第131話 思った以上に危うい娘

 時刻は午後1時15分。

 私は神々との会話も終らせて人工採取場に向かい採取依頼と残り僅かな討伐依頼を片付けているところだ。


 今のところ特に想定外の事も起きておらず、依頼の消化は至って順調だ。この調子なら、午後4時までにはティゼミアに戻る事が出来るだろう。


 私がこうまで自重せずに行動しているのは、ユージェンとマコトから自重しなくても良いと言ってもらえたからと言うのもあるが、恐らくは明日以降から冒険者達に稽古を開始する事になるからだ。


 午前と午後で3時間ずつだ。常識的に考えたら、そのスケジュールで数日以内に250件分の依頼を達成させるなど夢のまた夢の筈だ。


 では、このスケジュールで3日以内に"上級ベテラン"に昇級するにはどうすればいいか。


 簡単である。時間に余裕のある今日の内に目標の半分以上の依頼を片付けてしまえばいい。その為にまずは午後4時までに一度冒険者ギルドに戻り依頼の完了手続きを済ませてしまう。

 そしてそのまま追加で依頼を受注してしまうのだ。夕食を取る前にサクッと依頼をこなして戻ってくればいいのだ。その後からでも夕食は取れる。

 多分、今こなしている依頼と同じ難易度ならば、20件ぐらいは余裕でこなせるはずだ。


 夜の自由時間が少なくなってしまうが、まぁ、一日ぐらいはそんな日があっても良いだろう。


 ちなみに、メジューマ荒原には常設依頼で登録されている素材などもいくつか見つけていたので、そちらも回収しておいた。


 回収した素材はそれぞれ"上級"、"中級インター"、"初級ルーキー"の素材、手当たり次第に、だ。


 それと言うのも、常設依頼の素材の納品に関しては一々査定をする必要が無いのである。と言ってもこの国限定らしいが。


 何とここでもマコトが動いていたようなのだが、彼は3年ほど前にピリカに頼み込んで、常設依頼に限定して自動で納品物が納品できる基準を満たしているかどうかを判別する魔術具を作ってもらったらしいのだ。


 無茶ぶりが過ぎるとは思うのだが、それを作り上げてしまうピリカもピリカだ。つくづく二人とも非常に優秀である。


 ならば、時期が来たら私もピリカに何か面白そうな魔術具を作ってもらおうか?

 いや、魔術具の仕組みや構造は私にだって分かるんだ。いっその事、ピリカと共同開発をしたっていいんじゃないだろうか!?


 うん!いいな!それは良い!彼女とはそれなりに仲良くなれたと思うし、将来彼女と面白い魔術具を作ってみよう!


 話がそれてしまったが、とにかく常設依頼対象の素材に関してはピリカ作の魔術具にある差し込み口にギルド証を差し込んだら、後は投入口に納品物を放り込むだけで達成扱いになってしまうのだ。

 ちなみに規定に満たない品質の納品物は、魔術具の中で処理されて魔術具の燃料に変えられるらしい。実に便利である。

 ただし、品質による評価はすべて均一で、どれだけ高品質なものを納品したとしても支払われる報酬は一定である。


 それでも数を重ねれば依頼の達成回数を増やす事が出来るのだ。環境に影響が出ない範囲で手当たり次第に素材を回収した。




 時刻は午後3時40分。私が予想した通り、今朝受注した依頼をこなし終えて現在ティゼミアの城門の前にきている。

 今日はマーサは休日らしく、出発時にも彼女の姿は見当たらず、別の人物が門番をしていた。


 「ただいま。この後5時前にもう一度外に行って来るよ。」

 「は、はぁ・・・。あの、城門は午後8時に閉じてしまうのですが・・・良いのですか?」

 「問題無いよ。それまでには帰ってくるつもりだから。」


 イスティエスタでも似たようなやり取りをやったなぁ・・・。

 あの時は冒険者として初めて活動した日だったから、大分心配された気がする。

 そして帰って来たら今度はドン引きされたような気もする。まぁ、今にして思えば当然の結果だ。



 門番との会話も程々に、足早に冒険者ギルドへと戻って、採取依頼の納品物の査定を終わらせて依頼完了の報告を済ませる。


 「あの、5時前に戻って来る、と仰いましたよね?今、4時を過ぎたばかりなのですが・・・。」

 「うん。午後5時以降は依頼を受注できないだろう?だから少し早めに終わらせて来たよ。」

 「この後、また受注するのですか?」

 「うん。そう言うわけだから、手続きの方を頼むよ。」

 「・・・承知しました。少々お待ちください・・・。」


 流石のオリヴィエも予定よりも一時間も早く戻ってきた事に関しては一言言わなければ気が済まなかったようだ。彼女の方から仕事の内容以外で話しかけてきたのはこれが初めてだな。

 これが今朝のやり取りのおかげなのか、それとも単純に私の行動が目に余っただけなのか。どちらにせよ、彼女とは少しだけ親密になれた気がする。


 手続きが終わるまでの間に常設依頼の納品物を魔術具に放り込んでおこうかと覆ったのだが、この魔術具はギルド証を差し込み口に差し込まないと投入口が開かないようになっている。ギルド証は、現在オリヴィエが所持している。


 まぁ、依頼完了の手続きにも必要な物だから仕方がないか。常設依頼の納品物の投入は別に後からでもできるし、そこまでこだわる必要も無いだろう。夜帰って来た時に纏めて投入する事にしよう。


 オリヴィエの手続きが終わるのを待っていると、鈴を鳴らしたような音が徐々に大きくなって私の意識に直接聞こえてきた。


 この音は『通話コール』の事前通知音だな。

 自分で作った音だから分からない筈がない。で、私以外でこの魔術を使用できそうな者がいるとしたら、それは当然、マコト以外にはいないだろう。

 昨日と今朝軽く使用して見せただけで使えるようになってしまったのか。マコトも大概、人間達から見たら規格外の存在なのだろうな。


 〈ノアさん、今、会話をしても大丈夫でしょうか?〉

 〈構わないよ。それにしても、やるものだね。貴方には数回しか見せていない魔術だと言うのに。〉

 〈まぁ、その辺りはかなり頑張りましたし、僕も規格外という事で結構皆に知れ渡っていますから。それでなんですけど、冒険者達への稽古依頼についてです。〉


 おお。こうして稽古についての連絡を入れてくれるという事は、決めるべき事が決まった、という事かな?

 だとすれば、やはり明日から冒険者達に稽古をつける事になりそうだ。今日中に大量に依頼をこなそうと思って正解だったな。


 〈段取りが決まったのかな?〉

 〈ええ。本来なら直接会って確認を取りたかったのですが・・・。〉

 〈こうして会話をしている最中も貴方は別件で動いているのだろう?気にしなくて良いさ。私としても、今日は一日中依頼をこなすために貴方と合っている余裕が無いからね。こうして連絡が取り合えるのは非常に都合が良い。〉


 こうして『通話』で会話をしている以上、マコトは現在手が離せない状況なのは間違いない。

 そもそも、彼の魔力は冒険者ギルドとは別の場所に感じる事が出来るので、現在彼はこの場所にはいないという事になる。本当に多忙な事だ。


 ルグナツァリオが後継者に当たりを付けているようだから、もう少しだけ我慢して欲しい。しばらくしたら、貴方もきっと楽が出来ると思うから。


 〈早速派手に動いてくれているようで、ありがとうございます。〉

 〈うん。私の滞在期間を考えると五日間でも時間が掛かり過ぎていると思ったからね。この後、もう少し依頼を片付けてこようと思っているよ。〉

 〈流石ですね・・・。本当に、こちらの事情に巻き込んでしまったと言うのに、ありがとうございます。〉


 マコトから強い感謝の感情を向けられているのが分かる。彼、もしかして向こうで実際に頭を下げていたりしないか?

 もしそうなら、その動作が人に見られていた場合、かなり珍妙な事になるぞ?


 〈気にしなくて良いよ。私が自分から関わろうと思った事だ。言ってみれば、これは一種の私の我儘だよ。〉

 〈その我儘に甘えるだけ、というにはいきませんから、僕等も出来る限りの事はさせてもらいますよ。それで、稽古の事なのですが、可能であれば明日から昨日話した条件で活動してもらう事になります。大丈夫ですか?〉

 〈問題無いよ。しっかりとこの街の冒険者達を鍛えようじゃないか。〉

 〈ありがとうございます。彼等の事、よろしくお願いします。〉


 義理堅く、責任感の強い人だな、マコトは。まぁ、無責任な人間だったら元からギルドマスターなどと言う重役にはつかずに今でも好き勝手に行動する迷惑極まりない人物になっていた事だろう。


 言い訳になるかもしれないが、私が自分の素性を公表して好き勝手に活動したとして、その責任はちゃんと取るつもりではいる。尤も、私なりに、という事になってしまうが。

 それは、私が自分の行動に納得をしたいからだ。好き勝手に行動しても良い、自分なりの理由が欲しいのだ。


 オリヴィエが依頼完了の手続きを全て終わらせたようなので、ギルド証と報酬を受け取りに行こう。

 彼女の事だ。私が来る前に予め報酬を用意した状態で依頼完了の手続きを行っていたに違いない。


 今回私が受注した依頼は、その9割が"上級"の依頼だ。

 どうせなら全部"上級"の依頼にしてしまっても、と思うかもしれないが、ギルドの規則上、必ず適正ランクの依頼を受ける必要があるらしい。そうでなければランク分けをした意味がなくなってしまうからだ。

 "上級"の依頼しかこなさない"中級"冒険者など、"上級"冒険者と変わりが無いし、反対に"中級"の依頼しかこなさない"上級"冒険者も、"中級"冒険者と変わらなくなってしまう。


 〈他に何か話す事はあるかな?依頼の完了手続きが終わったから、そろそろ行動を再開しようと思うんだ。〉

 〈分かりました。それでは、これで失礼します。〉


 問題無く『通話』が解除される。マコトは『通話』を使用するには魔術を補佐する魔術具が必要だと言っていたが、それを加味したとしてもしっかりと扱いこなす事が出来ているようだ。


 彼に余裕が出来るようになったら、今後、良い話し相手になってくれるかもしれないな。期待しておこう。

 勿論、余計な事を語って彼の心労にならないようにするとも。その点はしっかりと心に留めておこう。


 オリヴィエのカウンターへと向かい、ギルド証と報酬を受け取る事にする。


 流石に量が多かったからか、少々精神的に疲れが見て取れる。

 済まないが、もう少しだけ付き合ってもらうよ?


 「お待たせしました。ギルド証を返却、は再び依頼を受注するようですので、必要ありませんね。それでは、此方が今回の報酬になります。」

 「ありがとう。それじゃあ、さっき言った通り、依頼の斡旋を頼むよ。数は20件程でお願いできるかな?」

 「承知しました。少々お待ちください・・・。」


 今回の報酬額は金貨が70枚と銀貨が65枚だ。"上級"の依頼の報酬は大体金貨一枚が相場なのだが、当然報酬が相場を下回る時もある。

 理由は依頼主が単純にケチだからと言うのもあれば、予算的にギリギリであり生活も逼迫している者の依頼のためであったりもする。

 依頼を受付に斡旋してもらう場合、その辺りの判断も受付任せになるため、自分の性に合っていてかつ相場の良い依頼を受けたい場合は、掲示板に張り付けられた依頼を探す事になる。

 そして、それが早朝のギルドが混雑している原因である。普通は誰だって割の良い依頼を受けたいからな。当然の事だ。


 少しして受注手続きが終わったようなのでギルド証を返却してもらい、早速依頼を片付けていく事にする。だが、その前に一応確認を取っておこう。


 「ところで、依頼の受注は午後5時までにしかできないけれど、依頼達成の報告や報酬の受け取りと言うのは、何時まで出来るのかな?今まで夕方以降は冒険者として活動していなかったから知らないんだ。」

 「依頼の報告の最終受付時間は午後9時30分となっています。午後11時には冒険者ギルドを閉じますので。」

 「それなら問題なさそうだね。行って来るよ。なるべく早く戻って来るから。」

 「行ってらっしゃいませ。・・・・・・7時5分には査定も終らせてここに戻って来そうね・・・。」


 冒険者ギルドを去り際に、オリヴィエが小声で呟いていたが、私も多分そのぐらいで戻って来れると思っている。

 と言うか、その気になればもっと早くに戻る事も出来るが、今度は驚かせないように彼女の予想通りの時間に帰ってくる事にしよう。


 今回受けた依頼も同じく討伐依頼を中心に僅かな採取依頼だ。

 相変わらず"上級"の依頼が多い。今回は"上級"が15に"中級"が5件である。手早く終わらせてしまうとしよう。




 で、時刻は午後7時05分。オリヴィエの予想を裏切る事なく、私は今彼女の目の前にいる。

 だが、正確に時間通りに来過ぎてしまったらしい。


 「あの、ノア様?ひょっとして私の呟き、聞こえてたりしました・・・?」

 「うん。聞こえてたりしたね。耳の良さには自信があるんだ。ああ、後嗅覚にも自信があるよ。」

 「そうですか。失礼しました・・・。」

 「気にする事は無いよ。それに、そんな調子で他の冒険者とも会話をしていけば、貴方の所にも間違いなく人は来る筈だよ。」

 「大丈夫、でしょうか・・・?ちゃんと、相手を不愉快にさせる事なく対応できるでしょうか・・・?」


 ううむ?何やらオリヴィエは他人を不愉快にさせる事に対して怯えのようなものがあるみたいだ。過去に何かあったのかもしれないな。

 尤も、それを聞くのは野暮と言うものだし、失礼が過ぎるだろう。私達は互いの過去の話を話し合えるほど親密にはなっていない。


 だた、私なりのアドバイスは出来る。


 「冒険者に気持ち良く依頼をこなしてもらうには、不愉快にさせない事が大事かもしれないが、貴女は他人に気を遣い過ぎだよ。不愉快にさせてしまっても良いのさ。お互い人間なのだから、思った事は言ってしまって良いと思うよ?」

 「ですが・・・。不愉快な思いをさせて相手に嫌われてしまったら・・・。」

 「言葉で相手を不愉快にさせてしまうのなら、その言葉の内容に理由が、そしてその発言に至るのにも、当然理由がある。貴女は、理由も無く悪戯に他人を侮辱するような人なのかな?」

 「いいえ。このオリヴィエ=ラナ=ファングダムの名に誓って、決してそのような事は致しません!」


 おーい、オリヴィエー。自分で正体を名乗ってしまっているよー。


 この娘、大丈夫なのだろうか?話をしていると、とても誠実な人物だという事が分かってきたのだが、それでいてかなり無防備な娘でもあるみたいだぞ?

 危ういな・・・。良からぬ考えを持った者に利用されなければ良いのだが・・・。


 いや、まさかこの娘がここで受付嬢をしているのも彼女自身の意志ではなく、良からぬ事を企む者の意思によるものだった場合があるのか?


 そもそも、彼女の目的がティゼム王国の真の財源の秘密を探る事だったとして、何故その必要がある?ファングダムは密かに他国の財源を必要とするような状況に陥っているとでも言うのか?


 ・・・駄目だな。今ここで考えても答えなど見つかる筈も無い。仮に今私が想像したような状態にファングダムが陥っていたとしても、まずはこの国の、カークス家が抱えている問題を解決しない事には始まらないのだ。


 とりあえず、オリヴィエに今の発言を注意しながら話を進めよう。


 「オリヴィエ。自分の正体は伏せているんじゃなかったのかい?既に知られているとは言え、フルネームを名乗るべきじゃないんじゃないかな?」

 「あっ!?・・・その、これは・・・!」

 「まぁ、今は特に人の少ない時間帯のようだから、私以外の者には誰にも聞かれていないよ。だけど、今後は注意した方が良い。」

 「は、はい・・・。気を付けます・・・。」

 「それと、先程の会話の続きだけどね。貴女に非が無く、それでもあなたの言葉で相手が不愉快になったと言うのなら、それは相手に非があるんだ。そういった相手に、無理に好かれる必要は無いと思うよ?」

 「好かれる、必要が、無い・・・?」


 これは、オリヴィエは誰か個人に好かれようとしていたのだろうか?そしてその人物には自分の発言で嫌われてしまったか?

 だが、この娘の非の無い発言でこの娘に対して不愉快になったと言うのなら、そんな相手はオリヴィエにはふさわしくないだろう。私なら[出直して来いっ!]、と死なない程度に尻尾で弾き飛ばしているところだ。


 「無いよ。例えそれが何者であれ、貴女はその人物に好かれる必要は無い。そしてこれも言っておこう。貴女が今の姿勢を貫く限り、私は貴女に好感を抱き続ける。貴女個人の味方でいるとも。」

 「ノア、様・・・。ありが、とう・・・ござい、ます・・・。」


 彼女にとっては落涙するほど大きな事だったようだ。

 とても優秀で、周囲からは慕われているようだが、彼女の身近な者達からは私が思っているような評価では無いのかもしれないな。


 とりあえずオリヴィエの頭を撫でて落ち着かせよう。


 右手で頭を撫でていると、たまに右手が彼女の耳に当たり、ボリュームのあるふさふさでサラサラな毛の感触が伝わってくる。


 これは・・・いかんっ!


 ここ最近、ずっとモフモフを堪能していなかった私にとってこの感触は私の理性を崩しかねないっ!なんて危険な娘なんだっ!?

 耐えろ私!今はオリヴィエを慰める事に集中するんだ!我欲に溺れてしまうわけにはいかない!

 

 「ぐすっ・・・、ふふっ、こうして優しく誰かに撫でてもらったの、何時ぶりでしょうか・・・?とっても、落ち着きます・・・。」

 「それは良かった。貴女がどんな経験をしてきたかなんて私には知る由も無いし、それを今聞こうとも思わないよ。だけど、辛くなったら私を頼ると良い。この国に、王都に滞在している間は貴女個人の助けになるよ。」


 落ち着きを取り戻し、元気が出たみたいで良かった。オリヴィエは今、とても自然な表情でほほ笑んでいる。この表情が常日頃自然に出来れば、間違いなくこの冒険者ギルドでも人気ナンバーワンの受付嬢になれるだろうな。それだけ今の彼女の表情は魅力的に感じる。


 が、ここで更にこの娘は追い打ちを仕掛けてきた。


 「はいっ!ありがとうございますっ!」


 そう言って屈託のない笑顔を私に向けてきたのだ。私から見てもその表情はそう、先日知り合った"中級"冒険者アフモの言葉で言うなら[破壊力がやべえ]、と言うやつである。


 「今の貴女はとても素敵な表情をしているよ。その表情が自然に出来ればケーナにだって負けないぐらい人が来るさ。」

 「えっ?わ、私、今そんな表情していましたか・・・っ?」

 「ああ、やっぱり無自覚なのか。うん。していたけど、無理に表情を作る必要は無いからね?いつも通りの表情で、気持ちが動いたら、その気持ちに正直になっていれば、表情なんて意外とすぐに変わるものだよ。」

 「そうなんですね・・・。ノア様、ありがとうございました。」


 そう言って頭を下げるオリヴィエの表情は驚いた事に自然体の微笑である。

 つい先程まで一貫して無表情だったと言うのに、凄い変わりようだ。だが、当然の話、今の表情の方が断然良いに決まっている。不思議と良い事をした気分だ。


 「私は私の思った事を伝えただけさ。それじゃあ、今日のところはアッチで素材を放り込んだら失礼するよ。また明日。」

 「はい、また明日、お待ちしております。」


 まるで別人のようになった声色で別れを告げられながら、私は常設依頼の納品物を魔術具に放り込んでいった。


 扱い方は本当に簡単だ。差し込み口にギルド証を差し込むと一辺が80センチほどの正方形の口が開くので、そこに無造作に素材を放り込んでいくだけで良いのだ。

 それだけで納品物の品質が規定値を満たしていれば依頼達成の扱いになるし、舌にある排出口から報酬が出て来るのだ。正直非常に便利である。


 今日の依頼で達成した依頼件数は常設依頼も含めれば何と152件分の依頼達成扱いとなってしまった。報酬金額は総額で金貨88枚と銀貨15枚だ。

 これならば例え冒険者達に午前と午後、稽古をつけたとしても問題無く3日間で"上級"へと昇級できる。


 明日は何の気兼ねも無く冒険者達を鍛えられそうだな。さて、何人の冒険者が来るだろうか?少し楽しみだ。

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