第198話 強者集結!

 ヨームズオームを上空に転移させてから既に3日間が経過している。既に体長4m程度まで縮小する事が出来るようになり、今では私の体に絡みついている。

 ひんやりとして艶やかな鱗の感触が、なかなかに心地いい。私の尻尾の鱗と近いものがあるな。


 ―えへへー。ノアにくっついてると、気持ちいい~。―

 「ありがとう。その状態を維持するの、大変じゃない?」


 私の魔力が浸透した状態でこの子が最初に目覚めた時も、気持ちが良いと言っていたし、どうやらこの子は私の魔力に触れていると心地良いらしい。


 それはそうと、一度体を縮小させてから一度も体のサイズを戻していないが、負担になっていないのだろうか?


 ―大丈夫ー。もっと小さくなれそうだよー。―

 「それは良かった。」


 ヨームズオームは自分の横顔を私の右頬に摺り寄せて甘えて来てくれている。

 私も私で右手でこの子の顎下を撫でてあげれば、とても気持ちよさそうにして目を細めている。とっても可愛い。


 オリヴィエは蛇が苦手だと言うし、この状態を見たら嫌がってしまうだろうか?


 ちなみに、ルイーゼもまだ一緒だ。私と共にヨームズオームに絡まれている。彼女は特に蛇に対して苦手意識は無いらしい。


 「当たり前でしょうが。魔族には多種多様の形状をした種族がいるのよ?蛇の姿をした者もいれば、魚の姿をした者も、虫の姿をした者だっているわ。一々相手の形状で拒絶反応なんてしてたら、魔王なんて務められないわよ。」

 「人間達では考えられない光景だね。」


 人間達では耐えられそうにない環境だな。人間という種族は、おおらかに見えて排他的なところがある。

 だからこそ庸人ヒュムス至上主義と言った選民思想が産まれたりもするし、その結果人間同士で大きな戦争になったりもする。挙句の果てには天罰として神々に大陸ごと滅ぼされることにもなった。


 人間同士でこれなのだ。全ての人間が魔族の多種多様な種族を受け入れられるとは思えない。


 人間達だって魔族の存在は知っているのだ。ふとした疑問が出て来たので、ルイーゼに質問してみる事にした。


 「そういえば、魔族の国に人間っている?」

 「少ないけど、一応いるのよねぇ…。自力で到達する物好きな奴だったり、人間達の生活圏で活動してる、ウチの連中に頼み込んで連れて来てもらったりで。」


 何と言う積極性だろう。やはり思想の多様性で言えば、人間に勝る種族はいなさそうだな。

 しかし、自力で魔族の国とな?魔族の国は"楽園"に遮られているし、反対側も断崖絶壁である。

 はて、一体どうやって辿り着いたと言うのだろうか?


 「自力でって、"楽園"を抜けてきたの?」

 「んなわけないじゃない。反対側から船で来たのよ。」

 「待って。反対側だって300mは優に超す崖に阻まれているだろう?まさか、登って来たの?」

 「ええ、登って来たのよ…。流石に呆れると同時に称賛するわ…。」


 何と言う執念だ!?ルイーゼが称賛するのも無理もない。何のためにそこまでしたのかは分からないが、私だって褒め称えるぞ!


 「一体、何がその人物をそこまでさせたんだろうね?」

 「一目惚れした種族に会いに行きたかったそうよ?しかも、今はその種族と結婚して、普通にウチの国で暮らしてるわ。」


 若干呆れながら答えるルイーゼに驚愕を隠せない。人間は相手が人間でなくとも番の対象として見れるのか!?


 いやまぁ、ドラゴンとの間に子を成そうとするぐらいだから他の種族とも子を成そうとするのかもしれないが、だが魔族はドラゴンの様に変身能力があるわけでも無いだろうに、それでも番になりたがるのだな。


 いや、それを言ったらその人間を受け入れる魔族も同じなのか?やはり恋愛感情というものは分からないな。


 人間のあまりにも多様な趣向に対して思いをはせていたら、ルイーゼから今後についてを訊ねられた。


 「で?ヨームズオームは随分と小さくなれたわけだけど、アンタ、これから私達を何処かへ連れて行って誰かに会わせたいのよね?誰の所に連れてく気なの?」

 「ん?ああ、ヴィルガレッドの所だよ。彼もこの子の事を可愛がりたそうにしていたからね。連れて行ってだらしない顔をするところを見てやろうと思うんだ。」


 誰に会いに行くのかをルイーゼに伝えると、彼女は疑惑の感情を込めた視線を私に向けて来た。何やら気になる事があるらしい。


 「何回かアンタの口からその名前を聞くけど、私はその名前を聞いた事が無いのよねぇ?ねぇ、どう考えてもソレって超常の存在よね!?」

 「超常の存在だねぇ。まぁ、彼から言わせたら私ほど理不尽な存在はいないらしいし、大丈夫だよ。彼は同族からしたらとても温厚なんだ。」


 3日間と言う十分な時間があったにも関わらず、私はルイーゼにヴィルガレッドが何者かを教えていない。


 彼女も私が竜帝カイザードラゴンと戦った事は承知している筈ではあるが、敢えてその事に関しては聞かないようにしているようだ。出来る事なら関わりたくないらしい。


 竜帝の事を聞かれれば答えていたのだが、竜帝と言う言葉は今まで一度も彼女の口からは出ていなかったので、敢えて私はヴィルガレッドの事を説明しないようにしていたのだ。


 この3日間ルイーゼと話をして分かった事は、彼女はとても豊かな感性と感情の持ち主で、リアクションが一々面白いという事だ。


 非道いと言われても仕方が無いが、何も告げられずにいきなりヴィルガレッドを見た時の彼女の反応を、見てみたくなってしまったのだ。


 悪戯心というやつである。きっととても驚いてくれるはずだ。


 「アンタがこの上なく理不尽な存在なのは当然として、それってつまり、同族はかなり気が荒いって事じゃないっ!まさかいきなり転移魔術で直接向かうんじゃないでしょうねっ!?」

 「ちょっと距離が離れすぎてるから、いきなりは無理だよ。途中で中継を挟む事になるね。でも、一回だけだからすぐだよ。」

 「殆ど変わんないでしょうがっ!事前連絡だけは取りなさいよ!?いきなり不興を買うとか、私は嫌よっ!?」


 勿論、ルイーゼには私が転移魔術を使用できる事は説明しているし、それによって背後から彼女を捕まえた事も説明済みだ。説明した時には、非常に理不尽なものを見る目で見られてしまった。


 だが、転移魔術ならば彼女も頑張れば使用できるようになると思うのだ。この3日間の間に構築陣も見せているし、多分内心では彼女も今必死になって習得に励んでいると思う。


 そして事前連絡をするように指摘されたが、当然連絡はするとも。何やら取り込み中だったようだからな。

 多分だが、彼の居住の魔力の流れが乱れているためにその流れを正している最中なのだろう。


 ヴィルガレッドの事をルイーゼに説明していると、ヨームズオームもこれから会いに行く相手に興味を持ったようだ。首を揺らして私に訊ねてくる。


 ―お話しできる相手増えるー?おっきい?おっきい?― 

 「ああ、増えるよ。そして大きいよ。彼も君とは話をしたがっていたみたいだし、可愛がりたがってもいたから、存分に甘えると良いよ。」

 ―わーい!いっぱいお話しするー!―


 ヨームズオームもとても嬉しそうだ。早速ヴィルガレッドに連絡を取って、彼の元へと向かうとしよう。


 私の『通話』は一度繋がった相手ならば例え感知範囲から離れていても連絡のやり取りが可能である。

 そうでなければ家の皆とも連絡を取り合うことが出来ないからな。その辺りは『通話』を習得した際に時間を掛けて調整しておいたとも。


 さて、問題は無いとは思うが、ヴィルガレッドはまだ取り込み中だろうか?


 〈ヴィルガレッド、今いいかな?〉

 〈ノアか?何用だ?坊は縮小できるようになれたか?〉

 〈そっちは大丈夫。私の体に絡みつく事が出来るぐらいには、小さくなれたよ。とっても可愛い。〉


 まったく、連絡を入れてすぐにヨームズオームの確認とは、ヴィルガレッドもやっぱりこの子の事が気になって仕方が無いと見える。

 縮小化が上手くいった旨を伝えれば、嬉しそうにこの子の様子を訊ねて来る。


 〈そうか!上手くいったか!でかしたぞ!それで?坊を余の元に連れて来るというのか!?良いぞ?連れて来るが良い!歓迎してやろうではないか!〉

 〈うん、少し待ってて。この子も貴方に会いたいみたいだから、すぐに行くよ。あ、そうだ。今、魔王も一緒にいるんだけど、連れて行っても問題無いよね?〉


 何と、縮小化の方法を訪ねた時は私に誰かを甘やかせる姿を見せたがらなさそうにしていたというのに、今ではむしろヨームズオームに会いたくて仕方が無いような振る舞いをしている。


 この子もヴィルガレッドに会いたがっている事を伝えるのと一緒にルイーゼも連れていく事も伝えておこう。


 まぁ、元より彼女と話す事も歓迎していた様子だったし、大丈夫だろう。


 〈ほう?あの娘っ子もいるのか?まぁ、良かろう。歓迎する相手が一つ増えるだけだ。問題あるまい。〉

 〈じゃ、今からそっちに行くよ。〉

 〈うむ。あまり余を待たせるでないぞ?〉


 このヴィルガレッドの反応、何処か既視感があると思ったが、分かった。エリザを前にしたモスダン公爵だ。


 ドラゴン故に顔が大きく変化する事は無いだろうが、彼が人間だった場合、ヨームズオームを前にしたらきっととてもだらけきった表情を私達の前にさらけ出していたに違いない。この場合、何馬鹿になるのだろうか?


 「ねぇ、ノア?今『通話』してたわよねぇ!?まさかその相手って、アンタが言ってたヴィルガレッドって存在!?」

 「そうだよ。ルイーゼが一緒に来る事も了承してくれたし、早速会いに行こう!待たせるなって言われたしね!」

 「ちょっ!?待って!?まだ心の準」


 まぁ、この子と会わせればすぐに分かるだろう。

 ルイーゼはまだ心の準備が出来ていないようだが、多分彼女に気を遣っていたらいつまで経っても行けなくなってしまう。


 私の感知範囲が届く最大の場所、3日前に4体ドラゴン共の頭を地面に埋めた場所へとさっさと転移しよう。



 以前幻を出現させた場所に転移してくれば、未だにあの4体のドラゴンが頭を地面に埋めたまま静かにしていた。


 〈んなぁーーーっ!!?〉

 〈げぇーーーっ!!?!?〉

 〈あ・・・!あああーーーっ!!?〉


 更には先に私を気遣った3体のドラゴン達もこの場にいたわけだが、彼等は私の姿を確認するなり、驚愕の感情を込めた悲鳴を上げ、即座に頭を下げてひれ伏してしまった。


 今の私は特に『隠蔽』の魔法を使っていたりしているわけでもないからな。

 彼等も私が原種のオリジンドラゴンである事を把握してしまったのだろう。


 〈し、知らぬ事とは言え!あ、あぁあ貴女様を"混じり者"などとぶぶぶ侮辱した挙句、お、ぉお"お前"などと呼びつけてしまった我等が狼藉っ!!な、何卒、何卒ご容赦をっーー!!〉

 〈〈何卒ーっ!!〉〉


 物凄い勢いで平伏して謝罪の言葉を述べてきた。

 まぁ、彼等の反応は尤もだと思う。原種のドラゴンは必ず王の資質を持っているらしいからな。

 人間で言えば、一兵卒が王族に対して無礼を働いた行為に等しいのだ。国によっては、それだけで不敬罪として処刑される国もあるらしい。


 とは言え、私は特に不快には思っていなかったし、彼等に対してはどちらかと言うと好感すら持っているのだ。


 「幻相手では仕方が無いよ。それに、今後は同じようなミスはしないだろう?」

 〈も、勿論です!もしも貴女様に無礼を働くようなアホ共を見つけたならば、真っ先に我等が叩きのめして御覧に入れましょう!〉

 「その辺りは貴方達に任せるよ。あまりここに来る予定も無いしね。」

 〈〈〈ははぁーーーっ!〉〉〉


 ドラゴンも人間に負けず劣らず上下関係が厳しいんだろうなぁ。こうまで対応が変わって来るなんて。ドラゴンにはドラゴンなりの苦労があるのかもしれない。


 私とドラゴン達のやり取りを見ていたルイーゼが、我慢できずに何がどうしてこんな事になっているのかを訪ねてきた。


 「ちょっと!?7体のハイ・ドラゴンって、何がどうなってんのよっ!?ノア!アンタもしかしなくてもここで何かやらかしたわねっ!?」

 「やらかしたと言えばやらかしたかな?まぁ、『幻実影ファンタマイマス』で生み出した幻の私に絡んで来た、力だけはあるアホ共とやらを、より強い力でねじ伏せただけだよ。」

 「それがあの愉快な状態になってる連中ね…。ねぇ、もしかしなくても、ここって"ドラゴンズホール"だったりするのかしら?」


 ルイーゼからしても4体のドラゴンが並んで頭を地面に埋め込んでいる光景は愉快と表現するくらいにはおかしな光景らしい。

 それはそうと、彼女もこの場所がどこなのか気付いたようだ。短く頷いて答えておこう。


 「うん。」

 「[うん♪]じゃないわよっ!!アンタは一体、私に何と会わせようとしてんのよっ!?どう考えてもヤバイ奴じゃないっ!!」

 「温厚なドラゴンだから大丈夫だって。事前連絡は済ませてるんだ。もう彼のところへ行くよ。」


 と言うわけでヴィルガレッドの反応があるば場所へと転移する。



 転移が終われば、私達の目の前には鈍く輝く黄金の鱗に包まれ、二対の翼を持つ巨大なドラゴンの顔がある。

 転移して来るとは思っていなかったらしく、その顔は驚愕に満ちている。


 「ぎゃああああああーーーーーっ!!?!?」

 ―わーっ!すっごくおっきな王様だー!おじちゃん!ぼくヨームズオームだよー!ノアに付けてもらったんだよー!よろしくねー!―


 こうまで反応が違うのか。ヨームズオームは純粋にヴィルガレッドに会えた事を喜んでいるのに対し、ルイーゼはあまりの衝撃に絶叫を上げてしまっている。


 「大丈夫だって。ほら、ヨームズオームを甘やかそうとしてるヴィルガレッドを見て御覧。何処からどう見ても温厚なドラゴンじゃないか。」

 「どっからどう見ても世界で一番おっかない存在にしか見えないわよっ!!原種のドラゴンのアンタと一緒にするなぁっ!!」

 「大丈夫大丈夫。怖くない怖くない。」


 驚くとは思っていたが、ここまでとは。涙目になって怯えているのが、何とも可愛いらしい。今まではルイーゼの事を左腕だけで抱えていたが、両腕で抱きしめて落ち着かせておこう。


 「おうおう、そうかそうか、良い名を付けてもらったのぅ!余はヴィルガレッドである。ドラゴンの頂点に立つ者だ。坊は光るものは好きかの?この出会いを祝して、余の自慢の宝物を披露しようではないか!」


 ヴィルガレッドはヴィルガレッドでヨームズオームの気を引こうとして、『収納』から自分のコレクションを思われる宝物を私達の前に大量に放出してきた。


 ―ふおおぉー…ピカピカでキラキラだああぁー…!綺麗だねー!―

 「うむうむ。そうであろう、そうであろう!さぁさ、どれでも好きなものを三つ選ぶがよいぞ!くれてやろうではないか!クァーッカッカッカッカッカッ!!」


 これ以上なく上機嫌である。ドラゴンが自分の宝を無条件で三つも譲渡すると言っているのだ。甘やかしまくりだな。


 いや、流石はドラゴンの頂点に君臨する者。所有している宝物はどれも物凄い品ばかりだ。おそらく、既に滅びてしまった古代文明の遺産なども平然とヴィルガレッドのコレクションに加わっているのだろう。


 ヨームズオームも光物は嫌いではないらしく、私から離れて宝物に近づきまじまじと見つめている。少し寂しいし悔しい。


 ヴィルガレッドが出した宝物は、間違っても人間達の前には出せそうにない。

 こんな物の存在が人間達に知られてしまえば、間違いなく余計な争奪戦待った無しである。どれもこれも宝飾品としてだけでなく、しっかりと強力な特殊効果を秘めている物ばかりなのだ。


 だがしかし、ヨームズオームをここに連れてきて、ヴィルガレッドに会わせる事が出来て本当に良かった。二体とも、とても嬉しそうにしている。


 魔石製造機の方はまだしばらく完成しそうにない事だし、しばらくはここで楽しい時間を過ごすとしよう。


 さて、落ち着いたらヴィルガレッドにも縮小してもらって酒だの料理だのを振る舞うとしようか。あの果実も食べてもらいたいしな。


 私は未だに怯えているルイーゼを宥めながら、二体のやり取りを眺めていよう。

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