第128話 繋がり始めたそれぞれの事情

 場所は再び執務室。ここからは厄介事の臭いしか感じない話をする事になる。


 少々辟易としながら部屋に入ってみれば、既に戻って来て本来の姿に戻っていたマコトから盛大に感謝された。


 「ノアさん!今回の件!本当にありがとうございました!これで悪臭や汚れで気分を悪くしていた職員達も浮かばれると言うものです!」

 「それは良かった。だが、世の中は残念ながら楽しい事ばかりではない。そろそろ昨日伝えていた厄介事の話を始めようか。」

 「そうですね。はぁ・・・ノアさんが王都で活動する以上、確実に厄介事が起きるとは予想していましたが、まさか昨日の今日で既に厄介事に巻き込まれてしまっているとは・・・。」


 マコトは初めから私が厄介事に巻き込まれると予想していたようだ。

 若い頃から冒険者として貴族に関わっていたマコトだからこそ、私のような存在を貴族や騎士が放っておくわけが無いと考えたのだろうな。

 実際、昨日の時点で騎士に願い事をされているのだし。


 まぁ、マコトは事前に騎士に私の事を伝えていたようだし、その辺りはマコトが原因と言えなくもないわけだが。

 結局は遅かれ早かれ、今のような状況になっていたのだろう。


 そう考えれば、滞在期間を延ばすつもりの無い私にとって早い段階で厄介事がある事が分かったのは、むしろ好都合なのかもしれないな。

 厄介事があるのが分かっているのなら、さっさとその厄介事を片付けて、残りの時間をのんびりと過ごす事が出来るのだから。


 ただ、それはマコトにとって間違いなく大きな負担になってしまう。

 しつこいが、彼にはちゃんと謝っておかないとな。


 「マコト。昨日の時点ではあまり派手に動かずにのんびりと過ごすつもりだったのだけど、そうもいかなくなってしまった。結果、貴方に大きな負担をかけてしまう事になってしまう。本当に申し訳ない。」


 一度立ち上がり、頭を下げる。彼に対してはそれなり以上に敬意があるからな。私なりの礼儀だ。

 彼には言っていないが、なるべくなら負担にならないよう、優しくしようと思っていた私自身の目標を反故にする事への、ケジメでもある。


 「ちょっ!?ノ、ノアさん!?頭を上げて下さいっ!大丈夫ですからっ!」

 「例え貴方が大丈夫であっても、私は貴方の負担にならないように心掛けようと思っていたんだ。それを反故にする以上、ケジメはつけるべきだ。」

 「い、意外と律儀というか、頑固なんですね・・・。僕が忙しくなってしまうのは今に始まった事じゃないんで今更なんですが・・・。」


 いかんな・・・。マコトは今の多忙な状態が普通だと思ってしまっている。

 それは良くない。彼の能力が高いから問題無くギルドもその周りも成り立っているが、彼が後継者も無く引退する事になったり突然いなくなってしまったりした場合、一気に王都の冒険者ギルドは大混乱に陥ってしまうぞ。最悪、ギルドが機能しなくなってしまうまであるかもしれない。


 やはり今日にでも依頼で王都から離れた場所で、人智を越えた存在に彼の後継者について尋ねてみるとしよう。


 「マコト。今の貴方の状況は間違いなく普通じゃないよ?昨日魔物の素材を買取所で卸させてもらったけど、その時にバウフマンが言っていたよ?貴方ぐらいの年になってまで多忙な状態になりたくないって。」

 「うぐぅっ・・・。バウフマンのヤツ、そんな事考えてたんですか・・・?」

 「私としてはバウフマンの意見の方が正しいと思うけどね。寿命の長い妖精人エルブ窟人ドヴァークならともかく、一応貴方は庸人ヒュムスで通っているのだろう?引退時期が近いと言うのに多忙だったら、辟易とするのは当然だよ。」

 「うぐぅ・・・。忙しいのが当たり前だった自分の環境が恨めしい・・・。」


 もしかしてマコトは故郷にいた時から多忙な生活を送っていたのだろうか?

 そしてその生活を基準にして活動していたから、此方に来た時からずっと忙しくしていた、と?

 この分だと、彼の冒険者としての活動も、イスティエスタでの私の活動の事をとやかく言えないぐらいのハイペースで依頼をこなしていたかもしれないな。


 まぁ、それは今は置いておこう。そろそろ本題に入らせてもらう。


 椅子に座り直して話を進めよう。まずはオリヴィエについてだ。私の考え過ぎでなければ、一番平穏に話が片付くからな。


 「さて、マコトの仕事量については一旦置いておくとして、そろそろ本題に入ろうか。まずはこのギルドの受付で働いている、オリヴィエについてだ。」

 「彼女がどうかしましたか?愛想は悪いかもしれませんが、彼女は極めて優秀な職員ですよ?ひょっとして、ノアさんに無礼を働きましたかっ!?」


 やはりマコトから見てもオリヴィエは非常に優秀なのだな。

 だが、マコトのこの反応は、まさか彼女が他国の王女だという事を知らないとでも言うのか?あり得るのか?他ならぬ王都の冒険者ギルドのギルドマスターだぞ?


 いや、待てよ?確か彼がユージェンから聞いた私の活動の中には、私がこの国の真実に気付いて誓約を行った事は入っていなかったな。

 あの時は誓約の事を知らされていない事をどうでもいいと思っていたが、全然どうでもよくなかった!むしろ大問題だった!


 とにかく、私の持つ情報で話をしてしまったが、マコトとしては私がこの国の真実を知っている事実は、知らないと見て良い。だからオリヴィエの事も私が危惧しているとは思っていないという事か。


 「あー、彼女の対応についてはもう少し愛嬌があった方が個人的には好感が持てるんだけどね?対応自体は問題無かったよ。」

 「それでは、他に何か問題が?」

 「ちょっと待っててくれるかい?確認を取るから。」


 そう言ってマコトに断りを入れてから『通話コール』を発動させる。相手は勿論、誓約の事を知っているユージェンだ。

 王都の問題でイスティエスタのギルドマスターに質問するのは、正直どうかと思うのだが、事情が事情だけに、今回は大目に見てもらうしかない。


 〈うん?この音は一体・・・?いや、この感覚は・・・。〉

 〈ユージェン、悪いんだけど、ちょっと至急確認したい事があるんだ。今、時間に余裕はあるかい?〉

 〈・・・はぁ・・・ノア・・・王都の事は、出来れば王都の者に聞いてもらいたいんだが?・・・何かあったのか?〉


 うん、本当にね。私も出来れば王都に来てまでユージェンに手間を掛けさせたくはなかったよ。

 だが、この事はユージェン以外ではエネミネアにしか聞く事が出来ないからな。申し訳ないが、諦めて欲しい。

 ユージェンのエネミネアに対する溺愛ぶりを考えれば、彼女に負担が掛かる事はユージェンならば避けようとするだろうからな。


 〈それが、マコトには聞く事が出来ない事でね。誓約がらみの事なんだよ。〉

 〈つまり、人工採取場に関係する内容だと?確かに、それはアイツには話せない内容だな。〉

 〈一応聞くけど、マコトも人工採取場の事は知っているんだよね?〉

 〈当然だよ。アイツもこの国に所属している立場だからね。知らない筈が無い。だが、アイツには貴女がこの国の真実に到達している事を知らないからな。〉


 やっぱりマコトもちゃんと人工採取場の事を知っているようだ。

 だとすると、ますますわからないな。なぜ冒険者ギルドの受付なんて言うこの国の経済の中心ともいえる資材に関わるような立場につかせているのだろうか?


 やはり、ユージェンに聞くのが一番だろうな。

 それはそれとして、ユージェンはオリヴィエが冒険者ギルドの受付嬢をしている事を知っているのだろうか?


 〈さて、本題に入る前に確認しておくけど、ユージェン。貴方はファングダムの王女、オリヴィエの事は知っているかい?〉

 〈当然だろう。彼女は第二王女であるにも関わらず、非常に優秀で国の内外の様々な行事に出席しているんだ。彼女の顔は多少の変装をしていた所でどうにもならないぐらいには、多くの人間に知れ渡っているよ。〉

 〈見た目は狐の因子を持った獣人ビースターで、ややツリ目。金色の瞳に金の体毛。毛先へ行くにつれて体毛は白くなっている、これで合ってる?ああ、後、直接話をした印象だと、かなり事務的な対応をする人だったね。〉


 オリヴィエの特徴を述べながら確認を取る。万が一にも他人の空似という事があり得るからな。もしも違っていて受付嬢をしているオリヴィエが只の他人の空似であったのならば何ら問題は無いのだが、結果は。


 〈ああ、それで間違いない。というか、実際に会って会話をしたのか!?何時、何処でっ!?いや、当然王都で出会ったのか。だが!そうだと言うのならば、何故彼女がそこにいるっ!?彼女が出席するような行事など、ここ一ヶ月の間では何もなかった筈だっ!しかも、貴女が私に連絡を入れてきたという事はつまり、彼女が人工採取場に関わっているという事かっ!?〉


 おい、これ結構拙い事なんじゃないのか?マコト、ユージェンはオリヴィエがこの国にいる事を知らなかったようだぞ?

 というか、彼女は何時からこのギルドに勤めているんだ?


 〈ユージェン、ちょっと確認を取ってみる。〉

 〈確認?〉

 「マコト。オリヴィエは何時からこのギルドに勤めているのかな?」

 「?大体三ヶ月ほど前からですね。それがどうかしましたか?」

 「・・・彼女が受付嬢をする動機を聞かせてもらっても?」

 「社会勉強らしいですよ?自分の国では気を遣われて過ぎてしまい、仕事にならないそうです。まぁ、彼女は外の国でもとても有名ですから、外国へ行ってもあまり意味は無いんですけどね・・・。ノアさん?」


 この問答から、マコトもオリヴィエがファングダムの王女である事は理解しているのは間違いないだろう。

 平然と答えているが、マコトはそれがどういう事態か分かっているのだろうか?私に悟らせないためにあくまで平静を装っているだけなのか、それとも問題視していないのか。ともかく、ユージェンとももう少し話をする必要がありそうだな。


 聞き返して来るマコトに対し手を挙げて、まだ確認が終わっていない事を示しながらユージェンとの会話を再開させる。


 〈確認が取れたよ。オリヴィエは今から三ヶ月ほど前からこの国で冒険者ギルドの受付嬢をしているんだって。採用した本人が言うには、動機は社会勉強のためらしい。どう考えてもそんなわけが無いと思うのだけどね。〉

 〈三か月前っ!?いや、それ以前に、冒険者ギルドの受付嬢だとぉっ!?アイツは、マコトは何をしているんだっ!?〉

 〈誓約が原因でそれを聞くに聞けないから、貴方に連絡をさせてもらったんだよ。彼は今、私の目の前にいるんだ。良ければこのまま彼とも繋げようか?〉

 〈頼む!そうしてくれ!文句の一つでも言ってやらなきゃ気が済まないっ!〉


 ユージェンが私の知らない口調でしゃべっている。彼がここまで感情を露わにさせるという事は、やはりかなり拙い事態のようだな。


 「マコト。今、ちょっと離れた所にいる人と話をしていてね。貴方に今から『通話』を掛けて繋げるよ。貴方に文句があるそうだよ?」

 「も、文句、ですか・・・?それって、僕の事を知っている人ですか?」

 「ああ、彼にとってはちょっと洒落にならない事態のようだからね。マコト。もしかしたら、貴族がらみの事以上に厄介な事になるかもしれないよ?」

 「え゛っ?」


 断りを入れてからマコトにも現在ユージェンに対して使用している『通話』を掛けて回線を繋げる。これで三人で会話が出来るようになったわけだが。


 〈おいコラマコトォッ!!お前一体どういうつもりだっ!?なんで寄りにもよってオリヴィエ王女を受付嬢にしたぁっ!?〉

 〈ぬおっ!?ユージェンッ!?と、とりあえず落ち着け、今は目の前にお前が言っていた絶対に怒らせちゃいけない人がいるんだよっ!〉

 〈んなこたぁ知ってんだよっ!彼女にお前と繋げてもらってんだから!それよりも説明しろっ!何故オリヴィエ王女を受付嬢にしているっ!?それがどういう事かお前、分かっているのかっ!?〉

 〈待て待て待て!二人でなら問題無いかもしれんが、今はその話は拙い!彼女に聞かれる訳にはいかないだろう!?〉


 おおう、ユージェンの口調が物凄く荒ぶっている。彼も現役の冒険者だったころはエネミネア同様に苛烈な人物だったのだろうか。ちょっと見てみたくもある。


 〈・・・その点に関しては全く問題無い。彼女は自力でこの国の真実に到達している。しかも他言無用にしてくれるために誓約書まで書いてくれた。〉

 〈っ!?ま、マジかぁ・・・。"一等星トップスター"にすら通用する装置だってのに、到達しちゃったのか・・・。ああ、それでこうして報告してくれているわけか。いや、マジで有り難いな。確実な味方を一人得る事が出来たってわけだ。〉

 〈安心している場合かっ!例えアレがオリヴィエ王女にも作用していたとしても、彼女ならばこの国に届けられる素材や物流の流れで真実に到達しうる可能性があるんだぞっ!?〉


 やはりユージェンも私と同じ考えか。

 受付の仕事しか知らないが、オリヴィエの仕事ぶりはおそらくオムが恋慕の感情を抱いているケーナよりも遥かに優秀だ。当然、計算能力や情報処理能力も極めて高いだろう。


 仮に人工採取場や冒険者ギルドに真実を隠蔽するような認識阻害の効果がある何かがあったとしても、数字は噓をつかない。場合によってはティゼム王国の財源が人工採取場にある事に到達する事も十分に考えられるのだ。


 そして、マコト自身もその事は深刻に受け止めていたようだ。でなければ[味方を得る事が出来た]、などと言って安堵などしない筈だ。


 〈それで、そこまで深刻な事態だと分かっていながら、何故オリヴィエを受付嬢に採用したのかな?何か、問題でもあったのかい?〉

 〈逆ですよ、ノアさん。問題が全く無かったからこそ、採用しないわけにはいかなかったんです。彼女は冒険者ギルドの受付嬢になる条件を全てクリアしていましたからね。不採用にすれば逆に怪しまれていたのは間違いないでしょう。〉

 〈くそっ!ここに来て[出身、身分、問わずあらゆる者を受け入れる]と言う冒険者ギルドの方針が仇になってくるか・・・!〉


 ・・・何とも厄介な事だな。相手は既にこの国の秘密の鍵が冒険者ギルドにあると当たりを付けていたわけだ。

 で、採用されるのであれば問題無し。そのまま受付嬢として調査をすれば良い。

 反対にもしも不採用となった場合は、むしろ秘密の鍵が冒険者ギルドにあると言う確信を得られる事になる。

 そうなった場合は、今度は自分の息が掛かった優秀な者を冒険者ギルドに送って来たかもしれないな。


 ユージェンが言うには、冒険者ギルドには条件を満たせば国や産まれは関係無く冒険者ギルドに所属する事が出来るとの事だ。

 だからオリヴィエも王都の冒険者ギルドに就職する事が出来たという事か。


 まぁ、この国の事情など冒険者ギルド自体は知る由も無い事だからな。この国だけ違う採用ルールを適用している、というわけにはいかないか。


 オリヴィエを受付嬢に採用した理由は分かったが、問題はマコト達がどうするか、だ。いや、他人事ではないか。言い直そう。私達がどうするか、だな。


 まずはマコトの意見を聞いてみよう。


 〈マコト。貴方も今の状況を深刻に捉えている事は分かったけど、何か対策は考えているのかい?〉

 〈幸い、王都に"楽園"の資材が届くのは冒険者ギルドではありませんからね。今のところ、彼女の見ている帳簿は、王都の依頼の報酬や、どの場所でも採取できるような一般的な素材による物のみです。その中には当然、人工採取場から得られた物もありますが、"楽園"の素材について書かれた専用の帳簿を見ない限りは、それがこの国の財源に繋がっている事にはたどり着けませんよ。〉

 〈それで、その帳簿、お前はどう管理しているんだ。〉

 〈俺の空間に仕舞ってある。んで、その管理も俺だけが行っている。つまり、彼女はおろか、他の職員達にも触れさせていない。〉


 それが一番確実なのだろうが、そんな事をしているから尋常じゃなく多忙なんだよなぁ・・・。だからと言って私が帳簿の管理を変わってやる事など出来ないし、さて、どうしたものか・・・。


 〈いっその事、その帳簿は冒険者ギルドではなく、信頼できる貴族に任せてみると言うのは?マコトになら、信頼できる貴族の一人や二人はいるだろう?〉

 〈止めておいた方が良い。この国の貴族はどの家も間者だらけだ。何時、何処で知られたくない連中に知られるか分かったものではない。〉

 〈知れば確実に自分にも管理をさせろと言って来るだろうな。それが嫌だったからギルマスになったってのに・・・はぁ・・・。〉


 本当に、貴族というやつは面倒臭い連中だな。

 いやまぁ、欲しいものがあったら手に入れたくなる気持ちは分からなくも無いが、だとしても意地が汚すぎやしないだろうか。

 冒険者をやめる事になった時の事を思い出したのか、マコトが深い溜息をついている。意思での会話だと言うのに、器用なものだな。


 だが、本当にどの家にも間者がいる者なのだろうか?一件ぐらいは無いのか?間者のいない貴族家というのは。


 〈しかもそうして自己中クソ貴族共が騒いだ事が原因で、オリヴィエ王女だけでなく他のこの国の経済を不審に思う者達にまで帳簿の存在や、下手をしたらこの国の真実に到達する可能性が出てきてしまう。〉

 〈はぁーーー・・・。やっぱ、貴族って嫌だなぁー・・・。何で若い頃の俺は、あんなにホイホイと貴族と関わっちまったんだ・・・。はぁー・・・。〉

 〈マコト、溜息を吐くのは後にしておこうか。ユージェン、確認するけど、間者のいない家は一つも無いのかい?〉

 〈無い事も無い。だが、完全に私の我儘だが、私は彼女達をこの件に巻き込みたくないんだ。〉

 〈それに関しては俺も同意見だ。ただでさえまだ旦那を亡くしてそんなに時間が経ってないってのに、これ以上負担はかけたくねぇ。〉


 うん?それはまさか・・・彼女の事か?まぁ、夫が私の知る人物ならば、間者の存在など決して許しはしないだろうが・・・。


 ええぇ・・・。そういう繋がり方をしてくるのかぁ・・・。


 なんてこった・・・。厄介事が更に厄介な事になって来たぞ・・・。

 だが、元より彼女達の助けになるつもりでいたのだ。多少どころではなく面倒な事になってしまうのは間違いないが、彼女達の問題を全て片付けてやればこの上ない解決策になる筈だ。


 私も、マコトを真似て意志の会話の中で溜息をつく。


 〈はぁ・・・。まさかこんな形で繋がってしまうとはね。ユージェン、悪いが、私はその家に任せてしまうのが一番だと思っている。〉

 〈待ってくれ!彼女達は貴族の中では最も信頼のおける人物ではあるが、今は時期が悪すぎる!ただでさえ夫を失って時間が経っていないんだ!〉

 〈ノアさん、すみませんが、僕からもお願いします。せめて今は、彼女達をそっとしておいてはくれませんか?〉

 〈マコト、今日、私が話そうと思っていた元々の厄介事は、その彼女達の事だと言ったら?そして、私が彼女達の今置かれている状況を改善させるのなら?彼女達に"楽園"の帳簿を任せてしまっても良いんじゃないか?〉

 〈なっ、何だってぇっーー!?!?ノアッ!!本気なのかっ!?!?〉


 ユージェンがかつてない程に驚いているな。彼は今、感情抑制魔術を使用していないのかな?本来はここまで感情の激しい人だったとはね。


 ああ、そうか。ユージェンが私が"楽園"から来た者と確信しているのなら、私がカークス騎士団を始末したと考えていてもおかしくないのか。むしろ、それが普通なのか?

 だとしたら、そんな彼等の身内に味方をするのは不可解で仕方が無いのだろう。


 まぁ、人間にはそれぞれの信条あるように、私にだって私なりの信条としているものがある。


 義理は果たす。そして、約束は違えない。私は昨日、彼女達を気に掛けると約束したばかりなのだ。


 〈アイラ=カークスとシャーリィ=カークスが抱えている問題、私が解決しよう。これは既に、昨日私が決めていた事だ。〉


 私の言葉に、マコトが目を見開いた。

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