ファングダムへ往く!!

第168話 城に入ってみよう!

 レイブランとヤタールを両肩に乗せ、フレミーを抱きかかえてウルミラを撫でながら皆に挨拶をすると、男性陣が揃って伏せた状態から私に迎えの挨拶をしてくれた。私から声を掛けられるのを待っていたようだ。


 〈お帰りなさいませ、おひいさま。〉

 〈我等一同、姫様の御帰宅、心よりお待ちしておりました。〉

 〈主よ。積もる話も、気になるものも、伝えたい事も、そして我等に聞きたい事も多々あるだろう。好きな事を話し、好きな事を聞きいてくれ。〉


 三体とも相変わらずの対応だ。話し方はそれぞれ違うというのに、三体ともどこかカッコよさがある。


 〈そうだね。ひとまずは家の中に入ろうか。ラビックやウルミラはかなり眠たそうにしているみたいだしね。〉

 〈ふふふ。まずは家の中かぁ・・・。ノア様。ノア様が私達にお土産を用意して来てくれたように、私達もノア様にプレゼントがあるの。〉

 〈きっとご主人、喜ぶと思うよ!〉

 「君達の用意してくれたものならどんなものでも嬉しいだろうけど、そこまで言ってくれるなんて、凄く楽しみだよ。」


 プレゼントとな?いつの間にそんなものを用意してくれたんだろう。どんなものかちょっと想像がつかない。早速家の中に入ってみよう。



 家の中に入って最初に私の視界に入ったものは、巨大な石の塊だった。石の塊と言っても、勿論ただの石の塊と言うわけでは無い。その形状は私達の寝床と同じように内側がくり抜かれて大きな窪みのあるつくりをしているし、窪みには非常に大きな布袋、布団が敷かれている。


 その大きさはちょうど皆が少し詰め寄って集まった大きさと同じぐらいだ。

 この巨大な寝床が私の予想通りの目的で作られたというのなら、確かにとても嬉しいプレゼントだ!


 「おお・・・!これはひょっとして、皆で使える寝床なのかい・・・!?」

 〈うん!ご主人、皆で寝る時はホーディやゴドファンスと一緒に寝れないのを残念がってたから、みんなで眠れる大きさの寝床を作ったの!〉

 〈私達もまだ使った事が無いのよ!〉〈使う時はノア様と一緒に使うって決めてたのよ!〉


 嬉しすぎる!モフモフ成分がこの上なく不足していた私にとって、まさに最高のプレゼントじゃないか!

 皆の毛並みを一度に堪能する事が出来るなんて、夢みたいだ!


 〈それだけじゃないのよ!布袋はとってもフカフカよ!〉〈私達の羽を使ってるのよ!頑張ってたくさん用意したのよ!〉

 〈頑張ってくれたのは分かるし嬉しかったけど、一時期家の中がコイツ等の羽毛でいっぱいになってたりもしたんだよね。出すだけ出して纏めようとしないから、部屋中に羽毛が散らかってしょうがなかったよ。〉

 〈アレ凄かったよねぇ!ちょっと動いただけで沢山の羽根がボフッ!ボフッ!って舞っちゃってたからね!楽しかったよ!〉

 〈おひいさまの居住を汚すのは看過出来んかったのだが、如何せん、とてつもなく寝心地が良いからのぅ・・・。〉

 〈実はな主よ。他の布袋の中身も、レイブランとヤタールの羽根に変えているのだ。実に寝心地が良いぞ?後日試してみると良い。〉


 皆と一緒に寝る事だ出来るだけでも凄く嬉しいというのに、何と布団までもが特別仕様なのか!?

 フレミーの糸で作られた布袋に、レイブランとヤタールのフワフワの羽毛が、これでもかと言うぐらいに敷き詰められているのか!?それもこの寝床だけでなく、他の寝床の布団もなのか!?


 きっと私が今まで体験した事が無いくらいに最高の寝心地を提供してくれるに違いない!あぁ、これからすぐに寝ようというのに、楽しみすぎる!


 「それじゃあ、早速皆で寝ようか。フレミーも一緒に寝てくれるのかな?」

 〈勿論だよ。ふふっ。ノア様と一緒に寝るのは初めてだね。〉

 〈では、早速眠るとしようか。まずは我等が床に就かせてもらう。〉

 〈おひいさまは我等の間にどうぞ。〉


 なるほどぉ!ホーディとゴドファンスの間に挟まる形になるのか!素晴らしい!

 居ても立っても居られなかった。思わず服を脱ぎ、角と翼を仕舞い、眠そうにしていたラビックを抱きかかえてその場で飛び跳ねて二体の間にダイブしてしまった。


 ぅおっほぅ!きめ細かいフレミーの布の感触が、フサフサなホーディの、硬さがあるがゆえに艶やかなゴドファンスの、モッコモコなラビックの毛が、それぞれ私を包み込む!しかもフッカフカな布団が私の全身を柔らかく受け止めるときた!


 た、堪らん・・・!至福だなんてものじゃないぞ!


 〈ご主人、凄く嬉しそうだね~。ボク、ここー。〉

 〈久しぶりにノア様と寝れるのよ!〉〈とっても嬉しいのよ!〉

 〈ふふふ。本当に幸せそうな顔・・・。お休み、ノア様。〉


 ほぁあああああ・・・!?ウルミラの柔らかいモフモフが私の足に、レイブランとヤタールのフワフワが私の両腕に、私の顔のすぐそばにフレミーが来てくれてる!

 全身にフサフサだのツヤツヤだのモコモコだのモフモフだのフワフワだのが伝わって来て幸せが過ぎるっ!!


 ああっ!?だ、駄目だ!心地良過ぎて意識がまどろむ!もっと、もっとこの至福の時間を堪能していたいのに!私の体が意識を手放そうとしてしまっている!

 まだ明日何をしようかも考えていないのに!こんなにも私自身は幸せに包まれて興奮気味だというのに!体が、意識が勝手に心地良さに流されて眠ろうとしてる!


 なんてこった!きっと朝になったら既に皆起きてて、大きな布団の中心に私一人で寂しく横になっているところをレイブランとヤタールに起こされるに違いない!


 私の・・・この・・・寝つきの良さは・・・やはりある意味、弱点だ・・・。




 無遠慮に頭を突っつかれる感覚に、とても懐かしさを感じる。朝が来たようだな。瞳を開けて、体を起こそう。

 身体の感覚からして、既に皆は目を覚ましているようだ。


 「おはよう。レイブラン、ヤタール。このやり取りも一月ぶりだね。」

 〈声を掛ける前にノア様が起きたわ!凄いのよ!〉〈おはようなのよ!ノア様!一歩前進なのよ!〉

 「ふふっ、そうだね。一歩前進だね。皆は外にいるみたいだね?」

 〈そうよ!みんな外で待ってるわ!〉〈ノア様!今日はどうするのかしら!?〉


 普段は思い思いに好きな場所へ行き好きな事をする子達だけど、今日ばかりは私が起きて皆の前に顔を出すのを待っているようだ。

 当然だな。お互いに伝えたい事が山ほどあるに違いないのだから。今日は目一杯、あの子達と話をしよう。勿論、モフモフを存分に堪能しながらな!


 さて、今日は何からしようかな?あの子達にお土産を渡すのは当然として、何処で渡そうか?

 やはり、昨日はあえて意識しなかった、家の傍に建てられているティゼム王国の王城を遥かに超える巨大な建造物の中で渡す事になるかな?

 あの子達も城を紹介したくて仕方が無いみたいだしな。隅々まで案内してもらうとしよう。



 家から出れば、皆が揃って私に顔を向けて伏せている。こういう動作って、何時覚えたんだろうな?多分、カークス騎士団から回収した書物からだとは思うけど、こうまで反映させる事が出来るものなんだな。


 「皆、おはよう。さて、今日の予定なんだけど、この場で早速皆にお土産を渡すのも良いんだけど、その前に皆に"アレ"の中を案内してもらって良いかな?実は昨日、ここに降りてきている時から気になっていたんだ。」

 〈おおぉ・・・!まずは我らが建築いたしました、おひいさまの城をご覧になっていただけるとは・・・!このゴドファンス、この上ない喜びに御座います・・・!〉

 〈我等一同、誠心誠意ご案内させていただきます。〉

 〈と言っても、人間の書物を参考にして建てただけ故、まだその大部分が空き部屋なのだがな。〉


 まぁ、空き部屋があるというのなら、今後謁見に来た"楽園"の住民達に宛がえば問題無いだろう。後は、そのための家具もある程度用意しておいた方が良いかもしれないな。その辺りは『我地也ガジヤ』を使えばどうとでもなるはずだ。


 〈まずはテッペンに向かいましょ!〉〈あそこにノア様の椅子があるのよ!〉

 〈そこでご主人に人間達の話をしてもらお!〉

 「そうだね、そうしよう。それじゃあ、お土産もそこで渡すとしようか。椅子のある場所って言うのは、結構な広さがあるのかな?」

 〈まぁまぁじゃないかな?少なくとも、家よりも大分広くなってるね。ホーディが存分に動き回れる広さだから、結構広々としてるよ。〉


 それは良いな。玉座の、謁見の間は私が想像していた以上に広そうだ。ウルミラにはファニール君を渡す予定だし、その後はそのままま謁見の間で追いかけっこをしだすのかもしれない。

 ホーディが動き回っても問題無いのなら、ホーディとラビックの稽古も、そこで行えてしまいそうだな。

 この二体は、私が旅行をしている間にも自己鍛錬を怠っていなかっただろうし、どれほど腕を上げているのか楽しみだ。


 〈玉座は城の最上階に配置しました。少々移動に手間が掛かるやもしれませんが、移動手段を用意しております故、そう時間は掛かりません。〉

 〈ささ、どうぞおひいさま。此方に御座います。〉


 ゴドファンスが率先して私を誘導する。城を建てる事に一番意欲的だったし、私に城を紹介したくて仕方が無いのだろうね。

 気持ちが流行っているゴドファンスの様子が、何処かシンシアと重なり、とても愛おしく思えてきた。素直に彼の後に付いて行く事にしよう。


 さて、皆が建設してくれたこの城なのだが、全高がなんと500m以上もある超巨大な建造物だ。カークス騎士団の書物を参考にしただけあって、その作りはティゼム王国のものと似通っているが、デザインなどは『我地也』による物質操作でどうとでもなるだろうからな。気分によって外観も内装も容易に変更できるだろう。


 そんな超巨大建造物の最上階に玉座の間、すなわち謁見の間があるわけだが、そこまで向かう用に、階段とは別に何やらの仕掛けを製作したらしい。


 それは何と、巨大な魔術具。所謂魔術装置だった。起動させると指定された高度まで上昇と下降を行う、10m四方の石で作られた正方形の板である。

 全員で板の上に乗り、ゴドファンスが魔力を装置に流すと、ゆっくりと板が浮上し始め、徐々に速度を上昇させていき、約5分ほどで最上階まで到達した。


 「見事なものだね。ティゼム王国にもこんな装置は無かったはずだよ?よく製作できたね?」

 〈この板の仕掛けは"ヘンなの"を参考にしたのよ!〉〈アレが空に浮かぶ原理を利用したのよ!〉

 〈あの"ヘンなの"は姫様が向かった国とは別の国の技術が使われていたようですからね。恐らくより高度な文明の国なのでしょう。〉


 なるほど。"ヘンなの"から解析した技術を参考にしたのか。それなら納得だ。

 ラビックが予測した通り、"ヘンなの"を作った国、ヴィシュテングリンは人間達の中で最も高度な文明を築き上げている。


 私達のいる大陸からは遠く離れた場所にある国ではあるが、そんな場所から"楽園"まで無人機械をよこして来るだけの技術力を所有しているのだ。

 多分だが、現状、この星で最も発達した文明国じゃないだろうか?


 次の旅行に向かう前に"ヘンなの"の解析も終らせておかないとな。



 さて、城の最上階であり謁見の間なのだが、これがまた凄い事になっている。

 部屋の形状は円形をしているのだが、皆が言っていた通りかなりの広さがある。その広さ、何と半径およそ100mはある。

 尚、周囲の壁は全て高強度のガラス製だ。曇り一つ無く透き通っていて、日光が弱まる事なく謁見の間に差し込んでいる。

 奥には相変わらずの存在感を放つ玉座。真っ黒な7段の階段もそのままだ。腰かければ、"楽園深部"ぐらいは一望できそうだ。


 〈おひいさま。どうぞ、お掛けになってみて下され。〉

 〈きっと、お気に召していただけるかと。〉

 〈城と同じく、我等の自信作でな。〉


 という事はこうしてみた感じ変化が無いように見える玉座も、何らかの変化があるようだ。ラビックは私が気に入ると言っているから、座り心地が改善されているのかもしれないな。


 早速階段をのぼり玉座を見やれば、その変化はすぐに確認できた。以前はフレミーが用意してくれた座布団があっても硬い物は硬い。

 そんな玉座なのだが、何とシートが張られているのだ!しかもただシートを張っただけではない。シートの内側にも何らかの仕掛けがある様で、確かな弾力があるようなのだ!

 本当に素晴らしい。皆の方に顔を向けて玉座に腰を下ろす。


 おお!しっかりとした弾力を感じる!バネを内部に仕込んでいるらしく、私の体を支えてくれているのだ!これはなかなかに気持ちがいい!

 玉座にはまだ余裕があるのだ。レイブランとヤタール、ウルミラ、ラビック、そしてフレミーにも私の傍に来てもらおう。


 う~ん、モフモフに囲まれて実に心地いい!高さもあるから、ゴドファンスやホーディとも目線を合わせ易い!


 それじゃあ、人間の国での出来事を話しながら、皆にお土産を渡すとしようか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る