第129話 静寂の中での決定

 ユージェンやマコトが言っている信頼のおける貴族というのは、マクシミリアンの妻と娘であるアイラとシャーリィで間違いない筈だ。

 もしこれで違っていたら、いきなり見当違いの事を宣言しだす痛々しい女、と思われてしまうな。

 だが、私の予測は間違っていなかったようだ。


 〈既に・・・彼女達と知り合っていたのですか・・・?そうかっ!昨日話していた貴族らしき人というのが、アイラの事だったんですね!〉

 〈行動が早すぎるだろ・・・。何だって貴女はそうあれこれと狙ったように厄介事の中心へ突っ込んでいくんだ・・・。〉

 〈言っておくけど、私からアイラに会いに行ったわけでは無いよ?偶々夕食で相席を取る事になったのがアイラだ、というだけの話さ。まぁ、アイラの方は元から私に会うつもりだったようだけどね。〉


 マコトもまさか私が夕食で知り合った人物がアイラだったとは思ってもみなかったようだ。

 ユージェンなんかはかなり呆れかえっているな。彼からは私は意識せずにトラブルを生み出す存在だと思われてしまっているようだ。

 別に私から彼女に近づいて行ったわけでは無いのだから、その辺りはちゃんと理解してもらおう。


 私の台詞から、アイラの方から私に近づいてきた、というニュアンスを感じたマコトが疑問を抱いたようだ。


 〈あの、ノアさんがこの街に訪れた初日に、アイラが既にノアさんの事を知っていた、という事ですか?〉

 〈どうだろう?もしかしたら、彼女はもっと早くに私の事を知っていたのかもしれないね。そしてそれは、マコト。貴方の行動が原因でもあるよ。〉

 〈えっ?・・・あっ!そうかっ!彼女なら複数の騎士と繋がりがある!〉

 〈うん。実を言うと、この街に着いた日に宿を探す際に巡回騎士に宿を紹介してもらってね。後で聞いてみれば、私が王都に来る前から私の事を知っていたと言うじゃないか。マコトが彼等の上官に情報を流したんだろう?〉


 この際だから巡回騎士達の上官が私の事を知っていた理由を、マコトに訊ねて確認してみる。

 多分、私が王都に着くまでの五日間、マコトはかなり深刻な事態として捉えていたんだろうなぁ・・・。


 〈ええ、そうです。自慢になってしまいますが、僕も昔は結構色々やっていましたからね。結構な数の騎士と知己を得ているんです。今回はその時に得た信用を利用させてもらいました。〉

 〈で、ノアの事を深刻に捉えた騎士が、部下に丁重に扱うようにと通達したわけだな。んで、巡回騎士には報告の義務があったはずだから、ノアの事もその日のうちにすぐに通達をした騎士にも伝わる、と。〉

 〈アイラは淑やかに見えて結構お転婆なところがありますからね。実力のある名前の知らない冒険者の情報を知ったら、会いたくなると言うのも頷けます。〉


 流石は年上。多分、アイラの事は彼女が子供の頃から知っていたんだろうな。もしかしたら、内心娘のように扱っているのかもしれない。


 だとしたら、巻き込みたくない筈だな。子を思う親の気持ちというヤツか。

 だが、彼女はもう子供ではない。というか、娘だっているのだ。その娘すら、既に結婚相手を探すような年になっている。

 私が言っても何の説得力も無いが、危険や厄介事から極力遠ざけようとするのは、過保護が過ぎるのではないだろうか?


 にしても、アイラもお転婆な娘だったとはな。彼女は娘が父親に似たから求婚してきた相手を返り討ちにしたと言っていたが、マコトの話を聞いた今では、アイラにも十分似ているんじゃないだろうかと思ってしまう。


 まぁ、それは今は良い。そういった話をするのは、彼女達の抱えている問題を解決した後にしよう。


 〈ノア、彼女達の抱えている問題、と言ったな?貴女は彼女達の事情を把握しているのか?〉

 〈ああ、昨日宿を紹介してくれた巡回騎士と再び出会ってね。彼女達の事を教えてもらい、気に掛けて欲しいと頼み込まれた。〉

 〈それが、僕に話そうと思っていた厄介事ですか・・・。ですが、アイラはともかく、シャーリィは貴族街にある学校に身を置いています。気に掛けて欲しいと言われても難しいんじゃないですか?〉


 だよな。私もマックスと話をしていた時にそう思っていたよ。あんな願いをされるなどとは思ってもみなかったからね。

 確かに興味はあったが、まさかこんなに早く学校とやらに関わるなんて、本当に想像していなかったんだ。


 〈それなんだけど、その巡回騎士からはもう一つ頼み事をされていてね。こっちの方は巡回騎士の、というよりも、彼の上官からの願いみたいだ。〉

 〈何を頼まれたんだ?〉

 〈ああ、もしかしてグリューナの件ですかね?最近、ミハイルから彼女が増長してきて困っていると、愚痴を聞かされる事が多いんですよ。〉


 マコトが私がされた願い事に当たりを付ける。彼は騎士とも親しいからな。悩みがあるのなら打ち明けられていても不思議ではない。


 というか、問題の騎士は女性だったのか。

 いや、性別でどうこう言うつもりは無いのだが、マックスの話しぶりだと無意識に男性とばかり思っていたのだ。


 〈名前は聞いていないけど、最近増長している竜人ドラグナムの騎士がいるから、その騎士を何とかして欲しいと頼まれたよ。正式に指名依頼も出すそうだよ?〉

 〈ああ、じゃあそれで合っていますね。〉

 〈グリューナ・・・。確か、宝騎士だったな・・・。確かに、彼女が増長していて、それを大人しくさせる事が出来ると言うのなら騎士は勿論の事、大勢の貴族からも信用を得る事が出来る。〉

 〈そう。で、その信用でもってシャーリィが通う学校で臨時教師を務めて欲しいんだってさ。〉


 非常に大雑把な計画だとは思うが、大体はそんなところだ。

 その先の事は特に聞いていないので、学校に入る事が出来たら後の事は私の判断に委ねる、という事なのだろう。行き当たりばったりが過ぎると思う。


 そんな事よりも気になる単語が出てきたな。


 宝騎士、とは何ぞや?グリューナとやらの肩書きか何かか?


 〈また随分と無茶な要求を・・・どれだけ力があっても"中級インター"冒険者が受けて良い依頼じゃないぞ・・・。〉

 〈それについても話はしているんだけど、その前に教えて欲しい。ユージェン、宝騎士というのは?〉

 〈ん?ああ、貴女は騎士にはあまり詳しくは無いのか。宝騎士というのは、騎士の階級の一つだよ。〉


 騎士に階級がある事自体は知っていたのだが、その階級がそれぞれどのように呼ばれているかなどは知らなかったからな。この際だから聞いておこうか。


 〈騎士と関わる以上、騎士の事も良く知っておく必要があるね。名称だけで良いから、騎士の階級によってなんて呼ばれているか教えてもらえる?〉

 〈構わないよ。下から準騎士、二等騎士、一等騎士、大騎士、宝騎士、そしててん騎士の六つの階級だ。と言っても、巓騎士は世界で唯一人、マクシミリアン=カークスのみだったのだけどね。〉

 〈宝騎士と呼ばれている理由は、彼等宝騎士の存在が人類の宝と言われているからですね。〉


 なるほど。それぞれ呼ばれ方に理由があるようだ。

 そしてマクシミリアンの階級。巓、すなわち頂き。騎士としての頂点と言ったところか。彼にのみに与えられた称号というわけだ。


 〈実質、宝騎士が騎士にとっての最上位と考えて良いのかな?〉

 〈ああ、その考え方で合っている。実際のところ、マクシミリアンと他の騎士とでは実力に大きく差が開いていたからな。ちなみに、"楽園"へ向かったカークス騎士団員達は全員漏れなく宝騎士だった。その実力は一人一人が"一等星トップスター"に届きうる実力だと言って良かっただろう。〉

 〈勿論、カークス騎士団と言えど、皆が皆、宝騎士だったわけではありません。入団したばかりの者は、一等騎士の者もいますからね。〉


 騎士というだけでも相当な実力者だと言うのに、最低でも騎士として中堅と言えるような実力者でなければ入団できない騎士団だったようだ。

 カークス騎士団は、人間基準で言ったらとてつもない戦力だったんだろうな。


 では、そろそろ話を戻そうか。


 〈説明してくれてありがとう。さて、ユージェンが言った通り、私も"中級"冒険者風情が貴族の学校に教師として入る事など出来るとは思っていない。その事を伝えたら、これまた無茶な要求をしてきたよ。〉

 〈まさか、"中級"で駄目なら"上級"でって事ですか?ノアさんに早急に"上級"になれと・・・?〉

 〈なんだソイツは・・・ふざけているのか・・・!?たった数日で"上級"に昇級するなど・・・!ああ、クソッ!前例がノアの目の前にいやがるっ!〉

 〈まぁ、ノアさんなら出来てしまうでしょうねぇ・・・。僕ですら出来た事ですから。ええ、イスティエスタと同じぐらいのペースで活動してもらえば、五日程度で昇級できてしまいますよ。〉


 二人とも察しが良いな。話が早くてとても助かる。


 そして、やはりマコトはかなりのハイペースで依頼をこなしていたようだ。少なくとも、一週間ほどで"中級"から"上級"に昇級したと見て間違いないだろう。


 〈ちなみに言うと、"上級"への昇級条件は250回分の依頼の達成だ。ノアならば一日で50件分の依頼を達成する事など造作も無いだろう。貴女にとって、"中級"の依頼も、"上級"の依頼もそう変わらないものだろうからな。〉

 〈昨日受けた5件の依頼の難易度程度ならそうだね。ああ、そうだ。その昨日受けた依頼でマコトに報告しておきたい事があったんだ。というか、今回の件にも少し関わっているんだけどね。〉

 〈こ、ここから更に状況がややこしくなっていくのか・・・。〉


 そう。昨日私が受けた依頼はとてもでは無いが"上級"がこなせるようなものではなく、適正ランクは"二つ星ツインスター"の依頼があったのだ。


 依頼内容は血頭小鬼ブラッディゴブリン森猪鬼フォレストオーク、それぞれの集落の壊滅。どちらも単体で"上級"ランクの魔物だ。


 この二つの依頼は同じ村、同じ人物から出された依頼であり、村ではこのに種族の魔物の被害が既にそれなりの件数出ていたのだ。

 村は領主の方針で意図的に貧しい状況を強制されていて、とてもでは無いが自分達の力だけで解決する事など出来はしなかった。


 そのため、領主に状況を報告し対応を願い出たのだが、帰ってきたのが金貨三枚で冒険者に依頼を出せ、という指示である。


 領主の名はインゲイン=ヘシュトナー。大の騎士嫌いで有名な侯爵である。



 私は昨日の冒険者としての活動を説明しながら、ヘシュトナー侯爵の村に対する振る舞いをマコト達に丁寧に説明した。


 〈アイツかぁ・・・。あんの野郎・・・マジで禄でもねぇ事を・・・。〉

 〈あの狡いインゲインの事だからな。大方、依頼を達成した冒険者を自分んトコに懐柔するためにワザと少ない金しか村長に渡さなかったんだろうぜっ!ホンット、アイツブッ殺してぇ・・・。〉


 おいおい、ブッ殺したいとは、随分と穏やかじゃないな。『通話コール』でマコトと繋げてからユージェンがかなりはっちゃけているように感じられる。


 それはそれとして、ユージェンの言っていた懐柔というのは、どういう事だ?ワザと少ない金を渡した?


 ええ、と?どう考えてもあの依頼は"上級"冒険者では達成できない。適正ランクは"二つ星"。だが依頼のランクのせいで"二つ星"は受注できない。受注できるのは"上級"か"星付きスター"・・・・・・。


 ああっ!そうか!つまりあの依頼をこなせる者は将来超が付くほど有望な冒険者だと嫌でも分かるという事かっ!

 で、後で素知らぬフリをして依頼を達成した冒険者を手厚く迎えて自分の傘下、あるいは贔屓にさせる、と。


 掛かった費用はたった金貨3枚。確かに金も掛けずに優秀な冒険者を見つけるには有効な、というよりも効率的な手段ではあるが・・・。


 いくら何でもケチが過ぎるだろうっ!?侯爵だぞっ!?

 これではユージェンが狡いと言うのも当然だ。ブッ殺したいと言っていたという事は、以前にも似たような事があったのだろうな。


 しかも、私の仮説が当たっている場合、ヘシュトナー侯爵の耳に私の情報が入っている事になる。

 元より事を構えるつもりではいたが、このままでは本当に禄でも無い事になりそうだな。気は進まないが、早めに行動を起こした方が良いだろう。


 〈どうやら、ヘシュトナー侯爵には私の情報が行き渡っていると考えた方が良さそうだね。先手を打たれないためにも、早速行動を開始しようと思うよ。〉

 〈間違いなくノアの事は耳に入っているだろうが、先手・・・?〉

 〈カークス家に良からぬ事を企んでる筆頭なんだよ、アイツは。奴は大の騎士嫌いだったからな。マクシミリアンが亡くなって、ここぞとばかりに活動しようとしてんだよ。今んとこ、俺が色々と裏から手をまわして潰しているがな。〉

 〈っ!アイツッ・・・!マジで俺が屋敷に忍び込んで、サクッとヤッて来てやろうか・・・!〉


 イスティエスタで話をしていた時とは、まるで別人のように過激な人物だな、ユージェンは。その気持ちがまったく分からないわけでも無いが。


 だが、如何にユージェンが優れた斥候として活躍していた冒険者であったからと言って、高位貴族の屋敷の警備を掻い潜り、当の本人だけを暗殺して帰ってくると言うのは、無茶が過ぎるだろう。

 ユージェンも気持ちを露わにしただけで本気でやるつもりは無いだろうし、ヤるなら私がやるさ。その方が後腐れがなくていいだろう。


 で、マコトはここでも色々と何かやっていたらしい。優秀なのは良いんだが、それも多忙である理由の一つだな。

 多分、ヘシュトナー侯爵だけでなく、他にもよからぬ企みをする者達の動きも、見つけ次第潰しているのだろう。本当に、マコトは働きすぎだ。

 だが、彼以外にそれが出来る者が王都にいないのだろう。


 私の今後の活動方針が決まったな。


 まずは多数の依頼をこなして早急に"上級"へと昇級する事。

 次に、五大神に訊ねてマコトの後継者に相応しい人物を紹介してもらう事。

 そして、カークス家に良からぬ事を企む者達の調査、及び排除だ。


 〈マコト、貴方のギルドマスターとしての権限で、一度に大量の依頼を受注できるように取り計らってもらう事は出来るかな?〉

 〈それぐらいはお安い御用です。そもそも、ここのギルドの職員には五日間、口を酸っぱくして貴女の事を伝えましたからね。大量の依頼を受注させるよう、僕が受付達に通達しても自然と納得してくれますよ。〉

 〈その結果、貴方には大きな負担をかけてしまう事になる。それに関しては、本当に申し訳ない。〉


 改めて誠に謝罪しておく。

 自業自得とは言え、聞けば聞くほどマコトには仕事が山積みになっているのだ。そしてそれは、現状彼にしかこなせない仕事であり問題でもあるためだ。


 だからマコトの負担にならないようにと心掛けるつもりだったのだが、そうも言っていられないのが現状だ。本当に、申し訳ない。


 〈謝罪は先程聞きましたよ?それに、ノアさんが協力してくれると言うのなら、これまでこの国が抱えていた問題を、一気に解決できそうですからね。むしろ、ジャンジャン活躍してしまって欲しいぐらいですよっ!僕の事なら気にしないで下さい!このぐらいの事なら慣れてますので!〉

 〈ま、事態が事態だからな。別れ際には手加減してやって欲しいと頼んだが、遠慮をする必要は無いだろう。私からも頼む。思いっきりやってくれ。〉

 〈お前、そんな事頼んでたのかよ・・・。通りで最初から優しい対応をしてくれると思ったわけだ・・・。〉


 ふむ。確かにマコトに優しくしようと最初に思っていたのはユージェンから手加減してやって欲しいと頼まれたからだ。その彼が思いっきりやってしまって良いと言うのなら、本当に遠慮しないよ?


 〈分かったよ。では、遠慮なく活動させてもらうとしよう。勿論、街に影響が出ない範囲でね。〉

 〈助かる・・・。それじゃあ、この辺りで私は失礼させてもらっても良いかな?この際だ。私の方でも色々と問題のありそうな貴族連中を洗ってみるとしよう。〉

 〈ワリィが、頼めるか?最近連中も慎重になり始めてな。なかなか尻尾を掴めなくなってきてるんだ。〉

 〈一つ貸しだぞ?じゃあな。・・・って事でノア、『通話』を切ってくれると有り難いんだが・・・。〉

 〈ああ、色々と相談に乗ってくれてありがとう。私の方でも依頼をこなす以外にも色々と動いてみるよ。それじゃ。〉


 そう言って『通話』を解除する。


 「早速依頼を受注してこようと思うよ。冒険者達の稽古は今日はまだやらなくて良いのだろう?」

 「えっ?そっちもやってくれるんですか・・・?ひとまずは保留にしていただいても良いんですよ・・・?」


 ああ、マコトとしては長時間時間を取られてしまう稽古の依頼は私の"上級"となるための活動の阻害となってしまうと考えたのか。


 気を遣ってくれるのは嬉しい。だがね、その気遣いは不要だ。


 「見くびらないでもらいたいものだね。私のイスティエスタでの活動はあくまで手加減をした状態のものだよ。その気になれば一日で100件以上の依頼をこなして見せるとも。私の足の速さならそれが可能だ。」

 「そ、そうですか・・・。いや、まぁ、依頼は山のようにあるのでメッチャありがたいのですが・・・。はぁ・・・これ今回の件が解決しても王族から色々と言われそうだなぁ・・・。」


 ほう、王族ときたか。どんどん話が大きくなっていくな。


 ん?そういえば、この国の王族は、オリヴィエが受付嬢をしている事実を知っているのか?王族ならば当然、人工採取場の事を知っているだろうし、仮に他国の王族がこの国の冒険者ギルドの受付をしていたら、事態を深刻に受け止めていても良い筈だと思うのだけど・・・。


 「マコト、その王族たちは、オリヴィエの事は?」

 「当然、知っていますよ。彼女が面接に来たその日に報告しましたからね。で、なかなかに無責任な事に、僕に対応を丸投げしてきたってわけです。ま、僕ぐらいしか対応が出来る者がいないと言うのが原因だし、そうしてしまったのは僕自身のせいなので、あまり文句は言えないんですけどね・・・。」

 「若い時は本当に活発だったんだね。貴族どころか王族もかい?」

 「ええ、まぁ・・・はい・・・。ホント、調子に乗り過ぎました・・・。」


 気まずそうにマコトが俯く。頼られるのが嬉しかったのだろうか。数十年も冒険者として活動していたみたいだらな。きっと、知っている者は親子どころか孫の代まで知れ渡っていてもおかしくない。


 だが、彼はもう十分にツケを払った頃だろう。そろそろ楽にしてやらないとな。


 「それじゃ、早速依頼を受けてくるとしよう。マコト、悪いけど、受付に通達を頼めるかい?」

 「ええ、ちょっと待っててくださいね・・・。良し。これで受付達には通知が行き渡っていますので、今から依頼を受けに行けば大量の依頼を受注してくれますよ。」


 マコトが『収納』から初日に会った時に用いていた板を取り出して、板に指を這わせたり軽く叩いたりした後、受付に通達が終わったと告げられた。


 あの板はそんな事まで出来るのか。便利なんてものじゃなさそうだが、あの板でギルド職員達に連絡を行ったという事は、アレと同じような物が受付達の所にもある、という事だよな?

 おそらく、マコトの故郷の技術や魔術具を利用したものだとは思うが、マコトの故郷は一体どれだけ文明が発達しているのだろうね?


 彼のこれまでの会話の内容から、娯楽文化もとても発展しているようだし、叶う事ならば一度でいいから遊びに往ってみたいものだ。

 まぁ、少なくとも彼の故郷がどこにあるかも分からない現状、どうやっても無理な話ではあるが。心の片隅ぐらいに留めておこう。


 「ありがとう。行って来るよ。」

 「よろしくお願いします。」


 深く頭を下げたマコトを背に、執務室を後にする。


 時刻は午前9時40分。時間はたっぷりある。ガンガン依頼をこなすとしよう!

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