第51話 玉座と救護要請
さて、こちらに向かってくる、というよりも連れてこられている者がどういった要件なのかと考えていると、ゴドファンスのエネルギーが急激に膨れ上がった。
何をしだすのかと思えば、『
一通り出来上がったのか、ゴドファンスが台座の付近まで移動して私に思念を送ってきた。
〈おひいさま。どうぞ、こちらの、座に、お掛けになって、ご対応、お願い、申し上げます。〉
座にお掛けにって事は、これは椅子なのか?そこに座って、これから来る相手に対応しろと?
これだけ巨大な物をあっという間に造り上げたため、ゴドファンスのエネルギーは既に九割以上消費されてしまっている。そのため、やや息が上がっている。
「これ、椅子なのか・・・。物凄く仰々しい椅子を造ったね・・・。えっと、理由を聞いていいかな?」
ゴドファンスが造った椅子?は、椅子と言うにはあまりにも巨大で派手だ。
まず黒い石の土台があり、腰かける場所までに七段分の階段がある。確かに、腰かける部分は椅子と呼べる形状をしているのだが、この椅子自体が非常に派手であり、そして巨大だ。
おそらく、この腰かける部分は全て黄金で出来ているんじゃないだろうか。
更にこの黄金の椅子には、至る所に七色の宝石が散りばめられている。幅も、背もたれの高さも、私の身長以上ある。そのまま横になれてしまうな。寝心地は、あまり良くはなさそうだけれど。
腰かける部分の背後には巨大な七色の透明な柱が、扇状に広がるようにして伸びている。
しかも一本一本が偏光性を持っていて虹色に輝いている。非常に派手だ。この柱が非常に巨大であり、高さだけなら私達の家と同じぐらいある。いや、それよりも僅かに高いか。
この柱が、この椅子?の大部分を占めていると言って良いだろう。
何故、ここまで大規模な椅子を用意したのだろうか。多少エネルギーが回復したゴドファンスが、答えてくれる。
〈これからおひいさまに謁見する相手は、言い方は悪くなりますが、いわゆる格下に御座います。立場を明確に理解させるのであれば、こういった、威を示す物が必要になると愚考いたしました。〉
〈うむ。主は森の皆に過保護であり、気さく過ぎる所があるからな。こういった物があった方が森の主として認識されやすいだろう。〉
〈七色の柱や宝石も、姫様の御力を見事に表現していますね。実に素晴らしい出来栄えです。〉
〈キラキラしていて、眩しいね。これでご主人が光ったら、ボク何も見えなくなっちゃいそう。〉
〈ノア様、腰かけるなら、コレ使って。〉
皆が椅子に対する評価をしている中、フレミーが私の身体より一回り大きい、この巨大な椅子に敷くのにピッタリな大きさの布のクッションを渡してくれた。艶々で、スベスベで、ふわふわで、至福の触り心地だ。
コレは本当に有り難い。黄金で出来た椅子はどう見ても硬くて、寝床の柔らかさに慣れた私には座り心地が良さそうには見えなかったのだ。
しかしそうか、皆は私が相手に対当、あるいは下に見られるのが嫌なのだろうね。
仕えている立場としては当然の事なのかもしれない。だとしたら、その気持ちに応えないという選択肢は、私には無い。
「君達が望むのなら、それに応えよう。ただし、喋り方まで変える気は無いよ。」
〈承知致しました。〉
ゴドファンスの返事を聞いた後、クッションを椅子に敷いてそこに腰かける。
さて、相手が来るのを待つとしよう。
椅子に腰かけてから割と直ぐに、レイブランとヤタールが帰ってきた。まぁ、私が感知できる範囲からなら、あの娘達の速度であればそんなものだろう。
レイブランの両足は、青い鱗に覆われた
知覚できる限りでは、その心配は無いようだ。
蜥蜴人の鱗の形は不揃い無く綺麗に揃っている。それに全体的な筋肉のバランスも良い。線の細い顔立ちも均一に整っているし、鋭い瞳からは強い意志を感じられる。所謂、美丈夫と言う奴だ。
所々傷跡があるが、それは彼が常に戦いに身を置いている証拠だろう。さぞ、同族の異性から好意を集めている事だろう。
鱗の表面は透き通っていて、宝石のような輝きを放っているので非常に美しい。
光物が好きなレイブランとヤタール、フレミーが好みそうだ。反対にウルミラはちょっと苦手意識を持ちそうだな。光の当たり具合ではかなり眩しくなるだろうし。
レイブランが蜥蜴人を降ろすと、彼は直ぐに跪いて頭を下げたまま微動だにしなくなった。
彼の事をまるで気にすることなく、レイブランとヤタールが私の所へやって来る。この娘達の興味は既にこの巨大な椅子にあるようだ。
〈帰ってきたのよ!スゴイのが出来てるわ!ここに止まっていいかしら!?お客を連れてきたのよ!〉〈とっても大きくて綺麗だわ!この場所とっても気に入ったわ!助けてあげて欲しいの奴がいるのよ!〉
「お帰り、レイブラン、ヤタール。好きな場所に止まると良いよ。」
案の定、レイブランとヤタールはこの巨大な椅子を気に入ったようだ。
両端にある黄と紫の柱の天辺にそれぞれ止まっている。胸を逸らせて、とても誇らしげにしているように見える。
私の両隣に止まってくれても良かったんだけどな。椅子の幅は十分あるし。まぁ、好きな所に止まってい良いと言った手前、今更か。
蜥蜴人はレイブランに降ろされてから、相変わらず微動だにしていない。ヤタールが言うには助けを求めているという事だし、あまり待たせるものでは無い。そろそろ話を聞くとしよう。
「それで、君は私に用がある、という事で良いのかな?」
「はっ。まずは、森の主たる"黒龍の姫君"様にお目通りが叶いました事、誠に感謝申し上げます。」
「あぁ、うん。ええっと、助けがいるんだよね?あまり、話が長くならないようにしようか。早速だけど、事情を聞かせてくれる?」
これまた恭しい言葉遣いだ。どういう訳か、彼も私の事を"姫"と呼ぶし。
彼が私を、この森の主と認めているからなのかもしれないけれど、この森の男性陣と言うのは、皆こういう喋り方をするのが基本なのだろうか?
いや、そんなことは今は良い。余計な事を考えていると話が長くなる。彼の表情を見るに、結構急ぎの要件のようだし、話を進めるとしよう。
ちなみに、彼の言葉は私の言葉とはまるで違った発音をしている。それにも関わらず彼とはしっかりと意思の疎通が出来ているという事は、言葉を発していても実際の所は思念によって意思の疎通をしていると考えた方が良いのだろうか。
・・・いかん、また余計な事を考え出してしまった。これも後で考えるとしよう。今は事情聴取だ。
「私が分不相応にも姫君様にお目通りを願ったのは、我らの集落の窮地を、どうか救っていただきたいと願ったからに御座います。」
「その窮地と言うのは、森の外からの干渉によるものかな?森の住民同士の争い事に、私は干渉するつもりは無いよ?」
多分、森の外からの干渉だろうし、それが何者なのか予想はついているけれど、一応確認を取り、そして念を押しておく。
もしも森の住民同士の争いであるのならば、私の出る幕ではない。
そこは自然の、この森の掟。強い者、勝ったものが全てである。その結果、片方が滅びようとも、それが自然の摂理と認める他ない。
私が出しゃばれば、前例が出来る。前例を持ち出して、誰もが私の力を利用しようとする。そうなれば、森の掟、森の秩序などあったものでは無くなるだろう。
森の住民でありながら森に害するというのであれば話は別だが、基本的に森の住民同士の争いに干渉する気は無い。この方針は、私が意識を覚醒させてからずっと変わらないし、変えていくつもりも無い。
「姫君様の仰る通り、我らの窮地は森の外から来た者達、人間達によって引き起こされています。」
「続けて。」
やっぱり"人間"か。そんな気はしていた。彼に話を促して詳細を聞こう。
「今から十数日程前に、森の恵みを採取していたところ、人間の集団と遭遇しました。人間に遭遇する事自体は、我々のような森の浅い部分に住まう者にとっては珍しい事ではありません。彼らも、森の恵みを享受しているようですから。」
「その人間達が、普段遭遇するような者達とは違っていたんだね?」
「はい。普段遭遇する者達はそのほとんどが身に纏う装備の姿形がバラバラです。しかし、今回遭遇した者達は多少の差異はあれど、皆同じ装備をしていました。」
「その言い方からすると、数も多そうだね?」
「はい。彼らに遭遇する際は、いつもならば総勢が10を超えることは決してありませんでしたが、今回は優に50を超えています。」
「遭遇した子達は、無事だったの?」
「・・・残念ながら、数名、犠牲が出ました。・・・ですが、それは良いのです。彼らは皆、戦士でした。戦う事こそが彼らの務めなれば、戦いの中で命を落とすことも本望と考えております。」
「・・・・・・人間達に、君達の集落を襲われたんだね?それも、戦士かどうか関係なく。」
彼の話を聞きながら、情報を整理し、状況を予測して彼に尋ねる。
戦士として戦って死ぬ事に不満は無いという彼の表情が、悔しさに満ちている事から考えると、集落の者達を無差別に襲われたと考えて良いだろう。
「・・・御慧眼の通りに御座います。人間達に遭遇した三日後、彼等は我らの集落に襲撃を仕掛けてきました。数では勝っていますが、皆が皆、戦えるわけではありません。また、戦えぬものを庇い、命を落とした者もいます。」
・・・それは、辛いな。おそらく彼は、集落の中でも結構な地位のある者なのだ。
上に立つ者として、命を預かる者として、それらを守れなかった事が、悔しくて仕方が無いだろう。
もしかしたら、彼の友人や家族も失ってしまったのかもしれない。それでも、悔しさを呑み込み、取り乱さずに冷静さを保てているあたり、彼の精神は非常に高潔なものだと感じずにはいられない。
「人間達は我らよりも優れた回復手段を持っているようで、負傷させ、撃退した者でも、日を改めると何事も無かったかのように復活しておりました。日に日に我らの数は減り、このままでは集落の全滅は避けられない、そう思い始めた頃です。八日前に姫君様が森に狼藉を働くドラゴン達を瞬く間に一掃した御姿を偶然にも拝見する事が出来ました。我らが助かるには最早、貴女様に頼る以外に道はありません。思念波の扱いに長けた者達を集め、"森の監視者"たる御二方に思念を送り続け、今日、ようやくお取次ぎが叶いました。」
事情は分かった。
彼の言う"森の監視者"と言うのは、レイブランとヤタールの事だよな。というか、レイブラン達に思念が届くのに八日も掛かってしまったのか。これは、急がないとまずいのかもしれないな。
何故、急に人間達が大勢、装備を揃えて彼等の元、と言うよりも、森に入ってきたのだろう。過去を振り返り、原因を考えてみる。
・・・・・・・・・・ひょっとして、この事態、私が原因か?
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