閑話 "彼女"に対する反応9
ノアならばその真実に気づいてしまうかもしれないと言う懸念は会ったのだが、こうまで早く私に疑問をぶつけて来るとは思わなかった。
この国の本当の財源は"楽園"から得られる資源ではない。勿論、"楽園"から得られる利益で国は潤ってはいる。だが、それはこの国の重要施設である人工採取場を隠匿するための物でしかない。
だが、この事実が他国へと知れ渡ってしまえば、間違いいなく大きな戦争が起きてしまうだろう。
「・・・貴女は、そうは思わない、と・・・?」
何とか誤魔化せないかと思って質問で返してしまったが、直ぐにそれが失策だったと気付いた。
誤魔化そうとするのなら、素直に肯定しておけばよかったのだ。この手の質問に対して質問で返してしまっては、答えを言っているようなものだ!
自分のミスに気付き、もう隠しようが無い事とに嘆いて右手で目頭を覆う。私とした事が、とんでもない失態だ・・・。
仕方が無い。素直に人工採取場の事を話すとしようか。彼女は他国へも訪れてしまうため、出来る事なら知られたくはなかったのだがな・・・。
幸い、ノアもティゼム王国の真実が他国へ知られた場合にどうなるか、すぐに気付いてくれたようだ。
それは良いのだが・・・何故"光の柱"を口にした途端、気まずそうな顔をする・・・?それではあの"光の柱"に関わっていると言っているようなものだろう!
アレについて何か知っているというのか!?いや、仮に知っていたとしても聞きたくないし知りたくもないが。絶対に口外できない厄ネタに決まっているからな。
私にもノアには知られたくない事情があるように、当然だがノアにも知られたくない事があるだろう。お互いに、深く踏み込まないようにした方が良い筈だ。
だから、人工採取場の認識阻害装置に関しては彼女に教えるつもりは無かった。
彼女ほどの知能の持ち主ならば、確実に解析して自分の物にしてしまう確信があったからだ。
こんな超常の存在が認識阻害ができる手段を得たとなれば、それこそ手に負えない存在になってしまう。本当に知れば知るほど頭と胃が痛くなってくる・・・。
そんなノアが、少し考えてから誓約の話を彼女の方から提案してくれたのは、本当に感謝の感情しか湧かなかった。
誓約の代償はこの国に一年間味方すると言う、今の彼女にとっては殆どペナルティにもならないような内容ではあったが、彼女が味方してくれるという状況自体がこの国にとって大きすぎるメリットとなる。
彼女がこの国に味方してくれるのであれば、まずこの国は安泰と言えるだろう。それこそ、神々が全力でこの国を滅ぼそうとでもしない限り、安全は保障されたと言って良い。
誓約を実行するにはそれなりに準備が必要となるので、翌日の晩に魔術師ギルドにて執り行う事となった。
これで少しは気苦労も晴れるというものだ・・・。
気の重い話が終わった後は、お待ちかねのトラップ魔術だ。ノアは警備魔術と言っていたが、まぁ、同じようなものだろう。
誓約を行う際に魔術師ギルドにも同じ物を施してくれるらしいので、ミネアもきっと喜ぶだろう。
この魔術の効果を知れる事も、ミネアが喜ぶところが見られる事も、明日が楽しみになって来るな。
夜遅く、ミネアに抱きしめられながらノアとの対談の事を放せば、彼女はとても喜んでいてくれた。ミネアの喜ぶ顔を見れただけでも、私にとっては今晩の対談は価値のあるものだったな。
明日以降はノアも派手に動くつもりは無いようなので、ようやく集中して仕事に取り掛かる事が出来るというものだ。
日が変わって早朝。まさかこの年になって腹を抱えて笑い転げる日が来るなんて、誰が想像できただろうか!?
少しだけでも、昨晩ノアが施してくれたトラップ魔術の効果を確認したかった私は、隠れながらギルドの受付広間の奥から入り口の様子を確認していた。
例のトラップ魔術は実に見事に指定した対象をギルドから叩き出していた!
外へ弾き出された冒険者に特に怪我はない。それでいて実に良い音を立ててギルドの外へと追い出されていた。
爆笑したい気持ちを必死に抑えて急いで執務室へと駆け込み、そこで腹を抱えてしばらく爆笑し続けてしまっていた。
いや、実に痛快な事じゃないか!相も変わらず汚れて悪臭を放つ状態のものぐさ共が困惑した表情で外へと弾き出される様は、本当に胸がすく思いだった!
今回ばかりはノアに良くやってくれたと心の底から感謝しなければな!
早朝からギルドに来る冒険者達が不衛生で悪臭を放っているのは、今に始まった事では無い。
それが解決されようとしているのだ!これほど嬉しい事もそうは無いだろう!
ひとしきり笑いきって落ち着いたら、気持ちを切り替えてギルドマスターとしての仕事をしよう。
早速昨晩ノアが提案してくれた【冒険者に勉強させる依頼】を発注してもらうために、各所に回る事にしよう。まずは説明をするための資料作成だ。
幸いな事に、魔物達の襲撃で出る損害はノアのおかげでゼロになったのだ。
ああいった事態のために貯め込んでいたギルドの資金を、そのまま回してしまって問題無いだろう。
その後、冒険者達が文字を覚えてくれれば、その分将来的に彼等の受けられる依頼の質も良くなっていくだろう。
冒険者が質の良い依頼を受けられるという事は、それだけ冒険者ギルドも潤うという事である。潤った資金からまた各所へ【冒険者を勉強させる依頼】を発注させる事が出来る。
全く、短時間でどうしてこんな事を思いついてしまうのやら。
まぁ、良い。資料も出来上がった事だし、依頼を発注してもらえそうな施設へと足を運ぶとしよう。
まずは教会だな。元より五大神教会は文字の読み書きを教える施設でもある。誰でも教えを受ける事は可能だが、教えを受けているのは殆ど子供だ。街の子供達に文字を覚えさせるために親が教会へと連れて行くのだ。
そこで聖書を通して五大神の教えを説き、それと共に文字を覚えさせるのが教会の務めの一つで会う。
辺境の村にも教会はある筈なので同じ事が出来る筈なのだが、村では文字を覚える必要が無いためか、あまり重要視されていない。
五大神の教え自体は広まっているというのに、不思議なものだ・・・。
「おや、これは珍しい。ユージェンではありませんか。貴方が教会に来るとは、何かありましたか?」
「久しいな。実は、教会だけでは無いのだが、冒険者ギルドから頼みがあってね。文字の読み書きが出来ない冒険者達に文字を教えてやって欲しい。」
昔馴染みの神官長が直接対応してくれたのは話が早くて助かる。何せ向かう場所はここだけでは無いからな。
単刀直入に用件を伝えれば、彼は少し意外そうに眼を見開いた。
「ほう。それはまた、面白そうな事を考えていますね。まさか、依頼を受け付ける冒険者ギルドが発注する側に依頼を出すと言うのですか?」
「そういう事だ。知っての通り、辺境から来る冒険者の識字率は酷いものだ。そういった者達は当然文字が読めない故に魔術を使用する事が出来ない。才能がある者はそれでもある程度は活躍できるかもしれんが、それでも才能を殺している事には変わらない。」
そうだろうな。普段とは立場が逆になっているのだ。人々には冒険者ギルドのルールというものが知れ渡っているので、どうしてもこういった発想は思いつかないものである。おそらくは他の場所でも同じような反応をされるだろう。
「ふふふ、冒険者の将来を見据えたご立派な建て前ですが、昨日、一昨日とあの
「まぁ、分かるよな・・・。そういう事だ。魔術を習得するには魔術言語の習得が必須になる。そのためには文字の読み書きが出来なければ話にならない。魔術言語まで覚えさせる必要はないんだ。引き受けてくれないか?勿論、依頼を出している以上、此方から報酬も出す。」
長い付き合いでなくとも、ノアが起こした騒動が耳に入っているのなら、私の魂胆など、容易に想像がつくだろうな。だが、それでも建て前というものは必要だ。
魂胆が分かっているのなら、隠し事はなしで行こう。各所に依頼をした後は、誓約のための準備もしなければならないのだ。話が纏まるのは、早ければ早い程良い。
「引き受けるのは構いませんが、冒険者達が今更文字を覚えようとしますかね?」
「その点は心配いらないだろうな。理由としてまず、不衛生な状態では冒険者ギルドに入れなくなっている。昨晩、噂の竜人ノアが冒険者ギルドの入り口にそういう効果を及ぼす魔術を施してくれてな。効果も今朝確認済みだ。想定通りの効果を発揮してくれたよ。」
「そのような便利な魔術が存在するのですか・・・。ちょっとした防犯にもなりそうですね・・・。しかし、随分と思い切った手段を取りましたね。ギルドに入るためには清潔でいる必要があり、手早く清潔にするには『清浄』が必要になる。その為には魔術を使用できるようになるしかない・・・。よく考えられています。」
本当にな。ノアは冒険者達、と言うよりも不衛生で悪臭を放つ連中をこの街から無くす事に、必死さを感じるほどに真剣だったからな。目的を達成させるために考えに考え抜いたのだろう。まったく、有り難い事だ。
「ちなみに、今回の話も彼女が提案してくれたものだ。それと、だ。少しややこしい話なのだが、此方が用意した報酬の一部を使用して冒険者達に依頼を出して欲しいんだ。あのものぐさな連中は無償では文字を覚えようとはしないだろうが、金を受け取れると分かれば、足を運ぼうとするだろうからな。」
「なるほど。確かにまだるっこしい事ですが、納得は出来ます。我々が冒険者達に依頼と言う形で彼等に勉強をさせるという事ですか。ですが良いのですか?完全に冒険者ギルドが損をする事になるかと思いますが・・・。」
この計画の欠点は冒険者ギルドが完全に身銭を切った慈善活動だ、という点だな。当たり前だが、よほど知能が高くなければ一回依頼を受けただけで文字を覚える事など出来はしない。定期的に、何度も勉強の依頼を受注してもらう必要があるのだ。掛かる費用は結構な額になるだろう。
だが、昨日の魔物の襲撃によって受ける筈だった損害費用に比べれば、比べるべくも無く安いものだ。
「なぁに、魔物の襲撃の貯めに貯め込んでいた資金がある。昨日それを使う機会が訪れそうになったが、ノアのおかげで、被害の補償のために使う金は軽貨1枚すら使う事が無くなったからな。余裕は十分すぎるぐらいあるのさ。それに、文字を覚えた冒険者達は確実に今よりも質の良い冒険者になるからな。その分、彼等の稼ぎも良くなっていく。」
「それはつまり冒険者ギルドの稼ぎでもある、と。本当に良くできていますね。と言うか、昨日、魔物の襲撃があったのですか?貴方が珍しく奔走してる事は知っていましたが、魔物の襲撃に備えての事でしたか・・・。そして、その魔物の襲撃もノアさんが解決してしまったと・・・。凄まじいと同時に、とても恐ろしい方ですね・・・。子供達に楽し気に街を案内されている彼女は、とても竜人とは思えないほど温厚で微笑ましく思えたのですが・・・。」
ノアの正体が分からなければ、私も彼と同じ気持ちだっただろうな。
とにかく、教会は此方の依頼を快く引き受けてくれるようで助かった。後回るのは、図書館とこの街で経営している各私塾と言ったところだな。図書館は問題無く引き受けてくれるだろうが、私塾の方が問題だな・・・。
彼等が果たして冒険者を受け入れてくれるかどうか・・・。
久々に町中を駆け回った気がする・・・。いや、昨日も魔物の襲撃に備えて町中を駆け回ったのだが、目的が違うからな・・・。街並みなど碌に見ていなかった。久々にじっくりと見た光景には懐かしさと寂しさを同時に監視させられる事になった。
相変わらずなところもあれば、いつの間にか見慣れない者が増えている場所もあったし、逆に私の記憶にあった物が無くなっている事もあった。
私がこの街で暮らすようになってから、随分な年月が過ぎているという事だ。生涯、この街を守り通したいものだな・・・。
感傷に浸るのはこのぐらいにしておこう。
私が予想した通り、図書館は私の要望を快く引き受けてくれたのだが、やはり個人営業の私塾は皆が皆了承してはくれなかった。
当然だな。彼等が経営している私塾はこの街の子供達が冒険者以外の職に就けるようにするための学び舎だ。わざわざ冒険者を招く事はしないだろうし、そもそも今更文字の読み書きを覚えさせるような場所でも無いのだ。
依頼を引き受けてくれたのは街の中でも大きい私塾だけだった。冒険者を受け入れるだけの余裕があるという事なのだろう。それに加えて、子供達に冒険者の現状を教えようとしているのかもしれないな。
まぁ、何にせよ、駄目で元々だったのだ。引き受けてくれた私塾があっただけでも良しとしよう。
さて、私の仕事はまだ終わらない。今度は冒険者ギルド本部へ昇級試験に関する資料を作成しなければな。
こちらも駄目元ではあるが、承認されれば冒険者の識字率はかなり上昇する事になるだろう。
尤も、承認されたとしても昇級試験が実装されるのは、かなり先の未来になるだろうがな。
願わくば、私がギルドマスターとして就任している間には、昇級試験の光景を眺めてみたいものだな。
資料を作成終る頃には午後の鐘が三回鳴る頃になっていた。そろそろ制約のための準備をしておかないとノアを待たせる事になってしまうな。と言うか、誓約を行う時間帯を正確に決めなかったのは失敗だった。
らしくない事をしたものだ。私はノアが用意してくれたトラップ魔術に余程舞い上がっていたようだな。
職員を呼び、今日は先に上がる事を伝えてから魔術師ギルドへ向かう事にした。
魔術師ギルドへ到着してギルドマスターの執務室へと向かえば昨日のようにミネアが抱きしめてくれる。
とても至福なひと時なのだが、今回はこの至福の感触に溺れてしまうわけにはいかない。
「ミネア、こうしていたいのは山々だけど、誓約の準備を済ませてしまおう。今から準備をする場合、夜までにギリギリになってしまいそうだ。」
「ダーリンったらぁ~、真面目さんねぇ~。大丈夫よぉ~。こっちでぇ~、やれる事はぁ~、済ませてあるものぉ~。慌てなくてもぉ~、心配いらないわぁ~。」
流石はミネアだ。まさか、もう誓約の準備を可能な限り済ませていてくれたとは。ならば、後は私とノアが記入すべき事を誓約書に記入するだけだ。
有り難い。さっさと私が記入すべき事を記入してしまいミネアと至福の時を過ごすとしよう。
何せ、ここ数日はあのドラゴンに散々気苦労を負わされたからな。ゆっくり休ませてもらうとしよう。
〈ユージェン、エネミネア、今いいかな?〉
またかっ!?ミネアと至福のひと時を過ごしている時にいきなり通信を入れてこないでくれないか!?心臓が口から飛び出るかと思ったわっ!?
どういう手段を取ったのか皆目見当がつかないが、ノアは私だけで無く、ミネアに対しても視認していない状態で通信を行う事が出来るようだ。
これ、もしかしなくても彼女がこの街を去っても事あるごとに私に連絡が来るんじゃないだろうな!?頼むからやめてくれよ!?
向こうの事は向こうの奴に聞いてくれ!
何の用かと思えば、誓約を行う時間の確認だった。なるほど、こんな感じでいつでも連絡が出来るから、昨晩は細かく時間を決めようとしていなかったのだな。
それにしても、複数の相手に同時に会話が出来る通信とは・・・。どう考えても魔術構築陣が『
おおよそ、人間が扱えるような魔術じゃないと思う。
とにかく、彼女は今からでも魔術師ギルドに向かってくるらしい。誓約の方はあまり時間が掛からないだろうし、今回はミネアにあのトラップ魔術を披露する方が私にとってはメインの用事になりそうだな。
滞りなく制約が済んで本当に良かった。トラップ魔術に関しても、ミネアは無事習得できたようでとてもご満悦だ。
それはそれとして、ノアが帰る際に非常に才能豊かな少年の話をしてくれた。聞けばミネアに匹敵するほどの才能を持った少年だ。
まさか、それほどの才能の持ち主がこの街に産まれていたとは・・・。これは実に喜ばしい事だ!
ノアはその少年を気に入ったらしく、ミネアに目を掛けておいて欲しいと要求してきた。
言われるまでも無いだろうな。ミネアも、昔の口調に戻るほどに興奮している。
彼女の言葉遣いを懐かしく思い、交際を始めた頃を思い出す。ああ、あの頃から、私はミネアに恋をしていたし、愛していたのだな・・・。
おや、口調が変わった事をノアから指摘されて珍しくミネアが動揺している。
ミネアに愛の言葉を紡げば、彼女は直ぐに感極まって私を抱きしめてくれた。周りが私達の事を色々と言っているが、知った事では無い。
気付けばノアは宿に帰っていたようだ。私達も家に帰るとしよう。今日は久しぶりに、本当に平和なひと時を過ごせた気がする。とても良い夢を見られそうだ。
それからというもの、ノアが王都へと旅立つまでの間、本当に平和な日々だった。
「ユージェン?君、本当にあの日タニアに私の予定を教えてない?」
「くどいぞ。私がタニア女史を苦手にしている事は、お前も知っているだろうが。誰が苦手な人物に自分から声を掛けるかよ。お前がタニア女史にあまりにも構わないから、愚痴を受けるのはいつも私なんだぞ。」
まぁ、ノアが旅立つまでにダンダードからノアが指名依頼を受けた日に、タニア女史が自分の予定を教えたのが私ではないかと疑いの声を掛けられたりもしたが、当然、適当にあしらった。タニア女史に情報を伝えたのは、私では無くミネアなのだからな。
ちなみに、ダンダードはミネアとタニア女史が連絡を取り合うほど仲が良い事を知らない。
どうやら、タニア女史にこっぴどく痛い目にあわされたうえで叱りに叱られたらしい。ざまぁないというやつだ。
「―――そういうわけだから、くれぐれも彼女を怒らせるような真似をするなよ。もし怒らせたら国が終わると思っておけ。」
「なあ、ユージェンよぉ、なぁんで今になってそんな情報を俺のところによこして来るワケ?嫌がらせか?嫌がらせだろう!?こっちは貴族の馬鹿野郎共の相手で忙しいんだぞ!?連絡するならもうちょっと早くするべきだろう!?」
「私だって忙しかったんだ。それに、私があんなに気苦労を負わされたというのに、お前に余裕を持たれるのは癪だからな。どうせお前の事だ、何も問題が無ければ私の事を煽り倒していただろう。」
「て、手前ぇ・・・。相変わらず見た目と真逆の性格みてぇだなぁ・・・。」
一応、同じ冒険者ギルドのギルドマスターの誼だ。王都のアイツにも連絡を入れておいてやった。ノアは馬車を使って移動をするようなので、王都へ着くのはどんなに速くとも五日後となるだろう。精々その間に対策を練っておく事だ。
私なんて無策の状態で彼女の対応を当たる事になったのだ。それに比べれば遥かに余裕があるだろう。
「まぁ、彼女はこの国に一ヶ月間滞在するらしいからな。後二週間以上、もしかしたら王都に滞在するかもしれないから大変かもしれないが、精々頑張る事だな。そうそう、胃薬だけじゃなくて頭痛薬も買っておくと良いぞ。錬金術ギルドで売っている水色のやつだ。効果抜群だぞ?」
「有り難い情報なのに全然有り難みを感じねぇよ・・・。ったく、今度会ったら覚えてやがれよ・・・?」
「フッ、まぁ再び会える事を期待しておくとしよう。彼女を怒らせたら、冗談抜きに再会できなくなるかもしれないからな。頼んだぞ、マコト。」
アイツは今でこそ冒険者ギルドのギルドマスターをやっているが、その実力は今でも衰えていない筈だ。老化を理由に冒険者を引退した事にしているが、5年前に会った時はそれが偽装であり、本来の姿が現役の頃とそう変わらない若い姿である事は知っている。
冒険者を引退した理由を聞いてみれば、指名依頼が横暴な貴族から大量に舞い込んで来て面倒臭くなった、との事だ。
ギルドマスターならば面倒臭さはそう変わらないどころか、むしろさらに忙しくなったりもする筈なのだが、当時は知らなかったようだな。
まぁ、アイツはアイツで良い性格をしているのだ。貴族連中の食い物にされる事だけはまず無いだろう。
アイツは出自が出自だから私達よりも遥かに頭が回る。おそらくノアに対しても胃薬と頭痛薬を遣う事にはなるが、問題無く対応するだろう。
これでようやく肩の荷を降ろせるな。思わず深いため息を吐いてしまった。
羊の月9日、ノアが王都へと旅立つ日だ。宿泊している宿の娘達と共に馬車停泊所までやってきた。彼女達も私達と同様、ノアを見送りに来たのだろう。
この場所には、私を始め、ノアと深く関わった者達が彼女を見送るために集まっているのだ。
一人一人が別れの言葉を告げていく中、ノアは私達に対して愛おしそうな表情を向けて別れの言葉を聞いている。
結局のところ、旅立ちの日までノアはこの街に対して、極めて友好的で、有益で、善良だった。
本当に安堵している。彼女は私達に対して好感を持ってくれたのだ。
だが、忘れてはならない。それは、あくまで私達が彼女に対して好感を持たれるように行動する事が出来たからであり、人間そのものに対して好感を持ってもらえたのかどうかは分からないという事を。
人間達の対応次第で彼女もまた、いくらでも対応を変えていくだろう。本当に、馬鹿な者達が馬鹿な事をしでかさないで欲しいと願うしかない。
最早、私には超常の存在にこの国の無事を祈る事しか出来ない。
大いなる天空神よ。どうか、このティゼム王国を見守って欲しい・・・。
『一応、彼女にはお願いをしたのだけれど、限度があるからね・・・。人間達の行く末は、人間達次第だよ・・・。』
はて、何か聞こえた気がしたが、気のせいだろうか・・・?
まぁ良い、気を取り直して、今日も仕事だ!そろそろ"楽園"に向かった冒険者達も帰って来る頃だ。これはこれで忙しくなるぞ!
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