第43話 もりじゅうをとぶ
ひとしきりレイブラン達の飛行を見て満足したので、地上に降りることにした。レイブラン達も私の元に降りてくる。
二羽とも肩に止まってきてくれたので、感謝を伝えて撫でておこう。ふわふわで温かい。幸せ。
「レイブラン、ヤタール、ありがとう。おかげで速く、自在に飛ぶにはどうすればいいかが分かったよ。」
〈役に立ったのなら良かったわ!〉〈撫でられると気持ちいいのよ!〉
翼の動かし方は大体分かった。では、問題の翼指の検証だ。
この形状は、明らかに何かを放出できそうな形状をしている。
そういえば、私が雨雲を消し飛ばすために、口からエネルギーを放出したら、かなりの反動が生じたな。ちょっと相談してみよう。
「今、思いついたのだけれど、皆は例の雨雲を打ち消した時の光は覚えてる?」
〈勿論よ!そんなに前の事じゃないもの!〉〈凄かったわよね!怖かったけど綺麗だったわ!〉
〈凄まじい威力だったのは記憶に新しいが、それが翼に関係があるのか?〉
〈姫様、まさかとは思いますが、その翼から・・・。〉
「ラビック、正解だ。どうもこの翼は力を放出するのに適した形をしているようだからね。あの時放った力の奔流を翼から放出すれば、かなりの推進力を得られると思ったんだ。」
〈・・・・・・主よ、分かっていると思うが、絶対にやらないでくれよ?おそらく、一晩で森が無くなる。〉
分かっているとも。そもそも今思いついた行動は、現状私が思いつく限りほぼ最大級の破壊をもたらす行動だ。
自分のエネルギーをより理解できるようになった今、分かってしまう。出来てしまうのだ。口と翼の先端部の計七ヶ所から、あの時のエネルギーの奔流を一斉に照射する事が。
ホーディは一晩と控えめに言っていたが、多分、そんなに掛からない。
"アレ"を六方向に向けて高速で移動しながらまき散らすとか、一呼吸分行うだけでも、この広場の十倍以上の更地が出来上がる気がする。
「勿論、やるつもりは無いよ。だけど、この翼から"アレ"よりも威力がずっと低くて、かつ強い反動を得られる事象ならば、どうだろう。」
〈レイブラン達の『風爆』のようなものか?〉
「うん。ただ、『風爆』では私が望むほどの推力は得られないだろうね。私が望むのは、連続した推進力でね。瞬間的な事象である『風爆』は向いていないと思う。」
〈それなら適した事象の図形を作りましょ!どうせなら『風爆』よりも凄いのを作りましょ!〉〈新しい図形を作りましょ!風だけに頼る必要は無いわ!〉
私が要望を伝えると、嬉々としてレイブランとヤタールが提案を出してきた。
全面的に賛成だ。私達には既にそれを行えるだけの"意味を持った形"を知っているのだから。
だが、図形が出来たからと言って、直ぐに実行できるわけではないだろう。
「少なくとも、同時に六つの事象を発生させ続ける必要があるね。羽ばたきのための事象の事を考えると、余裕をもって十の事象を同時に扱えるようになっておきたいかな。」
〈・・・おひいさま。一応申し上げておきますが、仮に我々が事象を起こす事に集中したとしても、同時に起こせる事象はせいぜい五つが限界で御座います。〉
私が翼の機能を十全に扱い、自在に飛行をするための計画を語ると、ゴドファンスから待ったが掛かった。
なんという事だ。今、私が同時に扱えるのが三つだから、同時に十の事象を発生させるのはだいぶ先の話になりそうだ。
それとも、現実的ではないのだろうか?いや、私は意識を覚醒させてからまだ五十日にも満たない。
それに、皆が言うには私の上達速度はドン引きするほど異常なのだ。出来ると信じて修行を続けよう。今は無理でも、いつかは届くはずだ。
そもそも、エネルギーを放出するだけなら、問題無くできると思うのだ。今は検証の時間なのだから、試さないことには始まらない。
「今できない理想を語るよりも、今できる事を検証してみよう。力を加減した状態で翼指から圧力をかけて放出、つまりは噴射してみようと思うよ。」
〈主よ、大丈夫なのか?〉
「多分だけれど、この翼指は元から何かを放出する事で推進力を生み出すための器官だと思うんだ。私のこの予測が正しければ、ほんの少しの消費でそれなりの推進力を得られると思う。それでも念のために、一度上空に上がってからにするよ。」
そう皆に伝えて、その場で垂直に飛び上がる。
ある程度上昇したところで、水色のエネルギーで『風爆』を上向きに発動させる。
生じた風を翼を羽ばたかせることで受け止め、身体を跳ね上げる。それだけで全力で足で跳ぶよりも速く、高く上昇する事が出来た。だが、本番はこれからだ。
翼にエネルギーを送り、翼指の付け根、第二関節の場所でエネルギーをため込む。軽く(大体
良い感じだ。一呼吸分でこれなのだ。今度はエネルギーを噴射し続けてみよう。
結果は上々だ。エネルギーを噴射し続けている間は、やや直線的な動きにはなるが、高速で飛行することが可能だ。翼の向きを変える事で急停止やホバリング、あらゆる方向への急激な方向転換すら行えた。尋常ではない機動力だ。
ちなみに、それだけの速度で移動していても、私の眼球には何の影響も無かった。風はもちろん、空気中の僅かな塵や水分が何度も当たっているにもかかわらず、だ。本当に、知れば知るほど冗談みたいな存在だよ、私は。
それはそれとして、だ。
正直、とても楽しい。
夢中になって日が沈むまで森の上空を飛び回り続けた。そのおかげで、私はこの時になって、ようやく森の全域を確認する事が出来た。実に有用な器官だ。これならば、翼指に事象を用いなくとも十分なのかもしれなかったが、そうはいかなかった。
欠点がある。
まず、馬鹿みたいにエネルギーの消費量が多い。いや、このぐらいのエネルギーの消費ならば、一日中消費していようが私は全く問題無いのだ。
だが、周囲の者達はそうはいかない。
エネルギーを噴射しているという事は、辺り一面に私のエネルギーをまき散らしている、という事に他ならない。
何も知らない森の住民達からすれば、森の上空を正体不明の化け物が、高速であちこちに移動していると捉えるだろう。
以前雨雲を消し飛ばした時も、膨大なエネルギーが森全体に伝わった事によって、一時的にとはいえ、森の生態系が乱れてしまったのだそうだ。
今回、私が好き勝手に森の上空全域を飛び回ってしまった事で、再び森の生態系に乱れが生じても不思議はない。
そしてもう一つ。思った以上に噴射したエネルギーが遠くまで影響を及ぼす、という事だ。
噴射されたエネルギーは、おおよそ樹木二本分の距離まで勢いを失わずに放出されている。
今はかなりの上空で使用しているからいいものの、これを森の中で行おうものならば、確実に大災害待った無しだ。
そんなわけで、不用意にエネルギー噴射による高速移動を行うのはやめておこう。一晩で森が無くなると言っていたホーディの言葉が、現実味を帯びてきた。
辺りももう暗くなっているので家の近くに着陸するとしよう。律儀な事に、皆外で待っていてくれたようだ。待たせてしまって済まない。
「ただいま。それと、済まなかったね。自由に空を飛ぶのが楽しくて、すっかり暗くなってしまった。」
〈構いませんとも。おひいさまが楽しそうで何よりで御座います。〉
〈主よ。問題無く飛行できたようだな。〉
「実はそうでもなかったりするんだ。」
〈凄く高い場所で飛んでいたのに、ノア様の力を感じられたよ。色々な所に飛び回っていたみたいだし、今頃森はまた騒ぎになっているかもしれないね。〉
もう暗くなっているからか、ホーディ、ゴドファンス、フレミー以外は眠そうだ。エネルギーの噴射による弊害を説明しながら、家の中に入ろう。
私が説明する前に、問題の一つはフレミーも分かっていたみたいだけどね。
「・・・というわけで、純粋な力の噴射による高速移動は、森の中ではやらないようにしておくよ。」
〈せっかく自由に飛べるようになったのに気の毒だわ。〉〈明日は一緒に飛び回れると思ったから残念ね。〉
〈ご主人の事分かれば、あんまり怖くないんだけどなぁ・・・ぁふぅ。〉
〈・・・・・・ぷぅ・・・・・・ぷぅ・・・・・・。〉
眠そうにしている子達は、あまり会話の内容が頭に入っていないようだ。
レイブランとヤタールのテンションは低いし、ウルミラはあくびをしている。二足歩行で家に入ってきたラビックに至っては、立ったままの状態で寝てしまっている。
物凄く可愛い。抱きかかえて寝床へ連れて行こう。今日はもう寝るのだ。
今頃気づいたが、寝る時はこの翼、邪魔だ!背中でモフモフが堪能できない!?
まさか、寝る時になって、今日一番の一大事を知ることになるとは・・・。
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