第46話 反省会と招かれざる者
稽古の内容を振り返る前に、だ。エネルギーを纏わせた尻尾を伸ばして、威力を保ったまま落下してくる『炎岩弾』を
〈・・・それなりに威力に自身があったのですが、本来の姫様には通用するようなものでは無いのですね・・・。〉
〈そう落ち込むな、ラビック。それは皆も同じ事だ。〉
「力を抑えた私には十分に通用するのだから、誇っていい威力だよ。ちょっと待っていて。」
どうやらラビックは『炎岩弾』の威力にはかなりの自信があったようだ。私にあっけなく破壊されてしまった事にショックを受けている。
こういう時は、美味いものを食べて少しでも気を紛らわそう。
家から果実を三つ取ってきて、切り分けたものを二体に渡す。
「お待たせ。美味いものを食べながら、さっきの稽古の反省会を行うとしよう。」
〈有難い。未だ、これは主に頼らなければ口に出来なくてな。〉
〈私も、姫様に頼らずに自力でこの実を食せるようになりたいものです。〉
果実を食べながら二体は自分の思いを口にする。目標があるのは良い事だね。事象を上手く扱えるようになれば、彼等でも食べられるようになるとは思っている。
自力で食べられるようになったからと言って、食べ過ぎて動けなくなったりしなければ良いけれど。特にレイブランとヤタール。あの娘達は前科があるからなぁ。
まぁ、今気にしていても仕方がないか。今は稽古の反省会だ。
「それじゃあ、初動から振り返ってみようか。二手に分かれたのは、事前に打ち合わせしていたのかな?」
〈うむ。我が主の視界を塞ぎ、ラビックが体制を崩す。初撃が通用するとは思っていなかったからな。〉
〈私が体制を崩す、あるいは姫様の気を引き付けるうちにホーディに次撃を行ってもらう予定でした。〉
戦術としては合っているか。とはいえ、どちらも常に全力を出していたようだし、そこで速さの違いが出てきたのだろう。タイミングが合わなかったね。
体制を崩すのならば、私がホーディを投げている最中にすべきだった。それと。
「まず、回り込むなら、死角になるように私の左側へ回り込むべきだったね。初動でどういった動きになるのかすぐに分かったよ。」
〈その辺りは互いに思うままに動いたからな。〉
〈お互いの癖を考えないまま動いたのが、ああいった結果になったのですね。〉
「そういうこと。次にタイミングだね。ラビックが攻撃するときにはホーディを投げ終わっていて迎え撃つ事が出来ていたよ。互いに全力、全速で行動したからなのだろうけれど、同時に攻撃できるようにしたかったね。」
〈うむ。あの場面では我がラビックに合わせるべきであった。〉
〈まさか、最初から連携を取る事が出来ないとは思いませんでした。〉
初めてなのだから、そんなものだとは思うけれどね。最初からピッタリと息を合わせる事が出来るのはごく稀だろう。
レイブランとヤタールも長い年月、修練を重ねた結果だと思うし、いや、あの二羽だからなぁ。もしかしたら最初からある程度連携が取れていたのかもしれない。
「私がラビックをホーディに向けて投げた後の対処はなかなか良かったよ。尤も、ラビックの視線と事前動作で、狙いが分かりやすかったけれど。」
〈ホーディの勢いも利用したあの時私が出せる最大速度だったのですが、来る場所が分かっていれば回避は容易、という事ですか。〉
「その通りだよ。自分の攻撃先を悟らせない事。自分よりも速く動ける相手に攻撃を当てるための手段の一つだね。」
〈あの速度でも対応できるのであれば、ただの肉弾戦では何をしても通用しないだろうと判断してな。更なる事象を使わせてもらうことにした。〉
身体強化以外の事象を使いだしたホーディとラビックの動きは褒める所が多い。
単純に威力が凄まじい事になっているからな。それだけでも、この子達を手放しで褒めてあげたい。
「見事な威力だったね。砂煙に紛れてラビックが現れた事象は、やっぱりウルミラの『
〈はい。ウルミラに教えを請い、短距離ではありますが、瞬時に移動をする手段を得る事が出来ました。〉
「腕に纏った剣状の岩石も見事な強度だったよ。過去にあそこまで力を込めなければ破壊できなかったものは無かった。私もあの事象の図形は知っておきたいと思ったよ。」
〈あれは、我も破壊する事は不可能だからな。現状"死者の実"を破壊できる可能性が最も高い事象だ。〉
〈お褒め頂き、ありがとうございます。『
良い名前じゃないか。この図形の仕組みからして、作れるのは剣の形だけではないな。いろいろと応用が利きそうな事象だ。
それにしても、最も果実を破壊できる可能性があると?威力ならば、もっと強力なものがあるだろうに。
「ホーディ、あの果実、君の黒炎やラビックの炎では破壊できないのかい?」
〈アレを我らが破壊できない理由の一つは、あの外果皮には、触れた実体のない事象に含まれる力を、根こそぎ吸収するという恐るべき性質があってな。物理的な方法でなければ破壊できないのだ。〉
「なるほど。それで実体の無い『黒炎』や『黒雷』、ラビックの炎にレイブラン達の『空刃』では破壊が出来ないのか。そして、実態のある『岩刃』ならば、干渉は可能、という事だね。」
〈はい。ですが、私が『岩刃』で"死者の実"を切り裂くには、もっと鋭い刃を形成する必要があります。現状の『岩刃』では斬撃というよりも、打撃になってしまっていますからね。〉
鋭さが足りなかったのは、図形の制度による問題かな。私が見る限りでは、もっと整った形に出来るように見える。
後でラビックと、その辺りを詰めていってみようか。
「ホーディの『黒炎』と『黒雷』を融合させた事象も見事だったよ。アレはそれぞれ別に発生させたものとは別物なのだろう?」
〈やはり見抜いていたか。その通り。何の捻りも無いが、『黒雷炎』と我は名付けてみた。〉
「私が受けた痛みはアレが一番大きいね。本当に大した威力だよ。そして、ラビックの放った炎と岩石の弾丸もだ。」
〈ホーディの『黒炎』や『黒雷』にあやかり『炎岩』と呼んでいます。これを鍛えて『岩刃』と併用できないかと考えている所です。〉
出来るだろうね。そもそもラビックは『炎岩』を自分の全ての足に纏わせる事が出来ていたのだから、そう遠くないうちに実現させる事が出来るだろう。
「最後に私を挟んで攻撃を仕掛けてきたけれど、アレは悪手だったね。事象を使用する事に集中していたからか、動きを読みやすかったよ。」
〈そうして我らの同士討ちになるように攻撃を躱した、という事か。〉
〈姫様に動きを止めていただかなければ、危なかったですね。〉
本当に、大怪我をしなくて良かったよ。
皆、差異はあれど高い再生能力を持っているようだけれど、それでも皆が傷付くところは見たくは無いからな。
その後、果実を味わい談笑しながら先程の稽古で使用していた図形をそれぞれ教えてもらった。次は私もこの事象を使ってみるとしよう。
「さて、反省も踏まえて、もう一度やってみるかい?今度は、最初から身体強化以外の事象も存分に使ってみようか。私も、君達に教えてもらった図形を試してみたいしね。」
〈よろしいのですか?〉
〈是非もない。では、出し惜しみせずにやらせてもらうとしよう。〉
ホーディもラビックもやる気十分だな。それぞれ『黒雷炎』と『炎岩』を四肢に纏わせている。
ラビックはともかく、ホーディも後足に纏わせるのか。つまり、後足による蹴りを放てると?
良いじゃないか。そう来ないとね。
「それじゃ、始っ!?・・・待って、何かあったようだね。」
〈この気配、レイブランとヤタールか。〉
〈妙に慌てているように感じますね。〉
レイブランとヤタールが全速力でこちらに向かってきている。ホーディとラビックも気付いたようだ。何があったんだろう。
〈ノア様!嫌な奴等が来たのよ!〉〈気に食わない奴等なのよ!外から来たの!〉
外から?
レイブラン達が対処できず、嫌な奴というくらいには厄介な相手が、森の外から来た、という事か。それも、複数。
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