第141話 宝騎士に会いに行こう

 〈ノア様!起きてちょうだい!〉〈起きる時間よ!朝なのよ!〉


 とても重く感じる瞼を2羽の呼び声を励みに開き、体を起こす。本当に、この布団と言う物は快適な眠りを与えてくれるのは良いのだが、その分起きられなくなってしまうのが難点だな。


 〈レイブラン、ヤタール、おはよう。起こしてくれてありがとう。〉

 〈役に立てて嬉しいのよ!〉〈どうって事ないのよ!〉


 馬車で移動中に家の皆と話をしてからというもの、彼女達は毎朝私に『通話』を掛けて目覚めさせてくれる。

 今日は少し我儘を言っていつもより早くに起こしてもらった。


 時間は午前5時。今日は宝騎士・グリューナと会う日なのだが、それと同時に今日の早朝、ヘシュトナー侯爵が招集を掛けた暗殺者、"影縫い"とやらが王都に到着する予定である。

 "影縫い"がどのような人物であるかを探るため、"影縫い"が王都に到着する前に『広域ウィディア探知サーチェクション』を用いて王都に入って来る者を確認してみようと思ったのだ。


 マコトが全力で殺害しようとして、それが成せなかった人物だ。いかに能力を抑えようとも、私ならば相手の実力が分かるというものだ。

 流石に、私が起きる前に既に王都に入ってきている場合は分かりようも無いが、城門が開くのが午前5時からなのだ。それ以前の時間に強引に王都の中に入って来るとは考え辛い。


 早速『広域探知』を発動させて人の流入を確認する事にした。



 午前6時30分


 ううむ。今のところ手練れと思わしき人物が王都に入って来る気配はない。この時間だと既に早朝とは言えなくなってくるので、もしかしたら既に王都の中に入ってきてしまっているのかもしれないな。

 "影縫い"は影に潜り込んで移動が出来るそうだし、人に気取られる事なくヘシュトナー邸へと向かう事も可能なのだろう。


 ただ、一人。気になる人物を確認した。その人物は本来ならば、王都にいる筈が無いのだが・・・。


 何故彼女がここに?

 仕事道具も一緒に持ってきているから、出張でもして来たのだろうか?


 まぁ、その可能性は低いだろうな。実力から考えて、彼女が"影縫い"で間違いないだろう。私としてはむしろ好都合だ。彼女とは知った仲なのだから、事情も容易に聞き出せると思う。


 だが、そうなると彼女の言う新たな主とは?まさかとは思うが、私の事なのか?


 まぁいい。それは後にしよう。どうせ嫌でも本人に会う事になるのだ。その時に直接確かめればいい。今はグリューナだ。


 打ち合わせは既に終わっているのだ。巡回騎士達の拠点である、騎士舎へと向かうとしよう。


 そうだ。どうせだから、今日は奮発して良い服を着ていくとしようか。

 人間達から仕入れた服では、唯一背中が開いているベルベット生地の服だ。

 確実に注目を浴びる事になるが、どの道大勢の騎士達の前で行動するのだ。そのぐらい何ともない。


 ちなみに、今日グリューナと親善試合を行う事は冒険者達も知っていて、そちらに集中して欲しいと願われたので稽古は中止となっている。

 騎士側の都合も考えれば仕方の無い事だろう。せめて午後の稽古ぐらいはやっておきたいところだが。



 騎士舎。そのまんま、騎士達が寝泊まりする場所である。と言っても、ただの宿泊施設というわけでは無い。

 敷地は非常に広く、この場で模擬戦や基礎トレーニングを始めとした訓練を行う場所であり、万一災害が起きた時のための民間人の避難場所でもあるそうなのだ。

 最終的な打ち合わせをするために舎内に入ったところで、変装中のマコトに声を掛けられた。


 「よぉ、ノア。凄ぇ服着てんなぁ!ここに来るまでに周囲の視線がやたら集まってたんじゃねぇか?」

 「おはよう、マコト。まぁ、それは今に始まった事じゃないし、イスティエスタで経験済みだからね。問題無いよ。今日の親善試合、貴方も立ち会うのかい?」

 「おう!冒険者側にも、責任者が必要だからな!まっ!んなモンは建前だ!実際はアンタの戦うところを直接見てみてぇって話だな!」

 「それは、職権乱用とは言わないのかい?」

 「んなこたぁねぇさ!これは決まり事だからな!偶々俺の願望がそこに加わっただけに過ぎねぇさ!それはそれとして、ミハイルのとこまで案内するぜ!」


 調子いいなぁ、マコト。まぁ、見たいというのなら好きにすればいいさ。

 そんな事よりも打ち合わせだ。彼に依頼人である大騎士・ミハイルの元まで案内してもらおう。



 「やぁ、ようこそいらして下さいました!この度は依頼を受けて頂き、誠に感謝いたします!あ、申し遅れました。私、巡回騎士を束ねる、ミハイル=ゴートンと申します。以後、よろしくお願いいたします。」

 「"上級"冒険者のノアだよ。よろしく。」


 部屋の扉を開けると、やや大げさな身振りをしながら私を歓迎してくれた40代の獣人ビースターの騎士に歓迎された。彼の因子は、虎だな。


 自己紹介をするついでに握手を求められたので応じてみれば、かなり手に力を込められた。

 ふむ。彼なりの挨拶だろうか?では、私も。


 「んぐぇぁあっ!!」

 「何やってんだよ、ミハイル・・・。」

 「ええっと?握手の時に相手の手を強く握ったりするのは、彼なりの挨拶では無いのかな?獣人は力比べが好きなのだろう?」

 「確かにそうだが、ありゃ、ただの悪戯だよ。アンタの実力が気になって仕方なかったのさ。」


 ミハイルはとても痛そうに私が強く握ってしまった手を摩っている。

 自業自得ではあるのだが、少々強く握りすぎてしまったようだ。今後の事に支障が出ても面白く無い。手早く治療しておこう。


 「あ、ああ、どうも、ありがとうございます。すみません、あのマコトさんが深刻な顔で貴女の事を説明していたので、どれほどのものなのか、確かめたくなってしまい・・・。申し訳ありませんでした!」

 「構わないよ。頭を上げてくれるかな?そろそろ今日の親善試合についての最終的な打ち合わせをしよう。」


 そう言って話を進める事を促したのだが、ミハイルはまだ何か言いたい事があるらしく、頭を下げたままである。私としては彼等騎士達に対して特に謝られる事は無い筈なのだが・・・はて、何が原因だ?


 「そう言うわけにはまいりません。部下の暴走を止められなかったのは、上官である私の責任!この度は、此方の都合に巻き込んだ上に、無茶な要求までしてしまい、誠に申し訳ありませんでしたっ!」


 頭を下げたまま、強い謝意の感情がミハイルから伝わってくる。

 部下の暴走・・・・・・ああ、マックスの個人的な要望の事か。


 「まぁ、それに関しても大丈夫だよ。どの道関わる事になっていただろうからね。貴方がアイラに私の情報を伝えた時点で、結局は似たような形になっていたんじゃないかな?」

 「っ!見抜いておられましたか・・・!」

 「つーか、状況的にお前ぐらいしか情報源になる奴がいねぇんだよ。誰だって気付けるっての。ったく、いくらアイラが好きだからって、職権乱用ってやつじゃあねえのか?ミハイルよぉ?」

 「ちょっ!ま、マコトさんっ!?なっ、何を言い出すんですかっ!?」


 目に見えてミハイルの顔が赤くなっているな。という事は、彼はマコトの言う通りアイラに恋慕の感情を抱いているとみて間違いないか。


 ううむ。しかし、私が見たところアイラはマクシミリアン一筋、といった感じだったぞ?マクシミリアン亡き後もそれが変わらないというのなら、ミハイルの思いは成就される事は無いんじゃないだろうか?


 「あ、あの、ノアさん、分かってます・・・!私の独りよがりな事は分かっていますから・・・!」

 「コイツ、初恋こじらせて報われる事が無いって分かってても振り切れねえでいやがんだよ。そのせいで未だに嫁さんいないんだぜ?」

 「マコトさんっ!そんな事言ったら、マコトさんだってその年で独身じゃないですかっ!?私より酷いですよっ!?」

 「馬鹿野郎、俺みたいな奴が嫁さん貰っちまったらその嫁さんに迷惑が掛かんだろうが。俺の場合はあえてこうしたんだよ。」


 だから、マコトは仕事を減らせと・・・。ああ、いかんいかん、このままでは話が進まない。

 多少強引ではあるが、彼等の会話を途切れさせて本題に入らせてもらおう。今回は私達だけでなく、グリューナ側の都合もあるのだ。


 「二人ともそこまでだ。聞いていて面白い会話だったが、今は親善試合の最終打ち合わせをするのだろう?続きは打ち合わせを終わらせて時間に余裕が出来てからにしてくれ。」

 「お、おう。済まんかった。」

 「す、すみません・・・つい。」

 「打ち合わせと言っても、内容自体はそれほど難しい事では無いだろう?何時、何処で試合をして、誰が試合を見に来るか。そして試合形式。それらの確認。と言ったところで良いかな?」


 私が事前に伝えられた確認すべき内容を口に出す。


 「そうですね。それでは確認していきましょう。試合の開始は午前9時からで、その前に試合を行う両者で顔合わせがあります。それなりに時間を儲けますので、彼女がどういった人物かを知る、いい機会になると思います。」


 向こうの都合もあるからか、結構中途半端な時間に試合を開始するように感じてしまうな。だが、職によってはその時間から仕事を始める職もあるという。

 中途半端だと感じるのは、私の偏見だな。


 「場所はここ、巡回騎士舎の訓練用のグラウンドです。グラウンドの広さは1ヘクタールあるのですが、その中の1,000㎡を用います。十分な広さがあると思いますので、存分に暴れて下さって結構です。尤も、それは相手も同じでしょうが。」


 舎に入るまでの間に少しだけ視界に映ったあの広場か。一対一の戦いで1000㎡も使う事になるとは、なかなか贅沢な気もする。

 存分に暴れて良いとは言ってくれたが、そのつもりは無い。私は向こうの動きに合わせて尻尾で迎え撃つだけのつもりでいる。尻尾以外は微動だにしない予定だ。

 事前にマコトから、どうせやるならグリューナを圧倒して欲しい、と言われたのだ。適当にあしらうところを見せた方が、実力も分かり易いというものだろう。


 「試合の見物は立会人の私とマコトさんに加えて、各騎士団の団長とその騎士団の実力者から上位十名ずつ、参加者は総勢68名になります。」

 「ふむ。騎士団の数が全部で6つなのは知っているけど、カークス騎士団からも11人、見学に参加するのかい?あの騎士団、新しい団長が決まったのかな?」


 見学に来る騎士達の総数は6騎士団分だ。つまり、カークス騎士団も含まれる。

 あの騎士団はマクシミリアンを失ってまだ間もないし、有力な騎士も少ないと思うのだが、他の騎士団から侮られてしまわないのだろうか?


 「カークス騎士団の場合は残った騎士達の中で最も優秀な者が団長代理として参加します。後は、他の騎士団と変わりませんよ。」

 「その、彼等は大きく戦力を失ったばかりだろう?他の騎士団の人間から下に見られたりはしないかな?」

 「間違っても、ありえません。そもそも、カークス騎士団員は全員精鋭中の精鋭。団員の殆どが下手な騎士団長を上回る実力です。そのうえ国のために死ぬ覚悟を持って"楽園"に挑んだ者達が所属していた騎士団なのです。下に見るような恥知らずは、ティゼム王国の騎士には一人もいません。」


 おお、ミハイルが力強く、自信を持って答えてくれた。

 やはり騎士という役職に就く者達は皆、高潔な精神を持ち合わせているようだ。

 正直、非常に好感が持てる。人間達が皆、彼等のような精神を持っていてくれれば良いと思うのだが、そうはいかないのが人間だ。だが、それ故に面白くはある。


 一つ言える事は、私はますます騎士が好きになったという事だ。


 「そう。それは良かった。じゃあ、後は試合形式の確認だね。」

 「はい。試合に関しては、実際に自分達が所有する武具を用いての全力戦闘になります。特に制限はありません。試合の際に負傷の心配をする必要はありません。その為に各騎士団から上位者を募っていますからね。互いに全力が出せるようにグラウンド全体に特殊な大魔術を施すので、存分に戦って下さって結構です。」

 「その大魔術の効果はどういうものなのかな?」

 「簡単に言やぁ、範囲内にいる者達は互いに互いを殺せなくなるっつー魔術だな。ただし、痛覚が無くなるわけじゃねえ。ま、大規模な訓練用魔術とでも思ってくれりゃあいいさ。」


 試合会場の広さは1000㎡。その範囲全体を覆うために大勢の騎士を呼んだわけでもあるのか。

 その魔術を教えてもらう事は出来るだろうか?私ならグラウンド全体を効果範囲に収める事も容易だと思うのだ。

 魔術を施す際に、使用しているところを見せてもらう事が出来るのなら、習得させてもらうとしよう。


 「打ち合わせの内容としては、こんなところですね。他にノアさんから私達に聞きたい事はありますか?」

 「それなら、グリューナの強さがどの程度のものか教えてもらう事は出来るかな?率直に言って、マコトよりも強かったりするのかな?」

 「彼女の強さですか・・・。難しい所ですね。ですがカークス団長亡き今、最強の騎士は?という話題に名前が挙がるぐらいには、強いですよ。」

 「俺があの跳ねっ返り娘と戦ったのは2年前だったが、そんときゃあ、まだ俺が勝ててたな。だが、アイツは向上心が強いうえに努力家だからなぁ。今戦ったら、どうなるか分からん。」

 「マコトさんも彼女と試合、してみます?リベンジに燃えてましたし、彼女きっと大喜びで応じてくれると思いますよ?」

 「やめーや。アイツ、タフだから戦うのはしんどいんだよ。まっ、ノアの敵じゃねえのは間違いねえよ。心配しなさんな。」


 心配しているわけでは無いよ。単純に気になっただけさ。私としてはマコトの実力も良く分かっていないからな。グリューナの実力を知る事でマコトや"影縫い"の大体の実力も把握しておきたいんだ。


 「私から聞きたい事はもうないかな?それで、試合、というか顔合わせまでまだ時間があるみたいだけど、どうするんだい?さっきの会話の続きでもするかい?」

 「ノ、ノアさんっ!?思い出させないでくださいよっ!この人こういう時すっごいはしゃぐんですからっ!」

 「良いじゃねぇかよ。時間も結構余裕があるんだ。アイラにノアの琴教えた時に、実際に会ったんだろ?聞かせろよ。アイラはちゃんと元気にしてたか?飯は食ってたか?泣きはらしてたりしてなかったか?」


 本当に、マコトはアイラを娘の様に可愛がっていたみたいだな。こうなって来ると、マコトとマクシミリアンの関係が気になって来るな。

 時間に余裕があるし、ミハイルを助けるためにもマコトに聞いてみるか。


 「マコトがアイラをとても可愛がっていたのは分かったけど、そうなると愛妻家であるマクシミリアンがマコトの事をどう思っていたのかが気になるね。そこのところ、どうなんだい?」

 「ああ、アイツの事か?アイツはなぁ・・・。」

 「師弟の関係ですよ。マコトさんは、カークス騎士団長の、と言うよりも現在のティゼム王国の騎士達全員の、剣術の師匠なんです。」


 それは興味深い情報だな。マクシミリアンに関する書物はどれも彼が騎士団長になってからのものばかりだったから、そう言った話を聞けるのはとても新鮮だ。是非、詳しく聞かせて欲しい。

 と言うか、マコトは剣術も出来たのか。少し見てみたくもあるな。もしも余裕が出来たら、彼の実力も直接見せてもらいたいな。


 「ノア、言っとくがな、アイツ等に剣術を教えたからって、俺が一番強いわけじゃねえからな?実際のところ、剣術だけならグリューナはもう俺を越えてるだろうし、リアンの奴はほんの数年で俺よりも上を行きやがった。あん時ゃあマァジで悔しくってなぁ・・・しばらくアイツに粘着した事があったわ。今にして思うとマジで大人げなかったと思ってるぜ・・・。」


 意外だな。マコトが悔しがって相手に粘着していた時があっただなんて。彼は潔い性格の印象を受けていたから、マクシミリアンの事ももっと素直に認めていると思ったのだが。

 ああ、粘着していたと言っても、昔の話なのか。比較的まだマコトが若い頃の話だったのかもしれないな。


 マコトが自分よりも優れた剣術を扱える者がいると言った言葉に対し、ミハイルが反論をしだした。


 「ご謙遜を・・・。今でもその二人以外に剣術で負けるとは微塵にも思っていないでしょう?」

 「ハッ!当然だな!俺はまだまだ現役でいるつもりだからな!そうそう若い連中に抜かれてたまるかってんだ!」


 どうやらマコトよりも優れた剣術を扱える者は、現状ティゼム王国ではグリューナだけらしい。



 そんな感じで三人で談笑をして15分。どうやら相手側が此方に到着したようだ。

 マーグとはまた違う、それでいて親しみを覚える気配が、騎士舎の敷地に入ってきたのだ。


 「来たみたいだよ?」

 「んあ?おっ?グリューナのヤツ、もう来たってのかっ!?」

 「約束の時間まで後30分はあるのですが・・・。グリューナは余程ノアさんに会いたかったようですね。と言うか、彼女の接近が分かるのですか・・・?」

 「ん?ああ、彼女のドラゴンの因子はマーグの物とは違うからね。近づいてくればすぐに分かるよ。」

 「マジかよ・・・。凄ぇな・・・。んじゃあ、行くか?会いたがってるってんなら、こっちから出迎えてやろうじゃねえのよ!」

 「ですね。彼女はせっかちなところがありますから、行くとしましょうか。」


 さて、件の宝騎士、グリューナとはどういった人物なのだろうね。すぐに分かるとは言え、少々楽しみだ。

 そうだ。普段のグリューナの人柄を確認したいので、二人とは少し距離を置いて遅れて移動してみよう。




 「む、そちらから出迎えに来てくれたか。気を遣わせたようだな。・・・おおっ!マコト殿!お久しぶりですっ!アレから二年!私も腕を磨き、体を鍛えました!以前のようにはいきませんよっ!?親善試合の後、私と手合わせ願えませんかっ!?」

 「勘弁してくれ。お前、俺があん時息を切らしてた知ってんだろうが。ジジイに必要以上の体力を消耗させんじゃねえよ。」

 「宝騎士・グリューナ。職務がある中、よく来てくれた。件の人物も貴女に会ってみたいと言っていてな。貴公の到着を先程伝えているから、すぐにでもここに来てくれると思うぞ。」

 「気遣い、痛み入る。大騎士・ミハイル、貴公もどうだ?試合後、私と手合わせしてみないか?貴公の身体能力が騎士の中でも有数である事は承知しているぞ?」

 「ハハハ、私の出る幕があれば良いのだがね。貴公も知っていよう、今日は各騎士団から上位者が集まるのだ。私よりも彼等に聞いてみてはどうかな?」

 「うむ。そうだな。そうさせてもらおうか。」


 金色の長髪を後ろに束ね、ドラゴンの角を頭部の両側面から生やした長身の女性が、マコトとミハイルに挨拶をしている。

 彼女の年齢は30代前半、と言ったところか。尤も、竜人であるが故に、その外見年齢は庸人ヒュムスで言うなら20代前半で十分通用する外見だ。

 彼女に尻尾は無い。頭から生えているドラゴンの角こそが、彼女の竜人としての特徴のようだ。


 ふむ。態度自体はやや尊大ではあるが、彼女は決して横暴な人物、というわけでは無いようだ。むしろ彼女は彼女なりに他人を気遣おうとしているみたいだ。

 マコトとミハイルに手合わせを望んだのは、やはり実力を見せて自分の力を誇示したいのだろうな。


 さて、彼女の人柄も大体わかった。それじゃあ、私も彼女に所へ行くとしよう。


 「それで、件の規格外という同族だが・・・っ!?こ、これは・・・っ!?この気配は・・・っ!?」


 それなりにグリューナに近づいた事で彼女も私のドラゴンの因子を感知する事が出来たようだ。明らかに先程までと表情が違う。


 彼女の前まで行き、軽く挨拶をする。


 「こんにちは、グリューナ。私はノア。会えて嬉しいよ。今日はよろしくね?」

 「う・・・あ・・・っ!ああああ・・・・・・っ!」


 私のドラゴンの気配を感知したグリューナが驚愕で目を見開いている。どうやら予想外過ぎて我を忘れてしまったようだ。


 と思ったら、彼女はおもむろに私の前に片膝をついて頭を下げだした。


 「へっ?」

 「グリューナ?」


 マーグがアレだったからな。彼女がこういった仕草をするのは、可能性の一つとして考えてはいた。

 だが、流石に露骨に態度が変わり過ぎではないだろうか。先程までの違いから、マコトもミハイルも困惑してしまっている。


 「ノア様、と仰るのですね?このグリューナ、貴女様に生涯お傍にてお仕えしたく存じます!どうか!認めていただく事は出来ないでしょうかっ!?」

 「「な、なにぃーーーっ!?!?」」


 コレも騎士という役職だからだろうか?


 どうやら、グリューナはマーグ以上に私に対して強い執着を抱きそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る