第50話 焼き肉パーティー
さて、それではドラゴンを皆に切り分けていくとしようか。
ドラゴンの身体は非常に大きい。首だけで見ても、太さは私の身長と同じくらいあるのだ。長さも私の身長の2倍ほどはある。
皆にドラゴンの肉を提供するために、私の腕くらいの厚みで首の部位を切断していく。光の剣を使えば、一太刀で何の抵抗も無くすんなりと切断することが出来た。
皆で食べようとしても、このぐらい切っておけば足りなくなるという事は、多分無いだろう。
肉から鱗を皮ごとそぎ落として皆の身体に合わせて切り分けていく。肉の厚みは、全て均等にしておこう。
そういえば、この皮と鱗や骨も食べられるのだろうか。後で試してみよう。今は皆に分ける肉だ。
それぞれの器に写したドラゴンの肉を皆の所へと持って行く。
皆ソワソワとしていて待ちきれない、という気配が肉を切り分けていた時から感じられていたのだ。本当に楽しみだったのだろう。
「お待たせ。それじゃあ、皆で食べるとしようか。」
〈待っていたのよ!食べやすくしてあるのね!〉〈楽しみにしてたのよ!小さく切り分けられてるわ!〉
〈あまり硬くは無さそうだな。問題無く食べられそうだ。〉
〈結構、美味しそうな匂いがする・・・。ご主人、いただきます!〉
皆、一斉に容器に盛られた肉に食いついていく。食べる勢いが収まらないところを見ると、皆にとっても味は悪くないようだ。
「何か足りないものや不満があったら遠慮なく言って欲しい。味の方はどうだい?」
〈なかなかに美味で御座いますな。森で仕留めた、どの肉とも違う味がします。〉
〈悪くありません。やはり、この肉も加熱する事によって味も食感も変わるのでしょうね。〉
〈焼くの!?この肉焼くのね!?美味しそうだわ!〉〈良いじゃない!焼きましょ!魚が美味しかったのだもの!きっとコイツ等の肉も美味しいわ!〉
〈熱そうだけど、ボクも焼いた肉が食べてみたい!焼いた方が良い匂いがするんだよね!〉
〈私はこのままでも美味しいと思うよ。でも、加熱すると食感も変わるんだよね?〉
〈主よ、加熱を頼めるか?我らでは、まだ主のように食べるのに適した熱加減が出来なくてな。我はその間に岩塩を取ってくる。〉
お安い御用だとも。私も焼いた肉を食べたかったところだし、丁度いい。
早速『
しかしホーディ、君は随分と気が利く子だな。一番食べるのは君だというのに、皆が食べている間に塩を持ってきてくれるなんて。
ドラゴンの肉には甘味や旨味のある脂が含まれている。程よく加熱する事によって脂が溶け、匂いが広がり、より柔らかな肉の食感を楽しむ事が出来るだろう。
塩を振るえば、液状になった脂に塩が溶けて、満遍なく肉と塩の味を楽しむ事も出来る筈だ。実に美味そうじゃないか。
焼いた肉の香りが辺り一面に広がると、ウルミラやゴドファンスの口から涎が溢れてきた。
分かるよ。実に美味そうな匂いをしているからね。こうなってしまうのは当然だろう。かく言う私も口の中で唾液が溢れてきている。
だが、まだだ、まだ十分に焼けていない。
ウルミラもゴドファンスもそれが分かっているのだろう。まだまだ美味くなる、そう分かっているからこそ、まだ誰も食べようとしていない。
〈実に食欲をそそる香りではないか。食べないのか?〉
〈〈まだだよ(である)!!〉〉
〈まだ焼けてないのよ!今食べたらもったいないのよ!〉〈食べごろでは無いのよ!一番美味しいのを食べたいわ!〉
岩塩を取ってきたホーディが戻ってきた。口からはウルミラやゴドファンスと同様、涎が出ている。
辛抱堪らないといった所か。だが、もう少しだけ待って欲しい。
その間に塩で味付けをしておこう。
「十分に火が通るまでもう少しだけかかるよ。その間に、塩を振っておこうか。」
〈主よ、あまりかけすぎないでくれよ?〉
分かっているとも。私から見たら君達は皆、薄い味を好むようだからね。私もそれに合わせるとしよう。
取ってきてもらった岩塩を受け取り、両掌で合わせて押し潰し、両掌をこすり合わせる。
それだけできめ細かい塩の粉が出来上がる。後は適当な容器に入れて、少しずつ、均等に肉に振りまいて行けばいい。
丁度、肉も良い焼き加減になったようだ。石板から容器に移して皆に配っていく。
「待たせたね。十分に火が通ったよ。さぁ、好きなだけ食べるとしよう。」
〈待っていたのよ!蕩けるわ!咥えた途端に蕩けたのよ!〉〈とっても美味しいわ!アイツ等とっても嫌な奴等だったけどこんなに美味しいなら少しは気が晴れるのよ!〉
〈素晴らしいな!我は気に入った!焼いた魚も美味いが、焼いた肉はまた違った美味さがあるな!〉
〈これが焼いたドラゴンの肉の味・・・焼く前よりも容易に噛み切れるようになっていて、実に食べやすいです。〉
〈塩が脂に溶けて、とっても美味しい。〉
〈永く生き続けてこのような美味を味わったことは御座いませんでした。"死者の実"もまた儂の中では格別の味では御座いますが、どちらが上とは決められることでは御座いませんな。〉
〈まだ熱い、もうちょっと冷まさないと・・・・・・じゅるり。〉
皆が勢いよく食べている中、肉がまだ熱を持っていてウルミラは口にしていないようだ。この娘だけ食べられないのは可哀想なので、一手打とう。
『冷却』の意志を僅かに乗せた少量のエネルギーを、ウルミラの容器に流していく。これでウルミラの容器に乗せた肉は直ぐに冷めるようになるだろう。
〈ご主人!ありがとう!・・・はぐっ・・・あむっ・・・・・・美味しい!すっごく美味しい!!〉
焼いた肉への評価は上々だ。皆とても美味しそうに食べている。それでは、私も塩を振った焼き肉を味わうとしよう。
・・・脂身の多い場所だったのだろうか。歯で噛み切るまでも無いな。舌と上顎で挟むだけで容易に肉の繊維が千切れていく。レイブランが言っていたようにまさに蕩けるような食感だ。
肉の表面に付いた塩も、脂に溶けてそれが口の中いっぱいに広がっていく・・・。
文句無しに美味い!いくらでも食べられそうだ!食事でここまで感動したのは初めて果実を食べた時以来だな!気付けばあっという間に焼いた肉が無くなっていた。
まだ少し食べ足りないな。
「皆、まだ食べるのであれば用意するよ。」
〈まだ食べたいわ!こんなに美味しいのだもの!〉〈足りないのよ!動けなくなるくらい食べたいわ!〉
〈ボクも、もっと食べたい!このお皿、焼いた肉でも直ぐに食べられるから凄く便利だよ!〉
〈主よ、おそらく皆、まだ食べ足りない様だぞ?御馳走と言って差し支えないのだ。食べきれなくなるぐらい丁度良いのではないか?当然、我もまだ食べたいぞ?〉
食べるのに夢中で答えなかった子達もいるが、あの様子ならお代わりを用意しても問題無いだろう。ならば、先程の倍の量の焼き肉を用意しようじゃないか。
ヤタールも言っていたが、動けなくなるまで食べても私は構わないぞ!
美味そうに食事をする皆の姿は誰も彼も、実に微笑ましくて愛おしい。満足するまで食べたら、皆でぐっすりと朝まで寝るとしよう。
今日はいろいろあったが、実に素晴らしい一日になった。それはそれとして、寝る前に、角と翼を仕舞い続けることが出来るかどうか、試すのを忘れてはいけない。しっかりと仕舞ってから眠りにつくとしよう。
そんなわけで、その日の夜は皆で焼き肉を思う存分堪能して、ふわふわやモフモフ、もこもこに包まれながら、至福の中で眠りにつく事になった。
ドラゴンの焼き肉を味わってから8日が経過した。
私達の生活は特に変わったことは無い。
私はドラゴンの肉を味わいながら、相変わらず力を制御し、自在に事象を扱えるようにするための修行を行っていた。
ドラゴンを食べた次の日には早速、私が作った『黒雷炎』の消費と威力を抑えた劣化版をフレミーとホーディを加えて製作した。
この二体が森で不自由なく扱うように調整するのに一日中掛かってしまったが、良いものが出来たと思っている。
話は変わるが、私の角と翼は寝ている間にもしっかりと仕舞う事が出来ていた。
おかげで寝床が傷つく心配はほとんど無くなったし、就寝時、背中に誰かに来てもらう事も出来る。実に快適だ。気付かせてくれたホーディには本当に感謝しかない。
他には、ドラゴンの解体も行っておいた。
それぞれ鱗、皮、骨、肉、角、牙、臓物に分別し、皮や骨は乾燥させ、肉は『我地也』で建てた保存庫に保管し、牙や角、臓物は、有効活用出来そうになく、食べても美味そうではなかったので、『真・黒雷炎』を用いて消滅させておいた。
鱗や乾燥した骨を食べてみたが、これがなかなか癖のある味で不味くは無い。
鱗は一枚で私の掌ほどの大きさがあるが、簡単にかみ砕く事が出来、間食にちょうど良かった。
多少の苦味があるが、苦味だけでなく旨味と、何故かほんのりと塩辛さを感じた。
骨には旨味がたっぷりと含まれていて、噛めば噛むほどに唾液と旨味が混ざり合い、骨の味を堪能する事が出来た。
他の皆には、鱗も骨も食べる事が出来なかったようで、やはりドン引きされてしまった。まぁ、普通は出来ない事なのだろう。受け入れようじゃないか。やめるつもりは無いけれど。
それ以外では引き続き、ホーディとラビックに稽古をつけている。
二体とも、上達が早い。稽古を行う都度、その時の反省を生かし、教えた事を素直に受け止め、失敗を繰り返そうとしない。最近は、少しずつ連携も取れるようになってきた。
まだまだ拙い部分は残るけれども、私も彼らの動きに教えられる事があったりもするくらいだ。
有り難い事だ。こうして互いに互いを伸ばし合う事が出来るというのは。
稽古をつけている立場ではあるけれど、自分よりも優れた点や、自分では気づかなかった点は素直に認め、それを自分に取り入れる。
そうする事で、より自分を高めていく事が出来るだろう。
正直、エネルギーにものを言わせれば、大抵の相手はどうにでもなるのだろうが、それにばかり頼っていては何かの拍子にエネルギーが使用できなくなった際に何もできなくなってしまう。
そういった事態を避けるためにも、稽古の時はなるべくエネルギーを使用しないようにしている。
修行の方も順調だと言える。現在、図形を作る事に集中すれば四つまで同時に図形を作る事が出来るようになったのだ。
感覚的に、後400日もあれば十個の図形を同時に作り上げる事も夢ではない。
相変わらず、私の上達速度に皆はドン引きしていたが、不満に思う事なく素直に受け入れようじゃないか。
それぐらい規格外でなければ、私は私の理想とする飛行能力を得る事が出来ないのだから。
そうして修行をしつつ稽古をつけ、日が昇り切って少しした頃、丁度レイブランとヤタール以外が全員家の近くに集まっている時だった。
「おや?レイブランとヤタールが帰って来たみたいだけれど・・・誰かを連れてきているね?」
〈あの反応、恐らくは森の浅部に当たる場所に住まう者でしょうな。〉
〈生きたまま、大人しく連れてこられているという事は、此処に何か用があるという事なのでしょうね。〉
私が知覚した感じでは連れてきているのは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます