第162話 決戦!カイザードラゴン

 時間は午後4時30分。いつも通りに王都の外へ出て良くある討伐任務をこなしていた時の事だ。


 ちなみに、今回はフウカも一緒について来ている。それと、お互い服は普段着に着替えている。流石にあの服は冒険には向かないからな。動きやすい、以前フウカが服屋で選んでくれた長袖のシャツにジャケット、ハーフパンツに集めのタイツといった服を着ている。

 特にフウカが付いてくる必要は無かったのだが、間近で私の活躍を見て創作意欲を高めたいのだとか。


 私の移動速度についてこられるか少々心配だったが、彼女は影に潜る事が出来る。私の影に入り込みめば、私が移動した時にフウカも共に移動するとの事だ。

 そんな事が可能ならば彼女を旅に連れて行くのも良いのかもしれない、と一瞬頭をよぎったのだが、即座にその考えを振り払った。


 フウカは自分の店をイスティエスタに持っているのだ。それも、街の人々に親しまれているような店だ。私の都合で彼女を度に連れていく事になってしまえば、彼女の服を求めた人々が困ってしまう。

 それに長年その身を案じ続けた子供達にも頻繁に会いたいだろう。彼女を旅に連れていく事は出来ない。


 話を戻そう。討伐依頼も片付けてフウカの様子を見てみると、早速新しい服を仕立てている。


 一般の人間からしたら何が起きているのか分からないんじゃないだろうか?

 彼女は巧みに糸を通した複数の針を魔術で操作し、凄まじい速度で複数の布を織っている。布を織るには通常ならば機織り機なる道具が必要なのだそうだが、彼女には不要らしい。正確無比に布が織り込まれていく光景は見ていて飽きない。本当に見事なものだ。


 私も木から糸を作り出して布を織った事があるが、当時はここまで素早く出来なかったな。今はまぁ、フウカが行っている動作を解析して、同じような事が出来そうではある。



 そうしてフウカの作業工程を眺めてのんびりとしていたら、とんでもない緊急事態が発生したのである。


 ここから遥か遠方、ティゼム王国の領域からもはるか離れた場所から、凄まじい速度で此方へと接近して来る途轍もない魔力反応が感じられたのだ。

 魔力色数は4色。明らかに人間ではない存在だ。


 「ごめんフウカ。先に謝っておく。」

 「ノア様?」

 「この服を破いてしまう事になる。多分、一時間ぐらいで戻ると思うから、ここで待ってて。」

 「ノア様っ!?」


 私の声色から不穏な空気を感じ取ったフウカが訝しんで訪ねてきたが、服を着替える時間も彼女に応えている時間も惜しい。

 すぐさまその場で跳び上がり、ある程度の高さまで到達したところで角と翼を体内から出現させる。

 当然、背中が完全に隠れている今の服は破けてしまう。


 とても残念な気持ちになるが、嘆いている暇すらも無い。押し寄せて来る魔力に向けて私の両側面に『風爆』を発動させ、それを翼で叩きつけて一気に魔力までの距離を詰める。

 魔力反応までの距離はまだある。翼指から魔力を高圧で噴射させる噴射飛行を行い、更に魔力反応の元まで急ぐ。

 出来る事ならティゼム王国の外で事を終わらせたい。


 ある程度魔力反応に近づいた事でその正体が分かった。魔力の奔流だ。そしてその奔流からはドラゴンの気配を感じ取れる。


 ドラゴンブレスである。それも、人間の都市など容易に消し飛ばしてしまえるほどの規模だ。

 このブレスが向かう先には、ティゼム王国の王都・ティゼミアがある。明らかに王都を狙った攻撃である。


 ブレスからは明確な意思、感情も感じ取れる。それは殺意であり、憎悪である。このブレスを放った者は、ティゼム王国に相当な恨みがあるらしい。


 だが、あの場所には私が親しみを持った者が、友がいるのだ。そう簡単にやらせはしない。

 翼に『堰止め』と『凝縮』の二つの意思を込めてた魔力を纏わせ、ブレスにぶつかるようにして翼で受けとめる。


 初めて感じる抵抗感。このままでは私は無事だが押し戻されてブレスがティゼミアに到達してしまう。

 足元と尻尾の先に魔力の板を作り出し、それを足場にしてブレスを堪える。


 二色の魔力で受けるのは拙かったな。正直、かなりキツイ。ブレスの威力に翼が耐え切れず、再生を上回る速度で少しずつ翼が損壊し始めているのだ。


 ここに来て翼にもしっかりと痛覚がある事が分かった。それは良いのだが、流石にこのままで良いというわけでは無い。

 そしてこの状況で魔力色数を増やして対応できるほど、私は未だ器用に魔力を操作できていない。

 仕方が無いから、ここは魔力量と密度で無理押しさせてもらう。


 抑えていた魔力を一部解放する。全身に掛かっていた負荷が一瞬で消え、損壊していた翼もすぐさま元通りに再生した。こうなったら、後はこちらのものだ。


 時間にして2分ほどブレスを堪えていると、照射が終わったようだ。

 抵抗がなくなり、『凝縮』の魔法によって『堰止め』られたブレスは、私の体と同じぐらいの大きさまで凝縮された。


 一応ブレスを防ぐ事は出来たが、これだけの憎悪や殺意を持った者がたった一回のドラゴンブレスを放つだけで気が収まるとは思えない。

 あのドラゴンが強い憎悪と殺意を持つのには、相応の理由があるのだろうが、それでも私の友に危害を加えようとしてただで済ませる気は無い。


 とりあえず、私の体サイズまで凝縮させたこの魔力塊は、ブレスを放った者に返却しよう。

 魔力を解放した事によって私の知覚範囲が格段に上昇している。ブレスを放った存在の容貌も確認する事が出来た。


 途轍もなく、デカイ。


 流石にルグナツァリオの本来の姿ほどの大きさは無いが、それでもこのドラゴンの大きさは、小さな山ほどはあるんじゃないかと思わせるほどだ。

 "楽園"に襲撃して来たドラゴン共など、このドラゴンに比べればまさしくトカゲも同然だろう。


 魔力塊を上に放り投げた後、しっかりとドラゴンの顔に狙いを定め、尻尾を用いて全力でドラゴンの顔に向けて魔力塊をはたく。

 こちらに押し寄せて来たブレスの速度を上回る速度で、魔力塊がドラゴンの元へと向かって行く。

 だが、この程度であのをドラゴンどうにか出来るとは思っていない。このまま私も、あのドラゴンの元まで噴射飛行で一気に接近するとしよう。


 やはりあの程度の事ではどうにもできなかったようだ。ドラゴンの顔まで魔力塊が到達したと思ったら、そこで魔力塊が消失してしまったのだ。

 顔と口が動いたような気配があったので、もしかしたら魔力塊を食べてしまったのかもしれないな。


 ドラゴンから憤怒の感情が解き放たれる。周囲の生物達も彼の怒気に当てられて委縮、恐慌、逃避する者達で溢れかえっている。

 付近に住まう人間達の生活圏に、影響がなければいいのだが・・・。


 とにかく今はドラゴンだ。近くで見てみれば本当にデカイ。

 二対の翼を持ち、鈍く輝く黄金の鱗に覆われている。その全高は300m、頭から尻尾までは500mはありそうだ。


 このドラゴンの特徴は、図書館で目にした事がある。と言っても詳細は書かれていなかったが。


 伝説や神話の中でのみ名称が登場し、竜帝カイザードラゴンと畏怖される存在だ。


 この世界には大魔境の主として、三体の竜王ドラゴンロードが遥か昔からその存在が確認されている。

 竜帝はその竜王の上に立つ存在、ドラゴンの頂点に君臨する者として、人々に伝説や神話を通して知れ渡っているのだ。


 尤も、直接話には登場せず、そういった存在がいる、と会話の中に挙げられる程度しか記述が無い。ドラゴン達にとっては、神に近い扱いをされる存在だ。

 こうして姿を現したのは、歴史上で初めての事なんじゃないだろうか?


 その竜帝が咆哮と共に怒りの感情を込めて私に怒鳴りつける。


 「生まれたての小娘がぁっ!余の邪魔をするでなぁあああいっ!!!」


 竜帝は私の事を正しくドラゴンと認識しているようだ。物凄く怒っているが、まずはそこまで怒っている理由を聞きたいものだ。


 それにしても、生まれたて、ね。やはり私が産まれたのは、初めて私が意識を覚醒させた時より少し前だと判断して良さそうだ。


 「そうは言ってもね。あの場所には私の友もいるんだ。何が原因でそこまでの憤怒と憎悪を持っているのか、教えてもらえないかな?」

 「赤子同然の貴様には分かるまいっ!!ようやく見つけたのだっ!!嘗て人間どもに奪われた我が子の残滓をっ!!産れる事すら叶わず、腐り落ちて死した我が子の残滓をっ!!」


 ・・・・・・心当たりがあり過ぎる。つまり、サイファー=フルベインが切り札として持ち出した"竜の秘宝"は、この竜帝の卵を素材に作られたという事か。

 インゲインが溶けてなくなった時にドラゴンの気配が僅かに漂う事になったわけだが、どうやら竜帝はその時に我が子の残滓を感じ取ったようだ。


 まったく、インゲインもサイファーもとんでもない置き土産を置いて行ってくれたものだ。私がいなかったら確実に国が滅んでいたぞ。

 ある意味でサイファーの願いが叶いかけていたのだ。本当にどちらの侯爵も禄でも無いな。


 「672年と294日、28時間41分58秒探し続けたのだぞっ!!?!ようやく見つける事の出来た我が子が、産れる前に腐り落ちた余の気持ち、子を持った事の無い貴様に分かるものかぁっ!!!」


 細っっっか!


 年数と日数までは分かるが、秒刻みで数えていたというのか!?執着があるなんてものじゃないぞ!?


 よっぽど卵が大事だったと思われる。

 だったら奪われないようにしっかりと見張っていなさい、と言ってしまいたいところだが、それを言ってしまえば竜帝は更に激怒して戦いが避けられないのは目に見えている。


 とにかく、今は竜帝を宥める事に専念しよう。


 「人間の寿命は短いんだ。あの場所には貴方の卵を奪った人間はもういない筈だよ。それどころか生きてすらいない筈だ。」

 「余から卵を奪い、のうのうと生き延びて裁かれる事なくその生涯を終えたとでも言うのかっ!!?!尚更怒りが収まらんっ!!!ならば二度とこんな事にならぬよう、人間どもを全て滅ぼしてくれるっ!!!」

 「おいっ!いくら何でも極端すぎるだろうっ!?そんな行動を取れば、間違いなくルグナツァリオが貴方を滅ぼそうとするぞっ!?」

 「ならば余は、かの龍神に挑むまでだっ!!!それで余が滅びようとも、かの龍神に余の力を示せるのならば、本望よっ!!!」


 普段は世界に姿を現さないくせに、思い切りが良すぎる!竜帝は間違いなくこの世界有数の強者だ。

 おそらくだが、死ぬ気で挑めばルグナツァリオにすら牙を届かせられるほどの力を持っている。その場合、間違いなく竜帝は命を落とす事になるが。


 竜帝が世界に姿を現さないのにはそれなりの理由があるだろうし、彼の損失は世界にとって大きな損失になるような気がしてならない。


 〈『ノア、彼はどうあっても人間を亡ぼす気でいるようだ。情けない話だが、私では彼の命を奪わずに彼を無力化させる事は難しい。』〉

 〈『つまり、私に彼を落ち着かせて欲しい、という事だね?彼と戦闘を行う場合、周囲の被害が尋常じゃない事になると思うんだが・・・。』〉

 〈『その辺りは私達が何とかしよう。貴女も感づいていると思うが、彼を失うのは、あまりにも惜しい。頼めないか?』〉


 どうした物かと悩んでいたら、そのルグナツァリオから連絡が来た。

 やはり彼としては、人間を滅ぼそうとする竜帝の行動を無視する事など到底できないようだ。

 だが竜帝の力はやはり強大で、天空神と崇められる彼ですら竜帝を止めるのであれば命を奪う他ないらしい。


 そのうえ、どうも神々達は竜帝の事を気に入っているようだ。出来る事ならば生かしておきたいのだろう。私に竜帝の命を奪わずに無力化するよう、依頼して来た。


 私が竜帝との戦闘をなるべく避けようと思ったのは、周囲の被害が尋常ではなくなるためだ。

 どう考えても大幅に地図を書き換えなければならない事態に陥ってしまう。まぁ、この辺りの地図があるかどうかは定かでは無いが。

 だが、その懸念は方法は分からないがルグナツァリオ達が何とかしてくれた。


 瞬く間に私と竜帝が何やら特殊な空間の中に捕らわれたようなのだ。

 周囲の空間が突如、拡張されたような感覚に陥った。この空間の内部であれば、存分に暴れて良いという事だろう。


 だったら思いっきりやってやるとしよう。


 それはそれとして、竜帝もルグナツァリオが私に声を掛けてきた際に彼の気配を感じ取ったようだ。

 相変わらず憤怒と憎悪は消えていないが、少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。


 「・・・・・・今の気配は、龍神様か・・・っ!?」

 「貴方の事を止めて欲しいんだってさ。周囲に被害が出るから出来れば避けたかったのだけど、その辺りは神々が何とかしてくれるそうだよ?」

 「龍神様ではなく、赤子同然の貴様が余の相手をすると言うのかっ!?」

 「そうだね。本気でやればすぐに終わるだろうけど、それでは貴方の気が済まないだろうし、条件は対等に行くとしよう。」

 「対等な条件だと?何を言っている?余に挑もうと言うのであれば、例え赤子同然と言えど容赦はせぬぞっ!!」

 「逆だよ、竜帝。貴方が、私に挑むんだ。」

 「何ぃ?」


 魔力色数を竜帝と同じ、四色。赤と青を追加で加える。『広域ウィディア探知サーチェクション』も発動させて、完全に戦闘モードだ。

 私の魔力色数が増加した事に、竜帝はこれでもかと言うほど驚愕したようだ。


 「なっ!?馬鹿なっ!?魔力色数が、増加しただとっ!?」

 「これで条件は対等だ。尤も、魔力量や密度は私の方が多いから、私の方が有利だろうけどね。存分に暴れて気を晴らすと良い。相手をしてあげよう。」

 「ぬ、ぬぅううう!!?」


 私の異常性を読み取ったのだろう。感情に変化は無いが、やや委縮した様子が見て受ける。明らかに下に見るような発言をしたというのに、激高して襲い掛かるような真似はしないようだ。


 だが、そこは竜帝だ。遥か嘗てからドラゴンの頂点として君臨し続けてきたプライドがあったのだろう。

 魔力を解き放ち、巨大な腕を振り下ろして爪撃を仕掛けてきた。まずは小手調べ、と言ったところだろう。


 「生まれたての小娘が、ほざくなぁっっ!!!」


 竜帝からしたら、私の体のサイズは羽虫のようなものだ。非常に捉え辛いだろう。私からすれば竜帝の爪撃は容易に回避可能だ。

 だが、避けて空振りさせるよりも抵抗感を与えた方が、力を振るったという感覚を伝えられるはずだ。竜帝の掌へと突っ込んで彼の振り下ろしを受け止めよう。


 「なっ!なにぃっ!?」

 「竜帝。良く考えなさい。貴方が対峙している相手は、ルグナツァリオが自分の代わりに依頼をする相手なんだ。生半可な攻撃が通用する相手では無いよ?」

 「ぬぅう・・・っ!小癪なぁ・・・っ!」


 羽虫とも思える小さな存在に自分の渾身の振り下ろしを受け止められ、竜帝は驚愕の声を発した。

 当然だが、受け止めただけで終わらせるつもりは無い。

 数日前に盛大に暴れたばかりではあるが、今回もまた人の目が無い場所なんだ。派手に暴れさせてもらうとしよう。


 「今度は此方の番だ。言っておくけど、痛いよ?」

 「何っ!?ぬおおっ!?」


 振り下ろしを受け止めていた状態から噴射飛行によって即座にその場所を離れれば、支えを失った竜帝がバランスを崩す。

 転移魔術で移動する事も考えたが、私の見立てでは竜帝の感知能力と反応速度は極めて高い。

 仮に転移魔術を使用したとしても、転移し終わる前に転移先を感知されて、転移先に攻撃を置くようにして相手を迎え撃つ事も出来ると判断した。


 ならば、フェイントを交えた不規則な動きで相手を翻弄して隙をついた攻撃をした方が確実だ。

 『風爆』を利用した羽ばたきと、噴射飛行を併用して、私の動きを竜帝に把握させない。流石の竜帝も、今の私の動きを捉える事は至難の業のようだ。

 竜帝が私を見失ったところで右拳に魔力を込め、『叩き落す』と念じて思いっきり竜帝の頭を殴りつける。


 「のがぁあああっ!!?」


 上空1500mほどの高さにいた竜帝は、そのまま大地へ激突する事となった。

 だが、流石と言うべきか、地面に叩き付けられても何事も無かったかのように無数の魔力塊が私に向かってくる。一発一発が並みのドラゴンのブレスを軽く上回る魔力量を込められた、弾丸状のブレスだ。

 私が竜帝に返したドラゴンブレスを魔力に変換せずに、何時でも撃てるようにしていたようだ。


 だが、それらのブレスは囮である。魔力塊の嵐を掻い潜りながら竜帝まで近づけば、私の側面から竜帝の巨大な尻尾が姿を現す。

 魔力塊に意識を向けさせて尻尾の動きを悟られないようにしたのだ。

 尻尾の軌道は確実に私を捉えている。感知能力も反応速度も高く、この巨体で精密な動きも行えるようだ。


 当然、『広域探知』によって竜帝の尻尾の動きは把握している。迎撃の準備は出来ているとも。

 目には目を歯には歯を、そして尻尾には尻尾を、だ。最大まで伸ばした尻尾を全力で振るい、竜帝の尻尾をはたく。

 今更なのだが、私は結構肉体的にも成長しているらしく、最初の頃は尻尾の伸ばせる距離が最大で25mほどだったのだが、今では35mほどまで伸ばせるようになっている。

 勿論、尻尾の可動範囲は今まで同様自由自在だ。そのうち100mぐらいまで伸ばせるようになるかもしれない。


 超高速で動く尻尾同士がぶつかる事で、その場で大きな衝撃が発生する。

 物理的な衝撃で空間が割れてしまったのかと思えるほどの衝撃だ。

 お互い、尻尾には意思を乗せた魔力を纏わせていたので、発生する衝撃は完全な物理現象では無い。実際に空間が割れてしまったとしても、何ら不思議には思わない。それほどまでに大量の魔力も同時にぶつかり合ったのだ。

 しかも色は四色。人智を越えたぶつかり合いである。今まさに、神話の様な戦いが繰り広げられているのだ。


 魔力量も密度も私が上回っているとは言え、体のサイズは竜帝の方が遥かに上だ。速度と魔力に加えて質量と言う物理的な武器によって、私にも大きな衝撃と痛みが尻尾に伝わってきた。

 流石である。やはりドラゴンとは、こうでなくてはな!


 「さぁ、ドンドン行こうっ!!周囲を気にせず、盛大に暴れまくろうっ!!」

 「望むところだぁあああっ!!!竜帝を舐めるなぁあああっ!!!」


 素早く尻尾を戻した勢いを利用して竜帝がその場で体を捻り人間で言うところの裏拳打ちを放ってきた。格闘術もイケるのかっ!?素晴らしい!

 魔力を盛大に右拳に込め、噴射飛行で自分から竜帝の裏拳に向かい、前足の甲を殴りつける。

 やはり大質量のおかげか、かなり強い抵抗を感じる。竜帝を圧倒するには、このサイズ差を何とかする必要があるな。


 非常事態の中で不謹慎なのは重々承知している事だが、それでもあえて言わせてもらう。正直、非常に楽しい。

 こうまで戦いと呼べる戦いをしたのは初めてなのだ。シャーリィでは無いが、思いっきり力をぶつけて、それを受け止めてもらえるというのは、とても心が躍る。


 「ぐぅうっ!!?」

 「ふふふっ!いいね!いいよ!ここまで力をぶつけ合う事が出来たのは初めてだ!戦いと言うのは、こうも心躍るものなのだねっ!!しかも今回は周囲の環境に遠慮がいらないんだ!まったくもって素晴らしい!!」

 「ええいっ!いきなりはしゃぎおってからにっ!この娘っ子がぁっ!!」


 私の周囲に5つの魔術構築陣が形成される。が、構築陣には隠蔽処理されているようで、魔術の効果を把握できない。さて、どんな事をしてくれる!?

 同時に竜帝の口に魔力が溜まっている。魔術で動きを抑えてドラゴンブレスを当てる算段か!面白い!受けて立とう!


 「食らえぇいっ!!」

 「上等っ!!食らい尽くそうっ!!」


 発動した魔術を解析してその性質を把握する。どれも人間達には扱えないような大魔術を越えるような攻撃魔術だ。この魔術の一撃だけでも小規模の都市ならば壊滅してしまうほどの規模と威力である。


 これらを魔術で対応しようとしたら、ドラゴンブレスに捉われてしまうな。だが、今回の相手は純粋な魔力だ。魔力量と密度で力押しが通用する。

 神々の周囲の対応とやらが、人間達の観測魔術にも効果が及んでいる事を信じて、魔力を全開で解放させる。辺り一面、竜帝も、竜帝の魔術も、ドラゴンブレスも、全て私の魔力が覆い尽くす。


 解放した魔力を操作して、竜帝の放った魔術を押しつぶすように圧を掛けて、強引に消去させる。ドラゴンブレスに対しては、ここも再び目には目を、だ。此方もドラゴンブレスをぶつける事にした。


 後出しになるので込める魔力量は少なくなるが、それでも竜帝のドラゴンブレスよりも多くの魔力を込める事が出来たようだ。

 ブレストブレスがぶつかり合い、次第に竜帝のブレスの勢いが弱まっていく。


 そして、遂に竜帝のドラゴンブレスの照射が終わり、私のドラゴンブレスが彼の体を飲み込む事となった。


 「ぐ、ぐぅう・・・!ぐぬあああああっ!!!」


 一度に大量の魔力を使ったからか、ほんの少しの倦怠感を感じる。だが、不思議と不快感は無い。それどころかむしろ非常に心地いい。

 やはり周囲を気にせず存分に力を振るう事が出来るという開放感が、私に高揚感を与えているのだろう。さっきから楽しくて仕方が無い。


 竜帝はまだまだ無事のようだ。しかもまだまだ戦意も失っていない。そう来なくっちゃあな!お互い、もっともっと沢山暴れよう!!


 気持ちが高ぶり、全力で噴射飛行を行い、竜帝の至る場所を殴りつけ、蹴りつけ、尻尾で叩く。竜帝は私の動きに対応する事が出来ず、成すがままである。


 だが、サイズ差というものは私が思った以上に大きなアドバンテージとなっているらしい。

 連続攻撃の締めに竜帝の尻尾を掴んで思いっきり投げ飛ばしたのだが、彼はピンピンしていた。

 彼にも当然高い再生能力を保有している思うし、ダメージヶ所が小さいせいで痛みは与えられるが、瞬く間にダメージが再生してしまうのだろう。


 やはりサイズ差を何とかしなければどうにもなりそうにないな。

 そして、その考えはサイズ差があり過ぎて私の動きを追いきれなかった竜帝も同じだったようだ。


 「ええい!こうも体の大きさに差があっては、埒が明かんっ!」

 「その意見には同意するよ。このサイズ差を何とかできないか、私もさっきから考えていてね・・・。」

 「ふんっ!幼い娘っ子が気を遣うでないわっ!余が貴様に合わせてやるっ!」


 そう言った後、竜帝の体が瞬く間に縮んでゆき、全長2.5mほどまでにダウンサイジングしてしまったのだ。


 「では、第二ラウンドと行こうか。ドラゴンの頂点に立つ者の力、存分に見せてくれるっ!!」

 「良いっ!実に素晴らしいっ!!貴方は最高だっ!!存分に戦おうっ!!」


 姿は縮んだが、質量も魔力も全く変化は無い。私にとってはここからが本番と言うわけだ。


 竜帝は格闘術も使えるようだったからな。存分に楽しませてもらおうかっ!

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