビア、城へ行くよ。」
「ついに、時が来たのですね?」
「うん。怖い?」
「不安はあります。ですが、不思議と怖くはありません。それが、ノア様が傍にいて下さっているからなのか、お兄様の気持ちが少しは分かったからなのかは分かりませんが…私は、大丈夫です。行きましょう。」
オリヴィエの目に恐怖は無い。今の彼女ならば、問題無く家族の思いを受け止める事が出来るだろう。
それでは、家族会議に行くとしよう。
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