第169話 お土産に対する皆の反応

 さて、まずは何から振る舞おうかな?今は朝早い時間だし、朝食がてら、人間達の食料を教えようかな。

 本当なら料理を振る舞いたいところだが、この子達は薄味が好きだし、そもそも料理を作るための設備がここには無い。

 『我地也ガジヤ』で急造しても構いはしないのだが、折角この子達が作ってくれた部屋だし、料理にはそれなりに時間も掛かるからな。

 すぐにでも味わってもらうためにも、購入してすぐに『収納』に仕舞った焼き立てのパンやハムやウインナーと言った加工食品。ハチミツを用いた焼菓子と、それから大量に購入しておいたチーズも出してしまおう。


 人間達の加工食品は運搬依頼で立ち寄った村などでちょくちょく購入していたから、結構な量があるのだ。思う存分食べる事が出来る量はある筈だ。


 「やっぱり、以前皆と食べた人間の食べ物は保存性を優先していたんだろうね。街で食べた物はあの時のものよりもずっと美味しかったよ。今から出すから、皆で食べよう。」

 〈待っていたのよ!沢山食べられるのよね!?〉〈楽しみにしてたのよ!早く食べたいのよ!〉

 〈ご主人、味は濃すぎたりしない?ご主人の味覚って、ボク達よりも濃い味が好きみたいだけど、人間達はどうだったの?〉

 「人間達の味覚は私とそう変わらなかったよ。とは言え、今から出す食べ物はそこまで濃い味じゃないから、心配いらないよ。本当はもうちょっと手の込んだ食べ物を用意したいんだけど、皆の味覚に合わせようとすると少し待たせてしまう事になるからね。話したい事も沢山あるし、すぐに食べられるものを食べるとしよう。」

 〈そうなんだ!ご主人が出してくれる手の込んだ食べ物、楽しみだなぁ・・・。〉


 ああ・・・!ウルミラ、そんなに勢い良く尻尾を振られたら触りたくなってしまうじゃないか!?


 〈ご主人?口に出てるしもう触ってるよ?別にいいけどね。でも、どうせ撫でるなら頭とか首の周りとか背中とかも撫でて欲しいなぁ。〉

 〈撫でるなら私も撫でて欲しいのよ!〉〈頭と嘴の下を撫でて欲しいのよ!〉


 うんうん。目一杯撫でるとも。君達よりもよっぽど繊細な作りをしている人間の子供達も結構撫でてたから、力の加減はバッチリだ。思う存分撫でまわさせてもらおうじゃないか。


 などと思っていたらラビックから待ったが入ってしまった。


 〈お待ちください。姫様が私達を撫で始めたらかなり長いのですし、まずは食事を優先させませんか?〉

 〈そうそう。撫でてもらうのは食事が終わった後にノア様から人間達の話を聞くときにしよ?私も早く食べてみたいもの。ホーディやゴドファンスも口には出してないけど、同じ気持ちの筈だよ?〉

 〈む?ま、まぁの。以前口にしたあのまったりとした味わいを忘れてはおらんでのぅ。好きなだけ食べられると聞けば・・・のぅ、ホーディ―や。〉

 〈我にもその話を振るのか?まぁ、そうだな。あの時以来、人間の食料は量が少なかったゆえに口にしていなかったのだ。より良い味を存分に堪能できるとなれば、口にしてみたいと思うのは当然だ。そもそも、ウルミラもつい口から零れたただけで食事を優先したい気持ちは我等と同じはずだ。レイブランとヤタールは言わずもがなだろう?〉


 いかんいかん。ついモフモフを堪能する事を優先させてしまうところだった。

 皆も早く食べたい気持ちに変わりは無いようだし、さっさと『収納』から取り出してしまうとしよう。



 提供した食材はすべて好評だった。特にチーズに対する評価が高いな。温めると蕩けてより一層まろやかさが増す事が分かると、皆してチーズを温めだしてしたのだ。

 そして単体ではなくそうして温めたチーズをパンや肉加工食品と共に口にすれば更に味わい深くなる。更には、パンと肉の加工食品とチーズを纏めて一緒に口にする事で一つの料理として楽しむ事が出来たのだ。


 これは思わぬ誤算だったな。皆複数の食料を一緒に口にする事で新しい味になる事を知り、感動しているようだった。


 〈実に美味だな。我々だけでは間違いなく知りえる事が無かった。これだけでも主が人間達の国へ赴いた事の価値がある。〉

 〈料理って言うのは、この状態から更に熱を加えたり混ぜたり調味料を加えて味や食感を変えていくんでしょ?凄いね。ホーディが言う通り、私達だけじゃ絶対に試さない事だったよ。〉

 「それじゃあ、料理は夜に提供させてもらうね。勿論、薄味にするよ。この城にも調理できる施設を作っておこう。」

 〈姫様。設備の設置は手伝いますか?〉

 「いや、大丈夫だよ。どうせ『我地也』でポンッと作ってしまうつもりだし、調理用の器具自体は結構な量を購入してあるからね。そんなに時間は掛からないよ。」


 ラビックは良い子だなぁ。大した手間でも無いというのに、それでも手伝おうとしてくれているのだから。頭から背中にそって優しく撫でておこう。ああ~・・・モコモコが気持ちいい・・・。


 〈ねぇご主人!撫でるなら僕達も撫でて!〉

 〈そうよ!私も撫でて欲しいのよ!〉〈嘴の下と頭を撫でて欲しいのよ!後背中も撫でて欲しいのよ!〉

 「うんうん。勿論撫でるとも。だけど、私の体は一つだし、腕は二本しかないからね。こうしようか。」


 そう言って『幻実影ファンタマイマス』を発動して6体の幻を出現させる。本物も含めて私が7人。一体につき一人で存分にモフモフを堪能させてもらう!転移魔術を開発するついでにこの魔術を改良した買いがあったな。幻も問題無く触覚を得ることが出来たのだ。


 ああ・・・!素晴らしい。皆の毛並みを同時に堪能出来ている!これは思わぬ発見だ!今後みんなの毛並みを堪能したくなったら今回のように幻を出して撫でさせてもらうとしよう!


 〈わわっ!ナニコレェ!?幻なのに触れてる!?スゴイスゴイ!ねぇご主人!その魔術、僕にも使えるかなぁ!?〉

 「『幻影ファンタム』を応用した魔術だから少し手は掛かるけど、ウルミラなら問題無く出来るようになるよ。後で教えるね。それじゃあ、そろそろ皆にお土産を渡そうか。」


 ウルミラでも『幻実影』が使えると知ると、彼女はとても喜んでくれた。が、今はそれよりもお土産だ。幻を通して皆に渡すとしよう。




 先ずはウルミラから渡すとしよう。お土産を出すのにも『収納』を使う事になるから、それで同時に使用する魔術は7つになってしまう。現状の私の魔術同時発動可能数だ。一体ずつにしかお土産を渡す事が出来ないのである。


 『収納』からファニール君を取り出してウルミラへと手渡す。


 「それじゃあ、ウルミラ。これをどうぞ。君へのお土産だよ。」

 〈わわっ!何コレ!?まん丸だね!凄く転がりそう!〉

 「そのまん丸に魔力を込めて御覧。そうしたらウルミラから逃げ出すから。」

 〈追いかけっこが出来るの!?よぉし負けないよぉー!〉


 期待のこもった声でウルミラがファニール君い魔力を込める。そうすれば、いつも通り、ファニール君が起動して、状況を認識したようだ。


 「ピピピピピ!ピブー。」

 〈おぉー!音まで出るんだぁー。面白ーい!って、アレレ?〉


 魔力を込めた後、面白がってファニール君触れようとするが、当然ファニール君はそれを躱す。前に出した前足が空ぶってしまい、困惑している。


 「ね?逃げるだろう?捕まえてみて御覧?ただし、何もしないと君の近くをウロチョロするからね?」

 〈むむ!これは手強そう・・・!それじゃ、いっくよー!〉


 ウルミラが本格的にファニール君に触れようとするために私から離れてしまったのは少し寂しいが、とても楽しそうにファニール君を追いかける彼女の姿を見ると、それもどうでも良くなってしまうな。お土産、気に入ってくれたみたいで良かった。


 おお!流石ウルミラの魔力を得たファニール君!宙に浮かぶ事はしないが、幻を発生させている!


 〈わぁっ!幻まで出せちゃうんだ!ホントに凄いね!でも、どれが本物かは臭いでわかっちゃ言うよぉー!コッチ!〉

 「びビビビッ!?ロロプブー!ロロピブー!」


 ウルミラも負けていないな。流石に幻は匂いを出さないからな。どれが本物かはすぐに分かるようだ。正確に本体の位置を嗅ぎ分けて追いかけていく。心なしか、ファニール君も焦っているように見える。


 〈捕まえ・・・ええっ!?〉

 「おおー!これは素直に凄いな。」


 いや本当に凄いな。『幻影』どころか『入れ替えリィプレスム』まで使いこなすだなんて。だが、ここまでやってしまうといよいよウルミラも本気を出すだろうな。

 彼女も『幻影』と『入れ替え』を使用しだす筈だ。しかも彼女の幻は透明仕様だ。さてさて、どれぐらい逃げ切れるかな?



 ウルミラにばかり気に掛けるわけにはいかない。他の子達にもお土産を渡そう。次はレイブランとヤタールだ。


 「これが君達へのお土産だよ。どうかな?君達の身に付けられるようなものではないけど、観賞用としてはいい出来栄えだと思うんだ。」

 〈・・・・・・。〉〈・・・・・・。〉


 レイブランもヤタールも取り出した装飾品を見て、じっと見つめたまま固まってしまっている。

 不快、と言うわけでは無いようだから問題無いとは思うが、どうしたのだろうか?この娘達が黙って固まってしまう事って、物凄く珍しい事じゃないか?


 〈・・・素敵・・・。〉〈・・・綺麗・・・。〉


 何とまぁ、なんて事はない。この娘達はこれ以上ないほど装飾品に見惚れてしまったというだけの話だったのだ。ちょっとやそっとの外的要因では全く反応しないため、今ならば撫で放題である!存分に堪能させてもらうとしよう。



 ウルミラがファニール君を追いかけ回し、レイブランとヤタールが装飾品に見惚れて固まっている間に、ラビックに武術の本を渡してしまおう。


 〈これが人間達の武芸が記載された本ですか。複数冊あるようですし、読みごたえがありそうです。姫様、これらの本が読み終わった時には・・・。〉

 「勿論分かっているよ。存分に知り得た技を試してみよう。私もその時が楽しみだよ。じっくりと余すところなく読むと良い。」


 言われるまでも無いと言うかのように、ラビックが私の体に背中を預けて本を読み始める。

 私にとっては小さな本だが、ラビックからすれば自分の顔の大きさ以上だ。本を広げて内容を読みふけるその姿は非常に可愛らしかった。この子も気を散らさない程度に撫でるとしよう。



 では、次はフレミーへのお土産だ。この娘へのお土産はかなり量が多くなってしまうのだが、この場所の広さならば何も問題は無いだろう。イスティエスタで購入したベルベット生地と、複数のファッション誌を渡す。


 〈ノア様、これ全部私へのお土産なの?なんだか私だけもらい過ぎてないかな?〉

 〈そうでも無いよ。そもそも、私はフレミーから色々なものをもらってばかりだったしね。他の子達よりも多いのなら、そのお返し、という事だと思って遠慮なく受け取って欲しいな。〉

 〈ありがとう。それにしても、艶があって、それでいてある程度の厚みもあって、とても綺麗な生地だね。うん。この生地、私の糸でも再現できそう。ノア様。新作の衣装、期待していてね!〉


 コレだからフレミーは素敵なんだ。爛々と八つの目を輝かせて本を読みながら生地の確認もし続けている。早速インスピレーションが働きだしたようで、創作意欲がドンドン湧き上がっているのだろう。この娘の頭の中には既に私の新しい衣装のイメージが出来ているんだと思う。


 〈ノア様!後でノア様が手に入れた人間達の服も着て見せてね!それも参考にさせてもらうから!〉

 「うん。そうさせてもらうね。フレミーの新作、楽しみにしておくよ。」


 フレミーにフウカが仕立てた服を見せたらどんな反応をするだろう。彼女に対して好印象を持ってくれると嬉しいな。

 実際に会う事は無理だろうけど、それでも互いに意識してライバル意識を持ち、お互いに競い合い、高め合うような関係になってくれると、とても嬉しい。



 残るはホーディとゴドファンスだ。この2体へのお土産は同じ物なので近くに来てもらって一緒に渡してしまおう。『収納』から出すのは勿論、王都・ティゼミアの酒屋で購入した大量の酒だ。


 「さて、待たせたね。2体とも。君達へのお土産はあの人間が所有していた5種類の酒だよ。大量に購入したから、存分に飲むと良い。」

 〈お酒!?〉

 「あーその、フレミー。このお酒は悪いけどこの子達用なんだ。他にも購入してあるお酒があるから、そっちを楽しんで欲しいかな?」

 〈そう・・・。まぁ、私はノア様からいっぱい貰っているものね。我慢するよ。それに、他にもお酒があるみたいだし。〉


 フレミーは本当に酒が大好きだな。それなりに距離が離れているというのに、さっきまで私の衣装について真剣に考えていたというのに、酒と言う単語を耳にした途端、一瞬でここまで来てしまった。ホーディもゴドファンスもその速さに目を見開いて驚愕している。


 気を落としながら元の位置に戻って行くフレミーを可哀想にも思ってしまうが、他にも酒はあるのだし、それで我慢してもらおう。


 気を取り直して、『収納』からホーディとゴドファンスへのお土産を取り出すとしよう。


 〈おおぉ・・・確かにコレは、紛れもなくあの人間から手に入れた酒と同じ物ですなぁ!〉

 〈うむ!これだけ大量にあればしばらくは酒に困ることも無いだろう!主よ。改めて感謝するぞ!〉


 喜んでいるけれど、2体ともこの場で飲むつもりは無いらしい。

 後でのお楽しみ、と言ったところかな?2体とも提供された酒類をいそいそと自分の『収納』へと仕舞っていった。



 これでお土産は渡し終えたな。ウルミラはまだファニール君を追いかけ回しているし、レイブランとヤタールは装飾品を眺めて固まったままだ。ラビックとフレミーも読書に夢中になっている事だし、あの子達の事はしばらくそっとしておこう。


 と言うわけで、馬車の移動中にゴドファンスが『通話コール』で知らせてくれた"楽園"の住民達の謁見についての詳細は、ホーディとゴドファンスから聞かせてもらうとしよう。


 少なくとも、"深部"を住まいにしている子達は明日からでもここまで訪れて来そうなのだ。今の内に詳しい話を聞いておかなくては。

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