第29話 次、行ってみよう!
無事、"蜃気狼"改めウルミラが一緒に暮らしてくれることになり、家に案内しようかと思ったのだが、
〈ノア様!もういいでしょ!私達お腹がすいたわ!〉〈"死者の実"を食べましょう!せっかく持ってきたのよ!〉
〈えっ・・・・・・。あれって食べられるの・・・?確かに甘い匂いがしてたけど・・・。〉
帰ろうとしたところでレイブラン達が果実を食べたいと要求してきた。
やはり森の住民達にとってあの果実は、匂いは良いが食べられない物、というのが共通認識のようだ。
果実を切り分けて皆に手渡す。
〈匂いを裏切らない味・・・。ボク!これ好き!〉
〈飽きない味だわ!〉〈毎日食べられるのよ!〉
〈これが、毎日・・・?ご主人、ホント!?〉
「私の住まいの近くに沢山生っているからね。好きなだけ食べられるよ。ただし、食べすぎには気を付けようね。」
ウルミラも、果実の味を気に入ってくれたようだ。持ってきた果実三つ。皆であっという間に食べ終えてしまった。
もしもこの辺りに生っていたとしたら、レイブラン達がまた満腹で動けなくなっていたかもしれない。ウルミラには食べすぎに注意するように言っておこう。
「それじゃあ、そろそろ私の住まいへ行こうか。ウルミラ、君を抱きかかえさせてもらっても良いかな?」
〈ボク、ご主人より大きいけど、大丈夫?動きづらくない?それに、ボクだって速いよ?〉
ウルミラが訴えてくるものの、抱きかかえること自体を拒否するわけではないようだ。彼女は走って私の家まで行こうと思っている。
だが、当然移動方法はいつものアレだ。
〈舌を噛まないようにしなさいよ!すっごく速いのよ!〉〈あっという間よ!ひとっ跳びなのよ!〉
〈えっ・・・?どういうこと・・・?〉
「ウルミラ、今から跳躍して私の家まで跳んでいく。かなりの速度になるから、目をつむっていてもいいよ。跳んだら、後は直ぐだ。」
〈えっ?跳ぶ?えっ?〉
流石に困惑してしまうか。
ラビックの時は何も告げずに跳んでしまって怖がらせてしまった。怖がりなウルミラに同じことをやってしまったら、トラウマどころじゃないだろう。
最悪、嫌われてしまうかもしれない。それは避けたい。
「準備は良いかい?」
「えっ、あっ、う、うんっ。目、つむったよ!」
「それじゃ、行こうか」
背中から抱え上げたウルミラが両前足で自分の目を抑えている。物凄く、可愛い。
思わず顔をウルミラの体にうずめてしまった。
〈ご主人、まだ?〉
〈ノア様!またいつもの悪い癖よ!〉〈我慢しましょ!ノア様!家までノア様ならすぐなのよ!〉
「ごめん、ごめん。さぁ、行くよ。」
足にエネルギーを集中させて、家の方角へ跳躍する。さぁ、帰ろう!
ちょうど家の扉の前に着陸する。いつも通り、レイブラン達よりも早く到着した。
「到着したよ。もう目を開けてもいいよ。」
〈ホントにあっという間だった・・・。ご主人、途中、変な動きしてなかった?〉
変ではないよ。尻尾で破裂した空気を叩きつけただけさ。
「この建物が私の家だよ。今は、出かけていて、レイブラン達の他にも紹介したい子達がいるんだ。」
〈どんなのがいるの?〉
〈ノア様、お帰りなさいませ。そして、新たにノア様に仕えることとなったお方。私、ノア様にラビックの名をいただきました。どうぞ、よろしくお願い致します。〉
ラビック達の事を伝えようとした直後、ラビックが帰ってきて自己紹介を始めた。
はて、彼は修練に行くと言っていたけれど、何処へ行っていたのだろう。
〈あぁ、キミかぁ・・・。ご主人は、ホントに強いやつらを集めてるんだね。ボクはウルミラだよ。よろしく。他には誰がいるのかな?〉
〈帰ってきたのよ!お知らせがあるのよ!〉〈ただいまなのよ!アイツがいたのよ!〉
ラビックに訊ねようとしたら、レイブラン達が帰ってきた。アイツというのは"角熊"くんと"老猪"、どちらの事だろうか。
「ヤタール、アイツっていうのは、熊と猪のどちらかな?」
〈熊よ!熊が川にいたの!〉〈魚よ!魚を食べていたのよ!私も食べてみたいわ!〉
〈では、次はいよいよ"彼"を誘いに行くのですね?〉
そうか。"角熊"くんか。不思議と魚を一口で食べている光景が目に浮かぶし、とても似合って良そうだ。
そしてヤタール。君、やっぱり食い意地が張っているね。構わないけれど。
これは、果実の他にも魚も捕ってくる必要があるかな。
「そうだね。まだ日も高いし、熊の所へ行こうか。レイブラン、ヤタール、案内をお願いできるかな?」
〈任せて頂戴!案内するのよ!〉〈今ならきっと動いていないわ!魚ってどんな味かしら!〉
〈あの熊もここに呼ぶんだね。ボクだけだったら怖くて絶対無理だけど、ご主人には関係無いのかぁ・・・。〉
ウルミラにフレミーを紹介していないけれど、私が帰ってくる前にフレミーが帰ってきた時に、ウルミラが驚かないようにラビックにフレミーの事を説明しておいてもらおうか。
〈ただいま、今回は早かったね。初めまして、ノア様の配下で友達の、フレミーだよ。〉
〈・・・・・・・・・。〉
ウルミラが固まってしまった。なんとなく分かってはいたけれど、やっぱりこうなってしまったか。ウルミラの顔を撫でて落ち着かせておこう。
「ウルミラ、大丈夫だよ?彼女は怖くないよ?」
〈ご主人がそう言っても、急に声を掛けられたらビックリするよぉ・・・。どうして、匂いがしないのぉ・・・?〉
〈驚かせてごめんね。ヤタールから怖がりだって聞いていたけれど、想像以上だね。匂いがしないのは、そういうものだと思ってもらうしかないかな。〉
ウルミラは周囲を察知するときにエネルギーよりも嗅覚を頼るらしい。確かにフレミーは長い体毛が臭いを抑え込んでしまっているためか、まるで臭いがしない。驚くのも無理ないのか。
「それにしても、フレミーもラビックも、タイミングが良いね。」
〈ノア様の帰還する音が聞こえてきましたので、お出迎えに参りました。〉
〈この辺りに糸を張っていたから、ノア様が帰ってくると分かるんだ。〉
どちらも凄い事をしているね。方法は別々だけれど、私が帰ってくることを察知することが出来たのか。
それはそれとして、そろそろ移動しようか。レイブラン達をあまり待たせるものでもないしね。
「それじゃぁ、フレミー、ラビック、これからレイブラン達と熊の所まで行ってくるよ。ウルミラの事を任せていいかな?」
〈構わないよ。私としても、同居人に怖がられっぱなしっていうのは、いい気分ではないからね。〉
〈ノア様、お任せくださいませ。ではウルミラ殿。この広場全体の案内をさせていただきます。〉
〈ラビックって、そういう性格だったんだね。呼び捨てで良いよ。立場としてはボク達、同じでしょ?〉
少し心配だったけれど、この様子だと問題無いのかな。それでは、"角熊"くんの所まで行こうか。
レイブラン達の案内で到着したのは、私が魚を捕った場所から、三万歩以上は下った場所だった。河原に出る前に、果実を三つ取っておく。
こら、ヤタール。君はさっき食べただろう。そんなに食べたそうな顔をするんじゃない。
河原に出てみれば、"角熊"くんが此方を見据えていた。私が会いに来たことが、事前に分かっていたようだ。
確かに、ここ数日はレイブラン達の跳んでいる場所に私が跳んでいったからな。自分の頭上に彼女達がいたら、自分の所に私が訪れることが予測できたとしても、何の不思議もない。
まずは、挨拶をしておこう。
〈ついに、我を食らいに来たか・・・・・・。覚悟は出来ている。一思いにやってくれ。〉
と、思っていたら、"角熊"くんから先に発言されてしまった。
レイブラン達と言い、ウルミラと言い、君と言い、何故、私に食べられると感じているんだい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます