第153話 無理難題

 私を待っていたと言う割には、ワイスワンは今いる位置から動こうとはしていない。せっかちで強引かつものぐさな人物なようだ。一言で言えば、我儘だな。


 仕方が無いので、私の方からワイスワンへと近づいて行く。


 「マコトも言っていたけど、気が早いね。もう少し落ち着きを持ったら?」

 「かぁーっ、お主まであのボンクラと同じような事を良いよってからに・・・!年寄り扱いするんじゃないわい!」


 いやするだろ。実年齢も外見年齢も十分年寄りなのだから。

 多分だが、ワイスワンは都合が悪くなると年寄りを労われ、と言い出すと思う。

 今のところ彼は悪人という感じでは無いが、彼の人柄は非常に我儘な人物であると判断する他ないな。


 「それで?随分と早くからここで待機していたみたいだけど、午後の稽古が始まるのは1時からだよ?私に何か用があるのかな?」

 「うむ。お主を見極めようと思うてな。」

 「ふぅん?」


 見極める、ねぇ・・・。そう言ってワイスワンは『鑑定アプレイザ』を私に使用している。多分だが、効果が無いと思う。


 『鑑定』は人間達の魔術の中では極めて特殊な魔術だ。この魔術は対象の生命力や魔力と言った生物の能力を調べる事が出来るだけでなく、正体の分からないものも詳細を知る事が出来る魔術である。


 それと言うのも、この『鑑定』、根幹は全ての使用者と繋がっているのである。

 『鑑定』には多少の解析能力があり、術者がこの魔術を掛けた対象の能力を把握できるのだが、その際に他の全ての術者にも解析情報が行き渡るのだ。

 そして別の術者が同じ対象に『鑑定』を掛けた場合、以前よりも鮮明に情報を取得できる、と言うものだ。


 まぁ、解析できればの話だが・・・。案の定、ワイスワンが『鑑定』の結果に怪訝な顔をしている。


 「何じゃこりゃあ・・・。数値どころか文字すらまともに表示されぬ・・・。」


 数値に文字・・・。ワイスワンは『鑑定』を自分なりに使いやすいように改良しているようだ。ただし、改良しているのは結果の表示方法であり、解析能力までは改良していない。

 尤も、解析能力を改良できる人間がいるかどうか分からないし、そんな事が出来るなら最初から解析用の魔術を作った方が早いだろう。


 「秤に重すぎるものを乗せると壊れてしまうだろう?ソレも同じだよ。『鑑定』が私の情報量を許容しきれていないんだ。」

 「むむぅ、なんちゅうこっちゃ・・・。」

 「それとワイスワン、無許可で他人の情報を暴こうとする行為は、一般的に無礼に当たる行為だ。私は今回はあまり気にしてはいないけれど、気を付けると良い。今後も気にしないとは限らないからね。」

 「むぅ・・・意外とケチな事を言うのう・・・。」


 まったく、本当に我儘な老人だな。知的好奇心を満たしたくて行動が先行しているようだが、それでも最低限の礼節ぐらいは持ってもらいたいものだ。

 反省してもらうためにも、少し脅かすとしようか。


 「ワイスワン?自分の欲求を満たすために周りを見失う人物に、私はそれほど好感は持てない。」

 「ぐ、ぬぅ・・・悪かった・・・謝罪する。」


 少し魔力を解放して強めの口調で話せば、流石のワイスワンも委縮するようだ。

 しかし彼、こんな調子で良く今まで学院長と言う立場にい続けられたものだ。相手が相手なら国際問題になりかねない行為だったぞ?


 冒険者達が訓練場に来るまでまだ少し時間がある。暇潰しと言うわけでは無いが、説教臭くなるが、ワイスワンには自身の行動を自重するように言い聞かせてみるか。

 こういうのは本来ワイスワンの様な人生の先達が行う筈なんだけどなぁ・・・。



 ワイスワンの顔は冒険者達にもある程度知れ渡っていたらしい。訓練場に来て彼の顔を見るや、誰も彼もが非常に驚いていた。

 結構人気のある人物なようで、中には彼にサインを求めるような冒険者もいた。

 何でも彼は魔術の発展に貢献した人物の一人であり、魔術によって魔物の大群を幾度も退けた事があるらしく、魔術師ならば憧る者も少なくないのだとか。


 書類を近くにいる人物に渡す際にも魔術を使うぐらいだから、相当な手練れではあるとは思うが、それと人格はまた別問題だ。

 彼の事はあまり考えずにいつも通り稽古を行うとしよう。



 「それでは今日の稽古はここまでとする。皆しっかりと体を休ませるように。」

 「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」


 稽古の最中、ワイスワンが私や冒険者に絡む事は無く、終始その内容を観察するだけに留まっていた。

 まぁ、私が幻を出したり、地形を変動させたり、魔物を召喚した際には、そのたびに素っ頓狂な声を上げて冒険者達の注目を集めていたが。


 私が訓練場を後にするのと同時に、ワイスワンも私の後に付いて来る。この後、依頼の詳細を話すためだろう。


 「お主は本当に面白いのう。ああまで心が弾んだのは人生で初じゃったよ。出来れば、今度は午前の内容も見てみたいところじゃな。」

 「周りに迷惑を掛けなければ構わないよ。何だったら、彼等と一緒に稽古を受けてみるかい?」

 「やらんやらん。儂は肉体労働は嫌いなんじゃ。で、お主、今日はこれからどうするのじゃ?」

 「いつもなら図書館で夕食まで読書をするけど、今日は貴方の依頼の打ち合わせになるかな。貴方もそのために来たのだろう?」

 「うむ。話が早くて助かるわい。世の中、回りくどい言い回しで話を引き延ばす連中があまりにも多くてのう・・・。」


 多分だが大半の貴族の事を言ってるんだろうな。せっかちなワイスワンには、貴族達との会話は苦痛なのだろう。


 「なら、さっさと決めるべき事を決めておこう。場所はロビーで構わない?」

 「うむ。特に機密という事も無いでな。」


 聞かれても構わない内容、という事だな。おそらくは私が受け持つ時間割と報酬の話になるかな?後は、授業の内容か。

 こちらとしては学院側には時間以外に言及する事は無い。まずはワイスワンの話を聞くとしよう。



 ワイスワンから説明された内容は、やはり教師を行うにあたっての拘束時間と報酬、授業内容の要望、そして開始時期の通達だった。


 先ず時間割。期間は一週間、そして明日から29日まで。つまり私が家に帰る前日までの間だ。

 私が冒険者達に午前9時~午前11時と午後1時~午後4時まで稽古をつけている事を考慮して午前12時~午前14時としてくれた。

 それ自体は此方を気遣ってくれて有り難いのだが、私が学院の教師になるのはシャーリィの護衛のためでもある。

 午前中の2時間だけでは正直護衛にはならないだろう。


 そこで、『幻実影ファンタマイマス』を使う事にした。午前10時から学院の授業の終業時間である午後5時までは幻を1体学院に置いておくのだ。

 ワイスワンも先程私の幻を確認している。ついでだから、午後にも授業を一つ受け持つと提案すれば、彼は諸手を上げて歓迎してくれた。


 次に報酬だ。こちらは冒険者達への稽古と違い一回ごとの依頼ではなく、指定した期日の間、臨時教師を行うという内容で、最後の授業が終わった後に支払われる事になる。つまり、午前午後で16回の授業を行っても依頼達成回数は一回という事だ。


 その分報酬は非常に高額だ。8日間で金貨500枚の報酬となる。一日につき金貨60数枚程度、"星付きスター"相当の依頼と言うわけだ。その中でもかなり上限に位置する報酬額だと思われる。

 金に困っている事は無いので、報酬に関しては向こうが提示した金額そのままで受ける事にした。


 ちなみに、冒険者達に付けている稽古はその都度報酬をもらっている。金額は金貨1枚である。


 最後に授業の内容。これに関しては完全に私に丸投げであり、方法は任せる。と言ってきた。

 学校の長がそんな事で良いのかと聞いてみれば、今日の稽古内容を見て判断したのだとか。いつの間にか教師としての信頼を得ていたようだ。

 尤も、信用されたのはせっかちで強引で我儘な老人からだが。

 そんな事を考えていたら、私の考えがワイスワンに伝わったらしく苦言を言われてしまった。

 ワイスワンの表情が自信に満ちているところを見るに、彼は教師としては優秀なのだろうか?


 まぁいいさ。学校の長が好きにやってくれと言ったのだ。何かあった場合の責任は、ワイスワン自身に取ってもらおう。

 勿論、問題はなるべく起こさないようにするが。



 ワイスワンとの打ち合わせが終わる頃には時刻は午後5時だ。手早く今日受注した依頼を片付けて夕食を取る事にした。


 足早に宿に戻って食事を取った後は、いよいよヘシュトナー侯爵との対面だ。

 まぁ、以前の密会の事を考えると今日会うのは彼の偽物、所謂影武者になるとは思うが。



 ヘシュトナー邸へと足を運べば、尊大な表情をして屈強な体型をした見張りが、門の中心に佇んでいた。


 フウカに渡された招待状を門番に手渡すとしようか。さて、彼は私にどんな態度を取るかな?


 「やぁ、お仕事お疲れさま。招待状が届いたから、来たよ。」

 「招待状?むっ、アンタは・・・招待状を確認しよう。」


 やや高圧的な態度をしてはいるものの、下に見るような事はしないようだ。招待状を手渡してその内容とフウカの針と糸を確認すると、大きく頷いた後、人一人通れる程度の幅、門を開いた。


 「内容を確認した。知っているとは思うが、この屋敷の主は侯爵様であり、非常に地位が高い。くれぐれも、粗相のないようにな。」

 「善処しよう。」


 一応は此方の事を気遣っての発言のようだ。彼にとって、ヘシュトナー侯爵は恐ろしい人物なのだろう。

 侯爵の事を口に出す際、彼からは若干の恐れの感情が読み取れた。



 門を抜けると、すぐに燕尾服を来た使用人が私を出迎え、ヘシュトナー侯爵がいる場所まで案内してくれた。まぁ、そのヘシュトナー侯爵は魔術具によって姿を変えた影武者なのだが。

 彼の全身は、一つの装飾品から発せられる歪な魔力で覆われていたため、一目でわかった。


 「よく来てくれた。歓迎するぞ。私はインゲイン=ヘシュトナー。この国のヘシュトナー領を任されている侯爵である。さて、話をする前に先ずは一杯、紅茶でもどうかね?」

 「いただこう。」


 ヘシュトナー侯爵は私をもてなして懐柔する算段のようだからな。もてなしてくれると言うのなれば、盛大にもてなしてもらおう。


 尤も、判定は厳しくするが。粗末な品を出されたら、苦言を呈する所存だ。



 用意された紅茶を本に書かれていた作法通りに味わえば、影武者が心から感心した声を上げた。

 私が、行儀よくお茶を飲むところを想像出来なかったのだろう。


 「ほぅ?なかなかマナーというものを知っているようだな。どうかね?我がヘシュトナーが贔屓にしている紅茶の味は?」


 影武者は得意げになって私に感想を求めてくる。彼の得意げな表情は、称賛を送りたいほどに本物とそっくりだった。


 だが、残念ながら私の感想は、その得意げな顔を歪ませる事になる。


 「悪くないかな?良いものだとは思うよ。だけど、以前この街で飲んだ"シルビア"で取り扱っている、"ウーヴァ"ほどじゃないかな?ああ、それと最低でも後2分はお茶を蒸しておいた方が、私は好きかな?」

 「ほ、ほう・・・く、詳しいじゃないか・・・。」


 提供された紅茶の味は悪くは無かったが、それでも宝石店で出されたような一級品ではなかった。茶葉自体は初めて口にしたものだが、良いものではあったのだ。

 だが、私には紅茶の味が分からないと見て適当な淹れ方をしたのだろう。淹れ方によって紅茶の味は大きく変わる、という事実を存分に知る事が出来た。


 ちなみに、"ウーヴァ"が宝石店で提供されたお茶であり、それを取り扱っていた店の名前が"シルビア"だ。

 この店は王族も贔屓にしている高級店らしい。まだ顔を出していないが、さっさと今回の問題を解決して足を運びたいものだ。


 指摘を受けた事に影武者はかなり動揺したようだ。顔を引くつかせながら私に訊ねてきた。


 「紅茶を飲む機会は結構あってね。気に入ったから、色々と調べたんだ。」

 「そ、そうなのかね?では、今度は貴公が気に入った茶葉を用意しよう。今後、それなりに長い付き合いになるだろうからな。」

 「それは嬉しいね。で、その付き合いが長くなる理由、貴方が私を招待した理由をそろそろ聞かせてもらおうか。」


 ワイスワンでは無いが、何時までも話が進まないのは私も好きではない。そろそろ話を進めさせてもらうとしよう。


 「ふむ。冒険者と言うのはせっかちな生き物だな。まぁいい。貴公には、人を二人、我が屋敷に連れて来てもらいたいのだよ。それに加えて、私の護衛も務めてもらいたい。」

 「護衛はまぁ、貴族だから分かるとして、人を連れてくると言うのは攫って来て欲しい、という事かな?」

 「方法は貴公に任せる。貴公ならばどうとでもできるだろうからな。」

 「対象の人物は?」

 「貴族街に住まう伯爵夫人、アイラ=カークス。そしてその娘のシャーリィ=カークスの二人だ。」


 まぁ、概ね予想していた通りの内容だな。しかし、護衛、ね。折角だから、この内容も少し利用させてもらうとしようか。

 護衛の話は一旦置いておくとして、二人を連れてくる事への詳細と、一応の建前を聞かせてもらうとしようか。


 「その二人をここに連れてくる理由は?娘の方は知らないけど、私はこの街に来たその日にアイラとは出会っていてね。それなりに親しくなっているんだ。連れてくる理由を教えてもらいたいな。」

 「なっ・・・!?き、貴公が、何故・・・っ!?」


 おいおい、高々この程度の情報で慌てすぎだろう。侯爵の影武者を装うのなら、もう少し泰然としているべきじゃないのか?


 「ああ、私が宿泊先に選んだ宿が、偶々アイラが昔から通っていた宿でね。そこで夕食時に偶然ね。で、理由の方を説明してもらえる?」

 「う、うむ。それならば貴公も彼女が既婚者であり、そして夫を失っている事も知っていよう。彼女の夫は人類最強とすら言われた事もある、あのマクシミリアン=カークスだ。その立場を利用しようと企む貴族は、極めて多い。今はまだ大丈夫であるが、彼女達に危害を加えようと思っている者は、あまりにも多いのだ。」

 「貴方はその貴族の一人では無いと?」

 「フッ、手厳しいな。だが、私は違う。天空神に誓って言えるとも。」


 うん。彼女達を欲しがっているのはヘシュトナー侯爵本人だからな。一応、嘘は言っていない。


 「つまり、危害を加えられる前に貴方が彼女達を保護しよう、と?」

 「その通り。私はこれでも侯爵と言うこの国の貴族の中でもかなり高い地位に位置する者だ。私が彼女達を保護すれば、下らぬ考えを起こすような者達も大人しくなるだろう。それと、シャーリィ=カークスは貴公がこれから臨時教師を行うぺーシェル学院に通っている生徒だ。彼女の信用を得られれば、この屋敷に連れてくるのも容易となる。貴公に依頼をするのもそのためだ。」


 なるほど?筋は一応通ってはいるな。まぁ、実際のところ、その下らない考えを持つ筆頭がヘシュトナー侯爵なわけだが。

 私がここで首を縦に振らなければ話が進まないし、そのために私はここまで来たのだ。もったいぶらずに依頼を受けるとしようか。


 「事情は分かったよ。引き受けよう。気に入った人物を守れると言うのなら、受けない理由は無い。」

 「そうか!受けてくれるかね!?貴公は話が早くて助かる!」


 私が引き受けると言った時の影武者の表情は、面白いほどに喜色に満ちていたな。安心感と、蔑み。その二つの感情も読み取れた。

 安心感はまぁ、私が依頼を引き受けた事で自分が始末される心配がなくなったからで、蔑みの方は私の事を単純で取るに足らない相手だとでも思ったのだろう。所謂、ちょろい、というやつだ。

 実際、あの程度の情報で安請け合いするようならちょろいと思う。ちょろゴンとでも呼んでくれ。


 「報酬は十分な額を用意し「あー、引き受けるのは良いんだけど、報酬はコチラの望む物にしてもらえるかな?」・・・何?」


 影武者が報酬の話を始めたので彼の言葉を遮らせてもらった。


 「何、ひとまず彼女達をこの屋敷に連れてくるだけの事はしよう。が、報酬が支払われるまでは引き渡しはしない。私が彼女達を護衛する事にしよう。」

 「む・・・い、良いだろう。それで、貴公が報酬に望む物とは?」


 少し怪訝な表情をしたが、納得はしたようだ。侯爵と言う立場ならば手に入らない筈が無い、とでも思っているのだろう。


 では、無理難題を出させてもらおう。


 「ハン・バガーセットだ。」

 「ハン・・・何だって?」

 「ハン・バガーセットだよ。イスティエスタの名物料理さ。私がこの国を訪れて初めて食べた料理が、そのハン・バガーセットでね。その味にはとても感動したものさ。だけど、王都ではそれを食べる事が出来なくてね。侯爵にはそのイスティエスタのハン・バガーセットと同じ物を100食分用意してもらう。100食私が食べ終わったら、その時点で二人を引き渡そう。」

 「ひゃ、100食っ!?」

 「それほど難しい話では無いだろう?1セットの金額はたったの銅貨5枚だ。銀貨5枚程度あれば良い。」


 まぁ、事はそんな簡単な話では無いがな。


 「勿論、条件がある。」

 「な、何かね?」

 「出来立てが食べたいから、この屋敷で調理する事。尚、ハン・バガーセットを取り扱っている店に迷惑をかけるような真似をした場合、契約はその時点で破棄させてもらう。客として店に訪れて味を解析する事は認めるが、レシピを強要したり盗むなどして、店の不都合になるような事をしてはいけない。料理人を直接連れてくるなど、以ての外だ。期限は私が家に帰るまでの10日間。その条件で良いのなら引き受けよう。」


 この内容をマコトに伝えた際、彼は爆笑しながら私の案を強く推奨してくれた。

 あの料理、やはり名前こそ微妙に違うものの彼の故郷の料理であり、レシピ無しでアレを再現するのは非常に難しいと言っていた。

 ヘシュトナー侯爵家では、レシピ抜きで再現する事はまず無理だろう、と太鼓判を押してくれたのだ。


 影武者に対して、侯爵なのだからこれぐらいできるだろう?と半ば挑発するような声色で要求すれば、困惑しながらも彼は頷いた。


 「い、い良いだろう。その条件で手を打とうじゃないか。しかし貴公、月末に100食分一度に用意できたとした場合、貴公はその量を食べられるのかね?」

 「愚問だね。私ならワイバーン丸々一体分の肉料理を出されても余裕で平らげられる。その程度は問題無いさ。つまり、百食分用意できた時点で目的は達成、という事だよ。尤も、味が悪かったら作り直してもらうがね。」

 「そ、そうか・・・。き、貴公とは別々に食事を取るようにしよう。それと、貴公は冒険者達に稽古をつけているそうだな?それに、先程も言ったが、近い内にぺーシェル学院の臨時教師として雇われる事も知っている。基本的には、そちらを優先してくれて構わない。だが、必要な時は此方で使いを出すので、私の護衛を務めてもらう。構わないな?」

 「構わないよ。では、契約成立という事で。それで、今は護衛が必要かな?」

 「うむ。今日のところは下がってくれて構わない。吉報を期待していよう。」


 時刻は午後7時30分。大分余裕がある事だし、後はいつも通りに過ごせば問題無いだろう。

 あっ、そうだ。幻を使って少しずつユージェンから送られてきた資料で不正が見受けられる貴族の家を調べておこう。



 風呂に入り、果実を食べ、証拠品を回収したらベッドで眠る。何だか久しぶりに気兼ねなく眠れる気がする。




 日付が変わり、冒険者達の午前の稽古を終わらせて時刻は午前11時30分。私はぺーシェル学院の門の前まで来ている。

 いよいよマクシミリアンの娘、シャーリィ=カークスに会う日が来たのである。


 あのペンダントの少女がどういった人物なのか、ようやく分かる時が来たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る