第41話 色の特性と生えた翼
私が色を分けられるようになってから、五日がすぎた。色の分別、"意味を持った形"の形成、図形の組み立て、どれも順調だ。
相変わらず意思を込めずにエネルギーの色を分ける事は出来ていないが、少しずつ認識するまでに掛かる時間が短縮している。一度、明確に色を分別する事が出来たからだろうな。
今後も、焦らずにしっかりと修行を続けていくとしよう。
それはそれとして、だ。最近は1日中背中がむず痒い。一度自身の体内のエネルギーに意識を集中してみた所、大量のエネルギーが私の背中、肩甲骨の内部に集まり続けている事が分かった。
不可解なことに、このエネルギーの流れに関しては、私自身ですら制御する事が出来ない。
私にとって初めての身体の不調ともいうべき症状のため、皆に相談してみたところ、ホーディに心当たりがあるそうだ。彼曰く。
〈新たに部位が生じる際の予兆だな。我も、この角が生える少し前に力が集まり続け、痒みが生じていた。〉
とのことだった。
なるほど。以前、羽が生えるんじゃないかと予想したが、どうやらそれで合っているらしい。後どのくらいで生えてくるかはまだ分からないが。
〈だが、何が生ずるか、どの程度の時間で生ずるかは、個体によって大きく変わってくる。故に、主の背から何が生ずるかは分からん。あまり力になれず、済まん。〉
「十分だよ。ありがとう。おかげで不安が解消された。それに、何が生えてくるかは、おおよその予測は出来ているんだ。」
やはり相談はしてみるものだな。特に私のような規格外の力を持ったものは、一人で考えを完結させて行動を取るべきではないだろう。
その結果、行動を抑止されたとしても、だ。
さて、不安も解消された事だし、今日も修行を行っていくとしよう。
正直なところ、この修行も行った分だけ上達した事が明確に実感出来るため、やっていて楽しく感じる。
成果の実感というのはモチベーションを維持するのに大切だ。勉強や修練等でこれが不明瞭な場合、自分の行っている事が本当に正しいかどうか疑問を感じ、それ故に集中が出来ず、結果満足のいく成果を得られない。という事も十分あり得るだろう。
話は変わるが、修行の際にエネルギーに『理解』の意志を込めているからか、エネルギーの色に関してどのような性質を持っているのかがこの五日間で分かってきた。
まず"橙"。ゴドファンスとラビックが持つ色だ。
この色には土や石、金属、更には重力まで影響を及ぼす事が分かった。
重力以外は操作する事自体はそれほどエネルギーを消費しない。
ただし、土や一部を除いた石はともかく、金属を生成する場合はかなりのエネルギーを必要とするだろう。重力はそれを更に上回るエネルギー量が必要になるだろう。
気軽に重力を扱えそうなのは、ホーディとゴドファンスぐらいか。
次に"紺"。私以外に持っている子はいない。
この色は水、及び"減少"の概念に影響を与える。
概念であるためか、その解釈の幅は極めて広い。温度の低下はもちろん、物体の縮小、速度の低下など、"下げる"だとか、"減らす"といった事象に関するあらゆる現象を引き起こす要因となる。
水に関しては説明不要だろう。私の知識で知る限り、大半の生物にとって水は生きていくうえで重要な物質だ。それを生成、操作できるのは重要なことだろう。
続いて"赤"。ホーディとラビックが所持している。
この色は紺と対となっているかのような色で、火と"増加"の概念に影響を与える。
減少の概念と同じく、"上げる"、"増やす"といった事象に関する現象ならば、大抵の事が出来るだろう。勿論、相応のエネルギーは必要になってくるのだろうが。
火に関しては、私は火への影響というよりも、"燃焼する"という現象にそのものに影響があるように感じた。
"水色"。ゴドファンス、ウルミラ、レイブラン、ヤタールが持つ色だ。
この色は空気や風だけでなく、空間にも影響を与える。
ウルミラが、容易に"
尤も、それを実現するためには並外れた空間認識能力と、情報処理能力が必要になってくる。容易い事ではない筈だ。
"緑"。フレミーが所持している色。
植物と、生命力に影響を与える。
生命力とは生命が持つ生きるための力、私が普段エネルギーと呼んでいる物とは別の、生命エネルギーとでも言えばいいのだろうか。それに影響を与えるようだ。
やりようによっては再生能力を持たない者にとって重要な回復手段になるだろうし、再生能力を持つものは更に再生能力を高める事が出来るだろう。
植物に関しては、植物を操作するだけでなく、新たな植物を生み出す事すら出来そうだ。
当然、種子からになるし、膨大なエネルギーも必要になってくる。それだけでない。これはあくまで直感だが、媒体も必要になるだろうな。
"黄"。ホーディ、ウルミラ、レイブラン、フレミーが所持している。
光と"放射"の現象に影響を与える色だ。私の持つ知識が正しいのならば、光とは波の性質を持っている。
その波が私達の目などの感覚器官を刺激する事で、視覚効果を得る事が出来る。
尤も、光の性質はおそらく波だけではない。以前何度か『視る』意思をエネルギーに乗せて目に集中した事があったが、その際に光の波を確認できたと同時に、極小の粒子を知覚する事が出来たのだ。
波と粒。光とは、その両方の性質を持っているのだろう。
また、この光の性質を辿ってみると、どうやら電気にも関係があるようだ。ホーディが角から放電出来るのは、この辺りが起因しているのかもしれない。
"紫"。ホーディ、ヤタール、フレミーが所持している。
この色は影と"吸収"の現象に影響を与えている。
紺と赤のように黄色のエネルギーと対になったエネルギーの色とみて良いだろう。
ただ、光が無ければ影は無い。光の当たらない場所、それは陰だ。即ち闇。
どうやらこの闇にも影響を与える事が出来るようだ。やりようによっては影を用いて物理現象を引き起こす事も出来るかもしれない。
そして"吸収"。周囲のものを取り込み自分へと変換させる力。ホーディの『黒炎』や『黒雷』に対象を引き寄せる力があったのは、この"吸収"が起因している事は間違いないだろう。
エネルギーの色がそれぞれ固有の効果を持つ事が分かった事で、何故私が意志の力だけで様々な事象を発生させる事が出来るのか、分かった気がする。
試しに、"紺"のエネルギーに『加熱』の意思を乗せてみても、温度は全く上昇しない。逆もしかりだ。望んだ事象に対応するエネルギー色に意思を込める事で、事象が発生していたのだ。
では、"意味を持った形"と図形について考えてみよう。図形を用いれば、自分の持たない色の特性の事象を発生させる事も出来るだろう。
何故か。
"意味を持った形"に"色"を示す形があるからだ。この"色を示す形"によって図形のエネルギー色を変換させる事で、自身が持たない色の特性をもった事象であっても発生させることが出来るのだろう。
エネルギーに対する理解も深まってきて、修行も順調だ。今では多少時間は掛かるが、同時に三つの図形を組み立てて事象を発生させる事が出来る。
この事をみんなに説明したら、上達が早すぎるとドン引きされてしまった。まさかフレミーにすら引かれてしまうとは、ちょっと悲しい。
相変わらず背中はむず痒いままだし、もう寝てしまおう。ふて寝だ。ふて寝。
悪いとは思うが、レイブラン達とラビック、ウルミラを尻尾と両腕を使って寝床まで運んでいく。モフモフで悲しい気持ちを吹き飛ばそう。
頭の角を引っ張られる感覚と、背中の辺りを引っ張られる感覚。知らない感覚だ。おそらくレイブランとヤタールが私の身体を引っ張っているとは思うのだが、何が起きている?そういえば、昨日まで感じていたむず痒さを感じない。
〈ノア様!起きて頂戴!背中が凄いのよ!〉〈朝よノア様!でもそれよりも翼よ!翼があるのよ!〉
つばさ?
翼か。やっぱり羽が生えたのか。感覚はある。動かす事も出来るようだ。だとすれば、やることはいつも通りだ。
検証の時間である。
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