第85話 二人の馴れ初め

  「まずは此方、オードブルと食前酒になります。それでは、ごゆっくりどうぞ。」


 妖精人エルブの料理人が花の形に綺麗に盛りつけられた燻製された魚の料理を配ると、小さ目のグラスに四割ほど炭酸の酒を注いで去って行った。酒の方は匂いからして、シードルとはまた違った酒のようだ。


 食前酒。つまり食べる前に飲む酒だな。胃を刺激させて食欲を促進させる目的の酒だったか。

 どちらかというと、酒よりもやはり綺麗に盛り付けられた魚料理の方が興味深い。身には脂がのっているのか、とても艶やかだ。酸味のある香りがするが、実際の味はどうなのだろうか。


 「薔薇を模った魚のマリネ、とても素敵ね。早速新作料理が食べられるとは思わなかったわ。」

 「さて、いただこうか。この店は酒にも拘っていてね。きっと満足してくれると思うよ。」


 そういえば窟人ドヴァークは種族全体で酒好きが多いんだったな。そんな酒好きな彼等が褒めるという事はきっといい酒なのだろう。生憎と私には酒の良さがあまり分からないのだが。


 気泡が立っているグラスを手に取ってみる。香りはとても良い。この酒も果実酒の一種だとは思うのだが、元になった果実がどういった物かは分からない。


 依頼を片付ける事に集中しすぎて街で売られている食料品などにはまるで目を向けていなかったからな。多分私が読んだ本の知識の中に該当する果実があるとは思うのだが、それがどれかまでは流石に分からない。


 本で得られる知識の限界だな。やはり実際に見て、聞いて、嗅いで、触れて、味わってみなければ本質というものは分かるものでは無い。


 グラスを傾けてひとまずは少量、口に含む。きめ細かい炭酸が口の中で優しく弾けながら酒の香りを口内へと広げていく。

 甘味は無い事は無いが、シードルほどには感じないな。言うなれば、甘味の無い果汁の味、風味とでも言えばいいのだろうか。それがしっかりと伝わってくる。


 この手の酒は香りと風味を楽しむ物なのだろうな。普段宿で飲んでいる酒とは楽しみ方が違うのだと思う。これも紅茶のように少しづつ、じっくりと味わった方が良いのかもしれない。

 ああ、それで量が少ないのか。酒の香りと風味を楽しんで食欲を増してから食事を始めて欲しい、と。そういう料理なのだな。


 「ノアさんはこういったお酒、飲み慣れているのかしら?とても絵になるわね。」

 「いや全く、所作が丁寧で今まで人と関わった事が無いというのが信じられないぐらいだよ。」

 「一応、こういった食べ物の楽しみ方は本で読んでいたからね。それに倣った所作をしているだけさ。普段は宿で飲む甘いシードルぐらいしか飲まないよ。」

 「あら。それじゃあ、あまり甘さの無いこのお酒はお口に合わないのかしら?」

 「そうでもなかったりするよ。毛色が違う酒だろうからね。この酒の香りや風味はとても豊かだ。それでいて優しさを感じるほどに柔らかい舌触り。ダンダードが気に入るのも頷けるね。」

 「いやはや、ノアさんの理解力は驚愕の一言だな!本で読んだだけでそれだけの所作を身に着けられるとは、恐れ入ったよ!」


 酒を味わいながらもダンダードも彼の妻も自然体で会話が出来ている。二人には悪いのだが、私にそんな余裕は無い。

 一人で静かに味わう分には十分楽しめるのかもしれないが、会話をしながらだとどうしても繊細な味というものは十全に堪能する事が出来ないのだ。


 「・・・ノアさん、こういった物は無理に味わおうとしなくても良いのよ?食前酒ですもの。ほどほどで良いの。それとなく口にして、なんとなく美味しいと感じる。それで良いのよ。」

 「なるほど、勉強になるね。それなら、そろそろこちらを頂くとしようかな。とても綺麗で、崩してしまうのがもったいなくも感じるけれど。」

 「ええ、本当に素敵な料理だわ・・・。ノアさんの言う通り、崩してしまうのがもったいなくも思えてしまうけれど、それで食べなかったらオーナーに失礼ですもの。遠慮なくいただきましょう。」


 美しく盛り付けられた魚の切り身を崩す事に躊躇していたが、ダンダードの妻がとてもありがたい事を言ってくれた。

 そうだな。オーナーは決して盛り付けだけを評価して欲しいわけでは無いのだ。

 彼は料理人。ならば提供された料理を口にして美味かったと伝える事こそが彼にとっての最大の賛辞になる筈だ。

 ダンダードの妻に倣って私も遠慮なくいただくとしよう。机に置かれたナイフとフォークを手に取り、花弁のような魚の切り身を崩して口に運び込む。


 これは・・・・・・実に見事だ。

 以前私が食べた魚は、皮も骨も鱗も身もすべてまとめて齧りついていた。

 そのため魚の身、単体の味ははっきりとわからなかったのだ。それが今回ははっきりと伝わる。

 歯を使わずに千切れてしまうほどの肉の柔らかさ。それでいて確かに感じる弾力。脂の甘味。そしてその油と魚の味を十全に引き出すように付け込まれた味付けが本当に素晴らしい。

 口にした時には確かにしっかりとした味わいがあるというのに、飲み込むころにはその味は程よい酸味によって綺麗に取り払われている。


 「んっ・・・・・・やわらかい・・・・・・。」

 「ほおぉぉぅ・・・う、美しいぃ・・・やはり、ノアさんをこの店に招いた私の判断は間違っていなかった・・・!」


 ・・・・・・いかんいかん。自然と声が漏れてしまった。口元も綻んでしまっている事だろうな。それほどに美味いと感じる事が出来た。

 だが、この料理もまたトーマスが作る料理と比較する事の出来ない料理だ。


 非常に分かりにくい例えかもしれないが、濃い味でハッキリと味を伝えて来るトーマスの料理は、ホーディの腹に飛び込み全身で毛皮を強く感じる心地良さに対して、この魚料理は膝に抱き上げたフレミーを優しく撫でた時のような慈愛に満ちた心地良さを感じさせてくれた。


 私にとって二体の毛並みが優劣をつけられないように、この料理にも優劣をつける事など出来なかった。

 それほどまでにこの料理は美味いのだ。


 惜しむらくは非常に量が少ない事か。この味、この食感はこの一皿だけでは私には足りず、追加で五皿は頼みたい。

 しかしこの料理はオードブル。食前酒と同様メインのために食欲を促進させる事を目的とした料理だ。だとするのならばなるほど、この料理は見事に私の食欲を促進させてくれている。

 こういったコース料理では、お代わりは求めないものらしいから、大人しく次に来る料理を楽しみに待つとしよう。


 「す、素晴らしい・・・!細めた瞼と濡れて艶やかに光沢を放つ唇が艶めかしさを醸し出している・・・!ほのかに吊り上がった口端も実に凄まじい色化を醸し出している・・・!この表情を伺えただけでも、この店の予約を取っふぐぉうっ!?!?」

 「あらあら。貴方、食事があまり進んでいませんよ。俯いたりして、具合が悪いんですか?」

 「ダンダード・・・いくらなんでも、目の前に自分の妻がいる時に他の異性に見とれて妻をそっちのけで褒めちぎるのは駄目だろう・・・。」


 何をやっているんだダンダード。食事をし始めてからというもの、彼の様子がおかしかったが、美しいと言っていたのは料理の事では無く私の事だったようだ。流石に呆れ果ててしまう。

 ダンダードが苦悶の声を上げたのはテーブルの下で彼の妻が彼の腹部めがけて魔力を込めた何かを打ち込んだためだろう。わずかではあるが反応があった。


 随分と手慣れているし、一般人どころか並みの冒険者では到底出来そうにない芸当だな。


 「はっ、はははっ・・・て、手厳しいね・・・。」

 「どこが手厳しいものですかっ!貴方という人は本当に昔っから変わらないんですから・・・。」

 「長い事苦労しているようだね。」

 「ええ、それはもう。出会った時からずっとですから。」


 彼等が出会ったのがどれぐらい昔からなのかは分からないが、どうも十年や二十年では済まなそうだ。

 これだけ魅力的な女性をないがしろにしてしまうダンダードもダンダードだが、それで彼に愛想を尽かさないダンダードの妻も大概だとは思う。


 彼の欠点を補うだけの私が未だ知らない魅力があるからなのか、それとも口ではああいってはいるが彼の女癖の悪さも含めて愛しているのかは、私には分からない。


 「二人がどうやって夫婦になったのか、興味があるな。」

 「あまり面白い話では無いと思いますよ?」

 「知りたければ話すとも、アレに無関係な話でも無いからね。」


 アレ、というのは倉庫を圧迫していた紙の山の事だろうな。まさかそんなに前まで話が遡ってしまうというのか。


 「私達は元々はこの国の住民では無くてね。特に私なんて鍛冶師の生まれでね。商人を目指そうなどとは思ってもいなかったよ。」

 「私は先々代から続く騎士の家系だったんですよ?家族仲も良好で、幼い頃は両親に倣って騎士を目指したものです。」


 なるほど。騎士の実力は最低でも"星付きスター"と同格と言われているからな。先程ダンダードを悶絶させた手際も頷けるというものだ。

 そんな二人が何をどうやったら片方は商業ギルドのギルドマスターにまで上り詰めるというのだろうか。余程奇想天外な事が起きたのだろうな。

 過去を懐かしむようにしてダンダードが話を続ける。


 「私の家系と妻、タニアの家系は特注の武具を卸していた事もあって、関係は良好でね。実際の所幼少からの付き合いだったりするんだ。」

 「あの頃ぐらいじゃなかったですか?貴方が女性にだらしなくなかったのは。」


 おいおい、二人は幼馴染だったそうだが、幼少の頃を除いてダンダードは異性にだらしないって事なのか?一体何がそこまでダンダードに異性に興味を持たせたんだ。


 「ま、まぁ、今はその話は置いておこうじゃないか。とにかく、お互いの家の関係は良好で、私も年齢が近いタニアとは仲が良かったんだ。うん、将来は騎士になったタニアの武具を作ると約束するぐらいには、仲が良かった。」


 新たに提供された料理を口にしながら語るダンダードの表情はただ懐かしんでいるというようには見えない。何処か、愁いを感じさせるものがある。

 何があったのだろうか。まさか、ダンダードに鍛冶の才が無かったとか?


 「私達がこうしている以上、その約束が果たされる事は無かったのだがね。どれだけ本人達が努力ししようとも、外部から振るわれる理不尽というものにはどうしようもないものだ。」

 「まぁ、約束が果たせなくなった事は、私達どちらのせいでも無いと思っていますよ。お互いに納得もしていますしね。」


 外的要因によって、お互いに騎士を目指す事も、鍛冶師を目指す事も出来なくなってしまったと?

 今の姿からは想像がつかないほどに波乱万丈な人生じゃないか。

 だったら、その外的要因とは一体何なのだろう?


 「悲しい事に、かつて住んでいた国とその隣国とで戦争が勃発してね。しかも、此方側の形成が不利な情勢だった。」

 「私の両親達も当然戦争に駆り出されました。ですが当時の私達はまだまだ子供。戦争に参加することも出来なければ、戦争へ向かう者達への手助けも出来ません。家族の計らいによって、私達は外国へと送られる事になったのです。」

 「そして、それ以降私達がその国に足を踏み入れる事は出来なくなってしまった。敗戦してしまったのだよ。容赦なく祖国は滅ぼされてしまったのさ。」

 「どちらの国もあまりにも多くを求め、大勢を殺し続けました。最早、お互いを許せるような状態では無く、滅ぼすか、滅ぼされるかといった状態だったのです。早期に国を出る事になった私達は、運が良かったのです。」


 それだけでも随分と壮絶な話だ。それに、聞いている話だとその身一つで国を出たようにも聞こえる。外国へ無事辿り着けたとして、どうやって生活するのだろうか?


 「尤も、私達がそれを知ったのは国を出てから大分年月が経った後さ。私達はそれどころでは無かったからね。」

 「なるべく離れた国へ、という事で船に乗り、海を渡る事になったのです。」

 「最低限、自分達の扱える道具は持って行ったとも。流石にその身一つでは安全な場所に辿り着いたとしてもどうにもならないだろうからね。」


 また新たに提供された料理を口にしながら話を聞いている。

 そうか。流石にその身一つで国を発ったわけでは無かったんだな。まぁ、早期に国を出たという事だし、準備をする余裕はあったという事か。


 「その準備も無駄に終わってしまってね。私達は呪われているんじゃないか、と当時は嘆いたものだよ。」

 「船旅をしている最中に海賊に襲われるは、その最中に巨大な海魔獣同士の戦いに巻き込まれてしまうはで、このままでは助からないと思ったのです。その時にはもう船はこちらの物も海賊の物もボロボロでしたからね。咄嗟にダンを抱き寄せて海へと飛び込んだのです。」

 「同行してくれた身内も、海賊達の襲撃で命を落としてしまってね。いよいよもって私達だけになってしまったんだ。事態を飲み込めずに慌てる事しか出来なかった私を救ってくれたタニアには、感謝しかないとも。」


 おいおいおい、本当に何かに呪われていたんじゃないか?あまりにも悲惨すぎるだろう。世界が二人の生存を許さないと言っているようにすら感じてしまう。折角準備を整えて国を発ったというのに、結局その身一つで他国へたどり着いたという事か。

 その身一つの子供二人が右も左も分からない外国で生活していかなければならないのだ。そこに至るまでも非常に壮絶だが、それ以降も間違いなく壮絶な人生だったに違いない。


 「沈みかけていた船から飛び降りて流された先は私達の目的地とはまた別の国でした。当然、言葉も通用しません。ですが、やはり私達は運が良かったのでしょうね。打ち上げられた私達を見つけて下さったのは、とても親切で善良な漁村の方々だったのです。」

 「何せ、何も持たない子供が二人だったからね。漁村の方々から手厚く保護される事になったよ。」


 いや、確かに幸運なのだろうけど・・・幸運なのだろうけどそれは不幸中の幸いというやつでは無いだろうか?まさか目的地にたどり着く事すらできず、言葉まで通用しないとは・・・。

 壮絶なんてものじゃないぞ。だが、この状況を二人で乗り切ったといのであれば、最早一蓮托生とも言える関係だろう。夫婦となるのも頷ける。


 「幸い、私は物覚えが良かった。保護してくれた方々が丁寧に彼等の言葉を教えてくれたおかげで、私達は彼等の言葉を三ヶ月ほどである程度覚え、意思の疎通が出来るようになったのだ。」

 「そういった点は私は不得手でしたので、この人がいてくれなければ今の生活は送れていなかったでしょうね。」

 「私も鍛冶師を目指した窟人の端くれだったからね。子供なりに道具の手入れや補修をして保護してくれた人達の手伝いをしながら恩を返していく生活が始まったんだ。」

 「私は騎士を目指していましたし、そのための稽古を幼いころからしていましたので、力も体力もありました。ですので、力仕事を手伝いながらダンとその漁村で暮らしていく事になったのです。」


 不幸続きだった二人の人生がようやく落ち着き始めたんだな。酒で喉を潤わせながら語るダンダード達の表情は優しいものになっている。自分達を保護してくれた漁村の人々に今も感謝しているのだろう。

 だが、話はこれで終わらないのだろう。そうでなければ二人がこの国にいる筈が無いし、商業ギルドのギルドマスターに等なっていないのだから。

 さらに新しく提供された料理を口に運びながら話の続きを聞かせてもらう。


 「漁村の方々とも随分と打ち解けて私が15になった時だ。いつまでも漁村の方々の厚意に甘えるわけにはいかないと常々思っていた私達は、漁村を出て、独り立ちする事を決めたんだ。」

 「私はダンよりも一年早く村を出ても良かったのですが、この人ったらこの時にはもう今みたいに綺麗な女性を見ればすぐに鼻の下を伸ばすような人になっていて、しっかり見張っていないといつ周りに迷惑をかけるか分かったものでは無かったのです。ですので、私もダンが独り立ちできる次の年まで村を出るのを控えたんです。」


 おおぉう・・・ダンダード、そんな若いころから既にそんな性格だったのか。だとするのなら、環境が彼をそうしたのではなく、元から彼はそういう性格だったのだろうな。


 「そうなって来ると、二人は漁村を出て都市へと行き、ダンダードは鍛冶師ギルドへ、タニアは冒険者ギルドへ登録をしに行ったのかな?」

 「私に関してはそれで合っているのですが、この人ったら、いつの間にか商業ギルドに登録していたんですよ。」

 「元から金勘定は出来ていたからね。村で手伝いをしている時も帳簿を着けていたりしたら、これが思いのほか面白くてね。鍛冶も悪くは無いが、まずは効率よく資金を稼ぐためにも商人になろうと決意したのだよ。」


 それが商人ダンダードの誕生の瞬間というわけか。その時点では鍛冶師になること自体は諦めていないようだが、彼の体型を見る限り、とても鍛冶をやるような体型には見えない。

 安定した生活を送るにはそこからまだまだ時間が掛かりそうだな。


 「それまで自分達を保護してくれたことに感謝の言葉を送り、村を出る事を漁村の方々に伝えると、快く彼等は私達を送り出してくれた。

 本当に最初から最後まで心優しい方々だったとも。」

 「あの漁村の方々には、今も感謝しています。この人なんて毎年匿名で村に寄付金を送り続けているぐらいですから。」

 「ま、まぁ、それは良いじゃないか。君だって賛同してくれているからこの事に関しては一言も言及しなかったのだろう?」

 「当たり前です。あの漁村に感謝しているのは、貴方だけでは無いのですから。」


 自分達を救ってくれた上に、独り立ちするまで見守り続けてくれたのだからな。恩を感じるのも当然か。寄付金を送り続けているという事は、今もその漁村は健在なのだろう。後でその漁村の地名を聞いておこう。


 「ダンダードがこの店を贔屓にしているのは、漁村を思い出させる魚を使った料理を提供してくれるからかな?」

 「ふふふ・・・やはりノアさんは理解力が素晴らしい!そうだとも!私達を温かく育ててくれた食事を思い起こしてくれるこの店は私達にとって特別な店なのだよ。」

 「ちなみに、どういう因果かわかりませんが、この店のオーナーも私達がお世話になった漁村を訪れた事があるのですよ。そこで新鮮な魚料理の素晴らしさを知ってこうして店でも提供するようになったのですって。」

 「その話を聞いた時には流石に運命を感じずにはいられなかったよ!彼が女性であったのならその場で口説いていたかもしれなぐぁああっ!!」

 「まったく、節操が無さすぎですよ、貴方。」


 ああ・・・またしてもダンダードの腹部に何かがぶつけられたな。しかも先程と全く同じ個所だ。懲りない人だな彼も。

 悶絶しながらも話は続けてくれるようだ。もう少し落ち着いてからでも構わないのだが、まぁ、聞かせてくれるというのなら聞かせてもらおう。


 「ま、まぁ、とにかく、お互いにそれぞれ適したギルドに登録して活動を開始してからはなかなかに順調な生活を送る事が出来たんだ。私も周囲の人々に恵まれたし、タニアも騎士を目指して稽古を続けていた事もあって瞬く間に"上級ベテラン"までランクアップをしてしまうぐらいだったさ。」

 「瞬く間、と言っても、ノアさんほどの速度ではありませんけど。」


 むぅ。言われなくとも異常な速度である事は分かっているとも。今後は自重するさ。だが、タニアが驚異的な速さで"上級"まで昇格できたのはきっと才能や幼少からの稽古だけでは無いだろうな。

 彼女は彼女なりに漁村の人々に恩を返したかったのだろう。その強い気持ちが、彼女の力となってそれだけの成果を出す事が出来たのだと思う。


 「そうして私もそれなりに仕事をこなして4年、私に大きな仕事が舞い込んできたんだ。」


 大きな仕事か。これまでの話ではまだ彼等は結婚していないようだが、そのきっかけとなる事態が起きたのだろうか?

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