第154話 生徒達の実力

 実を言うとこの場所に来るのは初めてではない。いや、私本人は初めて来たのだが、流石に教員に顔を知られていないと面倒が起きる気がしてならなかったので、『幻実影ファンタマイマス』による幻を用いて顔合わせだけは済ませていたのだ。


 私と同様に臨時教師の仕事をしている者もいるらしく、その人物とは顔合わせをする事が出来なかった。これが原因で面倒な事が起きなければいいが。


 それと言うのも、その臨時教師、例の悪だくみをしている貴族連中の手の者のようなのだ。ヘシュトナー侯爵辺りから事情が伝わっていればいいのだが、生憎とその人物は侯爵の手の者と言うわけでは無いのだ。


 あちらはあちらでシャーリィを確保して侯爵に献上。それをきっかけに信用と地位を向上させる算段のようなのだ。

 相手側からしたら、私は邪魔者になると言うわけだな。妨害されないように気を付けるとしよう。



 ほとんどの教員達には私の事は知れ渡っているので、私はこのまま授業を行う場所まで移動する。

 学院内の構造に関しては顔合わせの際に一通り案内されたので問題は無い。


 この学院の制度は選択式の授業であり、必須科目に加えて必要数の授業の修了を認可された時点で卒業が認められるようになる。

 ただし、卒業する時期は本人の意思によって延長させる事も出来る。

 向上心の高い者は規定数以上の授業を受けるし、学院を卒業したと言う肩書が欲しい者は比較的簡単な授業を重点的に受けて修了数を稼ごうとするだろう。


 私の授業内容はどうしようか迷ったが、単純に実戦式戦闘訓練という事にしておいた。荒事を嫌う者は受けようとはしないし、強さを求めるのなら多分だが、一度は授業を受けようとする筈だ。

 定員は先着で20名。時間に余裕があれば定員を指定する必要も無かったのだが、2時間と言うのは存外短いのだ。


 気性が荒い、と母親から評価されているシャーリィならば、受けてくれると思う。もし授業を受けないのであれば、その時は少々手間だが『広域ウィディア探知サーチェクション』で彼女の動向を探り、厄介事に巻き込まれそうなところで助太刀に入り信用を得るとしよう。



 私が授業を行う場所は教室では無くグラウンドの一部だ。何せ戦闘訓練だからな。教室で行うわけにはいかない。

 グラウンドに向かってみれば、既に数名の生徒が私が授業を行う場所にいた。

 が、どうやら彼等は授業を受けるためにあの場所にいるわけでは無いらしい。


 「へぇ、アンタが新しい臨時教師?」

 「美人じゃ~ん?ねぇねぇ、ここでどんなことすんの~?」

 「つかさー、そんなに美人なら教師なんてやる必要なくね?俺達の相手してくれるなら、教師なんてしなくても稼がせてやるよ~?」


 ・・・これは、典型的な不良というやつだろうか?金の提示を仄めかしている辺り、それなりに自分の親達の地位に自信がありそうだ。

 正直、授業を行う上で非常に邪魔になる者達だ。授業を受ける気が無いのなら追い払うとしよう。


 「金には困っていないし、私が臨時教師をするのは学院長から直々に依頼を受けたからだ。授業を受ける気が無いのなら他の場所へ行くと良い。」

 「へぇ~?」

 「俺達伯爵家の人間なんだよねぇ~?」

 「良いのかなぁ~そんな態度でさぁ。」


 この連中もヘシュトナー侯爵の使いとそう変わらないな。親の権力に物を言わせて自分の思い通りに事を運ぼうとしている連中だ。好感は持てない。

 もしかしなくてもこの連中はこれまでも地位の低い教員などを食い物にしてきたのかもしれない。


 今回も自分達の思い通りに事を運ばせたかったのだろうが、相手が悪かったな。


 「伯爵、ね。その人物達はモスダン公爵やヘシュトナー侯爵よりも大きな顔が出来るのかな?」

 「えっ?」

 「な、なんでそのお二方が・・・。」

 「色々と事情があるんだよ。子供の遊びでここに来たわけじゃないんだ。親の顔に泥を塗りたくないのなら、ここから立ち去る事だな。それとも、気を変えて私の授業を受けていくか?」


 二人の名前を出したら急に委縮しだしたな。それだけ二人の影響力が大きいという事だろう。


 「い、いや・・・。」

 「その・・・。」

 「い、行こうぜ。授業に遅れちまうよ・・・。」


 しどろもどろな反応をしながらグラウンドから立ち去っていく。一体何がしたかったのやら・・・。


 授業の時間までもう少し時間がある。読書でもして時間を潰すとしよう。



 授業開始の5分前にもなれば、流石に授業を受けようとする者、とりあえず内容だけでも知っておこうとする者も含めて総勢20人。定員いっぱいで生徒が授業を行う場所に集まってきた。


 私は相変わらず魔術で作った椅子に座って読書をしている。その際に10冊近い量の本を『収納』から出し入れしている。

 勿論、わざと見せつけている。こうも頻繁に『格納』と思われる魔術を行使しているのだ。少なくとも魔術に関しては一流の腕の持ち主だと判断する筈だ。


 集まって来た生徒に意識を向ければ、シャーリィ=カークスと思われる人物はすぐに見つかった。

 ペンダントの少女をそのままアイラ寄りに成長させたような顔立ちをしている。


 なるほど、客観的に人間達の顔立ちを見比べれば、シャーリーは非常に整った顔立ちをしている。

 求婚の申し込みが後を絶たなかったと言うのも頷けるというものだ。


 そんなシャーリィだが、先程から私の事を見定めるように視線を送ってきている。

 繰り返し『格納』(正確には『収納』だが)を使用している様を見て、驚愕はしているようだが、それでも見定めるような視線に変わりは無い。


 事前情報として学院に通う生徒達の実力をワイスワンから聞いているが、彼等の実力は平均で"中級インター"下位程度のものらしい。

 ただしシャーリィの場合、一般的な"上級ベテラン"ほどの身体能力を持ち、剣術だけならば準騎士にも迫る、と説明を受けた。

 彼等の年齢は大体15才程度だ。その年齢で既にそれだけの実力が身についているといのなら、やはり教育の環境が整っているという事だろう。


 しかし剣術だけならば準騎士級、すなわち"星付きスター"にも迫る程とは、同年代の求婚者達が皆揃いも揃って返り討ちになるわけである。


 そろそろ授業が始まる時間だ。グラウンドに来ている生徒ももういないようだし、授業を始めるとしよう。


 椅子を戻して本を『収納』に仕舞う。土で作られた椅子が自然な流れで地面へと消えていく様を見て、生徒達は驚いているようだ。


 「初めまして、私は"上級"冒険者のノア。今日から一週間、ここで臨時教師をする事になった。内容は事前に通達されている通り実戦式戦闘訓練。私が召喚した魔物との戦闘及び、私との模擬戦を行う。質問は?」

 「「「「「・・・・・・。」」」」」


 質問をしようとする生徒は見受けられない。少し一度に説明をし過ぎたか?それならば此方から質問をさせてもらおうか。


 「質問が無いようなので此方から貴方達に聞かせてもらう。貴方達は私がどの程度の実力だと思っているかな?」

 「「「「「・・・・・・。」」」」」

 「ふむ・・・分からない、という事かな?ならば、質問を変えよう。学院側から私の事はどのように伝わっているかな?」

 「えっと・・・冒険者達を鍛えている規格外の冒険者だって・・・。」

 「冒険者を鍛えるような人だから、てっきり最低でも"星付き"以上じゃないかってみんなで話てて・・・。」

 「実際は"上級"だったから若干困惑している、と言ったところかな?」

 「え、ええ、まぁ・・・。」


 なるほど。つまり私の事は殆ど伝わっていない、と。ならば、冒険者達が知っている程度の情報ぐらい、開示しても問題は無いな。


 「まぁ、私が冒険者登録したのは今月の初めだ。無理も無いな。だが、強さに関しては安心して欲しい。イスティエスタと、この街の冒険者ギルドのギルドマスターから私の実力が既に"一等星トップスター"級だと教えられているし、その二つのギルドに所属している冒険者達は、ほぼ全員がその事実を知っている。」

 「ト、"一等星"っ!?」

 「その話、事実ですかっ!?」


 一人の少女が一歩前に踏み出しながら私に聞き返す。シャーリィだ。

 私の実力に疑いを持っているようには見えないが、その瞳は挑戦心に満ちている。

 早く私と戦ってみたいのだろう。先程授業の内容に私との模擬戦も説明した際に、彼女の瞳に闘志が宿ったところを、私は見逃していない。


 「事実だよ。私は色々あってマコト=トードーとは親しい関係になってね。気になるのなら彼に聞いてみると良い。あぁーいや、済まない。彼は多忙だから直接聞くのは難しいな。うん、私の実力が気になるのなら、早速授業を始めようか。」


 両手に『成形モーディング』を用いた長さ1mほどの棒を出現させる。とは言え、今回は以前冒険者に行ったように過度な痛みを与えるつもりは無いし、尻尾も使わない。

 多少の痛みは与えるが、それはまぁ、戦闘訓練だ。模擬戦終了後は治療もするから大目に見て欲しい。


 「あれ、『成形』かっ!?」

 「魔術構築陣が一瞬でっ!?」

 「何も装備を持っていないから不思議に思ってたけど、そう言う事か!」

 「御託はこの辺りで良いだろう。先ずは、貴方達に私がどの程度の実力なのかを具体的に知ってもらう。全員で掛かってきなさい。あらゆる魔術の使用も許可する。なお、10秒間消極的な行動を続けていた場合、私から仕掛ける。多少は痛いだろうから、そのつもりで。では、始めよう。」

 「い、行くぞぉおおおっ!」

 「魔術師班は魔力の充填急げ!攻めるぞっ!」

 「前に出過ぎるなよ!?先ずは牽制だ!テミー、ディン、頼む!シャーリィは〆!いけるな!?」

 「「応っ!」」「当たり前でしょ!初手からデカイの、やってやるわ!」


 意外だ。正直もっと尻込みするかと思っていたら、彼等は皆非常にやる気がある。しかも全員に対して手早く指示を飛ばしている。冒険者達とはえらい違いだ。


 ハッキリ言って素晴らしい。だが、それと同時にコレが貴族達が冒険者達を下に見る原因になると考えると、少し複雑ではある。

 冒険者達にも組織的な動きというものを教えるべきだろうか?


 いや、貴族は人の上に立って兵を指揮する役目もある。冒険者達とは違うのだ。稽古の方針を変える必要は無いな。


 さて、それでは一人ずつ丁寧に対応していくとしよう。あまり痛い目には会わせないようにしないとな。



 模擬戦終了後、そこには体力の消耗以上に私から受けた攻撃の痛みに悶絶して地面に突っ伏してしまっている生徒達の姿があった。


 「う・・・ぐぁあ・・・。」

 「つ、つよ・・・っ。」

 「こ、これが・・・"一等星"級・・・。」

 「「「「「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」」」」」

 「・・・・・・っ!」


 連携は見事ではあったが、それでも彼等の実力は軒並み"中級"下位程度だ。動き自体は授業で習っていた部分もあったためか様になっている部分もあったが、それでも完璧とは程遠い。

 以前冒険者達にやったように、問題点や改善点を指摘して迎え撃った。


 ただ、シャーリィの動きに関しては目を見張るものがあった。他の生徒が私に向かっている間に、魔術による自己強化と自身の獲物に魔力を十全に浸透させる事で、森猪鬼フォレストオークすら一撃で屠れるだけの威力を持った一太刀を放ってきたのだ。


 しっかりと受け止めた後、威力と技を放つタイミングを褒め、改善点を指摘した結果、彼女はかなり悔しそうな表情をして俯いている。

 自慢の一撃が全く通用しなかった事が不満なのだろう。


 では、彼等を回復させよう。授業はまだまだ始まったばかりなのだ。


 「まぁ、私の実力はざっとこんなところだよ。今みたいな形で私が貴方達と戦う事は今後ないと思うから、その点は安心すると良い。それと、貴方達の連携は見事なものだったよ。それだけ連携が取れているのなら、多少相手の実力が上でも負ける事は無いだろう。自信を持っていいよ。」

 「エ、『広域治癒エリアヒール』っ!?」

 「範囲や効果はともかくとして、魔術構築陣の構築時間が短すぎる・・・!」

 「さっきの戦闘中、ずっと『成形』を使いっぱなしだったっていうのに、どんだけ魔力があるんだよ・・・。」

 「ねぇ、それより、今私達、褒められたよね・・・?」

 「全然通用しなかったけどね・・・。」


 この辺りは概ね冒険者達と同じ反応だな。だが、あの時の様にすぐさま次の模擬戦を開始するような事はしない。

 彼等を痛めつけるのが目的では無いのだから当然だ。


 「あの、授業の内容って、先生との模擬戦もあるって言ってましたよね?でも今みたいな事はやらないんですか?」


 最初に説明した授業内容と今私が言った言葉にシャーリィが疑問を持ったようだ。

 私に最大の技が通用しなかったのが余程悔しかったのだろう。彼女は何としても私に一矢報いたいらしい。


 「今みたいな模擬戦はやらないよ。だけど安心して欲しい。私との模擬戦はちゃんとやるとも。一対一でね。」

 「い、一対一ぃっ!?」

 「む、無理だ!勝てっこない!」

 「話は最後まで聞きなさい。そもそも私に勝つ事が目的じゃないんだよ。それと、一対一の模擬戦と言っても、基本的には貴方達が私に打ち込む形式になる。私はそれに対して先程の様に改善点や問題点を指摘する、と言う形だよ。つまり、先程の模擬戦をより安全に、一人ひとり重点的に行うわけだ。」

 「い、いいんですか・・・?嬉しいですけど、贅沢過ぎません・・・?」

 「一人に掛ける時間は大体3分程度だよ。それと、見る事もまた大事な稽古になるからね。自分が戦わない時は他の生徒の戦いぶりや私の動きを良く見ておきなさい。きっと役に立つから。」

 「は、はいっ!」


 今後の授業内容を少し具体的に説明すれば、シャーリィも納得したようだ。

 存分に自分の技を振るう事が出来ると分かり、満足げな表情をしている。元気よく返事をしてくれた。


 休憩も十分済んだだろうし、次の内容を進めるとしよう。


 「さて、時間は有限だ。次の戦闘訓練を始めるよ。と言うか、本来の授業はここからだ。」

 「そ、そう言えば召喚された魔物と戦うって言ってた・・・。」

 「魔物・・・どんなのが出てくるかな・・・。」

 「弱い奴、来い・・・!」

 「馬鹿ね。それじゃ戦闘訓練にならないでしょ。多分、私達が何とか勝てるぐらいのが出てくるんじゃない?」


 そうだな。簡単に勝てる相手を召喚してもそれでは彼等の糧にはならない。

 一応私は彼等を強くするためにこの学院に来たのだ。その点において、手を抜くような真似はしない。

 先ずは初日だ。彼等は彼らなりの戦い方があるのだし、全員で戦ってもらうためにも、彼等とほぼ対等な条件の魔物達を召喚するとしよう。


 「っ!?複数の召喚陣っ!?」

 「同時に魔術を使用したって事っ!?」

 「この人、"一等星"より強いんじゃ・・・。」

 「先生の感想は後っ!来るよっ!」


 召喚したのは複数の猪鬼オークだ。それもただの猪鬼ではない。

 流石に森猪木では無いが、"兵士ソルジャー"や"魔術師メイジ"と言った、役職を持った上位の猪鬼だ。中でも一体は森猪鬼すらも凌駕する戦闘力がある、"騎士ナイト"の役職を持っている。勿論、シャーリィ用だ。


 「初日からコレかぁ・・・。俺、生き残れるかなぁ・・・?」

 「弱気になるな!先生には通用しなかったが、それでも俺達の連携が見事だと言ってくれたんだ!先生も言っていたが、自信を持て!俺達はやれる!」

 「そ、そうだな。そうだ!や、やってやるぞ!対策が分かれば猪鬼は比較的安定して戦える相手なんだ!」

 「魔術班!各個撃破を狙う!標的を一体に絞れ!前衛は最低でも三人組で一体を相手取れ!魔術班の時間を稼ぐんだ!テミー、ディン、シャーリィ、"騎士"の相手を頼む!何ならそのまま倒しても構わん!"騎士"を先に倒せたら、他の者達の援護を!」

 「へっ!相変わらずしんどい役割押し付けやがって!」

 「やってやろうじゃねえか!さっきの先生に比べりゃ、猪鬼"騎士"がなんぼのもんってなぁ!」

 「アンタ達、あんまり調子に乗らないでよ!?確かにディンの言う通りだけど、猪鬼"騎士"が弱いってわけじゃないんだからね!?」

 「「あったりめぇよぉっ!!」」


 さっきの模擬戦もそうだったが、あの指揮を執っている生徒、良いな。的確に指示を出して状況を優位に運ぼうとしている。

 委縮していた生徒に発破をかけて士気も回復させているし、理想的な指揮官だ。


 そして、牽制役を務めた二人とシャーリィ。一人一人では猪鬼"騎士"を斃すのは難しいが、連携が取れる三人ならば油断しなければ問題無いだろう。

 私が気にしなければならないのは、他の生徒になりそうだな。



 30分後、生徒達は問題無く猪鬼の団体に見事勝利する事ができた。特に私が介入する事も無かったのは、正直意外だったな。

 彼等は先程私が指摘した事をしっかりと心に留めていたようで、私と戦った時よりも動きが良くなっていた。彼等は伸びしろがある。これは今後が楽しみだ。


 『広域治癒』を施しながら、彼等を労い、今後の予定を説明しよう。


 「皆お疲れさま。危ない様なら私が介入していたのだけど、いらない気遣いだったようだね。見事だったよ。10分間の休憩後は私との一対一の模擬戦だ。それぞれ思うままに打ち込んでくると良い。」

 「じ、10分後・・・。」

 「も、もう少し、勝利の余韻に浸らせて欲しいです・・・。」

 「ま、まさか危なげなく初見で猪鬼の集団に勝てるなんて・・・。」

 「私・・・強くなってる・・・!」


 本当に、時間に余裕があれば、もう少し休憩時間を増やしても良かったかもしれないがな。

 まぁ、午後も同じ授業もやるから、興味を持てたらまた受けに来ると良い。


 授業は私の者だけでは無いのだ。冒険者達の稽古の様に稽古の後十分な休憩が必要なほど消耗させるわけにはいかない。

 授業内容を比較的優しいものにしたのはそのためだ。私の授業を受けた事が原因で他の授業を修了出来なかったという事はあってはならない。



 その後、問題無く私との一対一の模擬戦を終わらせて午前の授業は終了。解散となった。

 授業終了後、シャーリィが私と話をしたそうにしていたが、彼女はこの後別の授業があるらしく、名残惜しそうにグラウンドを去っていった。


 さて、時刻は午前ここから次の授業まで時間がある。いつも通りオリヴィエと昼食を取るのは当然として、今の内にやるべき事はやっておこう。



 そんなわけで私は学院から外へ出てとある貴族の屋敷の前にいる。家の門には門番はいない。少々警備体制に不安を覚えてしまうが、この家には定期的にナウシス騎士団以外の騎士が自主的に見回りに来ているらしく、今のところ不届き者が現れたと言う話を聞いた事が無い。

 現に今も二人の騎士が私服姿でこっそりと様子を伺っているようだしな。


 「やぁ、お仕事?お疲れさま。様子はどう?」

 「ノ、ノア殿っ!?お、お疲れ様ですっ!現在はいつも通り、特に問題は起きていませんっ!」


 彼等は親善試合の時にも顔を出していた騎士だ。お互いに顔を覚えているし、既に私達の計画も通達し終わっている。


 「ノア殿が此方に訪れたという事は?」

 「うん。ある程度耳にしているとは思うけど、そろそろ私の方からも彼女に事情を伝えようと思ってね。」

 「となると、いよいよ事が大きく動きそうですね。お嬢様の方は?」

 「素直で向上心が高い、良い子だね。あの娘、どんどん強くなるよ。」

 「おおっ!」

 「ノア殿にそう言っていただけるとはっ!流石はカークス団長の御息女!」


 シャーリィの評価を聞いて騎士達は心から嬉しそうにしている。彼女の将来に希望を見たのだろう。


 「さて、そろそろ私は行くよ。」

 「はっ!アイラ様とシャーリィお嬢様をよろしくお願いします!」


 彼等の願いに頷いて家の門まで足を運ぶ。


 アイラ=カークスに事情を説明しよう。まさか、こんな形で再会する事になるとは、彼女と別れた日には想像もつかなかったな。

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