第98話 地母神・ダンタラ

 翌日になって私の目を覚まさせたのは、就寝前に仕掛けておいた目覚まし板では無かった。


 〈朝よノア様!起きて頂戴!〉〈起きる時間なのよ!周りを人間を待たせちゃダメなのよ!〉


 レイブランとヤタールだ。あの娘達、態々『通話コール』を利用して起床時間よりも早めに私に声を掛けてきてくれたようだ。


 昨日、一人では起きられなかったと私があの娘達に言ったため、私を起こそうとしてくれたみたいだ。

 少しして、込めた魔力が無くなって落下してきた目覚まし板を受け止める。

 結局、今回も効果を発揮する事は無かったな。いつの日か、役に立つ日が来ると良いのだけど・・・。


 朝食を食べ終えたら、早速村を出発する事になる。少し気が早い気もするが、そうでもしなければ次の村に夜になるまでに到着できない、との事だ。

 それならば仕方が無い。少し名残惜しいが、出発してもらう事にしよう。


 さて、移動中は読書をしながら『真言』の学習、習得だ。文字が分かるわけでは無いが、発音自体は聞き取れていたからな。時間は掛かってしまうが、片言でしゃべるぐらいは出来るようになるはずだ。


 馬車が出発したところで『収納』から本を取り出して読もうとしたら、今日から新たに馬車に乗る事になった冒険者らしい格好をした若者達に声を掛けられた。


 「なあ、お姉さん。今のって魔術なのか?」

 「何もない所から本を取り出したよね?他にも色んな物が入っているの?」

 「お姉さんは何処へまで向かうんですか?やっぱり、王都まで向かうんですか?」


 年齢は大体15歳ぐらい、先程の村の出身かな?多分だが、これから冒険者として街まで登録へ向かいに行くところなのだろう。となると、彼等は文字の読み書きは出来ないんだろうな。

 うん、彼等にはしっかりと文字の大切さというものを教えておこう。


 「そうだね。一つずつ答えようか。まず、本を取り出したのは想像通り魔術によるものだよ。一般的に『格納』と呼ばれている魔術だね。見ての通り、何もない所に沢山の物を仕舞っておける魔術さ。とても便利な魔術だが、その分習得もとても難しい魔術でもあるね。」

 「へえぇえ~。魔術自体初めて見たけど、そう言うのもあるんだなぁ。魔術って言うと、炎を出したり、雷を降らせるような、カッコいい奴ばっかりだと思ってたぜ・・・。」


 先程質問してこなかった若者が意外そうに答える。多分だが、小さい頃にあの村を訪れた冒険者に話を聞いたりしたのだろう。そしてそれ以外の魔術の知識が無かったと見受けられる。


 「次の質問に答えようか。この魔術の中に入っている物は他にも沢山あるよ。本は勿論の事、お金にギルド証、食べ物、着替え、その他にも、旅に必要な物は全部入れてあるんだ。」

 「それで何も持っていなかったのか・・・。」

 「ギルド証を持っているって事は、お姉さんも冒険者なの?」


 ふぅむ?彼等はギルド証と言ったら冒険者ギルドのギルド証になるのか?ひょっとして、他にもギルドがある事を知らないのだろうか?

 教えておいてやった方が良いだろうな。


 「私が冒険者なのはその通りだけれど、ギルド証は何も冒険者だけが持つ者ではないよ。商人に職人、錬金術師に魔術師にも、ギルドが存在しているからね。少しルールは違うけれど、大まかには同じものだ。覚えておくと良い。」

 「そうだったのか・・・。ギルドがあるのって冒険者だけじゃなのか・・・。」

 「でも、オレ達、冒険者以外に何かなれそうなのあるか?」


 ううむ、村では街の事はあまり教えられていないという事だろうか。この国は結構発展しているようではあるが、辺境まで教育環境が整っているわけではないのだな。


 「今の貴方達では難しいだろうね。冒険者以外のギルドでは毎月上納金を支払う事になるから、成果を出す事が出来なければ除名されてしまうよ。」

 「マジかよ・・・。じゃあ、やっぱり冒険者になるしかないのか・・・。」

 「でも俺達、元々そのつもりだっただろ?別に困る事は無いんじゃないか?」

 「実を言うと、今のままでは貴方達はかなり困る事になるだろうね。」

 「えっ!?ど、どうしてだっ!?俺達、これでも冒険者になるために毎日特訓は欠かさなかったぞ!?」


 努力家である事は良い事だな。目標を持っていても、鍛えたり学んだりをしなければ意味が無い。ただ、努力の方向はしっかりと定めておく必要はあるがな。


 「貴方達の中で、文字の読み書きが出来る者はいるかな?」

 「「「・・・・・・。」」」

 「街での生活は文字の読み書きが必須と言って良い。出来なくても生活は出来るが、ハッキリ言って将来が無い。」

 「そ、そんなに酷いのか・・・?」

 「ああ、酷いものさ。まず、文字が読めないと割の良い依頼が見つけられない。それにギルドはともかく、店などで商品を購入したりする場合に値段を誤魔化される事もある。値札は勿論商品には張られたりしているが、文字を読めなければ値段は店員に聞くしかないからね。それに、討伐や採取で手に入れた素材を卸そうとした時に安く買い叩かれる事もある。だからお金を溜められないし、それが理由で装備も道具も碌に揃えられない。結果、簡単な依頼しかこなせずに高いランクに昇級できない。」

 「そ、そんな・・・。」

 「み、店の人が嘘をついたりするのかっ!?」


 流石に驚愕しているようだな。この若者達は文字の読み書きこそ教会で習わなかったようだが、五大神の教えはちゃんと教わっているようだ。だから、商人が嘘をつくなどとは到底思えないのだろう。


 「非道い話ではあるが、そういう事だ。そしてそれは、ちゃんとした値段で売買したいのならばちゃんと文字を覚えろ、という意思表示でもある。」

 「ど、何処で文字を覚えられるんだっ!?教えてくれっ!」

 「一番確実なのは教会だな。貴方達は知らなかったのかもしれないが、貴方達の村の教会でも、頼めばちゃんと文字の読み書きを聖書を通して教えてくれたはずだよ。文字の読み書きを教える事は、教会の仕事の一つだからね。」

 「き、教会で・・・。なぁ、皆は知ってたか・・・?」

 「「「・・・・・・。」」」

 「俺は知ってたけど、でも文字を知らなくても生活出来てたから・・・。」

 「「「「だよなぁ・・・。」」」」


 結局のところ、そこなんだよなぁ・・・。時間にそれほど余裕がない生活を送っているというのに、誰が使う必要のない知識を進んで学ぶと言うのか。

 知識欲の人一倍強い人物なら進んで学ぼうとするかもしれないが、そう言った人物は現在の辺境の村ではあまり多くは無いだろうな。


 「今からでも遅くはないさ。依頼をこなすのも結構だが、その合間に文字の勉強もしておくと良い。文字を覚えると、良い事ばかりだぞ?」

 「値段を誤魔化されない事以外にも、良い事があるのか?」


 良し良し。彼等は皆文字を覚える事に意欲的だ。彼等ならば真面目に文字を覚えてくれるだろう。そして大事なのはここからだ。


 「貴方達にとって物凄く良い事がある。何故なら、頑張れば魔術を使えるようになるからな。」

 「オ、オレ達が魔術をっ!?」

 「そうとも。魔術というは手順を踏めば誰にでも扱える技術だ。勿論、才能が無ければ扱えないような難しい魔術も沢山あるが、あると便利な簡単な魔術ぐらいなら真面目に勉強すれば貴方達でも使えるようになるとも。」

 「俺達が、魔術を・・・・・・。」


 若者達の目が輝いているな。とてもいい傾向だ。このまま彼等に魔術を、と言うか『清浄ピュアリッシング』を覚えさせれば他の同年代、同期の冒険者達にとっての良い手本となってくれるはずだ。

 『収納』から二冊の本を取り出して若者達に渡しておく。


 「この本は?」

 「貴方達に譲ろう。私はもうその本の内容は覚えているからね。その本は、一冊は魔術を扱うために必須となる魔術言語を覚えるための本。文字を覚えたら読んでみると良い。そしてもう一冊は先程説明した、あると便利な簡単な魔術、『清浄』と言う魔術の習得方法が記載された魔術書だよ。」

 「その魔術は、どんな効果があるんだっ!?お姉さんは使えるんだろっ!?」

 「簡単に火を付けたりできる魔術だったりするんですかっ!?」


 はっはっはっ、がっつくじゃあないか。興味津々で何よりだよ。尤も、残念ながら君達が思っているような攻撃的な魔術では無いがね。


 「勿論、そう言った魔術も存在するが、その手の魔術書は貴方達が自分で見つけて覚えると良いだろう。冒険者ギルドの資料室に蔵書されているからね。それと、今渡した魔術言語の本や『清浄』の魔術書も蔵書されているよ。資料室から持ち出す事は出来ないがね。」

 「そ、それで、この魔術書の効果はどんな効果なんだっ!?」

 「慌てない慌てない。今実施してあげよう。」


 そう言って、効果範囲を彼等に絞って『清浄』を発動させる。いきなり馬車や御者、馬の汚れが落ちたりしたら混乱してしまうだろうからな。馬の休憩時間にでも御者に断って掛けてあげよう。

 最初に不衛生な冒険者達にこれをやった時には、碌に範囲を指定していなかったから大きな騒ぎになってしまい世話になった受付嬢のエリィに怒られてしまった。なるべくなら同じ轍は踏まないようにしたいものだ。


 『清浄』を発動すると、冒険者志望の若者達についていた汚れがあっという間に落ちていく。

 彼等に付いていた汚れは、私を辟易とさせていた不衛生な冒険者達ほどは汚れてはいなかったが、それでも目立つ部分は目立っていた。放っておけば近い将来、悪臭を放つようになっていただろう。


 「お、おおぉぉ・・・?」

 「よ、汚れが、無くなってく・・・。」

 「体も、何だかサッパリしてく・・・。これ、良いかも・・・!」

 「効果は分かったかな?この魔術は指定した対象の汚れを落として清潔にする魔術だ。汚れというものは見た目を悪くするだけでなく、悪臭や病気の原因にもなる。魔物や魔獣との戦い、危険な場所での活動によってどうしても汚れてしまう冒険者にとっては、必須と言える魔術だよ。是非習得して欲しい。」


 魔術の効果に驚いているようだな。まぁ、今の彼等では一回分の『清浄』を掛けて自分自身を清潔にするのが精いっぱいだろうが、彼等の魔力量でも一度の使用で消費する魔力は十分の一にも満たない。きっと生涯大活躍してくれる筈だ。


 「た、確かに便利な魔術だけど、どうせなら攻撃用の魔術が使えるようになる魔術書が欲しかったな・・・。」

 「お前!馬鹿っ!好意で本を二冊も譲ってくれた人に何て事言うんだっ!しかも本ってやたら高級品なんだぞッ!」

 「えぇ・・・。じゃあ何でお姉さんは俺達にそんな物をくれたんだよ?」

 「さっきも言ったが、私はもう内容を覚えているからだよ。同じ馬車に乗ったよしみだからね。貴方達には、是非清潔な状態を保って欲しいと思ったんだ。それとね、清潔な状態を保つという事は街で生活する上でとても大事な事だよ?」


 私の言葉に若者たちが皆首をかしげている。短い時間だが、昨日泊まった村は多少の汚れならばあまり気にしない、という状態だったからな。

 宿では汚れを拭うためのお湯と布を販売していたが、強制と言うわけでは無かった。あまりにも汚れていれば文句を言うどころか、追い出しもするかもしれないが、先程までの若者達ぐらいの汚れであれば許容範囲なのだろう。

 彼等の冒険者ギルドに対するイメージを聞いておこう。


 「貴方達は、冒険者ギルドにどのような印象を抱いているかな?」

 「先輩がおっかない!でも面倒見は良い!」

 「早朝は張り出された依頼の争奪戦だって前に村に来た冒険者達が言ってた!」

 「ええっと・・・なんかこう・・・カッコイイ!」

 「美人で可愛い受付嬢がいる!」


 なるほど。多分、以前村に訪れたという冒険者に話を聞いたのだろうな。その時のイメージが凝り固まっていると見える。特に受付嬢の部分。

 イスティエスタの冒険者ギルドの受付は、僮も嬢も私の美醜感覚からしても器量の整っている者達ばかりだった。

 もしかしたら、荒くれ者が多いとされている冒険者達を素直に言う事を聞かせるために、器量の整っている者達で固めているのかもしれないな。


 「うん。大体合っているね。特に受付嬢の部分。」

 「ええっ!?そこが合ってるんですかっ!?」

 「ああ、合っている。まぁ、女性だけでなく受付僮と呼ばれている男性の受付もいるがね。なんとなく想像がつくかもしれないが、女性の冒険者を対応している事が多いよ。」

 「マジか・・・。男の受付もいたのか・・・。」

 「お、女の子も冒険者をやるんだな・・・。」


 あー。彼等の感覚だと冒険者は男性がなる者だという印象が強いのか。それとも多くの冒険者が集まるイスティエスタが特殊なのだろうか?

 まぁ、今気にするべきところはそこじゃないからな。後にしよう。


 「貴方達も、器量の良い受付嬢からは好印象を持たれたいだろう?知っているかもしれないが、女性というものは私も含めて綺麗好きな者が多い。そんな女性達の前に汚れた状態や悪臭を放った状態で会いに行ったらどんな印象を持たれてしまうか、想像がつくんじゃないか?」

 「うっ・・・。そういえば、母ちゃんや姉ちゃんに汚れたまま家に入ろうとしたら怒られた事がある・・・。」

 「俺もだ・・・。臭いから家に入るなって言われたぞ・・・。」

 「うん、それはギルドの受付嬢も変わらない。それどころか街に住む人々は村に住む人達よりも綺麗好きだ。」

 「そうか!だから『清浄』の魔術が使える事が大事なんですね!?」


 それだけでは無いのだが、私の意図を理解してくれたようでなによりだ。これで彼等も『清浄』の魔術を真剣に覚えようとしてくれるだろう。


 「お姉さん!ありがとう!俺達、文字も魔術言語も覚えて、受付嬢や冒険者の女の子達に嫌われないようにするよ!」

 「ああ、頑張ると良い。それと、最後の質問の答えだけれど、私の目的地は王都だよ。そこにある中央図書館で沢山の本を読みたいんだ。」

 「王都に・・・!それなら、オレ達と一緒じゃんか!王都でもよろしくな!」


 一通りの会話が終わって、若者達は胸に期待を膨らませて王都に着いた時の事を話し合っている。

 そんな彼等を見て彼等の将来に安心した私は、読書と『真言』の習得に集中する事にした。


 先程までは若者達の会話、読書、言語の習得、と三つの処理を同時に行っていたため、『真言』の習得はあまり捗らなかったが、ここからは順調に解析が進みそうだ。




 若者達との会話を終わらせてから体感で四時間、ようやくある程度の『真言』を解析する事が出来た。

 これでダンタラと会話が出来るようになれば、後は彼女から直接『真言』を教われば良い。

 早速呼び掛けてみよう。ただ、御者や同乗している若者達には聞こえないように思念で会話するとしよう。


 〈『アー、アー、ダンタラ、聞コエルカナ?貴女ト、話ヲシテミタイ。』〉

 『はいはい、聞こえていますよ。行動力の話では、貴女もルグの事を言えませんねぇ。まさか、こんな短時間で不完全とは言え、独学で『真言』を扱えるようになるだなんて。私達ですら、当時『真言』を習得するのには数年を要したのですよ?』


 やった!ダンタラと会話が出来た!それ自体は嬉しいのだが、何処か声色に呆れが混じっている。

 彼女達は『真言』を習得するのに時間が掛かったようだが、私の場合はルグナツァリオとの会話という事前知識があったからだと思うのだが、それでも神々から呆れられてしまうほどに習得速度が速いと言うのだろうか。


 〈『ンー?ソンナニ呆レラレテシマウ事ナノカイ?』〉

 『ええ、皆して呆れてしまう事態ですよ?そもそも貴女は『真言』を使わなくとも普通にルグと会話出来ていたでしょう?呼んでくれれば返事をしましたし、お話がしたければ普通にしますよ?』


 ・・・阿保か私は。確かにダンタラの言う通りだ。『真言』を用いなくても私はルグナツァリオと普通に会話出来ていたじゃないか!何故気付かなかった!?


 いや、心のどこかでは気づいていたのだ。だが、それ以上に私は『真言』を使ってみたくなっていた。だから『真言』の習得を理由に、普通に神々と会話が出来ると言う事実を心の片隅に追いやって気付かないふりをしていたのだ。

 ダンタラが呆れてしまうのも頷けるな。きっとこの事を知ったら、ルグナツァリオも呆れてしまうのかもしれない。


 と言うか、彼は多分今でも私の事を見ているだろうから、呼べば彼も会話に混ざって来るんじゃないだろうか?多分混ざって来るな。そんな気がしてならない。


 『好奇心が勝っていたのでしょうねぇ・・・。貴女も『真言』を使ってみたかったのではないですか?』

 〈『全クモッテソノ通リ。出来レバ、教授シテクレナイカナ?』〉

 『構いませんよ?ですが、知っての通り『真言』は極めて強力な力です。くれぐれも扱いには気を付けて下さいね?』


 流石は地母神と呼ばれるだけの事はある。彼女の声色には慈愛の感情が強く感じ取れる。ついでだから、ルグナツァリオも呼んで良いか聞いてみよう。


 〈『トコロデダンタラ、多分ルグナツァリオハ私ノ事ヲ見テイルカラ、彼モ呼ンデイイカナ?』〉

 『あー・・・ええ、そうですね。ルグは今も貴女の事を見ていますし、何ならこの会話の内容も聞いていますから・・・。』

 『久しぶりだねノア。君が気に入った子供達は、とても健やかに育っているよ。』

 『望めばこんな感じで、此方が呼ばずとも会話に混ざって来てしまうんですよねぇ・・・。』


 流石ルグナツァリオ。ダンタラは私の行動力がルグナツァリオの事を言えないと言っていたが、やっぱり彼の行動力は比肩できる物では無いと思うんだ。


 〈『久シブリダネ、ルグナツァリオ。会話ヲ聞イテイタノナラ、貴方モ一緒ニ『真言』ヲ私ニ教エテクレルカイ?』〉

 『勿論だとも。それに、聞きたい事があれば、何でも答えよう。ひとまずは、人間達にとても良くしてくれたみたいだしね。』

 『ルグ、あまりはしゃがないで下さい。貴方最近至る所で人間達に声を掛けているでしょう。人間達が驚いてしまっていますよ?ノアもですが、少しは自重なさい。』

 『い、いやぁ、大きな変化があるという時は、どうしても気にかけてあげたくなってしまってね?貴方もこの気持ちは分かるだろう?』

 

 おっと?なんだかこれに似たやり取りを何度か最近見た気がするぞ?例えば宿泊先の宿屋の母娘のやり取りだったり、商業ギルドのギルドマスター夫妻のやり取りだったり・・・。

 神と言っても、心は人とそう変わらないのかもしれないな。


 『我慢なさいと言っているのです。貴方だけですよ?そうまで頻繁に人間達に干渉しているのは。それからノア。』

 〈『何カナ?』〉

 『貴女は生まれた時点で私達を凌駕している存在です。自重してくれているのは分かっていますし、感謝もしていますが、いきなり突拍子も無い事をしないようにして下さい。貴女の場合、自重していても世界に混乱を与えてしまうほどの影響力を持っているのですからね?ルグのように思い立ったらすぐ行動、などと言う行為は控えて下さい。』

 〈『努力シマス・・・。』〉


 ルグナツァリオへの苦情が私にまで飛び火してしまった。だが、彼女の言っている事は全面的に正しいだろうからな。緊急事態でも無ければ、極力事前通達を行うようにしておこう。

 [母は強し]と言う言葉があるように、ダンタラは優しいだけでなく、厳しさも兼ね備えているようだ。

 エリィに責められている時を思い出し、つい委縮してしまった。


 『お願いしますよ?本当に・・・さて、そろそろ『真言』を貴女に教えるとしましょうか。私とルグが貴女に教えれば次の村に着く頃には十全に使いこなす事が出来るようになっている筈ですよ。』


 それは有り難い!二柱からしっかりと『真言』を学ぶとしよう。

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