第177話 ファングダムでの方針決定

 何だって変な方向へ話がそれてしまったのか?それは私が感情を読み取る術を口に出してしまったからだな。

 まだまだ一般的な常識と私の常識がかみ合っていないという事だ。やはり本を読むだけでは常識を全て知ることが出来るわけでは無いようだ。

 本で得られない常識に関しては、例え他人から世間知らずと言われようとも、その言葉を受け入れて教えを乞うしかないだろうな。それと、今後は新聞にも頻繁に目を通そう。


 で、だ。オリヴィエの家族の関係改善だ。これは単純に会話不足が原因なのだろうが、オリヴィエ自身にも原因が無いわけでもない。

 彼女は他人から嫌われる事を強く恐れている。彼女が家族から嫌われていないと仮定して、その事を彼女に知ってもらう必要がある。


 それには話し合いの場が必要だ。

 勿論、いきなりオリヴィエを含めた彼女の家族を一ヶ所に集めて[さぁ、本音で話し合え]などと言う事をするつもりは無い。

 話し合いの場を設ける前にオリヴィエの家族がオリヴィエをどう思っているのか、私が知る必要がある。


 考えたくない話だが、仮に家族全員がオリヴィエを良く思っていないというのであれば、その時はもう私にできる事は非常に限られてしまう。

 彼女を王族と言う立場から解き放って、ただのオリヴィエにしてしまおうと思う。それこそ、脅しつけるような多少暴力的な手段を用いる事になったとしてもだ。


 尤も、仮に家族から嫌われているとして、それをやるかどうかは、今後のオリヴィエの返答に次第なのだが。


 「それでノア様、お父様達と会話をすると言う話でしたが、お父様を始め、カインを除く他の方々も時間の都合が容易に取れるような方々では御座いません。その辺りは何か、お考えがあるのですか?」

 「まぁ、問題は無いと思うよ。方法もある程度の目途は立っているからね。ただ、その会話は非公式のものとなるだろうし、私が強引に行う場合、方法に関しては他言に無用でいてもらう事になるだろうね。」


 私がヴィルガレッドと戦った際に神々が空間を拡張したわけだが、アレを応用して話し合いの場を儲けようと思うのだ。

 国王や王子が多忙だというのなら、時間の問題も解決させて見せよう。

 空間を拡張できるのだ、反対に圧縮する事だって出来る筈だ。そして、空間の拡張と圧縮が出来るというのであれば、時間でも同じ事が出来るのではないか、と私は思い至ったのだ。


 今まさに思いついた事なので魔術の開発はこれから行う事になる。

 駄目だったら、地道にアポイントを取って都合をつけよう。ファングダムの王族とて、私の言葉を無視する事は難しいだろうからな。


 「ああ、勿論彼等に対して突然話し合いの場を設けるわけじゃない。事前に彼等に会って都合をつけてもらう予定だよ。」

 「ノア様なら、問題無く出来てしまうのでしょうね・・・。」


 オリヴィエの表情は暗い。話し合わなければ相手の心境を理解できないが、やはり危惧していた事が現実になる事を恐れているのだろう。


 「家族の本音を聞くのが怖いかい?」

 「はい・・・。」


 まぁ、そうだろうな。だが、私としてはオリヴィエに決意を固めてもらいたいので、彼女を勇気づける言葉を送らせてもらうとしようか。


 「リビア。以前、私が貴女に対して無理に相手に好かれる必要は無いと言った時の事、覚えているかな?」

 「はい。忘れる筈がありません。その言葉で、私は幾分か気が楽になりましたから・・・。」

 「それは良かった。なら、その後私が貴女に言った事も覚えているかな?」

 「はい。私が変わらず今のままであり続けている限り―――」

 「私は貴女に好感を抱き続けるし、貴女を味方する。例え、貴女の家族が貴女をどう思おうとも、私は貴女の味方であり続ける。リビア、今の貴女は一人じゃない。私がいるよ。」


 今の私には、こんな言葉しか送る事が出来ないが、果たしてこんな言葉でオリヴィエを勇気づける事が出来るだろうか?


 「ノア様・・・。お願いがあります。」

 「うん。言ってごらん。」


 オリヴィエの瞳に、少しだけ力が宿る。彼女なりに、一歩前へと踏み出そうとしているのだろう。ならば、彼女の背中を押した私は、その想いに応えなければな。


 「家族と話をする時、私と一緒に、傍にいて下さいますか?」

 「ああ、約束しよう。貴女の傍にいよう。それで貴女が家族と向き合う事が出来るのなら、私は貴女の傍にいよう。」


 私の言葉を聞くと、オリヴィエは瞳に涙を溜めて私に抱きついて来てしまった。再び胸に蹲って来たのだ。ならば、私はこの娘の頭を優しく撫でてあげるだけだ。


 好きなだけ甘えると良い。きっと、母親を亡くしてから、誰かに甘えるという事をしてこなかったのだろうから。


 「ノア様は、とてもお優しい方ですね・・・。どうして、私に此処まで良くして下さるのですか・・・?」

 「単純に、貴女の事が気に入っているというのが一つ。そしてもう一つ。私に助けて欲しいと願った貴女の願いが、とても切実だったからだ。貴女の助けて欲しいという思いに、私は助けてあげたいと思ったんだ。」

 「ノア様・・・泣いても良いですか?」

 「勿論。この部屋は防音処置を施してあるし、私も防音用の魔術を施してある。泣きたいのなら、我慢する必要は無い。好きなだけ泣くと良い。」


 高級部屋なだけあってしっかりと防音処置を施されてはいるが、念のため、この部屋に入ってからすぐに防音魔術を施したのだ。どれだけ大声で会話をしようとも、部屋が壊れるような音でも出さない限り音が漏れるような事は無い。


 オリヴィエは小さく嗚咽をこぼし始めると、次第に声を上げ始め、最終的には大声で泣きだしてしまった。

 一度感情を解き放ち、泊まらなくなってしまったのだろう。前にもこんな事があったが、今回も好きなだけ泣いて気を晴らすと良い。



 幼いころに母親を亡くし、甘える事を知らずに育ったオリヴィエは、盛大に私に甘えてくれた。これまで誰にも明かさなかった自分の心境を語り、堪えていた物を吐き出して疲れてしまったのだろう。


 泣き止んだと思えば、彼女はそのまま静かに寝息を立てていた。

 とても愛おしく、愛らしい。彼女が目を覚ますまで、このまま頭を撫でて寝かせておこう。



 ニ時間ほど経過して、オリヴィエは目を覚ました。顔を赤くして、かなり恥ずかしそうにしている。


 「ゴ、ゴメンナサイ・・・。流石に、甘えすぎですよね・・・?」

 「ふふっ、流石に二時間も寝るとは思ってなかったよ。少し不自然な大勢だったけど、体を痛めてないかな?」


 オリヴィエの身長は168センチほどであり、私よりも少し高い。態々私の胸に蹲って寝た場合、体勢が悪いなんてものじゃないだろう。

 その体制で二時間だ。身体を痛めていてもおかしくない。何処かしら痛めていたら軽く治療しておこう。


 「あ、あぅっ!こ、腰が・・・っ!」

 「ああ、やっぱり痛めていたのかい?少しじっとしていて。・・・どうかな?」

 「・・・治癒魔術ですか・・・?凄い・・・あっという間に痛みが引いてしまいました・・・。」


 目一杯泣きはらして、感情を吐露した事で大分落ち着いたみたいだな。なら、そろそろ話を進めるとしよう。


 オリヴィエの家族の話はもう切り上げても良いだろう。彼女も今はこれ以上話す事が無いようだしな。


 ならば、次だ。


 「リビア。一つ聞かせて欲しい。この国の現状を知る貴女が、何故身分を伏せてティゼム王国の冒険者ギルド受付をしていたのかな?悪いけど、私に質問をせずに答えて欲しい。」

 「・・・っ!そうですよね・・・当然、聞きますよね・・・。」


 質問せずに答えて欲しいと言ったのは、当然、私には制約があるからだ。

 ティゼム王国側が予想する彼女の目的が正しかった場合、彼女の性格だ。私にティゼム王国の財源について意見を訪ねて来るに違いない。

 聞かれた以上は素直に答える。オリヴィエの信用を失わないためにも、嘘を言うつもりは無い、そもそも私は嘘をつくのはあまり好きではないからな。


 だが、それでは誓約を破る事になってしまう。だから事情は全て彼女の口から発してもらう必要がある。


 「ノア様は・・・って、ノア様に質問をせずに答えるのでしたね・・・。ズバリ言ってしまいますが、ファングダムはティゼム王国の財源が"楽園"の資源が全てでは無いと疑念を抱いています。」

 「続けて。」


 まぁ、予想していた事だ。そうなれば、オリヴィエがティゼム王国へ訪れたのはやはりティゼム王国の真の財源の調査という事になる。


 果たして、彼女は真実に到達しているのだろうか?


 「ティゼム王国の輸出する"楽園"の資材、そしてティゼム王国内で使用されている"楽園"の資材に不備は無いように思われるのですが、それにしては若干国が豊か過ぎるように感じたのです。」

 「豊か過ぎる、と言うのは?」

 「余裕がある、と言うのでしょうか?本当にティゼム王国が"楽園"の資源で国を経営しているというのであれば、本来ならば多くの冒険者達が必死になって"楽園"へと足を運んでいる筈なのです。ですが、ティゼム王国の冒険者達は失礼ながら、その・・・ノア様が来るまでは・・・。」

 「そうだね。イスティエスタの冒険者達と比べて、王都の冒険者達の振る舞いは、結構酷いものだった。」


 着眼点が良いな。確かに、死亡率の高い楽園に挑み続けて財源を得ているというのであれば、冒険者達はもっと必死になっているだろう。

 私はまだ"星付きスター"以上の減益冒険者に出会った事は無いが、少なくとも"上級ベテラン"冒険者達は誰も彼も余裕を持って生活をしている者達ばかりだった。


 つまり、"楽園"に挑めない彼等でも、余裕を持って生活できるだけの依頼があるという事だ。

 その依頼の内容は?魔物の討伐?物資の運搬?旅の護衛?素材の調達?それらの依頼を出す事が出来るだけの余裕が、資源がティゼム王国にはある。ファングダムはそう考えたのだ。


 「その事に気付いたのは、誰かな?」

 「あっハイ、私です。去年のクリストファー王子殿下の誕生パーティーに出席したのが初めてのティゼム王国の来訪だったのですが、その際に街の様子を見て、そう感じました。」


 そっかぁ・・・。ここは流石と言うべきなんだろうなぁ・・・。街並みを見ただけでそれに気づく事が出来るって、優秀なんてものじゃないだろう。


 レオナルドがオリヴィエの才覚に気付いているのなら、絶対に手放したくないんじゃないか?彼女はあまりにも優秀過ぎる。他国へ嫁がせた場合、ファングダムにとって間違いなく大きな損失になるぞ?


 こういう場合、国の有力な貴族に嫁ぐ事になると思うんだが、オリヴィエにはそういった話が一切出ていないというのが少し気になるな。


 「やっぱり直接聞いてみるのが一番か・・・。」

 「ノア様?」

 「ん?あぁ済まない、こっちの話だよ。それで、リビアはその時感じた事をレオナルドに話したって事で良いのかな?」


 おっと、いかんいかん。うっかり口に出てしまっていたようだ。今はオリヴィエの話に集中しよう。

 取り繕うためにもオリヴィエに質問をして、放しを促す。


 「はい。お父様に、と言うよりも国の重鎮を揃えての会議中に、ですけど。」

 「ちなみに、その重鎮達は金の採掘量の減少は・・・。」

 「はい、勿論存じています。今にして思えば、伝えない方が、良かったのかもしれませんね・・・。」


 あっちゃー、レオナルドにだけじゃなくて、国の重鎮達がいる場所で言っちゃったのか―。

 しかも重鎮達は皆金の採掘量の減少に頭を悩ませていると来た。だったら、余裕のある、しかも比較的近い場所にある国の資源は、さぞ魅力的に移るよなぁ・・・。


 「ま、まぁ、物事はいい方向へ考えよう。リビアがティゼム王国に来た事で貴女はマコトに会えたわけだし、私にも会えたんだ。結果論ではあるが、きっと、伝えた方が良かった筈だよ。」

 「ええ、そうですね。私も、そう信じたい、信じます。」

 「うん。それで、やっぱりティゼム王国を探るのは、違和感に気付く事が出来たリビアが適任、という事になったのかな?」

 「はい。満場一致で私が調査に出向く事が可決されました。ちなみに、私を調査へ向かわせる提案をしたのは、お兄様です。」


 それは、オリヴィエを自分の元から遠ざけたかったからなのだろうか?それとも別の意図があったりするのか?

 どちらにせよ、彼女の優秀さは国王含めてファングダムの重鎮達も皆理解しているようだ。レオンハルトの提案に否定的な意見を出す者は誰もいなかったらしい。


 「それで、リビアは結局のところ、ティゼム王国の秘密が分かったのかな?」

 「残念ながら・・・。真実に近づけてはいると思うのですが、どうにも靄が掛かっているような感覚に陥ってしまって・・・。」


 悲しそうにオリヴィエが首を横に振る。流石の彼女も、"一等星"級の冒険者すら効果を及ぼす認識阻害装置の効果を免れる事は出来なかったようだ。

 だが、完璧と言うわけでもないようだな。やはり正確な"楽園"の帳簿に目を通せば気付けてしまいそうだ。大したものだよ。


 だが、気付かれてしまうとどちらにとっても不味いんだよなぁ・・・。


 「気付けなくて良かったんじゃないかな?」

 「それは、どういう事でしょう・・・?」

 「リビア。財源に困っている者が他国に豊富な財源を見つけた場合、それを欲しがるのが世の常というものだ。」

 「まさか・・・戦争に・・・!?」

 「なるだろうね。ファングダムがティゼム王国の隠された財源とやらを求めるというのであれば、そうせざるを得なくなる。」

 「そ、そんな・・・っ!?」


 極端な娘だな。そっちの方面に関しては考えていなかったのか?

 いや、違うな。私はティゼム王国の本来の財源が移動させようのない土地である事を知っている。

 土地の所有権を巡る話となれば戦争になってしまうわけだが、オリヴィエはその事実を知らないのだ。

 ただ、不幸中の幸いな事と喜ぶべきか、オリヴィエは戦争には否定的らしい。


 となると、国王であるレオナルドの人となりか。


 「ちなみに聞くけど、レオナルドはティゼム王国の財源を手に入れるために戦争を行う人物だと思うかい?」

 「・・・おそらく、お父様は行います。そしてお兄様も。金の採掘量が減少している以上、それを補える何かを求めないわけにはいきませんから・・・。」


 そうなって来ると、かなり難しい問題になって来るな。

 まず、このままの状態を維持し続けた場合、地下の魔物が復活し、毒を国中にまき散らして国が滅びる。

 そして魔物をどうにかしたとしても、金の採掘量が減っている事には変わりないのだ。新たな財源を得ない限り、ファングダムは戦争を起こす可能性が高い。


 ちなみに、地下に眠る御伽噺の魔物は実在する。

 オリヴィエが私の胸で眠っていた際に、ルグナツァリオに確認を取ったのだ。

 その際、金を採掘する事で封印が溶けている事も巫覡に対して伝えてはいるし、巫覡もその事を王族に伝えているらしい。

 だが、金の採掘はファングダムの重要な財源である以上、それを素直に聞く事が出来ないでいるのだ。


 参ったな・・・。魔物に関しては私ならばどうとでもできるが、ファングダムの新たな財源となると、簡単には思いつかないぞ・・・?


 当然の話だが、私ならば『我地也ガジヤ』を用いる事でファングダムの土地に金を齎する事など、造作も無い事だ。

 だが、それは違うだろう。結局のところ金脈は有限であり、何時かは尽きてしまうのだ。根本的な解決になっていない。


 さて、どうしたものか・・・。

 とりあえず、オリヴィエにも戦争を回避する条件を伝えておこう。


 「ファングダムに戦争をさせないためには、ファングダムに金に頼らない財源を得てもらう必要がある。」

 「あるのでしょうか・・・?そのようなものが・・・。」


 私はまだファングダムと言う国を知らない。ここは一つ、ファングダムを調べ尽くして新たな財源になり得るものを見つけてみるのも良いかもしれないな!


 「探そう。」

 「ノア様?」

 「私がファングダムに来た建て前は観光だ。この際、ファングダムの事を十全に知ろうと思う。そして、その中で新しい財源になりそうなものを、二人で探そう。」

 「二人って、私もですかっ!?」

 「リビアは案内役なのだから、当然だろう?この国の命運が掛かっているかもしれないんだし、戦争をするよりは遥かにマシだと思うよ?」

 「確かにそうでしょうが・・・。私に見つけられるでしょうか・・・?」

 「その辺りは気楽に行こう。地下の魔物の脅威さえなくなってしまえば、比較的ゆっくりと考えられるだろうからね。」

 「ノア様っ!?」


 地下の魔物の話を出した際にとても驚かれてしまった。信じてもらえていないと思われていたのだろうか?それとも私でも力及ばないと考えていたのだろうか?


 「ひとまず、ファングダム全体を巡り歩いて新たな財源になりそうなものを探すのと同時に、魔物の調査も行うとしよう。どちらかと言うと、魔物の対処の方を優先させるべきだろうけどね。」

 「あ、あのっ、既に魔物がいる前提で話をしているようですが、ノア様は信じるのですか?私の話を・・・。」

 「うん。信じるよ。貴女の夢見の力は、間違いなく確かな力を持っている。そんな貴女が毒を生み出し続ける悍ましい魔物を見たというのなら、間違いなくそれは実在しているんだ。」

 「ノア様・・・。ありがとう、ございます・・・。」


 実はオリヴィエが眠っている間に悪いとは思うが、彼女の事を『モスダンの魔法』を用いて他人との違いを確認していたのだ。


 その結果、間違いなく彼女には魔法が使える事が分かった。

 今はまだ夢の中、それも無意識の内でしか使用できないようだが、鍛え上げれば理論上、過去も未来も含めて、あらゆる真実を視る事が出来る、非常に強力な魔法である事が分かった。


 ちなみに、一時間前の情報を正確に知ろうとした場合、エネミネアの全ての魔力が枯渇してしまうほどの魔力を消費する事になる。つまり、まともな人間には扱えない力でもある、という事だ。

 膨大な魔力を消費するにも関わらずオリヴィエが夢と言う形であれ魔法を使用できているのは、無意識かつ特にこれと言った条件を指定していなかったからだろう。


 私ならば使いこなせないわけでは無いが、普段使いするような魔法では無いな。

 私にとっては非常に使いどころが限られている魔法だし、知りたい事があるのならルグナツァリオに聞けば大抵の事は教えてくれるはずだ。


 この魔法の情報、オリヴィエに教えた方が良いのだろうか・・・?

 彼女にこの力を教えてそれが周囲に広まってしまった場合、どう考えても争いを生む気配しかしないのだ。


 保留だな。私にはどうすればいいのか分からない。

 現状としては、オリヴィエが自分の力を知ろうとして、なおかつそれを伸ばそうとした時に、予め争いの種になる事を伝えた上で教えるとしよう。


 今オリヴィエと話す内容は大体こんなところか。


 「さて、方針も大体決まった事だし、リビア。最後に一つ聞かせてもらうよ?」

 「はい、何でしょうか?」

 「私は貴女を助けるつもりではいる。だけど、私は神じゃない。無償で貴女を助けるわけにはいかないんだ。」

 「・・・っ。」


 意外にも、オリヴィエは落ち着いている。これまで冒険者ギルドの受付をしてきたからなのか、それとも、元より何の対価も無しに願いが聞き届けられるなどとは思っていなかったからなのか。


 いずれにせよ、オリヴィエは覚悟の決まった表情をしている。では、聞かせてもらおうか。


 「オリヴィエ=ラナ=ファングダム。貴女は、私への対価に何を提供してくれるのかな?」


 今の私は冒険者だ。私に活動をして欲しいのなら、対価を用意してもらう。


 そうでなければ、ただの甘やかしになってしまうからな。

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