第155話 準備完了!

 騎士達に見送られながら屋敷の敷地内に入り、玄関のドアノッカーを鳴らす。

 10秒ほどした後、扉が開けられて侍女に出迎えられた。彼女は私の事を知っていたらしく、畏まった態度を取られてしまった。少しだけむず痒く感じはするが、最初から説明するよりも手間が省けるので正直助かる。

 私がアイラに会いに来た事を伝えると、一瞬目を見開いて驚きはしたものの、すぐに平静を取り戻してアイラの元に案内してくれた。


 一週間ぶりに会うアイラの様子に変化はなく、私と再会できた事を純粋に喜んでいるようだ。


 「こうして再会できてとても嬉しいわ。まさかノアさんの方から私に会いに来てくれるだなんて、思ってもみませんでした。それに、色々と聞かせてもらってますよ?娘とはもう会いましたか?」

 「ああ、私から見たあの娘は、素直でとても好感が持てる娘だったよ。少々負けん気が強い気もするけどね。」


 アイラが私に会いたがっていたようだが、私の方から家に訊ねてくるとは思っていなかったらしく、彼女も侍女もとても驚いていた。

 そしてミハイルあたりから親善試合の事を聞かされているのだろう、既に私がぺーシェル学院の臨時教師をしている事を知っているようだった。

 シャーリィに対する感情をそのまま口にすれば、彼女は嬉しくもあり、それでいて困った表情をしている。

 どうやら以前の夕食の時にも言っていた行き遅れる、つまり結婚の時期が遅れてしまう事を懸念しているようだ。


 「夫と共に人として正しくあるように育ててはきましたし、健やかに、真っ直ぐに育ってくれたのは嬉しいのですが、そのせいか血の気が多すぎる気がするのです。装飾品よりも剣を好むような娘に育てた覚えは無いのですが・・・誰に似てしまったのやら。」


 それは勿論、アイラとマクシミリアンの両方にだろう。マクシミリアンの日記を読む限り、彼はどちらかと言えば直情的な人物だ。それにアイラもマコトから聞いた限りでは、とても腕白な性格だったと聞いている。

 とは言え、ここでその事を話した場合、そちらに話が盛り上がってしまうのは目に見えているので、今は言及しないでおこう。

 私がアイラを訪ねたのは、会話を楽しむためでは無いのだ。


 「さてアイラ。このまま貴女とシャーリィの事や私の活動を話せば楽しい時を過ごせるとは思う。だが生憎と、私がここに来たのはそれが目的ではないんだ。」

 「窺っています。モスダン公爵の元、この国の膿を取り出し一掃するそうですね?そして、その計略に私とシャーリィの協力が必要だと。」


 やはり知っていたか。ミハイルがその辺りの事情を説明しているのだろう。説明の手間が省けて本当に助かる。


 「うん。少しの間、貴女にはヘシュトナー邸でシャーリィと共に生活をしてもらいたい。当然、貴女達の安全は私が保障する。引き受けてもらえるかな?」

 「構いません。元はと言えば、ノアさんは巻き込まれた側ですからね。そのノアさんが要求すると言うのであれば、私も可能な限り助力しましょう。」


 まさかの即答である。おそらくだが、アイラは自分がヘシュトナー侯爵からどのような目で見られているか理解している筈だ。

 それにも関わらず私に安全を保障されているとはいえ、彼と同じ屋敷で日々を過ごす事を即答で了承するとは、大した胆力である。


 さて、アイラの協力は取り次ぐ事は出来たが、シャーリィはどうだろう?

 ヘシュトナー侯爵の影武者は、彼女から信頼を得られれば容易だと言っていたが、果たしてそう簡単に首を縦に振ってくれるだろうか?


 「引き受けてくれてありがとう。そうなると、後はシャーリィの了承を得るだけになるか。彼女は引き受けてくれるかな?」

 「母親としては複雑な心境ですが、あの娘は喜んで協力してくれますよ?自分がヘシュトナー卿からどのように見られているか理解していますから、自分が一泡吹かせる事に関われるのならば、諸手を上げて歓迎しますとも。」


 そう答えるアイラの目はあまり笑っていない。

 これは、母娘揃ってヘシュトナー侯爵には良い感情を持っていないな。アイラは表に出さないだけで、かなり苛烈な意思を持っている女性のようだ。


 「それは良かった。二人に無理にあの屋敷に住んでもらうわけにはいかなかったからね。さて、どうせならもう少し貴女と御喋りでもしていたいのだけれど、生憎と予定が重なっていてね。」

 「お気になさらないで?お楽しみは、やるべき事を終えた後にしましょう?あまり時間を掛ける気は無いのですよね?」

 「ああ。そのつもりだよ。私がこの国に来たのは観光のためなんだ。国の騒動を解決するためじゃない。最低でも三日以内には終わらせるつもりだよ。」


 不正の証拠はもう十分すぎるほどの量、どの貴族の家からも挙がっている。自分で作っておいてなんだが、『幻実影ファンタマイマス』が便利過ぎるのだ。

 今回の事で分かったが、人間達が政治的な力で私をどうにかするのはほぼ不可能になったと言える。

 そんな事をしようものなら逆に私がそういった連中を政治的に追い詰める事が出来るからな。



 アイラと別れを告げ、オリヴィエと昼食を取り、冒険者達に午後の稽古をつける中、私は学院の生徒達に午後の授業を始めようとしている。

 現在、本体は学院側だ。必要に応じて、冒険者ギルドの訓練場の幻と『入れ替え』で位置を交換してそれぞれ対応しようと思っている。

 尤も、冒険者達の対応は幻だけで充分である。

 本体と『入れ替え』る必要があるのは、想像もつかないような緊急事態と呼べる状況が起きた時ぐらいなものだろう。


 時刻は午後1時。午後の授業を開始する時間である。内容は午前と変わらず、全部で8回分授業を真面目に受けていれば修了の認可をするつもりだ。

 勿論、8回以上、もっと言えば全ての授業を受けてくれて構わない。


 ただし、授業の席は早い者勝ちだ。

 とは言え、冒険者達の稽古程厳しくは無いが、それでも結構な消耗はする。好き好んで私の授業を受けたがるのは強くなる事に余念が無い者ぐらいだろう。


 集まって来た生徒を見れば、参加者は午前中とあまり変わっていない。

 様子見のために授業を受けに来た者がいなくなり、新たに参加して来たのは、私に対して分かり易い情欲の念を持った視線を送る男子生徒達だった。

 彼等は気付いているのだろうか?彼等を見る女子生徒達の冷ややかな視線を。


 「初めて私の授業を受ける者は初めまして。午前中も授業を受けてくれた者はよく来てくれた。休息は十分に取れているか?授業内容は午前中と変わらない。この後の授業に響かないようにしてくれよ?」

 「問題ありませんっ!早速始めましょう!今回は何を召喚するんですかっ!?私の準備は万端ですっ!」


 シャーリィ、私の授業内容を気に入ってくれたのは良いが、あくまでも準備が整っているのは貴女ぐらいだ。他の生徒もやる気は十分あるようだが、いきなり魔物と戦闘となるかと思って他の生徒達がたじろいでいるよ?


 「気が早いよ、シャーリィ。今回初めて受ける生徒もいるんだ。彼等に説明が必要だろう?それと、午前中は先に魔物と戦ったが、アレは一番最初に全員同時とは言え、私と皆が模擬戦を行った後だからだ。基本的には、まず私との模擬戦を先に行ってから魔物との戦闘訓練を行うよ。」

 「そうだったんですね!でも説明は不要ですよ!午後から先生の授業を受ける子達には、私が先生が午前中してくれた内容をそのまま説明しましたから!」

 「彼女はそう言っているけど、貴方達は授業内容を理解している?」


 本当に気が早いな。どうやらシャーリィは私の授業をとても心待ちにしていたようだ。初めて授業を受ける生徒達に問いかければ、慌てたように首を縦に振っている。


 内容は伝わっているようだが、彼等からはシャーリィに対して若干の恐怖を感じられる。彼女は少々強引な説明をしたのかもしれないな。


 「分かっているのなら、説明はしないよ?良いんだね?・・・良し。それじゃあ、早速模擬戦と行こうか。最初は・・・うん。分かってるから、そんなに期待に満ちた眼差しをしなくても、準備が出来ているのは貴女だけのようだからね。シャーリィ、前へ。」

 「はいっ!!」


 『成形』で右手に魔力の棒を出現させながらシャーリィを呼ぶ。尚、学生達の名前は午前中に一対一の模擬戦をする際に名乗らせているので、把握済みだ。当然、午後に授業を初めて受ける者も同様に名乗らせる。


 「制限時間は3分間。その後は前回同様、私から攻める。では、始めっ!」


 合図とともに獰猛と言える表情をしたシャーリィが一気に私との距離を詰める。

 さて、午前の授業を経てどの程度変わっているかな?



 一通り、模擬戦からの魔物との戦闘訓練という授業内容を終わらせてみれば、シャーリィ、テミー、ディン、そして午前中と同様、生徒達に的確な指揮を送っていたクラウスの四名以外は皆、息絶え絶えと言った様子だ。

 今回召喚したのは、森狼フォレストウルフの幼体である。数は1体だが、難易度は午前中よりも高いと私は思っている。


 それと言うのも、森狼とは名前の通り森に生息する狼、などと言う生易しい存在ではない。

 見た目は、幼体の時点で既に一般的な狼よりも一回り体が大きい事以外は大して違いは無いが、その能力はまるで異なるのだ。

 その正体は、狼の姿をした意思を持った森である。幼体ですら自身の体毛を植物の蔦に変質させて触敵対者に鞭のようにぶつけてきたり、蔦による罠を張って、相手を絡め捕って締め上げたりもする。

 成長すると自身の体だけでなく、周囲の環境すら自身に適した森に変えてしまうため、成体のランクは"二つ星ツインスター"以上の極めて危険な魔物である。

 幼体ですら適正ランクは"上級ベテラン"上位に位置する存在だ。

 私もまさか、この魔物を二回目の授業で召喚する事になるとは思わなかった。


 この魔物を召喚したのは、先ほど挙げた四名の能力が他の生徒に比べて非常に高かっためだ。


 テミーとディンは牽制役を買って出ていたが、総合的な能力がそもそも高く、その身のこなしは"上級"冒険者の斥候に迫るものがある。


 優秀な指揮能力を持ったクラウスも、決して戦闘能力が低いわけでは無い。それどころか、一対一の戦闘能力はシャーリィに次ぐほどのものがある。彼は自身が戦闘を行いながら的確に周囲に指示を飛ばしていたのだ。戦場全体を良く見ている。


 そして言わずもがな、シャーリィ。クラウスの実力がシャーリィに次ぐとは言ったが、彼女の能力は正直他の生徒達と比べてあまりにも突出している。しかも成長性が尋常では無いのだ。


 半日も経っていないと言うのに、彼女の動きは午前中とはまるで別人だった。午前中も一対一の模擬戦は最初に彼女と戦ったので、その後他の生徒達と私の動きを見続けたという事になる。

 その結果が著しい成長となったと言うのならば、凄まじい才能と言う他ない。

 彼女が授業を受けていなかったら、森狼は召喚する事は無かっただろう。

 

 戦闘訓練が終了し、消滅していく森狼を眺める四人は、今の状況を信じられないような目で状況を見守っていた。

 自分達の成長がまだよく実感できていないのだろう。


 「うっそだろオイ・・・。」

 「俺達だけで森狼に勝っちゃったよ・・・。」

 「~~~っ!」

 「不思議な感じだ・・・。今回は、いつも以上に全体が良く見えていたような気がする・・・。」


 徐々に自分達の勝利と成長を実感してきたのだろう。シャーリィなどは自身の成長がよほど嬉しいのか、非常に緩んだ表情をしている。

 嬉しさのあまり声も出せない、というやつだろうか。両手を握り締めて小さく震えている。


 「お疲れさま。午前中に引き続き、良く貴方達だけで勝利する事が出来たね。勿論、貴方達だけでも頑張れば勝てる相手を選んで召喚したけれど、それでも気を抜けば危ない相手である事は間違いなかった。見事だったよ。」

 「「「「ありがとうございますっ!!」」」」

 「シャ、シャーリィは、ともかく、あの三人は、何で、あんなに、平然と、して、られるんだ・・・っ!」

 「はぁっ、あの三人も、元から、はぁっ、結構、強かっただろっ、はぁっ。」

 「これから、ぜぇっ、アイツ等に、はぁっ、あわせて、ぜぇっ、魔物が、はぁっ、召喚され、ぜぇっ、るのか、なぁっ?」

 「それは、いくら強くなれるからって、無理があるだろっ。流石に、授業、受けてらんないって。」


 確かにな。彼等の言う通り、この四人にあわせて魔物を召喚していたらバランスが悪いにも程がある。今後は全員が一度に戦闘訓練を行う事はないだろうな。

 反対に、冒険者達にはたまには複数の一行パーティがまとめて一体の強敵と戦うシチュエーションを用意しても良いかもしれない。

 その辺りは今後の冒険者達の成長具合と相談だな。


 「安心して欲しい。今日は授業を受ける生徒の大体の実力を把握しておきたかったから全員一度に戦闘を行ったが、今後はいくつかに班を分けて戦闘訓練を行うよ。誰と組むかは貴方達に任せる。」


 そう伝えれば大半の生徒たちは安心したようでため息をつくとともに、胸をなでおろしていた。

 そして一名、[ならば一人で戦闘訓練を受けても良いのか!?]と言う表情を目を輝かせて私に向けている者がいる。

 シャーリィ?構いはしないけれど、個人の戦闘は私との模擬戦で十分行えているんだから、私としては一人で戦闘訓練を受けずに誰かと組んでもらいたいな。


 「授業終了までの時間は休憩時間にしよう。次の授業に支障が出ないようにしっかりと体を休ませると良い。」

 「先生っ!私は疲れてないので、先生と模擬戦がしたいですっ!」


 待ってましたと言わんばかりの勢いでシャーリィが私に要求してくる。

 マクシミリアンの性格は、日記を読む限りではここまで好戦的な人物では無かったと思うのだが、この性格はアイラに似たのだろうか?


 「良いよ。ただし、どれだけ体力が残っていても、授業終了の10分前には終了して貴女もしっかりと休憩を取るように。彼女の他に、模擬戦を行いたいものはいるかな?いたら相手をするよ?」

 「・・・・・・。」

 「「「「「・・・・・・。」」」」」


 どうしてシャーリィが他の生徒を睨みつけるのかな?そんなに私との模擬戦を行いたいのか?とにかく、彼女以外には追加で模擬戦を行いたいと言う者はいないようだ。

 満足気に頷き此方を見るシャーリィは、実に獰猛な笑みを浮かべていた。

 果たして慕われているのやら、根に持たれているのやら。



 「では、これで今日の授業は終了する。私の授業を気に入ったのなら、また明日も受けてくれ。」

 「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」


 結局、授業終了の10分前になる20分間、私はシャーリィと模擬戦を続ける事となった。まったく、大した体力だよ。


 授業が終了し、各々が解散し始めると、シャーリィが満面の笑みで私の元まで駆け寄ってきた。どうやら午後は授業を受けていないらしい。まさかここから更に模擬戦を要求するのだろうか?


 「先生!先生のお話、聞かせて下さいっ!ついこの間、グリューナさんと親善試合をして、勝ったんですよね!?」


 何ともまぁ、耳の早い事だ。この辺りは母親譲りという事なのだろうか?それとも、彼女に情報を流している人物でもいるのだろうか?


 「シャーリィはグリューナの事をどれぐらい知っているのかな?」

 「えへへっ、たまに剣を見てくれてるぐらいですよ!現在の私の目標です!」


 なるほど。女性でかつ宝騎士だからな。シャーリィが憧れの感情をグリューナに抱くのも納得が出来る。

 それなら、私の知る限りでグリューナについて話をしようか。ついでにシャーリィにも私達の計画を話して協力してもらえるかどうか聞いてみよう。


 「そう。なら、他の生徒の邪魔にならないように、適当な空き部屋にでも行こうか。お茶ぐらいは提供しよう。」

 「先生って、お茶入れられるんですかっ!?」

 「ああ、本で読んでグリューナが入れているところを見た程度だけどね。」

 「えっ?それ、大丈夫なんです?て言うか、グリューナさんとお茶っ!?」

 「まぁ、その事については移動した先でね。まぁ、飲む飲まないは貴女に任せよう。飲まないのなら私が二人分飲むだけさ。それじゃ、行こうか?」

 「は、はい・・・。大丈夫かなぁ・・・。」


 私がお茶を入れた事が無いと言うのに自信満々にしている事に不安を覚えているようだが、安心して欲しい。

 私は自分で言うのも何だが、一度見た動きの再現は問題無くできるし、本の内容を初回で完璧に実施する事が可能だ。少なくとも武術に関しては。

 今回はお茶だが、これに関しては本で読んだ事に加えて、グリューナが入れているところを直接間近で見ているからな。問題無いとも。



 適当な空き教室で私の知る限りのグリューナについての話をするついでに、何故そんな事態になってしまったのかも、ある程度はシャーリィに話をした。


 ちなみに、お茶はちゃんとうまく入れる事が出来た。茶葉は高級茶では無いが、シャーリィからしてもそれなり以上の味だったらしく、感心していた。


 話を戻して、これまでの経緯についてだ。つまり、ヘシュトナー侯爵とフルベイン侯爵を筆頭に騎士達を一部貴族の私兵にしてしまおうと言う計画だ。

 それに対する対策と私とマコト、モスダン公爵の計画もシャーリィに詳しく説明し、彼女に協力を仰ぐ。


 「ええぇ・・・憧れの人の話を聞いてたら、いつの間にかとんでもない騒動に巻き込まれちゃってるんですけど・・・。」

 「全くだね。私なんてただ旅行に来ただけだと言うのにコレだもの。多少は我儘を言わせてもらっているよ。」

 「いや、その我儘で私とお母さん巻き込まれたんですよね?」

 「まぁね。ただ、どの道貴女達はヘシュトナー侯爵危害からも狙われていたようだったから、どうせだったらこの状況を利用してしまえ、と思ってね。」

 「うわぁ、だいたーん。」


 計画の内容をシャーリィに説明したら少々呆れ気味な感想を言われてしまった。

 授業中はかなり好戦的な性格の様に思えたのだが、彼女は意外と常識があるのかもしれない。


 「何か失礼な事考えてません?」

 「ああ、ごめんごめん。授業の時はとても好戦的に見えたからね。少し反応が意外だったんだよ。」

 「うっ、ま、まぁ、ホラ、だって、戦うのって、楽しいじゃないですか。」

 「ククッ、ホラね。そう言うところがあるから、呆れられるとは思わなかったんだよ。それで、シャーリィは私達に協力してくれるかな?正直、子供を巻き込むのはどうかと思うから、自分で計画を立てておいてなんだけど、拒否して欲しいと思っている自分もいる。」


 今更ながらの話だが、この国の定めた成人を迎えたばかりの少女に対して一方的に巻き込むような要求を出しているのだ。彼女達は必ず守るが、それとこれとは話が別だ。

 断ってくれても構わないどころか、拒否して欲しいまであったりする。


 「そんなの引き受けるに決まってるじゃないですか!あんのエロオヤジっ!会うたんびに私とお母さんの事やらしい目で見てくるんですよっ!?しっかもねっとりと嘗め回すように!私達で一泡吹かせられるって言うんなら、やらないわけが無いじゃないですかっ!?」

 「良いのかい?そのねっとりと嘗め回すようなやらしい視線を送ってくる人物と同じ屋敷で生活してもらう事になるんだよ?」

 「そこは先生がいてくれるから安心です!最初の模擬戦の時に分かりましたけど、先生、お父さんより強いですよねっ!?」


 シャーリィは自分の父親の実力を大体把握していたようだ。そして模擬戦を通じて私の実力も断片的にではあるが把握したらしい。

 それが分かるだけでも大したものだよ。


 「私は貴女の父親には会った事が無いけれど、親善試合に参加していた騎士達が言うには、彼の実力を上回るそうだね。」

 「何言ってんですかっ!グリューナさんの必殺技を無傷で受け止める事なんて、お父さんだって出来ないですからねっ!?それが出来てしまう、そしてグリューナさんが信頼する人ですよっ!?そもそも剣を通じて先生がどんな人なのか大体分かりましたっ!だから私、先生を信じますっ!」


 どうやら思った以上に慕われていたようだ。それにしてもこの娘、剣を通じて人柄を理解するとか、小説で出て来るような達人みたいな事が出来るのか。可能なら私にも今度やり方を教えてもらおう。


 ともあれ、これでアイラとシャーリィに協力は取り次げた。後は二人をヘシュトナー邸へと連れて行くだけだ。その後はしっかりと二人を守るとしよう。


 「それじゃあ、早速アイラと合流してヘシュトナー侯爵の屋敷へと向かうけど、準備は良いかな?」

 「えっ?あの、今からですか?構いませんけど、かなり性急ですね。」

 「私の目的は観光だからね。大丈夫、転移魔術で一瞬だから。」

 「へっ!?今なんかとんでもない単語が」


 シャーリィの言葉を最後まで聞かずにカークス邸の玄関まで転移する。

 アイラ達には相当驚かれてしまうが、私は自分で思った以上に短気な性格だったらしい。

 いい加減、ヘシュトナー侯爵を始めとした悪徳貴族達に振り回されるのはうんざりなのだ。


 早急に片を付けさせてもらうとしよう。

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