第47話 外から来たドラゴン

 さて、家から果実を取ってこよう。全速力で跳んでくるのであれば喉を乾かしていることだろう。

 一つを真っ二つに切り裂き、皮をむき、種をくり抜いて、果肉だけを器に入れて家から出る。

 あの子達は、ちょうどホーディ達のいる所に着陸したようだ。


 「お帰り、まずはこれを食べるといいよ。喉が渇いているだろう?」

 〈嬉しいわ!急いできたからクタクタなのよ!アイツらホントに嫌な奴等よ!〉〈ありがとノア様!喉が渇いたのよ!腹が立って仕方が無いのよ!〉


 勢いよく果実を食べ始めるのと同時に、彼女達から思念が送られてくる。

 食べるか思念を送るか、どっちかで良いのだけどね。まぁ、話がスムーズに進むというのなら不都合は無いか。


 「君達の言う嫌な奴等っていうのは何者なんだい?」

 〈トカゲよ!羽の付いたトカゲ!遅くて弱っちいクセに偉そうなのよ!〉〈ホーディよりおっきなトカゲよ!自分達は強いって偉ぶりながら、空から森に火を噴いてるのよ!〉

 〈羽の付いた我より巨大なトカゲ、つまりはドラゴンだな。〉

 〈山から来た連中でしょうか。大分前に浅部の者達に手酷く痛めつけられてからはそういった話は聞いていませんでしたが・・・。〉


 森に向けて火を噴いているという時点で聞き捨てならない話だが、ここにいる皆から聞いた印象だとあまり強いようには感じない。

 それこそ、レイブランとヤタールだけで十分対処する事が出来るようにも聞こえる。というか、この娘達の怒り具合から、自分達で始末に向かいたい様に見える。

 何故、私の所に来たのだろう?


 「君達ならばその連中、どうとでも出来るような気がするのだけれど、私に伝えに来たのはどうしてかな?」

 〈逃げるのよアイツら!森の境界付近で火を噴いて私達が近づくと直ぐに逃げるの!〉〈私達がいないときだけ火を噴いて回るのよ!逃げた先で笑っているのよ!〉


 果実をがつがつと食べながら、しっかりと伝えてくる。

 この娘達は肉体と精神が別々に働いているのだろうか?思考が肉体に引っ張られないのは素直に感心する。

 まぁ、それはさておき、森の境界近くで森にちょっかいを掛けておきながら、強者が近づいてきたら即座に森の外へ退散。で、近づいて来た者を森の遠く離れた場所であざ笑う、と。

 腹が立つのも、無理は無いか。

 しかし、この娘達は森の外へは追っていかないのか。


 「ドラゴンはそんなに早くないのだろう?森の外へまでは追わない理由を聞いていいかい?」

 〈アイツら私達が森を出ると別の奴らが入って来て火を噴いて回るのよ!〉〈五体いるのよ!あっちこっちで火を噴いて回ってるのよ!〉

 「なるほど、森の外へ出た途端に待機していた別の者がちょっかいをかけてくる、と。君達は、力を抑えて気取られずに近づく事は出来ないのかい?」

 〈出来ないわ!力を抑えるって難しいのよ!当たり前のように抑られるノア様がおかしいのよ!〉〈必要が無かったから覚えようともしなかったの!ウルミラとフレミーぐらいよ!私達の中で力を抑えて隠れられるのは!〉


 そういえば皆エネルギーを抑えている所を見た事が無いな。確かにこの辺りで生活するのなら、エネルギーを抑える必要も無いのだろう。彼女達は知らないようだけれど、先程の稽古の事を考えると、ラビックも気配を消す事が出来そうではある。

 本来、森の奥で気配やエネルギーを抑える事が出来るのは、それをする必要がある被食者である小さな虫達ぐらいなものか。

 そうなると彼女達が私に知らせに来たのは、やはり私にそのドラゴン共を何とかしてほしい。という事かな。


 「レイブラン、ヤタール。確認をするけれど、君達は私に森に火を噴いて回っている連中を何とかしてほしい、という事で良いのかな?」

 〈そうよ!思いっきりやっちゃって欲しいのよ!〉〈ぶちのめして欲しいのよ!手加減なんていらないわ!〉


 どうやら二羽とも相当にお冠な様子だ。

 まぁ、現在進行形で森に害を与えているというのであれば、それは森の敵であり、私の敵だ。容赦をするつもりは無い。


 「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。また、森の皆が慌てたりしなければ良いのだけれど。」

 〈それについては問題無いわ!怖がってはいるけれど認められてもいるのよ!〉〈森の皆の事は心配しなくて良いわ!ノア様が森の主だと思ってるみたいよ!〉


 森の上空で力を振るう事で森の住民達が以前のように混乱してしまわないか心配したのだが、レイブラン達が今日森を見て回った限りでは、動揺は見受けられるがパニックにはなっていないとの事だった。


 感じ取った力の性質が、以前の皆が言うところの"光の柱"と同じ物だと理解し、その力の持ち主こそがこの森の主である、と判断されているらしい。

 少なくとも彼女達はそれが森の反応だと、そう捉えたようだ。


 もしそうだとするのなら、やはりこの事態にはしっかりと対応をする必要がある。


 威厳だのなんだのを振りかざすつもりなんざ、さらさら無い。

 だが、それでも私を森の主として認識してくれているのであれば、その思いにはしっかりと応えるべきだ。元から容赦するつもりなど一切無かったが、尚のことやる気が出るというものだな。


 真上に跳び上がり、樹木五本分ほどの高さで翼に風を当てて、その場に停滞する。

 あまり遅くなるのは良くないだろう。私のエネルギーを感じ取ってもパニックにならないというのであれば、感づかれない位置までは急いでいくとしよう。


 翼にエネルギーを集め、翼指を私の背後へと向けて昨日の2倍ほどのエネルギーを用いて噴射による飛行で一気に目的地付近まで移動しよう。

 尤も、噴射されたエネルギーを感知される恐れがあるため、噴射による高速移動は普段の私の感知範囲に届かない距離までに留めておくが。


 連中の状況を知るためにも、無制限で『広域ウィディア探知サーチェクション』を使用しておく。この事象自体も気取られないように『隠蔽』の意志を乗せて使用しておこう。


 これから行う噴射による高速移動は、間違いなく音速を越えて爆音を発生するだろうから、『静寂』と『隠蔽』の意志を乗せたエネルギーを私を中心にして私二人分ほどの直径の球状に展開させる。

 おそらくはこれで加速した際に音は出ないし、連中に音や目視で気取られるという事も無い筈だ。


 昨日の2倍のエネルギー量で噴射を行った際の速度は、最早私の足では到底出せそうもない速度になった。

 音速の数倍の速度は間違いなく出ており、数回呼吸をするぐらいの時間で二体のドラゴンを『広域探知』で捉える事が出来たのだ。


 ドラゴン達は、確かにホーディよりも大きいな。体積でいえばホーディの2倍ぐらいはありそうだ。

 それぞれ赤と緑の鱗が、ギラギラと光沢を放っている。私の翼の飛膜もそうだが、ドラゴンというのは派手な生き物なのだろうか?


 気取られて逃げられないようにするために、念のためここからは噴射による高速移動を止めて、エネルギーを使用せずに羽ばたきだけで移動するとしよう。勿論、羽ばたく力は加減しない。こちらもそれなりに急いでいるのでね。


 私の『広域感知』の性能は、とことん規格外らしい。連中の思念による会話すらも私は知覚する事が出来た。


 〈ギャハハハハハッ!!ザコ共が!燃えちまえよォ!!〉

 〈なぁにが俺達を相手取れるだ!無様に焼かれてんじゃねぇかよ!生意気なんだよ!!地べたを這いずり回るゴミ共がよォ!!〉

 〈テメェ等クズ共が、俺達ドラゴンに勝てるわきゃねぇだろおがよォ!!〉

 〈俺達は最強!無敵!伝説の存在なんだよぉ!!!〉


 ・・・何とも頭の悪そうなセリフ回しだ。随分と粋がっている様だが、奴等のエネルギー量は森の浅部の住民達の平均を少し下回る程度だ。

 吐き出している炎も平均以上の力を持った者達には通用していないだろう。


 〈そういえばよぉ、さっきから"奴等"の反応がしなくなってんな。〉

 〈ハッ!俺達に恐れをなして来なくなったんだろうよ!何処のどいつか知らねぇが、森を見捨てたって事なんだろうよ。〉

 〈なら、もうこのクソむかつく森なんざ焼き払っちまおうぜ!!おい!お前らも来いよぉ!!〉


 それにしてもあの連中、力を誇示する割には森の中でも弱者にしか手を出していないじゃないか。

 食料として、獲物を捕るために自分よりも弱い者を狙うのであれば、私に文句は無い。むしろ、生きるためには必要な事だ。

 だが、連中は自分達を最強だと謳い、わざわざ自分達よりも確実に弱い者達だけを狙って攻撃を行っている。

 連中の感知能力ならば、自分達よりも強いエネルギーを持った者を感知できるはずなのだが、まるで存在しないかのように振る舞っている。

 認めたくないものからはとことん目を背けるようだ。そして、自分よりも強いものが向かってきたら即座に逃げ出す、と。


 レイブラン達が自分達の所に来ない事を不思議がっていたが、何をどう捉えたのか、自分達を恐れたからだと判断したらしい。

 余程、物事を自分達にとって都合の良いように考えたいらしい。世界は自分を中心に回っているとでも思っているのだろうか?


 ・・・度し難い。というのは、こういう事なのだろうな。おそらく、生前の"死猪しのしし"もああいった輩と同類だったと考えられる。


 ・・・あれが、ドラゴンか。あんな連中が、ドラゴンだというのか。

 私もドラゴンだという自負があるため、あんな連中と同列に扱われるのだとしたら、腹立たしいにも程がある。風上にも置けない、という奴だろう。

 私は、あの連中を自分と同族として、ドラゴンとして認めたくはないようだ。


 それはそれとして、本格的に森を焼き払うつもりなのか、二体のドラゴン共が他の三体のドラゴンを森の外から呼び寄せた。

 後から来た連中も、黄色だの青だの紫だのと、光沢を派手にギラギラさせた鱗を纏っている。ウルミラが見たら眩しがりそうだ。


 まぁ、集まってくれるのならば都合が良い。五体まとめて始末するとしよう。残りの三体も先の二体と然程変わらない思考をしているようだしな。

 連中に慈悲などいらないだろう。


 既に連中の炎の有効射程内まで私は近づいているのだが、エネルギーを抑えたうえで『隠蔽』と『静寂』の意志を乗せたエネルギーを相変わらず纏っているためか、気付かれている様子は無い。

 気付いていないのならば、それでいい。私は連中の真下に移動する。

 

私は思いっきり羽ばたいて、一番大きく、強いエネルギーを持った個体に向かって急上昇した。


 まずはあいさつ代わりだ。その調子づいた顔を顎下から軽く蹴り飛ばしてやろう。

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