第42話 そらをとぶ

 外に出て、翼に対して検証を行うとしよう。

 外に出てみれば、珍しく皆が揃っていて、此方を見ている。私に向ける視線からは興味の感情が見て取れる。


 〈お早う御座います。おひいさま。新たな部位が生まれました事、誠におめでとう御座います。〉

 〈ご主人、おはよ!その翼ってどうなってるの?教えて!〉

 〈あまり驚いていないようだが、主はある程度予測がついていると言っていたな。主の予測は当たっていたようだな。〉

 〈髪の毛や尻尾と同じで、綺麗な色をしているね。やっぱり、自由に飛べるようになったのかな?〉


 やっぱり皆、気になるのか。まぁ、分からなくはない。私だって気になるしな。それでは早速この翼を調べてみる事にしようか。

 まずは形状からだな。肩甲骨を起点にして、新たにもう一対の腕が生えたような感覚だ。付け根から先端までに関節が二つある。

 付け根から第二関節までの長さは、私の腕と同じぐらいで、尻尾と同質の鱗に覆われている。太さは、大体私の腕ぐらいか。可動範囲はかなり広い。腕と同様、いや、それ以上に広い範囲を動かせそうだ。

 翼の第二関節からは、間接の無い翼指が三本生えている。これもまた、私の腕と同じくらいの長さだ。

 この翼指の太さは付け根が私の指二本分で、先端へ行くにつれて、手首の太さくらいまで太くなっている。奇妙なことにこの翼指、筒状になっていて先端が口を開けたように開いている。

 如何にも此処から何かを放出できそうな形状だ。エネルギーもスムーズに送る事が出来ている。

 翼指と翼指の間、そして翼指と翼の付け根の間に、白に近い灰色の飛膜が張っている。厚みは、私の爪の厚みと同じぐらいか、やや薄いくらいだ。とても柔らかく、翼を畳むのに全く支障が無い。

 飛膜に触れてみたところ、肌触りは艶があって滑らかだが、耐久性はかなり高そうだ。触覚もある。飛膜の内側は髪や鱗以上に偏光性があるらしく、薄っすらと虹色に光を反射させている。

 だから派手なんだってば、私!

 光物は好きな方だけれど、もっとこう、慎ましさというか何というか、加減をしてくれないか?七色もいらないだろう。情緒に欠ける。


 仕方がない。自分の身体だ。諦めて受け入れよう。ギラギラ光らないだけましだと思っておこう。

 マイナス思考でいるよりもプラス思考だ。


 「翼の形状はこんなところか、皆はこれ、どう思う。」

 〈とても素敵な色だよ。ずっと見ていたい。〉

 〈フレミーに同意よ!とっても素敵だわ!一緒に空を飛びたいわ!〉〈とっても良い色だわ!ノア様の翼を見るために傍にいたいくらいよ!〉

 〈おひいさまの力を象徴するかのような、素晴らしき翼だと存じます。〉

 〈うむ。翼のある主を見て、ようやく本当の意味で主に出会えた気がするな。〉

 〈ご主人の瞳や力の色と同じだね!もっと強くキラキラしてたら、眩しくて目を向けられなかったかも。〉

 〈姫様の御力が、飛躍的に上昇したのではないかと愚考します。〉


 意見は様々だね。光物が好きなフレミーやレイブランとヤタールからは飛膜を絶賛され、反対にウルミラからは私と同じく派手だという意見。似た感想を抱いてくれて嬉しい。

 ゴドファンスは翼全体を手放しで褒めてくれているね。

 ホーディの感想はなんだかこれが私の完全体だ、と言われているような気がする。

 ラビックは、翼が生えた事に対する私そのものへの感想を答えていた。

 ただでさえ、規格外だった存在が、翼まで手に入れてしまったのだ。ラビックが冷や汗をかいているように見える。


 実際にどれほどの力を持つのかはこれから確認すればわかる事だ。そろそろ能力の検証に移るとしよう。


 さて、形状を確認する際に動かしていたから大体把握できているが、羽ばたく力は腕の力と大体同じぐらいのようだ。

 そして、可動範囲が本当に広い。羽ばたきによって、あらゆる方向に私を持ち上げるほどの風を容易に起こす事が出来るぐらいには、十全に翼を動かすことが出来る。

 フレミーが私の翼を見た時に飛べるかどうか尋ねてきたが、間違いなく飛べるな。


 「ちょっと羽ばたきだけで空を飛べるかどうか、試してみようと思う。皆、少し離れてもらって良いかな?」


 皆に私から距離を取ってもらう。皆ならば、私の羽ばたきで起こした風ぐらいで吹き飛ぶことは無いと思うけれど、舞い上げられた砂が降り掛かったりしたら、申し訳ないからな。

 エネルギーも使わず、助走も付けず、足の力も使わず、翼を地面に向けて羽ばたかせる。念のため、全力は出さない。


 私を背負った事のあるホーディが言うには、私の重量はウルミラよりも軽いとの事だ。だが、尻尾の伸縮やエネルギーの使用によって重量が変動している、とも言っていた。

 平時でウルミラよりも軽いのであれば、全力を出さずとも三割程度の力で羽ばたけば、何の問題も無く身体を浮かばせるぐらいの風を起こす事が出来る筈だ。


 強風が巻き起こり、砂が舞う。確かな浮遊感と共に、私の身体はホーディの背丈ほどの高さまで、空中へ浮かんだ。少し羽ばたく力を弱めて、その場で、留まれるようにしてみる。

 ほとんど力を使わないな。空中で停滞するだけならば、一割ほどの力も込めなくて良いようだ。今度は、再び三割ほどの力で羽ばたいて、どれだけの機動力を得られるのかを試してみよう。


 翼に力を込めて、上昇を開始する。樹木三つ分の高さまで上がれば十分だろう。羽ばたく角度を変えながら、移動を行ってみる。

 これは、思っていた以上に楽しいな。様々な角度に翼を動かす事が出来るから、行きたい方向にも容易に羽ばたく事が出来る。

 だが、思ったよりも速度は出ていないな。翼の力だけで羽ばたいているからだろうか。一度、地上に降りて確認を取ってみよう。


 「ただいま。問題無く空を飛べるようだったよ。それで、レイブランとヤタールに聞きたい事があるんだ。」

 〈何かしら!?何でも聞いてちょうだい!初めてとは思えないくらい上手に飛んでいたわ!〉〈お帰りなさいノア様!空を飛ぶのって楽しいでしょ!?何が聞きたいの!?〉


 私が自由に空を飛べるようになったのが嬉しいのだろう。彼女達は意気揚々に返事をしてくれた。


 「君達が空を飛ぶ際には、翼を羽ばたかせる以外に何かやっている事はあるかい?力を込めずとも、もう少し早く飛べると思ったのだけれど、思っていたよりも速度が出なくてね。」

 〈翼だけではそんなものよ!ノア様力も込めていないでしょ!?〉〈力を翼に宿すのよ!もっと早く飛びたいときは『風爆』を利用するのよ!〉

 「空を飛ぶお手本を見せてもらえるかい?」

 〈任せて頂戴!ノア様なら直ぐに私達より早く飛べるわ!〉〈勿論よ!思いっきり飛ぶわね!〉


 もう一度飛翔して、レイブラン達と高度を合わせて、彼女達の飛行を確認する。

 翼にエネルギーが送られて空気を押し付ける力が見た目以上に強力になっている。

 音すら置き去りにするほどの速さに感心していると、自分の目の前に即座に『風爆』を発生させる。自分に向かってくる風を翼で受け止めて、急停止をしたのだ。更にもう一度、『風爆』を発生させると、今度は風に乗りながら、風を叩きつけるように羽ばたいて、急加速をしだした。


 なるほど、やはり早く飛ぶにはエネルギーは必須か。そして事象『風爆』の併用。進みたい方向へ風を起こし、その風を翼で受け止め、羽ばたく事によって、押し出すようにして急加速が可能、という事か。

 彼女達は私ほど体が大きくないから一つの図形で十分な効果を得る事が出来ているようだ。私の場合は、一色のエネルギーを用いて、翼ごとに一つずつ事象を発生させた方が良さそうだな。


 そうなると、彼女達のように空を縦横無尽に飛び回るには、もう少しエネルギーの分別も、図形の組み立てもスムーズにできるようにする必要がある。

 翼も、もっと自在に、精密に動かせるようにしたいな。


 まだまだ検証は終わっていないが、日課としてやる事がどんどん増えてきているな。面白いじゃないか。やはり、出来る事が増えるというのは、良いものだ。

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